80 / 176
東の祓魔師と側仕えの少年
80.声援
しおりを挟む◆◆◆
気温:適温
天候:晴れ
体調:良好
場所:中庭
時:午後2時
この日、この瞬間、僕は人生の岐路に立っていた。
あれから数日、特訓に励んだ僕は抑制のコツがだんだんと掴めていくのを感じていた。「魔力探知球」に意識を集中させるたび、クールベさんやイザベラやパネースさんは「次はもっと息を潜めてみよう」「次はもっと腹の底から力を出してみよう」など的確なアドバイスをくれるので、その度に自分が魔力をコントロールできていくのが分かる。
そして今日、一回、また一回とクールベさんからの「合格」を貰うことができている。つまりこの黒い球を黒いまま数秒浮き上がらせキープする、それに立て続けに何度も成功しているのだ。
疲れも感じない。
それは魔力が放出していない証拠だった。
そして!
あと! あと一回合格を貰えればこの訓練は修了となるのである!!
いよいよここまで来た。この抑制がきっちり出来れば、僕は魔力を持つ人間として、この世界の人間としてスタート地点に立てる。
応援してくれるのは、クールベさん、イザベラ、パネースさん、そしてウラーさんをはじめとする執事の皆様! それから給仕さんや軍人さんや料理人さん!うん、多い!
人が多くて緊張する。
だけど皆に見守られているという心強さもある。
周りを見れば、ある人は両手を組んで祈っていたり、ある人は拳を握りしめてエールを送ってくれていたり。
その気持ちに応えたい。
僕は目を閉じて、中庭に吹く穏やかな風に感覚を研ぎ澄ませた。
目を開き、目指すは2メートル先。あの球に魔力を当てるんだ。
「いけハルオミっ」
「ハルオミ君、頑張ってください」
丹田に意識を集中させ、自分の中の魔力を少しずつ球に放つ。
——ふわっ
浮いた。
油断はいけない。ここから、ここからが勝負だ。
球が浮いたということは、今自分が放っている魔力を減らしても増やしてもいけないということだ。この時間が一番難しい。集中力をブレさせたら、魔力がおさまってしまうか大放出してしまうかのどちらかだ。
このまま、このままキープ。
再び目を瞑り、フレイヤさんの顔を思い浮かべる。
これは自分で身につけた魔力を安定させる方法だ。
以前フレイヤさんに聞いたことがある。
フレイヤさんは何でそんなに上手に魔力を扱えるのか、と。
もちろんつい最近魔力が生じた僕と、生まれてからずっと魔力と共に生きてきたフレイヤさんとでは感覚が違うことは分かっている。でも今僕の中に流れている魔力は何を隠そう彼から譲り受けたものだ。何かヒントは無いかと聞くと、彼は「私はずっとハルオミの顔を思い浮かべているよ」と言った。
最初は、「そういうことじゃなくてー」と思っていたけど、不思議とフレイヤさんを想うと魔力が安定するのだ。
彼から貰った魔力だからか僕たちが番だからかは分からないけど、心が落ち着いて、一本の細い線のようなものが自分から球に繋がっているのが分かる。
とても心安らか。
僕の意識は目の前の球にのみ集中しているようで、周りへの感覚も研ぎ澄まされている。葉のそよぐ音が心地いい。鳥の囀りが爽やかに駆ける。
その研ぎ澄まされた感覚で、誰かがハッ、と息を呑んだのがわかった。
次の瞬間、
「よし、合格っ!」
というクールベさんの声が響いた。
ぽん、ころん、と地面に落ちる球。
全員がその球を目で追いかける。
——ウワアァァァァァァァァァッ!!!!
大歓声が地響きのように鳴り渡った。誰からともなくこちらに駆け寄ってきて、「ヤッター!」「ヨッシャー!」と叫ぶ。
「やったなハルオミ!やったやった!」
「すごいすごいハルオミ君!やった、合格!!」
2人が泣きそうな顔をして僕に抱きつく。
初めて今自分の身に起きていることを理解できた。
「イザベラ、パネースさん………合格、合格……!」
わいわいと3人で抱き合ったまま跳ねる。
その周りでは屋敷の人たちが拳を突きあげたり抱き合ったりしている。
「ハルオミ殿、やりましたね」
「ウラーさん、ありがとう…!」
「素晴らしかったですよハルオミ殿!!」
「やりましたね!やりましたね!」
「俺はハルオミ殿ならできると信じていたさ!」
「何言ってんだお前、起き抜けから『今日は大丈夫かな、ハルオミ殿大丈夫かな』ってそわそわしっぱなしだったじゃねぇか!」
「おまえっそれは言うなって!」
「何はともあれおめでとうございますハルオミ殿!」
「おめでとうございます!!」
「みなさん……」
執事さんも給仕さんも軍人さんも料理人さんも、みんな一緒になって喜びの声をあげる。
僕が今できるようになったのは、難しい魔法でもなければただの「抑制」だ。しかしこれだけたくさんの人が成功を祝福してくれている。中庭で訓練を始めてから、悔しい気持ちも全て赤裸々に態度に出して成功への糧にしていた。それを見てくれていたのだろう。どんなに今僕が嬉しいか、皆が分かってくれている。こんなに暖かい人たちに囲まれているのがとても幸せだった。
「なかなか余裕のある魔力だったじゃねえか。これならもう大丈夫だろう。よくやったな」
「クールベさん……!」
彼はつかつかとこちらに来て声をかけてくれる。手には魔力探知球が握られていた。
「クールベさんのおかげです、本当にありがとうございます!」
「なに、俺は別に暇つぶしだよ、ハルオミ君の努力の成果だ」
クールベさんの言葉に反応したのはウラーさんだった。
「よく言えたものですよ、訓練が終わるたびに『次はこのアドバイスをしてあのアドバイスをして…いやでも一気に言い過ぎるとキャパオーバーか?なあウラー、俺はどうすりゃいいんだっ?』などとまあ我々執事の休憩室にまで叫びながら入って来て、皆休憩どころではありませんでしたよ」
「そ、そうなんですか?」
「ウラー、お前の減らず口は相変わらず健在だな」
「あら、お褒めいただきどうも光栄に存じます」
クールベさん、そんなに考えてくれていたんだ。「屋敷に挨拶してから帰る」ってよく言ってたけどまさか執事さんたちの休憩室にまでお邪魔していたとは。
「クールベさん、改めてお礼を言わせてください。本当にありがとうございます。クールベさんのおかげで、一歩前進できました」
「ハハハッ、そりゃ良かった。中々良い魔力だったぞ」
「ありがとうございます!」
お礼を言うと、イザベラとパネースさんが再び抱きついて来て僕たちはもう一度喜びを噛み締めた。
「ハルオミ! これでハルオミの料理食えるな!」
「こらイザベラ、ハルオミ君まだ抑制を身につけたばかりなんですから、無理を言うんじゃありません」
「なんだよパネース、お前が一番楽しみにしてたんじゃねぇか」
「それは……っ、それとこれとは話が別です!」
「どこが別なんだよ」
「別でしょう!」
言い合う二人を見て僕は笑いが溢れて仕方ない。
「ふふふっ、あっははは、ありがとう2人とも」
「ハルオミ君…」
「ハルオミ」
2人は顔を見合わせて、もう一度ガバッと僕に抱きつく。僕たちはしばらく抱き合いながら喜び合った。
そして皆が少しずつ落ち着いて来た頃、クールベさんがこちらに手を差し出した。
「ほら、これは練習用にやるよ」
「いいんですか? これ、クールベさんが作ってくれたんですよね」
「元々ハルオミ君用に作ったやつだからな、こんなんでも何かしら役に立つだろ。もう俺の監督はいらねぇだろうが、くれぐれも無茶はするんじゃねえぞ」
「分かりました!ありがとうございます」
「クールベ様のお作りになるガラクタがお役に立つ時が来るとは」
「なんだとウラーお前」
「それでは、わたくしどもは仕事に戻りますので、これにて失礼いたします」
「おいおまっ」
「はい。ウラーさん、皆さんも、本当にありがとうございます」
頭を下げて、心を込めて皆さんを見送る。
彼らの応援がなければここまで来ることが出来なかったかもしれない。多くのギャラリーに緊張もしたけれど、本当に心強かった。
「あんの野郎、好き勝手言いやがって、お仕置きしてやる……!」
隣ではクールベさんが何やら禍々しいオーラを噴出しながらイケナイ大人の笑みを浮かべている。普段変態だけど(?)怒らせたら怖いのかもしれない……。
この日、僕はほぼ全ての移動を軽やかなスキップで行っていたらしい。(執事、料理人、その他大勢談)
37
あなたにおすすめの小説
【完結】ここで会ったが、十年目。
N2O
BL
帝国の第二皇子×不思議な力を持つ一族の長の息子(治癒術特化)
我が道を突き進む攻めに、ぶん回される受けのはなし。
(追記5/14 : お互いぶん回してますね。)
Special thanks
illustration by おのつく 様
X(旧Twitter) @__oc_t
※ご都合主義です。あしからず。
※素人作品です。ゆっくりと、温かな目でご覧ください。
※◎は視点が変わります。
2度目の異世界移転。あの時の少年がいい歳になっていて殺気立って睨んでくるんだけど。
ありま氷炎
BL
高校一年の時、道路陥没の事故に巻き込まれ、三日間記憶がない。
異世界転移した記憶はあるんだけど、夢だと思っていた。
二年後、どうやら異世界転移してしまったらしい。
しかもこれは二度目で、あれは夢ではなかったようだった。
再会した少年はすっかりいい歳になっていて、殺気立って睨んでくるんだけど。
イケメンダブルセンターとアンチ>ファンな平凡な俺
ユッキー
BL
アイドルグループ【オーバーウェルミング】は圧倒的な歌唱力の深山影月、圧倒的なパフォーマンス力の漣陽太、そして圧倒的な平凡力な俺間桐真緒の3人で結成されている。
大人気の二人と違いアンチしかいない俺だが、メンバーからもファンからも愛される日が果たしてくるのか!?
劣等アルファは最強王子から逃げられない
東
BL
リュシアン・ティレルはアルファだが、オメガのフェロモンに気持ち悪くなる欠陥品のアルファ。そのことを周囲に隠しながら生活しているため、異母弟のオメガであるライモントに手ひどい態度をとってしまい、世間からの評判は悪い。
ある日、気分の悪さに逃げ込んだ先で、ひとりの王子につかまる・・・という話です。
拾った異世界の子どもがどタイプ男子に育つなんて聞いてない。
おまめ
BL
召喚に巻き込まれ異世界から来た少年、ハルを成り行きで引き取ることになった男、ソラ。立派に親代わりを務めようとしていたのに、一緒に暮らしていくうちに少年がどタイプ男子になっちゃって困ってます。
✻✻✻
2026/01/10 『1.出会い』を分割し、後半部分を『2.引き取ります。』として公開しました。
【完結】気が付いたらマッチョなblゲーの主人公になっていた件
白井のわ
BL
雄っぱいが大好きな俺は、気が付いたら大好きなblゲーの主人公になっていた。
最初から好感度MAXのマッチョな攻略対象達に迫られて正直心臓がもちそうもない。
いつも俺を第一に考えてくれる幼なじみ、優しいイケオジの先生、憧れの先輩、皆とのイチャイチャハーレムエンドを目指す俺の学園生活が今始まる。
中年冒険者、年下美青年騎士に番認定されたことで全てを告白するはめになったこと
mayo
BL
王宮騎士(24)×Cランク冒険者(36)
低ランク冒険者であるカイは18年前この世界にやって来た異邦人だ。
諸々あって、現在は雑用専門冒険者として貧乏ながら穏やかな生活を送っている。
冒険者ランクがDからCにあがり、隣国の公女様が街にやってきた日、突然現れた美青年騎士に声をかけられて、攫われた。
その後、カイを〝番〟だと主張する美青年騎士のせいで今まで何をしていたのかを文官の前で語ることを強要される。
語らなければ罪に問われると言われ、カイは渋々語ることにしたのだった、生まれてから36年間の出来事を。
妖精です、囲われてます
うあゆ
BL
僕は妖精
森で気ままに暮らしていました。
ふと気づいたら人間に囲まれてました。
でもこの人間のそばはとても心地いいし、森に帰るタイミング見つからないなぁ、なんて思いながらダラダラ暮らしてます。
__________
妖精の前だけはドロ甘の冷徹公爵×引きこもり妖精
なんやかんやお互い幸せに暮らします。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる