【完結】眠れぬ異界の少年、祓魔師の愛に微睡む

丑三とき

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東の祓魔師と側仕えの少年

〈番外編〉咳をすれば

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2人が番になった後、ハルオミが目覚めてからの療養中の番外編です。本編で言うと「57.家族の証②」と「58.久しぶりの入浴にかける思い①」の間くらいのエピソードになります。
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突然目が覚めたかと思えば、隣にいるはずの温もりが無くなっていることに気がついた。あたりはただただ暗く、縁取られて強調されたような孤独が僕を襲った。

僕たちが番ってからフレイヤさんの呪いは消えて、僕には魔力が生じた。この魔力が安定するまではひどい風邪を引いたようにずっとしんどい。節々は痛いし、呼吸も辛い。でも彼の呪いが解けたことと無事に番になれたことが嬉しくて嬉しくて、そんな辛さもどうってこと無いのだ。……気持ちの上ではね。体はどうしたって正直だから弱音を吐いてしまいたくなることも多いけど。

それに、フレイヤさんがいない夜はとても心細い。彼はどこに行ったんだ? 心細いけれど体力が無いからベッドから起き上がることもできず、布団の上で寝返りを打ったり身じろいだりして彼の影を探す。

トイレかな?  それともお腹すいたから夜食でも探しに徘徊してるのかな。


しかし彼は10分経っても、そのさらに10分経っても戻ってこなかった。
夜の静けさも耳に馴染んできた頃、自分の咳の音が広い部屋に響いた。

「ケホッ、ケホッ……」

息のしづらさを感じて口を開けば、喉に舞い込んできた空気に粘膜が拒否反応を示し益々息苦しさが体を襲う。

「ゲホッ、ゴホッゴホッ…ケホッ」

咳をするのにも体力が要る。呼吸を整えようとすればまた咳が出てさらに体力が削られる。その悪循環に辟易する。酸素も薄くなり目の前がぼやけそうになっている時、

「ハルオミ…!大丈夫かい!?」

いつのまにか水を持ってそばに立っていたフレイヤさんは、あたふたと僕を抱き起こし、座らせて背中を撫でる。

「ゲホッ、ゴホっ……あり、がと…」

背中をさすられるとだんだん呼吸も落ち着いてきて、フレイヤさんの手の中のお水を一口飲むことができた。

「ハルオミ、すまない。辛い時に一人にしてしまった」

申し訳なさそうに言うけれど、彼は日中、四六時中僕のお世話をしてくれている。今だってすぐに来てくれて…申し訳ないのはどっちだって話だ。

「ううん、大丈夫……ごめんね、僕の方こそ」

「何を謝る必要があるんだ。ほら、こちらにおいで」

ベッドに乗り上げた彼の胡座にお姫様抱っこされるように抱え込まれ、さらに布団で包まれる。

「フレイヤさん、どこに行ってたの…?」

だめだ、そんな我儘なこと言うなと自分の頭から警告が出ているのに、よほど心細かったのか自然と弱音を吐いていた。やっちまった…という僕の雰囲気を察したのか、フレイヤさんはにこやかに優しく答えた。

「クールベ叔父上と話をしていたんだ。私の体の定期検診みたいなものと、あとハルオミの体に今後どのような変化が起きるのかも、詳しく勉強しておかないといけないしね。
そうこうしていたら急に気持ちがざわめいて、戻ってみれば君が起きていた」

クールベさんはしばらく屋敷に居てくれていて、よく体調を診に来てくれる。その時は僕の体ばかり心配してくれてるけど、フレイヤさんも本当に呪いが解けたのか、解けたのなら今後どのような変化があるのか、または無いのか、僕もとても心配だった。


「フレイヤさん、大丈夫なの……? どこかしんどい? 本当はっ、のろい、まだ…っ」

話しているうちに勝手に変な想像をしてしまって勝手に焦ってしまう。早くなりそうな呼吸を落ち着けようと、彼は僕の胸をポンポンと叩いた。

「大丈夫だ、心配しないで。『うざったいほどに元気だ』と、クールベ叔父上にもお墨付きをもらって来たところだよ」

なら良かった、とひとつ深呼吸をすると、また一口お水を飲ませてくれた。そして一番気になっていた疑問をぶつけた。

「どうして、こんな時間に…?」

おそらく今は夜中の2時もしくは3時ごろ。
このような時間にわざわざ……
彼曰く、こういうことらしい。

「ハルオミが起きている時は、なるべくひとときも君の元を離れたくないからね」

だからわざわざ僕の寝ている間に行っていたのか。それだけでなく僕の体のことも勉強してくれていたなんて。

彼の心遣いが、今の弱体にはとてつもなくキいた。

「ぐず……っ、」

「ハルオミ…っ、なぜ泣くんだい……よしよし、すまない。心細かったんだね」

彼の胸に頭を抱き込まれ、優しく撫でられる。
体の不調というのは侮れない。心まで弱くなってしまう。
心細さから一点、安心した途端ポロポロと不本意な涙が流れるのである。

「ぅー、ごめん…ちがうの、勝手に……」

フレイヤさんの大きな厚い胸に涙を押し付け、無かったことにしようとするも彼の服ににじんだ涙のシミが目に入りやはり自分の弱さを目の当たりにさせられる。

「大丈夫、好きなだけ泣いてスッキリしてしまいなさい」

よしよし、とあやされる様子はまるで赤子のようで情けないけど、この温もりが心地良すぎてずっとこうしていたいと思ってしまう。


「フレイヤさん、ありがとう……」

「良いんだよハルオミ、不安なことは吐き出してしまった方がいい。私にはなんでも話してほしい」

指で髪を梳きながら囁く声に、僕はついに甘えてしまった。

「……起きたら、フレイヤさんいなかったから、さみしかった。夜がとっても静かで少しだけ怖かった。それで咳が止まらなくて、しんどくて…早くフレイヤさんに会いたかった…」

ぎゅっと腕を回してしがみついて弱音をたんまりと吐く。こんな我儘な言葉も彼なら許してくれると分かっているから、つい甘えてしまう。

「そうか、ごめんね、寂しかったね」

「ううん…来てくれて、ありがとう」

「もう一人じゃない。ずっとそばにいる」

彼のあまりにも優しい言葉と、それから耳を叩く心音が僕を安心感で包んだ。

「ずっと…? じゃあ、今日はずっとくっついて寝てもいい?」

「もちろんだ。ただ、君が苦しければ」

「苦しくないから、ずっと、ぎゅってしていて、欲しい……」

僕が目覚めてから、フレイヤさんは僕の体を気遣ってなるべく負担をかけないようにしてくれているのだろう。夜は少しだけ距離を置いて眠っていた。距離を置くといっても手と手はずっと触れ合っており彼の存在は常に感じられる。

けれど今日は、もっと全身で、強く強くフレイヤさんを感じながら眠りたい。

「そうかい? それじゃあ、今日は朝までずっとくっついていよう」

「ほんと? うれしいなあ…」

自分の頬がにやりと緩んだのを感じる。

「本当だ、だからもう眠ってしまいなさい。とても眠そうだ」

「でも、もったいな……い…、フレイヤさんの、心臓の音、もっと…きい……て、……」

この日、僕の記憶はそこで途切れた。
覚えているのは彼の甘い香りと、おやすみという穏やかな声。

今日はいい日だ。
咳をしたら愛しい人が飛んで来てくれた。
僕はいつだって一人じゃない。それがたまらなく嬉しかった。


                       end.
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