【完結】眠れぬ異界の少年、祓魔師の愛に微睡む

丑三とき

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東の祓魔師と側仕えの少年

73.名付け親

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「ん~これ甘くてホクホクで美味しい~」

僕たちは厨房の端っこを貸してもらい、試食タイムを楽しんでいる。

料理人さんにふかしてもらったお芋を一口食べてみると、もうコレはまさにさつまいもの味で、これならスイートポテトやらさつまいもパイやら色々と作れるかもしれない、と妄想が広がる。

「ええ、美味しいですね~、お世話をした甲斐がありました」

「ああ、大成功だな。ハルオミの世界にも、おんなじような芋はあるのか?」

「うん、さつまいもっていう芋ととっても似てる」

「さつまいも。芋にも名前があんのか」

「うん。ジャガイモとかさつまいもとか、長芋に里芋に、あとはタロイモ? とか……って、」

気がつけば、周りの料理人さんたちがこちらに耳を向けてフムフムと聞いていた。



——ヒソッ

「ハルオミ殿の世界では、芋の種類ごとに名前が付けられているらしいぞ」

——コソッ

「あの甘い芋は"さつまいも"というらしい」

——ボソッ

「んじゃ、普段俺らが普段食ってるやつはなんて芋なんだ?」

「知るか、お前が聞いてこいよ」

「え、俺…!?  よし……いやだめだ緊張して足が震えちまう」

「何だ情けねぇ」

「そんならお前が話しかけて来いよ!」



……めっちゃ聞こえてますけど。
そんなに話しかけづらいだろうか。
まあそれもこれも、きっとフレイヤさんのせいだな。

僕は責任を感じて、そして何より彼らとも交流を図りたくて、緊張しながらも自ら話しかけた。

「あの…みなさんが普段主食にされているのは、このように甘くは無いのですか?」

一番近くにいた20代くらいの青年に問いかけると、舌がこんがらがりながらも教えてくれた。

「ヒェッ!? あ、そそそうですね、あまっ、甘くは、なくて、もっとこう、淡白な、水気のっ、少ない感じで…」

「へえ…じゃあ、ジャガイモみたいな感じかな」

「たっっ!たた、食べて、みますか…?」

「いいんですか!?  ぜひ、食べてみたいです」

——ザワッ

「おいっ!  ご用意して差し上げろ!」

「芋はこちらに今朝拵えたのが!」

「すぐに!  すぐにお出ししろ!」

なんだかとても気を使わせてしまって申し訳ない…。アワアワと準備してくれる料理人の方たちに同じくアワアワしながら手持ち無沙汰にいたたまれない気持ちでいると、

「みんなハルオミと話したがってたもんな」

とイザベラが言った。

「え…そうなの?」

「ええ。料理人さんだけでなく給仕さんや執事さんも、ハルオミ君のことを愛らしいお姿だ、お近づきになりたいと漏らしている場面に何度も遭遇しました。フレイヤ様の前では口が裂けても言えませんけどね」

「愛ら…っ、いやなんか恐れ多いなあ……」

「いやいや、ハルオミはめちゃくちゃ"アイラシー"ぞ。こんな綺麗な黒い髪に黒曜石みたいな目。こんな姿の人間珍しいし。それになんてんだろうな…くすぐられる」

「くすぐられる?」

「わかります。放って置けない感じがしますよね。庇護欲が掻き立てられます」

「パネースさんまで。何言ってんの、恥ずかしいからやめてよ」

苦言を呈すと、はははっと笑って「自覚してください」と注意された。

自覚っつったって、生まれてこのかた黒い髪と目だから何を自覚すればいいのかよくわかんないけど…

「お待たせしましたハルオミ殿!こちら主食の芋です!」

料理人の方が芋を持って来てくれた。
ことん、と目の前に置かれた小皿には、潰されてペースト状になった感じの芋。たしか食事会の時にもあったような…だとしたら所謂"マッシュポテト"みたいなものだと思う。

——ぱくっ

「ん~おいしー、なめらかで丁寧に調理されているのがとてもよくわかります。うん、この味は僕の世界のジャガイモによく似ています。料理名は『マッシュポテト』といいます」

味付けはあまりされてなくて、たぶん他の料理と合わせて食べる用だろう。食事会でも出ていたけれど僕はお米派なのであまり食べなかった。でも確かにこれとおかずを合わせたら美味しそうだな。次の食事会では僕も芋を主食にしてみようかな。

「お、美味しいと!」

「よ、良かった~緊張した~」

「まっしゅぽてと、だとよ。なんかカッコいいな」


口々に述べる料理人たちに、僕は疑問を投げかけた。

「このお料理は、ここでは何と呼んでいるのですか?」

この問いに、なぜか辺はシーーーンとなった。

最初に声を発したのはイザベラだった。

「芋……だな」

「ええ…芋、ですね」

2人の言葉に、周りの料理人たちはうんうんと頷いて同意を示す。

「芋……か」

料理名というか素材だけど、日本人が「米」と言うのと同じような感覚だろう。戸惑いつつも納得していると、1人の料理人が言った。

「そしたら、今日からこの芋は、『まっしゅぽてと』だな!」

「おお、その方がカッチョイイ!  そうしようそうしよう!」

皆さんの口から「マッシュポテト」が連発する。
どうやら僕は、この世界の主食の名付け親になってしまったようだ……。


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