【完結】眠れぬ異界の少年、祓魔師の愛に微睡む

丑三とき

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続編その①〜初めての発情期編〜

3.ハンバーグ

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ムニルさんがお店で出しているのは「ニホン料理」といっても洋食の部類で、人気メニューはハンバーグやオムライス、エビフライ、ナポリタンなど。いわゆる日本の洋食屋さんで出るような、素朴だけど贅沢感のあるメニューを揃えた。

その中でも特に人気があるのはハンバーグ。
「ニエルド様の祝言の席で振る舞われ、各地の魔祓い師がそのあまりの美味さに唸りをあげた」などという噂が広まり、瞬く間に人気メニューに上り詰めたのだとか。

せっかくなら何度食べても飽きないようにソースの種類を選べるようにしたらどうか、という僕の提案をムニルさんは快く受けてくれたので、今日はその打ち合わせ。



厨房にて、僕は食物庫からパネースさんから貰った根菜の中からアレを取り出した。

「まずはこれをすり下ろします」

「これは……根菜?」

「はい。僕の国では、大根っていうんです」

「ダイコン…?  根菜にもそれぞれ名前がついているのですね!」

ムニルさんは目を輝かせてメモ帳にペンを走らせる。

「これを…すりおろす、と」

「そうです。早速やってみましょう」

「はい!!」

厨房のおろし金を拝借して、せっせと2人で大根をすりおろす。ムニルさんは大根をすりおろすのは初めてのようで、「根菜をすりおろすなんて…」「こんな調理法、はじめてです」と終始不思議そうにしていた。

ある程度「大根おろし」ができたので、調味料を準備する。醤油に似た調味料と、柑橘の果汁とお酢と塩。これを混ぜるとポン酢に似た調味料が出来上がるのである。

「よし。ムニルさん、ちょっと舐めてみてください」

「はい!  ………んん!  酸味があってさっぱりしていますが、コクの深さもあってたまりません!  美味しい!」

「ほんとですか?  よかった、こっちの方の口にも合うみたいで安心しました」

ほっと胸を撫で下ろし、次の工程に取り掛かる。
次はこれを試食するために、実際にハンバーグを焼き上げる。試食用に仕込んでおいたハンバーグのたねを冷凍庫から取り出すと、ムニルさんが素晴らしすぎる魔法で一瞬で解凍し、手際よく焼いて仕上げてくれた。

魔法っていいなー。
冷凍庫から出したものがすぐに冷凍前みたいに解凍できるんだもの。ムニルさんの手つきを尊敬の眼差しで眺めていると、扉の上部に開いた丸い窓から、なにやら影が動いているのが見えた。

「ん?」

そちらに目をやるとシュッと影が引っ込んだ。
見覚えのある二色の髪色が、風にふわっと舞ったのが見えた。

「仕方ないなあ」

僕は扉のほうに足を運んだ。

——ガチャッ

「イザベラ、パネースさん。何してるの?」

「「!!」」

そこには、イタズラがバレた子供のようにバツの悪そうな顔をした2人が、身をかがめて隠れようとしていた。

「いや……だってさぁ」

「すみませんハルオミ君。中庭で君とムニルさんがお話ししているのを聞いてしまって…」

「のぞいてたらなんか良い匂いもしてきたし、……なぁ?」

期待のこもっている瞳に見られちゃ断る理由が無かったし、第三者の意見も聞いてみたかったから、僕は2人を厨房の中へ招き入れた。

「どうぞ、しっかり感想聞かせてね」

「やっったあぁ!」

「ほんとですかハルオミ君? ありがとうございます!」

「ムニルさん、お客さんです」

ハンバーグを焼く手を止めてこちらを見、びっくり仰天のあまりひっくり返ってしまいそうになるムニルさん。

「イ、イザベラ殿とパネース殿!?」

「2人も試食したいらしいです」

「もももももちろんです!! 大歓迎です!  ですが…緊張しますね……」

「大丈夫ですムニルさん、お、ハンバーグ、良い焼き色ですね!  おいしそぅ…」

「恐縮です……!」

焼き上がったハンバーグをお皿に移し、その上に大根おろしをこんもりと乗っけて、自家製ポン酢をかける。

「で、仕上げに……」

細く刻んだシソのような葉っぱを上からパラっと散らす。

「完成!  これが『和風ハンバーグ』です!」

「「「わふう、ハンバーグ……!!」」」

イザベラとパネースさんとムニルさんが珍しそうに声を揃え、完成した和風ハンバーグを覗き込んだ。

「ハルオミ殿!  上のコレは香草ですよね。ハンバーグに香草が合うのですか!?」

「これは僕の世界では大葉って言うんです。日本料理では結構使われるんですけど、ここの皆さんの口に合うかな……ぜひ、食べて感想を聞かせて!!」

「ハルオミが作ったのなら何だって美味いだろ!  いただきまっす!」

「私も、いただいてよろしいですか?」

「是非是非!  パネースさんも、ムニルさんもほら。食べてみてください」

一口大に切ったハンバーグに大根おろしと大葉が乗せられ、3人の口に運ばれていく。

緊張する……

——パクっ

………

「ど……どうかな?」

………

願うように手を合わせて皆の反応を見ると、目を見開いて固まっていた。

「美味しい?  美味しく無い?  お願い、正直に言って!」

3人とも目を合わせ合いながら咀嚼して、最初にイザベラが口を開いた。

「ハルオミ………これ……うますぎんだろ!!!」

「ほっ、ほんと?  大丈夫だった?  クセとか無かった?」

「香草の風味が鼻に抜けて、このすりおろした根菜がさっぱりとお肉の後味を爽やかにしていて……これは美味しすぎますハルオミ君!  私、次の食事会のメインディッシュはこれがいいです!」

「パネースさん……よかったぁ…!  ムニルさんは?  どうですか、お口に合いますか?」

「独特の香りや酸味がバランスが良く口の中で合わさって、この"ダイコンおろし"のみずみずしさが意外や意外、お肉に合う……すごい! うまい!  うますぎます!  ハルオミ殿、私ではこんなメニュー思いつきませんでした!  ぜひともお店で取り入れさせてください!」

「もちろんです!  はぁ……、よかった…!  実はとっても緊張してたんだ。大根おろしや大葉って好き嫌いが分かれるから。ここの人たちに受け入れられるかどうか心配だった」

「これならすぐに人気メニューになりますよ! 」

感動を伝えてくれながらもどんどんハンバーグを口に運ぶ3人。あっという間にお皿は空っぽになった。

「ハルオミ、おかわり」

口の端っこにソースをつけてこちらにお皿を差し出すイザベラをパネースさんが「こら」と注意して、その様子をムニルさんが笑いながら見ている。


"この世界の住人になったんだなぁ"と、僕はことあるごとに感慨深く胸がいっぱいになるのだけど、まさに今こうしてみんなと笑い合ったり達成感や安心感を感じたりすると、その実感はより深まる。

「ふふっ、じゃあ、お昼ご飯は和風ハンバーグにしよっか。そろそろフレイヤさん達も帰ってくるしね」

僕はムニルさんに手ほどきしながら、試食用に冷凍しておいたハンバーグのたねを全て使い、これからお昼休憩に帰ってくる頼もしい魔祓い師たちと、僕たち側仕え、そしてムニルさんの計7人分の和風ハンバーグを作った。

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