【完結】眠れぬ異界の少年、祓魔師の愛に微睡む

丑三とき

文字の大きさ
72 / 176
東の祓魔師と側仕えの少年

72.練習とお芋

しおりを挟む



◆◆◆


賑やかなお食事会から数日、僕は主に"魔力放出の抑制"という術を身につけるための訓練に尽力していた。
魔力が芽生えてからこちら、「いつ魔法が使えるか」とウキウキしていたがまさか最初にすべきが"抑制"だとはなかなか受け入れ難い現実である。

しかしこれができない限り、みんなに美味しい料理が作れないのだ…!

「ハルオミ君、意識が逸れていますよ」

「あ…ごめんなさいパネースさん」

中庭にて、パネースさんとイザベラ、それからクールベさんの指南を受けている。訓練内容は至ってシンプル。

クールベさんが作ってくれた黒い野球ボール大の球(「魔力検知球」と名付けたらしい)。これは適切な量の魔力を検知すると宙に浮く仕様となっている。しかし必要以上に魔力を検知すると赤く光ってしまうのだ。黒いまま宙に浮かせることができれば合格。赤く発光してしまと不合格。
とてもわかりやすい。

「んじゃハルオミ君、もう一回やってみよう」

「がんばれハルオミぃぃ~」

中庭のベンチに座って、2メートルほど先に置かれた魔力検知球を見据える。
周りではパネースさんとイザベラとクールベさんが拳を握りしめながら声援を送ってくれる。

おへその下の丹田に意識を集める。まっすぐに放ったボールを2メートル先の球に当てるようなイメージで……息を吐いて、くっと止めて力を込める。

——フワッ

お、浮い…

——ピカァァ!

「はーいストップストップストップ!!」

赤光ってしまった球を見てクールべさんが制止をかける。そして僕は集中を止める。

ぽとん、と地面に落ちた黒い球が無情にころんと転がった。

先ほどからこの調子なのだ。
魔力を使うには集中力が必要だけど、僕は集中すると放出してしまうというなんとも難儀な状態なのである。

「んー、やっぱり出ちまうな」

「でもモウチョット!って感じするんだけどなあ~。ハルオミ、最初は球が浮きもしなかったもんな」

「浮かないのに赤く光ってしまう、まさに0か100って感じでしたので、それに比べるとコントロールのコツは掴めてきていると思いますよ」

みんな優しいので褒めてくれるが、中々出来ない自分にちょっとしたショックを受ける。

「結構、難しいですね」

ぽろりと弱音をこぼすと、イザベラが肩を叩いて励ましてくれた。

「んなの当たり前だろ? 俺らは生まれた時から魔力があるから無意識に抑制できてるけど、ハルオミはついこの間初めて魔力を持ったんだ、難しくて当たり前なんだから、元気出せよ!」

「そうだね、ありがとうイザベラ」

よし、次は必ず…!と意気込んでいたらクールベさんが「今日は終いだ」と球を取り上げポケットに仕舞った。

「え……もう少し」

「何言ってんだ、あまり君に無茶をさせると俺がフレイヤに怒られる」

「あー……そっか……」

フレイヤさん、前科があるから。
屋敷の人たちを威圧して一切僕に話しかけさせなかった前科あるから。クールベさんの言葉もなんとなく納得できてしまう。

残念だけれどまた明日、次こそ成功させられるように頑張ろう。

「ハルオミ君、少し休みますか?」

パネースさんは隣に座って僕の顔色を伺う。おそらく疲れが出てしまっているのだろう。優しく気遣ってくれた。

「ううん、少し疲れたけど、でも全然大丈夫。それよりさ、息抜きに、農園にお芋見に行かない?」

以前パネースさんと交わした約束。農園で育てているお芋をいつか調理して欲しいと言われ、先日ようやく農園を見学することができた。
葉っぱの形からさつまいもに似たものが収穫できると予想し、僕もお世話に参加させて貰っていたのだ。ついた実は徐々に大きくなっていき、あと少しで収穫できるらしい。

僕の提案に賛成してくれたイザベラとパネースさんは、早速行こうと言って揚々と歩き出す。

「んじゃ俺はちょっと屋敷に挨拶してから今日はもう帰るわ、あんまりはしゃぐんじゃねーぞ」

「はい、クールべさん。ありがとうございます。明日もよろしくお願いします」

じゃあな、と言って屋敷に戻るクールベさんの背中を見送る。

彼は今も以前と同じように国境近くの小屋に住んでいるのだけれど、僕の訓練に付き合ってくれたり体調を見てくれたりしているので、たまに屋敷に寝泊まりすることもある。

お酒が好きで魔物の話も止まらないため(主に魔物に対する変態発言が止まらないため)、ウラーさんに「さわが…賑やかですねえ」と冷ややかな視線を向けられている場面をよく見かける。



さて、農園は中庭から屋敷を抜けて裏側にある。

井戸水を引いたポンプに向けてパネースさんがヒョイっと指を振るとポンプが引かれ、桶にジャーっと水が溜まる。
溜まった水がふわっ宙に浮き細かい粒子となって芋畑の上に運ばれ、徐々に重力を失った水が優しく畑に降り注いだ。

「やっぱパネースは水の扱いに長けてるよな」

「そっか、パネースさんの魔力の性質は"水"だったね。なんだか植物が喜んでいるみたい」

「ふふ、ありがとうございます。今まであまり役立てることは無かったのですが、このお屋敷に来てからは庭仕事が面白くなって、こんなふうに水やりをしている時が至福の時間なんです」

ベビーブルーのポニーテルを風に靡かせながら笑顔で話すパネースさんは、なんだか農園の妖精みたいだ。

「それにしても、かなり育ったんじゃないですかね~。ほらこれなんか、もう収穫できそうですよ?」

「え?  どれどれ?」

パネースさんが葉っぱを優しくかき分けながら言った言葉に、僕とイザベラは興味津々でそちらを見やる。

ジャガイモのような色だけれど、形的にはさつまいもとおんなじ感じで細長い。どんな味なのかな。

「本当だな、結構デカい。なぁ、これ収穫してハルオミに味見してもらおうぜ。どんなふうに調理するかアイデアが浮かぶかもしれないだろ?」

「 それはイイですね!  ハルオミ君、いいですか……?」

「もちろん! 僕も食べてみたかったんだ。そうだ、ちょうど料理人さん達ともお話ししたかったし、厨房に行ってお芋ふかしてもらえるか聞いてみようよ」

「おお!それいい考えだな!」

「そうしましょうそうしましょう!」

パネースさんが一番大きく育っているのを収穫して、僕たちは芋をひとつ抱えて厨房へ急いだ。



しおりを挟む
感想 17

あなたにおすすめの小説

【完結】ここで会ったが、十年目。

N2O
BL
帝国の第二皇子×不思議な力を持つ一族の長の息子(治癒術特化) 我が道を突き進む攻めに、ぶん回される受けのはなし。 (追記5/14 : お互いぶん回してますね。) Special thanks illustration by おのつく 様 X(旧Twitter) @__oc_t ※ご都合主義です。あしからず。 ※素人作品です。ゆっくりと、温かな目でご覧ください。 ※◎は視点が変わります。

2度目の異世界移転。あの時の少年がいい歳になっていて殺気立って睨んでくるんだけど。

ありま氷炎
BL
高校一年の時、道路陥没の事故に巻き込まれ、三日間記憶がない。 異世界転移した記憶はあるんだけど、夢だと思っていた。 二年後、どうやら異世界転移してしまったらしい。 しかもこれは二度目で、あれは夢ではなかったようだった。 再会した少年はすっかりいい歳になっていて、殺気立って睨んでくるんだけど。

拾った異世界の子どもがどタイプ男子に育つなんて聞いてない。

おまめ
BL
召喚に巻き込まれ異世界から来た少年、ハルを成り行きで引き取ることになった男、ソラ。立派に親代わりを務めようとしていたのに、一緒に暮らしていくうちに少年がどタイプ男子になっちゃって困ってます。 ✻✻✻ 2026/01/10 『1.出会い』を分割し、後半部分を『2.引き取ります。』として公開しました。

劣等アルファは最強王子から逃げられない

BL
リュシアン・ティレルはアルファだが、オメガのフェロモンに気持ち悪くなる欠陥品のアルファ。そのことを周囲に隠しながら生活しているため、異母弟のオメガであるライモントに手ひどい態度をとってしまい、世間からの評判は悪い。 ある日、気分の悪さに逃げ込んだ先で、ひとりの王子につかまる・・・という話です。

イケメンダブルセンターとアンチ>ファンな平凡な俺

ユッキー
BL
アイドルグループ【オーバーウェルミング】は圧倒的な歌唱力の深山影月、圧倒的なパフォーマンス力の漣陽太、そして圧倒的な平凡力な俺間桐真緒の3人で結成されている。  大人気の二人と違いアンチしかいない俺だが、メンバーからもファンからも愛される日が果たしてくるのか!?

【完結】気が付いたらマッチョなblゲーの主人公になっていた件

白井のわ
BL
雄っぱいが大好きな俺は、気が付いたら大好きなblゲーの主人公になっていた。 最初から好感度MAXのマッチョな攻略対象達に迫られて正直心臓がもちそうもない。 いつも俺を第一に考えてくれる幼なじみ、優しいイケオジの先生、憧れの先輩、皆とのイチャイチャハーレムエンドを目指す俺の学園生活が今始まる。

中年冒険者、年下美青年騎士に番認定されたことで全てを告白するはめになったこと

mayo
BL
王宮騎士(24)×Cランク冒険者(36) 低ランク冒険者であるカイは18年前この世界にやって来た異邦人だ。 諸々あって、現在は雑用専門冒険者として貧乏ながら穏やかな生活を送っている。 冒険者ランクがDからCにあがり、隣国の公女様が街にやってきた日、突然現れた美青年騎士に声をかけられて、攫われた。 その後、カイを〝番〟だと主張する美青年騎士のせいで今まで何をしていたのかを文官の前で語ることを強要される。 語らなければ罪に問われると言われ、カイは渋々語ることにしたのだった、生まれてから36年間の出来事を。

過保護な父の歪んだ愛着。旅立ちを控えた俺の身体は、夜ごとに父の形で塗り潰される

中山(ほ)
BL
「パックの中、僕の形になっちゃったね」 夢か現か。耳元で囁かれる甘い声と、内側を執拗に掻き回す熱。翌朝、自室で目覚めたパックに、昨夜の記憶はない。ただ、疼くような下腹部の熱だけが残っていた。 相談しようと向かった相手こそが、自分を侵食している張本人だとも知らずに、パックは父の部屋の扉を開く。 このお話はムーンライトでも投稿してます〜

処理中です...