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続編その①〜初めての発情期編〜
2.お仕事
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「いってらっしゃい」
「ああ、行ってきます。朝は寝足りなかったろうから、もう一度睡眠を取りなさい。でも食べてすぐに寝てはいけないよ、消化を悪くしてしまうからね。あと "店"のほうも無理をしては絶対にダメだよ。それから…」
「もう、いいから! 遅刻しちゃうよ、僕なら大丈夫だから早く行ってらっしゃい!」
フレイヤさんの背中を押しながら部屋の外へと追いやる。魔物討伐に遅刻なんてあるのかわからないけど…過保護な彼を見送るのはいつも手間取る。
渋々と出ていったフレイヤさんに安堵しつつ、そうは言っても、彼の言う通りお昼寝でもしたいなぁなんてよぎってしまう。
「はぁ……だめだめ、フレイヤさん達お仕事頑張ってるのに怠けちゃダメじゃん。今日はムニルさんと打ち合わせもあるし、頑張らなくちゃ」
拳を握って自分を鼓舞する。
僕はこの世界に慣れてきて、少しずつ仕事をするようになった。
これまでは側仕えの仕事って「側仕え」だけなんだと思っていたのだけど、聞いてびっくり、イザベラもパネースさんもそれ以外のお仕事をしていたのだ。
イザベラは武器屋や武器商人に特製の爆弾を卸しているそうな。魔祓い師の間でもイザベラ印の爆弾は人気で、魔物の動きを大幅に封じ込めてくれるから討伐の助けになっているのだとか。
パネースさんは、町が水源としているいくつかの湖の原水を定期的に検査して、水質を管理している。この世界の全員が水の魔法を使えるわけじゃないから天然の水は貴重な資源で、その管理にはそれ相応の知識と技術が必要らしい。
もちろん本業は側仕えなので、2人とも仕事は月に数回らしい(イザベラに至っては仕事という意識はなく完全に趣味でやっていると言っていた)けど、町の人の役に立てている2人がとても頼もしくて羨ましくて…
僕も何かできる仕事はないかと2人に相談をしたのだ。
◆◆◆◆
「仕事ならしてるじゃねえか。ハルオミの世界の"ニホン料理"を屋敷の料理人や執事に教えてるんだろ?」
「そのおかげで私達、お食事会の時にはたくさんニホン料理を食べることができて、とっても嬉しいです!」
「パネースは自分が食うことばっかだな」
「…っ! し、仕方ないじゃありませんか、私、ハルオミ君の世界の料理、とっても大好きなんですから」
恥ずかしげに言うパネースさんとっても可愛いし、気に入ってくれたのが何より嬉しい。
「それは今まで通りするよ。でも、それは"お仕事”にはならないでしょう?」
「金取りゃいいじゃねえか」
「そんなことできないよ!」
「なんで」
「なんでって……このお屋敷に住まわせてもらって、お世話になってる方たちに恩返ししたいから始めたことなのに、お金なんか取ったら意味ないでしょ」
「はぁ~、ハルオミはリチギだなぁ」
ぽけーっと呆れながら言うイザベラを「まぁまぁ」とパネースさんが宥める。
「ハルオミ君のニホン料理は、正直このお屋敷だけで楽しむのはなんだか独り占めしているみたいで勿体無いと思っていましたし、町にお店でも出せば絶対に大繁盛間違いなしですが……フレイヤ様がお許しを出してくれないでしょうね」
「フレイヤ様、カホゴだからな。絶対ムリだな」
「お店………それいい!」
「「え……」」
◆◆◆◆
こうして僕は、この東の地に僕の世界の料理が食べられる飲食店を出店するに至ったのだ。
………もちろん、"僕が"直接お店を出した訳じゃないんだけどね。
料理人さん達と交流する中で、ひとつわかったことがある。それは、全員が屋敷専属の料理人ではなく、ある人は町の食堂の大将をしながら、ある人は宿のレストランで働きながら、屋敷の食事会や催し物の時に集められ兼業で「屋敷の料理人」として働いている人も少なくないこと。
考えてもみれば食事会以外の普段の食事は各々で準備することもあるし、常に大勢の料理人さんがいる必要はないんだよね。
ただ、ギュスター様とムーサ様も交えた全員での食事会や、パネースさんとニエルド様の結婚式みたいな盛大な行事があったりすると人手が必要になる。
僕はそこに目をつけた!
僕の世界の料理を気に入ってくれている兼業の料理人さんの中でも独立を考えているという方に相談して、日本料理を出してみないかという提案をしてみた。
すると、「良いのですか!? ハルオミ殿のニホン料理を! わたくしが!? 自分の店で! やりますやらせてください! 自分の店を持つのはいつになるか、数年後か、なんて生ぬるいことを考えていましたが、今すぐに出します!」というやる気すぎる熱意によって、あれよあれよあれよ、という間にお話が進んだのである。
もちろんフレイヤさんをはじめとする屋敷の皆さんともきちんとお話をした。意外にも(?)お金に詳しいウラーさんも加わって、利益率だの売上高だの経営だのの話もして(難しすぎてほとんど分からなかった)、僕はそのお店の"監修"として携わることになった。
売上のいくらかを監修費用としていただけるということで、そりゃもう全身全霊でメニュー開発に勤しんだ。
その料理人の名はムニル・アンドフリーさん。
23歳。身長はこの世界の方にしては少し小柄の183cm、栗色の髪の毛が綺麗な美青年。
町のレストランで働きながら屋敷の料理人としても活動し、腕を磨きながら開業資金を貯めてきた。
ある時彼が「自分の店を持ちたい」と呟いたのを耳にして、僕はそれはもう悪徳勧誘業者のような鼻息の荒さでムニルさんに詰め寄ったのである。
それからなんと2ヶ月という凄まじき速さで開店に至り、すでにオープン2週間目が経過した。
今日は彼が屋敷に出勤するということで、メニューについて打ち合わせる約束をしている。
「ハルオミ殿!!」
「ん?……あ、ムニルさん」
噂をすれば。
中庭を散歩する僕の元にやる気満々に駆け寄ってきた彼は、キラキラと目を輝かせていた。
「ハルオミ殿のおかげで、連日大盛況なんです! もう本当に、なんと感謝していいのか…感謝という言葉では足りません、本当に、ありがとうございます!」
直角にお辞儀をしたムニルさん。
「そんなそんな…僕は一緒にメニューを考えただけで、お客さんを集めているのは間違いなくムニルさんの腕です!」
彼は本当に努力家で、納得のいく味になるまで何度も何度も何度も、寝る間を惜しんで努力を続けたのを知っている。
そんな彼に僕の世界の料理を作ってもらえることこそが光栄だ。
ムニルさんは感慨深そうにもう一度頭を下げて、それからいつものキラキラした笑顔に戻った。
「今日はハンバーグソースの種類について打ち合わせでしたよね! あのデミグラスというソース以外にも合うものがあるのですか? デミグラスはお客様からも大大大人気で、あの味以外には考えられないのですが…」
「ふふふ、そう思うでしょう…? 実は僕のとっておきはもうひとつあるんです。アレと同じような食材が無かったからこれまで作ってこなかったんですが、寒くなったこの時期にパネースさんが庭園で収穫した根菜がアレにとてもよく似ていたので試してみたら…」
「アレ……? アレとは何でしょうハルオミ殿…!!」
「ふふふ、ムニルさん、いざ厨房へ!」
「はい師匠!」
◆———その頃、陰でやりとりを見ていたイザベラとパネース———◆
「何だろうな、アレって」
「何でしょう……私が育てた根菜たちも、ハルオミ君の世界ではひとつひとつに呼び名があるということでしたけど、ここでは根菜はすべて『根菜』なので……」
「あのゴリっとした硬ぇやつかな?」
「あの食感の強い根菜を、はんばあぐのソースに?」
「うまそうだろ?」
「そうですかねぇ?」
「じゃあ、あのちょっと甘いけど生で食ったら青くさかったやつかな」
「その根菜は、はんばあぐの付け合わせにバターで炒めて添えているとおっしゃってましたよ」
「「…………」」
「なあ、味見係、要るよな?」
「要るでしょう。メニュー開発ですよ?」
「「…………」」
何としても「僕のとっておきのソース」を食べたい2人であった。
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