130 / 176
続編その②〜魔力練習編〜
1.風邪っぴき
しおりを挟む◆◆◆◆◆
「ゲホッ、ゲホッ、……ハァ、はぁ…」
ある日の夜。
心地いい夢に包まれていると急に胸がザワザワして目が覚めた。覚醒とともに隣から苦しそうな息遣いと咳が聞こえて来て、慌てて飛び起きる。
「フレイヤ、さん……?」
急いで部屋の明かりをつけて彼の顔を覗き込むと、額に汗を浮かべ苦痛に表情を歪めていた。
「フレイヤさん!? 大丈夫? どうしたの?」
今日は夜伽の日では無かったが、帰宅したフレイヤさんの表情がいつもより曇っていたので僕から誘った。しかし彼の返事はNOで、「それよりも早くこっちにおいで、一緒に眠ろう」とベットの中で抱き込まれそのまま眠りについたのだ。
「起きれる? しんどい?」
「ッ、はぁ……ハァ…ゲホっ、ゲホッ!」
「フレイヤさん、ああ、よしよし、辛そう……どうしよ……魔物退治の影響かな、それとも、風邪ひいちゃったのかな……」
彼の大きな体をさすりながら問うが、返ってくるのは辛そうな咳ばかり。呼吸も荒い。なんとかして辛さを取り除いてあげたいけど、彼の苦痛が魔物によるものなのか、それとも体調の問題かによってするべき対処が全く違う。
魔物の影響であれば性的な接触をするのが一番効果的だけど、風邪であればそれはただの負担になってしまう。
「フレイヤさん……」
体をさすって、汗を拭って、ギュッとしがみつく。
怖い。
フレイヤさんがこのままいなくなってしまいそうで怖い。彼の呪いを解いてからしばらく経ったとはいえ、いつ何が起こるかなんて誰にも分からない。呪いが再発したのか、それともまた別の悪い呪いに取り憑かれたのか。
悪いことばかり考えて、不安に押しつぶされて消えそうになる。涙が出そうになる。
「ゲホッ、ゲホッ」
だめだ、いけない。フレイヤさんこんなに苦しそうなのに弱気になってちゃだめだ。
僕が苦しい時にたくさん助けてくれたのに、今度は僕が助けなきゃ。
「誰か呼んでこないと。……クールベさん今日は居ないかな。ウラーさんは、起きてるかな」
執事や軍人の方たちは、交代制で当直をしている。もし誰かが起きてたらお医者さんを呼んでくれるかもしれない。
考えている暇はない。
頼れる人を頼らなきゃ。僕がフレイヤさんをなんとかしなきゃ。
「フレイヤさん、待っててね。すぐ誰か呼んでくるからね」
僕はもう一度彼に抱きついてから、廊下に駆け出した。
夜に廊下へ出るのは暗くて怖くて仕方なかった。とにかく走って、執事さんたちの部屋を目指した。僕の足音が聞こえたのか、誰かが驚いたように声をかけてきた。
「ハッ、ハルオミ殿!? どどどどうされたのですか!?」
「!」
慌てて駆け寄ってきてくれたのは、当直の軍人さんだ。お屋敷を巡回していたのだろう。
僕は誰かがいてくれた安心感と、状況を伝えなければという焦りでしどろもどろになりながら必死に伝えた。
「あっ、あのっ、えっと……お医者さん、フレイヤさん、お医者さんが……!」
「フレイヤ様が、どうかされたのですか」
「つ、辛そうで……お医者さん、呼んでください!」
なんとか僕の意図を汲んでくれた軍人さんは、「ハルオミ殿はお部屋に戻ってフレイヤ様についていてあげてください」と言って、急いで人を呼びにいってくれた。
フレイヤさんの背中をさすりながら待っていると、軍医のおじいちゃん先生が来て診察をしてくださった。
先生は魔法らしき光でフレイヤさんを照らした。
曰く、魔物の影響ではなく風邪とのこと。安静にしていれば治るそうなので、ひとまず解熱剤と鎮痛剤の注射を打って布団を被せた。
先生や軍人さん、そして騒ぎを聞きつけた執事さんが「私たちが見ておきましょうか」と言ってくださったが、僕はフレイヤさんについていたかったから、ありがとうございますと言ってそれぞれのお仕事に戻ってもらった。
しんどそうに息をするフレイヤさんをたくさんさすって、先生が置いていってくださった冷たいタオル(魔法で丸一日冷感が持続するらしい)でおでこを拭ったりしていると、ゆっくり彼の目が開いた。
「! フレイヤさん……!?」
あまり大きい声を出さないよう気をつけながら彼に声をかける。
「大丈夫? しんどい? 痛いとこある?」
矢継ぎ早の質問に、フレイヤさんは状況を理解したのか、ふふっと柔らかく笑った。
「こんなふうに体調を崩すのは幼少期ぶりだよ。ケホ、ケホッ……ごめんねハルオミ。ゆっくり眠れなかっただろう」
彼の声は咳をしすぎたのか少し掠れていた。
「今僕のことなんて気にしないで。もう大丈夫だよ、お医者様に注射してもらって、この冷たいタオルももらったからね。フレイヤさん、汗かいてるからお水飲んで? 起き上がれる?」
辛そうな顔を覗き込んで言うと、「そうだね、いただこう」と言って体を起こした。彼の背に手を添え、コップに入った水を差し出す。
少しずつ水がフレイヤさんの口に吸い込まれ、ゆっくり喉が上下するのを見てひとまず安堵する。
もう一度彼を寝かせ(と言っても僕にフレイヤさんの体位を変えられるほどの体力などないから、ただ見守っていただけなのだが)、布団を首元までかける。
「ありがとうハルオミ。世話をかけるね」
「こういう時くらいいっぱいお世話させて。普段は僕が助けてもらっているんだから」
「なんて頼もしいんだ。私は本当に幸せ者だ」
いつものように優しい言葉をくれる彼に安堵の息を吐いた。
「しっかり寝なきゃだめだよ。僕がずっとよしよししててあげるから」
彼の母親にでもなった気分で、自分よりも遥かに広い胸をぽんぽんと叩く。
「君が隣にいてくれるだけでこんなに落ち着くんだね。風邪などひさしぶりに引いたものだから少し不安な気分になってしまったが、ハルオミが付いてくれているだけで安心する」
「ほんと? 僕、フレイヤさんの役に立てたかなあ」
「ああ、もう君がいてくれたら百人力だ……っ、ゲホッ、はぁ……」
「っ、ごめん、っ喋らせちゃった。とにかく今は安静にね。ほら、目を瞑って」
「ありがとう」
苦痛を取り除くようにおでこをよしよし撫でる。静かに目を閉じている彼はいつもより数段幼く見えた。
25
あなたにおすすめの小説
【完結】ここで会ったが、十年目。
N2O
BL
帝国の第二皇子×不思議な力を持つ一族の長の息子(治癒術特化)
我が道を突き進む攻めに、ぶん回される受けのはなし。
(追記5/14 : お互いぶん回してますね。)
Special thanks
illustration by おのつく 様
X(旧Twitter) @__oc_t
※ご都合主義です。あしからず。
※素人作品です。ゆっくりと、温かな目でご覧ください。
※◎は視点が変わります。
2度目の異世界移転。あの時の少年がいい歳になっていて殺気立って睨んでくるんだけど。
ありま氷炎
BL
高校一年の時、道路陥没の事故に巻き込まれ、三日間記憶がない。
異世界転移した記憶はあるんだけど、夢だと思っていた。
二年後、どうやら異世界転移してしまったらしい。
しかもこれは二度目で、あれは夢ではなかったようだった。
再会した少年はすっかりいい歳になっていて、殺気立って睨んでくるんだけど。
イケメンダブルセンターとアンチ>ファンな平凡な俺
ユッキー
BL
アイドルグループ【オーバーウェルミング】は圧倒的な歌唱力の深山影月、圧倒的なパフォーマンス力の漣陽太、そして圧倒的な平凡力な俺間桐真緒の3人で結成されている。
大人気の二人と違いアンチしかいない俺だが、メンバーからもファンからも愛される日が果たしてくるのか!?
劣等アルファは最強王子から逃げられない
東
BL
リュシアン・ティレルはアルファだが、オメガのフェロモンに気持ち悪くなる欠陥品のアルファ。そのことを周囲に隠しながら生活しているため、異母弟のオメガであるライモントに手ひどい態度をとってしまい、世間からの評判は悪い。
ある日、気分の悪さに逃げ込んだ先で、ひとりの王子につかまる・・・という話です。
拾った異世界の子どもがどタイプ男子に育つなんて聞いてない。
おまめ
BL
召喚に巻き込まれ異世界から来た少年、ハルを成り行きで引き取ることになった男、ソラ。立派に親代わりを務めようとしていたのに、一緒に暮らしていくうちに少年がどタイプ男子になっちゃって困ってます。
✻✻✻
2026/01/10 『1.出会い』を分割し、後半部分を『2.引き取ります。』として公開しました。
中年冒険者、年下美青年騎士に番認定されたことで全てを告白するはめになったこと
mayo
BL
王宮騎士(24)×Cランク冒険者(36)
低ランク冒険者であるカイは18年前この世界にやって来た異邦人だ。
諸々あって、現在は雑用専門冒険者として貧乏ながら穏やかな生活を送っている。
冒険者ランクがDからCにあがり、隣国の公女様が街にやってきた日、突然現れた美青年騎士に声をかけられて、攫われた。
その後、カイを〝番〟だと主張する美青年騎士のせいで今まで何をしていたのかを文官の前で語ることを強要される。
語らなければ罪に問われると言われ、カイは渋々語ることにしたのだった、生まれてから36年間の出来事を。
【完結】気が付いたらマッチョなblゲーの主人公になっていた件
白井のわ
BL
雄っぱいが大好きな俺は、気が付いたら大好きなblゲーの主人公になっていた。
最初から好感度MAXのマッチョな攻略対象達に迫られて正直心臓がもちそうもない。
いつも俺を第一に考えてくれる幼なじみ、優しいイケオジの先生、憧れの先輩、皆とのイチャイチャハーレムエンドを目指す俺の学園生活が今始まる。
妖精です、囲われてます
うあゆ
BL
僕は妖精
森で気ままに暮らしていました。
ふと気づいたら人間に囲まれてました。
でもこの人間のそばはとても心地いいし、森に帰るタイミング見つからないなぁ、なんて思いながらダラダラ暮らしてます。
__________
妖精の前だけはドロ甘の冷徹公爵×引きこもり妖精
なんやかんやお互い幸せに暮らします。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる