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東の祓魔師と側仕えの少年
69.満月に映る瞳
しおりを挟む「あの! ニエルド様は当主にご就任されるのですよね。今日はそれもお祝いするための食事会だったのに。すみません僕、自分の話ばかりしてしまって」
反省を述べると、ニエルドさんは少し姿勢を崩して顔の前でいやいやと手を振った。
「いいんだいいんだハルオミ殿。当主就任なんてめでたくもなんともない、しかも元々当主不在の屋敷だったから今までと何も変わんねーよ」
「そうなんですか……?」
当主ってもっと「即位の礼」みたいな壮大な儀式とかすると思ってたし、みんなもザ・祝福!って雰囲気かと思っていた。
すっごいラフで、しかも「めでたくない」とか言い出すしびっくりした。
「ギュスターはここ数年ずっと『名ばかりの当主』だったもんな。フレイヤが側仕えを取ったら正式にニエルドに家督を譲るから、それまでは仕方なく当主を名乗るが世代は交代の時期に来ているとか難しい事ばっか言ってさ。びっくりしたよ、ある日突然、屋敷を出るぞ、なんて言い出すんだコイツ」
呆れたように肩をすくめるムーサ様に、ビェラ様は「でも、」と続ける。
「そんな自由人の父上に付き合いきれる母上も母上ですよ」
「ギュスターが自由人なのは昔っからだからな、もう慣れた」
ムーサ様は、はははっと軽やかに笑う。
器の大きさにあっけにとられる。見た目は爽やか大学生だけど、中身はこの三兄弟の母親だもんな。ギュスター様は見るからに威厳があるけれど、ムーサ様は全てを包み込む偉大な母、って感じだ。
改めて、この家族の一員に入れたことを心から嬉しく思う。
食事会も終盤、みな口々に「楽しかった」や「美味しかった」と感想を言い、食事会は無事お開きとなった。
自室に戻った僕たちは、お風呂に入り寝る準備を整え、部屋の明かりを落として月を見ながら賑やかな食事会の余韻に浸っていた。
「びっくりしたなあ、無意識に料理に魔力を込めていたなんて……」
二人でベッドに腰掛けて穏やかな時間を楽しむ。
「私も驚いた、しかしすぐに納得したよ」
「どうして?」
彼を見上げると、切れ長の目の中では大きな丸い月が煌々と輝いていた。その瞳が次に僕をうつしたのは暗い中でも分かった。
「これまでも何度か君の作ったものをいただいたが、全てに真心がこもっていた。口に入れた瞬間に分かるんだよ、食べる者の顔を思い浮かべて丁寧に調理しているのが。誠実さや愛情が体に染み渡って、とても暖かい気持ちになる。それはいつだって変わらなかった。魔力がこもっていようといまいとね」
彼のひとつひとつの言葉に心がすっと穏やかになる。なぜか、救われたような気がした。
「きっと君がずっと、ずっとそういう気持ちで料理をしていたからなんだろうね」
やわらかい羽で心臓を撫でられたような心地よさがまとい、はっと息を呑んだ。
瞼の端に溜まった涙をフレイヤさんの唇が優しく拭った。
自然と目を瞑る。瞼の裏にはお母さんのキラキラとした笑顔が浮かんでいた。
そうだったらいいな。
お母さんも、病室で食べたアップルパイから僕の気持ちや真心を受け止めてくれていたらいいな。
あの時、少しでもお母さんの心を救えていたのならこんなに嬉しいことはない。あの時の彼女の気持ちは分からないけど、でもきっと伝わっていたと信じたい。
フレイヤさんの唇が瞼から下に降り、僕の震える唇を覆った。
ズン、とお腹の底に愛情が渦巻く。
かと思えばぐわっと何かの衝動が湧き上がってきて、少しでも彼との距離を無くしたい一心で、腕を回して一生懸命にしがみついた。
「フレイヤさん、愛してる……」
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