【完結】眠れぬ異界の少年、祓魔師の愛に微睡む

丑三とき

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東の祓魔師と側仕えの少年

57.家族の証②

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「ハルオミ、腹減った。ハルオミのあぷるぱい食いたい」

しばらく話し込んだところで、イザベラが唇をわざとらしく尖らせ突然僕に強請ってきた。イザベラ、任せてくれ。

「ふふっ、実はね、た~っくさん作って食物庫に入れてあるんだよ。あとパンとね、スポンジケーキもあるよ」

「全部食った」

「え」

予想外の返答に素っ頓狂な声が出た。食べきれないかもと懸念しながら冷凍したあのアップルパイたちを…?

「ハルオミがぐーすか寝てる間に全部食った。あぷるぱいも柔らかいパンも、なんかふわっとした甘いのも、フレイヤ様とパネースと一緒に全部食った」

「そうなの…? 結構たくさんあったでしょ?」

「あんなんじゃ全然足りねえよ。俺たちのこと舐めてんのか?  早く元気になって俺らにあぷるぱい作らねえと許さねえからな」

ぶっきらぼうな激励に背中を叩かれた気分だった。期待に応えなければという義務感に心が躍るようだった。なので僕は、

「そんなに美味しかった?」

と、思わずニヤケ顔で聞いてしまう。

「めっちゃ美味かった!  パネースが一番食ってたけどな」

「ちょっとイザベラ、余計なこと言わないでください」

恥ずかしそうに顔を赤くしながらイザベラを叱るパネースさん。意外だ。

「だって本当のことじゃん」

「そうなのパネースさん?」

「……恥ずかしながら」

「本当? 嬉しい! また作るからいっぱい食べて!」

「い、いいのですかハルオミ君?  実は私、あの味が忘れられなくて……だってあんなにふかふかのパンや甘くてサクッとしたお菓子、この世界には無いんですよ!  ハルオミ君の世界にはああいうのがいっぱいあるんですか? 羨ましいですねえ……」

味を思い出しているのか、ほわほわと顔を綻ばせているパネースさん。

「そうだ、今農園でイザベラと芋を育てているんです。ここでは芋を主食にすることも多いですからね。さすがに芋はお菓子にはできません、よね……?」

「どんな芋かにもよるけど、僕の国ではお芋を使ったお菓子もあるよ? スイートポテトとか、お芋のタルトとか。今度作ってみようか」

「本当ですか!?   ぜひ! ぜひお願いします」

期待に胸を膨らませ目を細めるパネースさん。
僕はしばらくの間体調の悪さを忘れて二人と話し込んだ。僕たちのやりとりを、フレイヤさんは扉の隅でにこやかに眺めていた。



夕方になってニエルド様とビェラ様が帰ってくると、イザベラとパネースさんはそれぞれ部屋に戻った。入れ替わりで入ってきたのは、ムーサ様とクールベさんだった。

クールベさんは部屋に入るやいなや頭を下げて謝ってきた。

「ハルオミ君……本当にすまない」

直角に腰を曲げ、震えた声で謝罪を述べる。両手はギュッと拳を握って、何かに耐えるように筋肉を硬直させていた。おそらく罪悪感とか悔恨の念のようなものに苛まれているのだろう。強張った声色がそう物語っていた。

「……困り、ます」

「な……」

動揺の色を見せたクールベさんが顔を上げた。

「謝られると、困りますクールベさん」

「だが俺は」

「クールベさんのおかげで僕たち助かったんです。クールベさんがいなかったら何もできなかった。ただフレイヤさんが魔物の呪いに奪われるのを見てるだけしかできなかった。そしたらきっと、僕は……」

フレイヤさんがいなくなったら……もしものことを想像しただけで震えて仕方がない。言葉が出ない。もしこのままフレイヤさんがいなくなってたら僕はどうなってしまったのだろう。

「ハルオミ君……」

「だから、僕からお礼は言っても、クールベさんが謝るなんて、あり得ない、です……」

やっとのことで言葉を紡ぎ切ると、彼はまた頭を下げた。

「それじゃあ、礼は言わせてくれ。ありがとう、家族を助けてくれて、本当にありがとう」

声色に、クールベさんらしい力強さが戻ってきた。

「俺からも礼を言わせてくれハルオミ君。息子を助けてくれてありがとう。何度礼を言っても足りないくらいだ。君には本当に感謝しているよ」

ムーサ様もクールベさんの隣で頭を下げた。見た目はとてもフレイヤさん達のような息子がいるとは思えないほど若く、美青年という言葉が似合うムーサ様。しかし僕にありがとうと頭を下げる彼は紛れもなく親の顔で、親の声をしていた。

「ムーサ様、改めてお願いがあります」

「なんだい?  何でも言ってくれ」

彼は顔を上げて僕に近づきベット脇に膝をついた。

「僕、フレイヤさんの魔力を貰って正式にこの世界の人間になれたんです。もう元の世界には戻りません。だから……改めて、お願いします。僕をここに居させてください。フレイヤさんのそばにずっと居させてください」

快く受け入れてくれるだろうと信じていても、愛する人の愛する御母上にこういうことを言うのはやはり恥ずかしさと怖さがある。僕のそんな少しの不安を払拭するように、ムーサ様は僕の顔を手で包み込み、

「当たり前だろう。君はもうこの屋敷の一員だ。俺たち家族の一員だ。フレイヤをよろしく頼む。ハルオミ君」

「家族……」

その甘い響きに溺れそうになる。
家族。それは、この先もずっと一緒にいられるという証。心と心がずっと繋がっていて良いという証。

なんて幸せなんだろう。

目覚めてからの僕は涙腺が壊れてしまったかのようによく泣く。泣きたくないのに、皆のせいで勝手に涙が出てくるんだ。

「ありがとうございますっ」

ムーサ様は、僕の涙をずっと拭き続けてくれていた。
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