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東の祓魔師と側仕えの少年
84.祝言〜英雄〜
しおりを挟む数秒静まり返ったあと、
——おおぉぉぉぉ……!
という静かな歓声のような音が響き渡った。
「"この世の皆が、いつも誰かの英雄"……! なるほど」
「英雄はお言葉も深い…!」
ああ違う、なんか違う方向にいってる…!!
「そしてハルオミ殿はフレイヤ殿を"愛している"と言ったぞ!」
「なんと微笑ましいことだ」
「冷淡だったフレイヤ殿の表情をあのようにやわらげるとは」
周りの皆さんがにっこり笑って僕を見る。
自分が先ほど発した言葉に気づいた途端、急に羞恥心が襲ってきて、顔がどんどん熱くなっていく。
「いや……あの、それは……なんてゆーか」
あたふたと赤い顔を隠すために下を向いてもごもごしていると、イザベラがカラッとした声で言った。
「良いじゃねぇかハルオミ、悪く言われてる訳じゃねえんだからさ、褒め言葉は全部受け取っとこうぜ!」
彼のさっぱりとしたシンプルな性格はいつも僕を救ってくれる。フレイヤさんも誇らしげに胸を張っている。僕もこの屋敷の一員として、彼らを見習わないと。
「あの、皆様……ご存知の方もいると思いますが、僕は異世界から来ました。この世界に来て本当に良かったと思います。フレイヤさんとも出会えたし、素敵な友人もできたし、たくさん家族もできた。そして今、皆様のあたたかい言葉に触れてる……こんなに幸せな人生を歩めると思っていませんでした。えっと…今後とも、よろしくお願いします!」
先ほど同様、90度のお辞儀をする。
パチパチと拍手のような音が鳴る方向を見ると、先ほどのヤンさんがその厳ついお顔に涙を浮かべながら手を打っていた。それにつられるようにして、周りの方たちも一斉に拍手をし始めた。
なんかこういう雰囲気になるとは思ってなかったんだけど……でも、皆様の心遣いはとても身に染みた。改めてこの世界の人たちの優しさを体感した瞬間だった。
フレイヤさんを見上げると、いつものようにニコニコしている。ああ、この人は何も考えていないのではなく、ずっと分かっていたんだ。僕がこの世界を好きな事も、皆様が僕をあたたかく受け入れてくれる事も、全部分かっていたのだ。
安心して肩の力が抜けたその時、どこからかざわめきが聞こえて来た。声の方向を向くと、ニエルド様とパネースさんが演壇に登場していた。
フレイさんとビェラ様が着ているグレーの詰め襟スーツをベースに、さらに金色の刺繍がふんだんに施された豪華な衣装に身を包んだニエルド様。そして隣にはニエルド様と同じ型で純白のスーツにこちらも金色の刺繍を施した衣装を着こなすパネースさん。
「綺麗……」
いつもの違う雰囲気のパネースさんは息を呑むほど美しい。本当に妖精のようだ。
横で、イザベラは友人の晴れ姿にうっとりしつつも「もっと派手に登場すりゃいいのに…なんか自由で2人らしいな」と笑った。
確かに、もっと大々的に登場するものだと思っていたので不意打ちで2人の圧倒的な姿を見せられるとつい吃驚して息を呑んでしまった。
周りからも、「美しい……」「さすが、東の地のお妃だ…」と感嘆の声が上がっている。
その気持ち、とてもよくわかる。
周りの注目を一手に担った彼らは、壇上でひとつ礼をした。すると鳴り止まんばかりの拍手が響いた。僕も心の底から拍手を送った。友人の晴れ姿というのはこれほどまでに感慨深いのか。僕はパネースさんの幸せそうな姿に、涙が溢れそうになった。
ひとしきり鳴った拍手がやむ頃、ニエルド様が深く息を吸って、そしてよく通る低い声で言った。
「皆様、本日は東の地まで赴いていただき、誠にありがとうございます。私ニエルド・ヴィーホット、並びにパネース・ヴィーホット。私達は本日、皆様のお力添えにより祝言を挙げる運びとなりました」
ニエルド様とパネースさんが深くお辞儀をすると、再び拍手と歓声が鳴り響いた。
「おめでとうございます!!」
「お似合いだっ!」
「やっと東の地にも当主が!」
「こりゃ安泰ですな!」
と、好き好き飛ぶ温かいヤジに場の空気が一気に和やかに緩んだ。
2人は顔を上げると、目を見合わせて微笑み、次はパネースさんが話し始めた。
「当主のニエルドより紹介に預かりました。妃のパネースと申します。本日は誠にありがとうございます。形式上当主からご挨拶はさせていただきましたが……本日は肩肘張らず、というのが当主の想いということで、皆様、今日は好きなものを召し上がって、お好きなお話をして、どうぞ楽しんでください!」
にこっと笑ったパネースさんの言葉を合図に、四方八方から執事さんや給仕さんが入って来て、手際よく料理やお酒や食器やテーブルを並べる。
いわゆるビュッフェ形式で、フランクに立食でも良し、座って落ち着いて食べても良し、ということらしい。
来賓の皆様が「待ってました」と言わんばかりに料理が並べられた場所へ集まる。
イザベラと目を見合わせて、「なんか、厳かな空気は一瞬で終わっちゃったね」と言うと、彼も意外だったようで「もっと堅苦しいと思ってたけど、こんな祝言なら楽しいな」と笑った。
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