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第二章:村人
16.笠
しおりを挟む日本家屋で言う縁側のような感じだろうか。広大な庭を見渡すことができる場所で心地よい風にあたり熱った体を冷ます。
まだ少し雨が降っているが、それも相まって涼しい空気を運んでくれる。
フェンリスは縁側に大きな柔らかいソファを出してくれて、そこに座らせてもらった私は全身を脱力させてもたれかかった。
「水だ」
「ありがとう、フェンリス」
冷たいグラスを受け取って、ゆっくり半分ほどを飲む。
フェンリスは地べたに胡座をかいた姿勢から片膝を立て、私に釘を刺した。
「念の為もう一度言うが、もう謝るな。俺が勝手にやったことだ」
「うん……お礼を言うのもなんだか恥ずかしいけど、でも、ありがとね」
おそらくあんなに気持ち良かったのは人生で初めてだ。立て続けに二度なんて、自分ではきっとどうすれば良いか分からなくてアタフタしただろう。強引にでも彼に鎮めてもらって良かったのだと思う。
「思いがけず体力を使ったな。もうしばらく休んだら昼飯にしよう」
「うん」
脱力感のあるふわふわした頭で庭園を眺める。雨粒が水たまりに跳ねる音や屋根を打つ低い音が、気持ちをすぅっと落ち着かせた。
「雨、いつ止むんだろうね」
「夜まで続くかもしれんな」
「そういえば、この土地の人って雨傘持ってるの? 旱が続いてたなら持ってる人少ないかな」
「必要がないからな。所持している者は居ないだろうな」
「だよねえ」
こんな小雨の日には傘をさしてお散歩するの好きだけど、無いなら仕方ないか。
「ほてりが取れたら上着を着ろ。風に当たりすぎると湯冷めする」
「ありがとう」
フェンリスは、どこからか取り出した分厚めのコートのようなものを肩にかけてくれた。
さらに私の髪をおそらく神力でしっかりと乾かし、頭の高い位置で結んでくれた。
この抜かりない気の利き方、もしかして彼は大家族のお兄ちゃんだったりするのだろうか。その前に神様に大家族とかあるんだろうか。
しばらく二人で雨を見つめて他愛もない会話をしていると、「そういえば」とフェンリスが思い出したように口を開いた。
「雨傘は無いが、角笠ならある」
「角笠?」
「ああ。円錐形の被り物だ。人間が農作業の際、日除けに被っている。俺も庭仕事の時には便利なのでいくつか拵えてある。お前の世界では地蔵が被るんだったか?」
被り物の笠…編み笠みたいなやつか。
そういえばかさじぞうの昔話、塔の中でフェンリスにしたっけ。よく覚えてるなぁ。
ていうかフェンリス庭仕事の時に笠被るんだ。
え、なにそれちょっと見てみたい。
「その笠ってどんなの?」
私の興味に彼も乗気で答えてくれて、納屋にある笠をいくつか持って来て見せてくれた。
本当にかさじぞうの笠だ……
「それ、ちょっと被ってみて?」
「今は庭仕事などせんが…」
「いいからいいから!」
「……こうか?」
「っ! 似合う! 男前に笠、ギャップがたまらないねえ」
「ぎゃっぷ…」
白髪翠目のイケメンが編笠を被っている様子はあまりにも最先端で、海外のファッションショーで出てきそうなくらい異様に様になっていた。
「まあ何でも良いが、笠が気に入ったなら幾つでもやる。好きに使え」
笠を脱ぎながら三、四枚の笠をこちらに寄越すフェンリス。
「いいの?」
「ああ」
細かい網目はきっちりと綺麗に揃っており、伝統工芸品のようだった。
「これってフェンリスが作ったの?」
「そうだ」
「すごい……こんなに綺麗に編めるなんて、これ何日かかったの?」
「これくらいなら小一時間あれば出来る」
「一時間!? すごい、プロだね」
「竹や菅は神域にも無駄に生えるからな、食えるものでは無いので有り余っている」
「材料採取からするんだ」
私の髪に塗ってくれたヘアオイルといい、神様って何でも自給自足なんだ、意外。
フェンリスってもし神様じゃなくてもどこでだって生き抜いていけそうだな。無人島に放り出されたって、半日で快適な家とか建てそう。
この笠なんてちょちょいのちょいだもんな。
あ……そうだ! いいこと思いついたかも。
「ねえフェンリス、この笠、一つ改造していい?
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