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続編その①〜初めての発情期編〜
13.ウラー・エドムント②
しおりを挟むウラーさんは続けた。
「ええ。クールベ様が気色悪くてかなり面白かったです」
「クールベさん? なぜそこでクールベさん?」
「脳内で響く魔物の声に私がうなされている時です。
『なぁなぁ、今ソイツなんて言ってんの?』『どんな声? 可愛い系? 癒し系?』『ちょっと再現してみてくれ』って、頬を紅潮させながら馬鹿みたいにずーっと聞いてくるから、もうその様子が変で変で…っぶ、はははっ、思い出したらまた笑えてきました」
手を叩きお腹を抑えながら、笑が止まらない様子のウラーさん。
「わたくしが答えることを全てメモに控えており、しばらく経って彼の文献が発表された時は腹を抱えて笑いました。やっぱ研究対象だったんかい、ってね」
そんな軽く済ますようなことじゃないと思うけど……
でもウラーさんが本当に心から楽しそうだから、きっと彼の中では素敵な思い出であることに間違いは無いのだろう。
「そうやってしばらく、わたくしも彼と一緒に数年伏魔域に住みました。その際に『研究を手伝え』と医学や薬学などを叩き込まれたのです」
「そうなんだ、それで薬師に……えっ、ちょっと待って、伏魔域にずっと居たの? 襲われちゃうじゃん!」
「問題ありません。彼もあれで祓魔家の端くれ、ハルオミ殿も着用している"印章"を、わたくしも授かったのです」
ほら、といきなりズボンを下げて、細身ながらも引き締まった太ももに巻きついているオレンジ色のベルトを見せてくれた。
「ほんとだ…」
彼に羞恥心というものは無いのだろうか。豪快過ぎてむしろかっこいい。
ちなみに印章というのは、側仕えが魔祓い師から授かる御守りみたいなもの。この脚のベルトを媒介して魔祓い師の魔力を授かれば、魔物がその魔力を察知して近寄らなくなる。
彼はカチャカチャとズボンを穿き直しながら続けた。
「彼は滅多に魔物を祓わないので私は側仕えとしての役割を担うことはほとんどありませんが、この印章のおかげで魔物に襲われずに済みました」
「でも伏魔域に住んでいるのに、クールベさんは魔物を祓わなくても過ごしていけるの?」
「クールベ様の拠点の周りには彼自身が張った強力な結界がありましたので、外へ出なければほとんど遭遇することはありません」
「ナルホド……それで、お屋敷の執事にはどうしてなったの?」
僕は一番気になっていたことを聞いた。
ずっと一緒に生活する道もあったろうに、別々に過ごすのを選んだのはどうしてだろう。
彼曰く、こういうことらしい。
「おそらく、あまりにもわたくしの礼儀やマナーがなっていないと判断したのでしょう。わたくしは全て拳と口喧嘩で解決するタチでしたので。クールベ様にも何度手を出したことか」
「意外だね」
「屋敷で礼儀を覚えて来いクソガキ、とここへ放り込まれたのですが、いつしか仕事が楽しくなってきましてね。周りを蹴落と……自分が成長しているという実感を得られるのが達成感に繋がり、今に至るというわけです」
ウラーさんの持ち前の遠慮のなさや気の強さは、元来持ち合わせたものに加えクールベさんと過ごす日々の中で培ってきたものだったのか。
「じゃあさ、ウラーさんも"ヴィーホット " なの? パネースさんが祝言をあげた時も、パネース・ヴィーホットって紹介されてたから。この世界も結婚したら苗字って変わるの?」
日本だと嫁や婿に入った者が相手の苗字に合わせるけれど、ここではどのようなルールなのだろう。
気になって聞くと、ウラーさんは答えてくれた。
「わたくしはウラー・エドムントです」
「ヴィーホットじゃない」
「ええ。姓を変えるかどうかは基本的に本人同士の自由ですが、祓魔家は違います。代々受け継がれる姓を名乗る伴侶は、ムーサ様やパネース殿といった当主の伴侶だけなのです。それにわたくしは、もし仮に名乗れと言われても断固拒否します。この地の名ですよ? 古代から続く姓ですよ? 荷が重すぎて肩がへこみます」
「たしかに……」
ウラーさんの意外な一面や過去の話を聞いているとあっという間に時間が過ぎていく。
僕は時間を忘れて、さらにウラーさんに質問を続けた。
「それでそれで? クールベさんのこといつ好きになったの? いつ伴侶になったの? あ、待って。その前に恋人になったのはいつ?」
しつこい質問にも、彼はひとつずつ答えた。
「いつ好きになったのか、は分かりません。
伴侶になった時期については、屋敷へ放り込まれて6、7年ほど経った頃でしょうか。今からで言うと4年ほど前になりますが、突然伴侶になってくれと言われて、その時に自分の気持ちを自覚しました。彼しか居ない、私が愛せるのは彼だけだ、と」
「いっ、いきなりプロポーズ…! さすがクールベさん。オトナの男性って感じだね」
クールベさんの男らしさに感動し、無意識に感嘆の声が漏れた。彼らの経緯を知れて僕はひとまず満足し、話に集中しすぎていつの間にか乾いていた喉を潤そうと水を口に含んだ。
「まあ、その告白をされるまでも何度か体は重ねていたのですがね」
「ぶふっ!!」
あまりの驚愕に、水は喉を潤すことなく勢いよく口から飛び出た。
「おやおや、大丈夫ですか?」
「けほっ、けほっ、大丈夫、大丈夫……え、なに、からだ、かさっ、え?」
「ええ。セックス、してましたよ普通に」
いきなりプロポーズなんて熱い純愛だなぁ、とシミジミしていたところに爆弾をぶっ込まれて思わず咽せる。
ウラーさんは僕の背中をさすりながら布団に飛んだ水を魔法で乾かし、詳しく説明してくれた。
「クールベ様は本業が魔祓い師ではないといっても魔物を祓える能力はあるわけですし、伏魔域での研究中に魔物と出くわすこともゼロではありません。そういう時にはやはり祓うに限りますので、世の偉大な魔祓い師様同様、心身へ悪影響を受けます。まぁ、なので『私に任せなさい』ってな感じで側仕えのような役割をちょこちょこ……印章も授かっていることですしね」
「中々…男前だねウラーさん」
「それは光栄です」
お褒めの言葉は全て快く受け取るタイプのウラーさんは例に漏れず僕からの褒め言葉もすんなり受け取った。
そして目線を上にやり、何かを思い出すようにして話を続ける。
「……体を重ねている時、快楽とは違う、何かこう、胸が満たされるような感覚があったのですが、今思えばあれが愛情というものだったのでしょう。だから伴侶になってくれと言われた時も、断る理由がありませんでした」
「ほぉ……!」
それはそれで素敵!!
一瞬びっくりはしたけど、結局素敵な話だった!!
僕はパチパチと拍手を送りながら、ウラーさんの「お粗末様でした」という挨拶をもって物語は幕を閉じた。
素晴らしき語り部は「もうこんな時間…」と、お仕事に戻った。
仕事があるのに長居をさせてしまったことを反省し、時計へ目を向ける。
「もう夕方か……」
流石にお腹が減ったので、ウラーさんが持ってきてくれた食事に手を伸ばす。しっとりとした茹でパンに具が挟まったサンドイッチはこの世界でしか味わえないと思う。そういえば屋敷に来たばかりの頃もこれ食べたなあ。
僕の世界のサンドイッチと違う食感で、独特だけどかなり美味しい。
お腹を満たし、ウラーさんが持ってきてくれた本を読みながら日が暮ていく外の様子を眺めていた。
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