苦手な人と共に異世界に呼ばれたらしいです。……これ、大丈夫?

猪瀬

文字の大きさ
35 / 234
異世界転移

34 巡り合わせ

しおりを挟む
薬草採取のため森に来た永華達、日が暮れだした頃にシマシマベアーが異変を察知した。人の争う声と血の匂い、ひとまずナノンを大人を呼ぶことを名目に町に帰し二人はどうするかと思案する。

 といっても、答えはほぼ決まっていた。

「行こうか。当たりにしろ、そうでないにしろこのまま放置は僕らにも町にもよくない」

「だね。このまま進もう」

 警戒しつつシマシマベアーが威嚇していた方角、森の奥へと進んでいく。

 進んでいくと次第に金属同士がぶつかる甲高い音や、人の声が永華達にも聞こえてきた。それから鉄のような匂いも少しずつではあるが感じれるようになってきた。

 出血量が多いのか、僕らが近づいてきているのか……。

「いた!」

 メイド服を着た女性と獣の仮面を付けた三人と交戦していた。メイド服を着た女性の後ろには血濡れの青年が倒れていた。

 本物の命の取り合いととれる事態にとっさに隠れる。

「主従、か?貴族あたりだと仮定して、そうすると三人組は暗殺者かなにか当たりか?」

 これは僕らを呼んだもの達とは関係ないのかもしれない。

 事情がわからない今、下手に介入できない。

「貴様ら、一体誰の指示でこの蛮行に及んでいるんだ?」

「さぁ?もう死ぬんだし、知らなくてもいいだろ?」

 仮面の下からくぐもった男の声が聞こえてくる。その声は嘲笑の色が混ざっている。

「チッ!いきなり現れて攻撃したかと思えば延々と追いかけてきおって、このお方や私達が何かしたわけでもないのに……」

「何かした?存在しているのが悪いんだろう?大人しくすみっこにいりゃあこんなことにならずにすんだのにな」

「あんなこと、このお方が許容するわけないだろう!民のうえにたつものとして、この方に支えるものとして賛成できるわけがない!」

 状況はある程度把握できた。跡目争い、いや政治への方向性の違いからの衝突の結果、命を狙われたと見ていいか。

 恐らくは町とは関係ない者達だろう、巻き込まれたりするのは勘弁だが見殺しにするという選択しは……ないな。もし貴族なら、さぞいい伝となってくれるだろうし。

 これがどういう巡り合わせか、よく分からないが利用しない手はない。

 戦闘については、いささか不安がある。この前の試験時のようにマッドハット氏が見守ってくれているわけでもない。大怪我をする可能性が高い以上、戦闘はしない方がいい。働けなくなるのは痛手だ。

 となればだ、適度なところで介入してメイドと主らしき人物を引っ張って逃げる。僕の透明化があればある程度はごまかしが聞くだろう。主らしき人物を抱えてメイドの手を引っ張ればいい。戌井は……戌井はどうする?さすがに二人が限界だ。

 ……先に帰ってて貰うのがいいか。

「戌井、悪いが先に帰っててくれ。僕はあの二人を回収してくる。……戌井?おい、どう……した」

 いっこうに返ってこない返事に不信感を持ち、自分の斜め後ろでしゃがんでいる戌井の方を振り返った。

 顔色は青を通り越して白くなっており、体は細かく震え、大量の汗を流し、息も荒い。明らかに様子がおかしい。

 殺し合いも同然の光景を見て恐怖しているのだろうか。それにしてはまるでトラウマを呼び起こされた時の人間の反応、そのままだ。

 戌井が見ている先、それは血濡れで倒れ込むメイドの主であろう青年だった。生々しい戦闘の痕跡が駄目だったのだろうか。

 確かに恐怖を感じるのはわかる。僕も怖い、ただ僕はどこか画面の向こう側を見ているような感覚だった。

 何にせよ、早くこの場から離さないと、いったどうなるか分から__

「篠野部……」

 今まで戌井はずっと明るかった。それこそ活発だとか、天真爛漫だとか、陽気だとか、そういった言葉が会うような明るい人間だった。

 それが今はどうだ。震える手で服の裾をつかんで、怯えを宿した瞳で僕を見上げて、か細い声で僕を呼んだ。

 普段は僕の目を見ないのに……。

 いつもの戌井とは真逆といってもいいくらいの変化だった。

「……どうした?」

「あ、あの人、死んでるの?」

 その言葉に今一度、青年を見やる。わずかだが胸が動いているのが視認できた、つまりは虫の息に等しいが生きているということだ。

「死んでいない、胸が動いている」

 戌井は僕の言葉にあからさまに安堵した。だんだんと荒い息がもとの調子に戻ってきて、震えも少しずつだが収まってきている。

「そっか。ごめん、それでなに?」

「……先に帰れるか?」

「……ごめん、無理。帰れない」

 体が動かない、と言うわけではないんだろう。だが恐らく戌井はテコでも動かない、なぜかそう予想できた。

「……どうするか」

 青年を一人、抱えるくらいはできる。メイドの手を引いて透明になり逃げきる。どれで両手は塞がり、戌井の分はない。

 あるにはある。腕を掴むだとか、あるだろうけど少し不安が残る。

 いや、そもそも青年を抱えるの仮面も付けたもの達が許すとは思えない。メイド一人と侮っているから余裕綽々とトドメをさしていない現状、僕が飛び出せば即刻標的となり殺されてしまうだろう。

「……篠野部?」

 黙り込んだ僕を不思議に思ったのか、戌井が僕を呼んだ。少しばかり不安そうだ、ここは僕がしっかりしないと。

 一先ず、仮面のもの達の気を引かなければならない。気を引くもの……間獣?いや、そもそもどうやってここに連れてくる?

 視線をさ迷わせていると傾いた橙色の太陽が目にはいった。

 ……目眩ましは出来るが耳は潰せないか。いや、戌井に魔法を使わせれば……的に当てる必要のない魔法なら失敗することは早々なかった。それに該当する“音”から失敗することもないだろう。

 青年に防御魔法を張って、メイドの方は当人の反射神経に任せるしかないか。

「……戌井、音を発生させる魔法と音量増強の魔法は同時に使えるか?」

「使えるけど……」

「合図に会わせて発動させてくれ、そのあとメイドを引っ張ってダッシュで逃げる。行けるな?」

「うん」

「それから合図があったら目をつぶれ」

「え?うん」

 戌井の返事を聞いて、メイド達の方を見る。介入できるチャンスを見逃さないよう、目を離さない。

 後ろから詠唱が聞こえてくる。この様子なら二つの魔法の発動は間に合うだろう。

 投げられたナイフをメイドが弾いて仮面の暗殺者から距離をとる。青年との距離は十分、結構するなら今だ。

「戌井」

「うん!」

 僕らの声に気絶している青年以外が気がついたらしい僕らが見えるのは位置的にメイドだけ、何処にいると探し回る事態は僕らにとって好機だった。

 杖の先が光る。

 “目をつぶれ”と声は出さず、口だけを動かす。メイドは何が起こるか察知したのか目を固くつむった。

 訓練をした軍人やプロの犯罪者は体勢が出来ているとか聞いたことがあるが、ここは科学ではなく魔法が発展した異世界。恐らくスタングレネードに慣れているものはいない。

 目が眩むような閃光と耳をつんざく爆発音が辺り一帯に響き渡たった。

 所謂ところのスタングレネード、それを人力__
ではないが魔法で起こした。原理事態は違うが起こす現象は同じだ。

「こっち!」

 戌井がメイドの手を引いて走るのを見て、僕も青年を背負い走り出す。

「ぐぁ!!」

「なんだこれ!」

「目があ……!耳が……!」

 後ろから聞こえてくる声を聞くにスタングレネードは上手いこと効果を発揮したのだろう。回復する前に逃げてしまわないと。

「貴方達は……」

「通りすがりの魔導師見習い!」

「見てられなくて介入した」

「……恩にきります」

 もう太陽は沈みかけていて森は薄暗くなっていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

「キヅイセ。」 ~気づいたら異世界にいた。おまけに目の前にはATMがあった。異世界転移、通算一万人目の冒険者~

あめの みかな
ファンタジー
秋月レンジ。高校2年生。 彼は気づいたら異世界にいた。 その世界は、彼が元いた世界とのゲート開通から100周年を迎え、彼は通算一万人目の冒険者だった。 科学ではなく魔法が発達した、もうひとつの地球を舞台に、秋月レンジとふたりの巫女ステラ・リヴァイアサンとピノア・カーバンクルの冒険が今始まる。

最初から最強ぼっちの俺は英雄になります

総長ヒューガ
ファンタジー
いつも通りに一人ぼっちでゲームをしていた、そして疲れて寝ていたら、人々の驚きの声が聞こえた、目を開けてみるとそこにはゲームの世界だった、これから待ち受ける敵にも勝たないといけない、予想外の敵にも勝たないといけないぼっちはゲーム内の英雄になれるのか!

五十一歳、森の中で家族を作る ~異世界で始める職人ライフ~

よっしぃ
ファンタジー
【ホットランキング1位達成!皆さまのおかげです】 多くの応援、本当にありがとうございます! 職人一筋、五十一歳――現場に出て働き続けた工務店の親方・昭雄(アキオ)は、作業中の地震に巻き込まれ、目覚めたらそこは見知らぬ森の中だった。 持ち物は、現場仕事で鍛えた知恵と経験、そして人や自然を不思議と「調和」させる力だけ。 偶然助けたのは、戦火に追われた五人の子供たち。 「この子たちを見捨てられるか」――そうして始まった、ゼロからの異世界スローライフ。 草木で屋根を組み、石でかまどを作り、土器を焼く。やがて薬師のエルフや、獣人の少女、訳ありの元王女たちも仲間に加わり、アキオの暮らしは「町」と呼べるほどに広がっていく。 頼れる父であり、愛される夫であり、誰かのために動ける男―― 年齢なんて関係ない。 五十路の職人が“家族”と共に未来を切り拓く、愛と癒しの異世界共同体ファンタジー!

莫大な遺産を相続したら異世界でスローライフを楽しむ

翔千
ファンタジー
小鳥遊 紅音は働く28歳OL 十八歳の時に両親を事故で亡くし、引き取り手がなく天涯孤独に。 高校卒業後就職し、仕事に明け暮れる日々。 そんなある日、1人の弁護士が紅音の元を訪ねて来た。 要件は、紅音の母方の曾祖叔父が亡くなったと言うものだった。 曾祖叔父は若い頃に単身外国で会社を立ち上げ生涯独身を貫いき、血縁者が紅音だけだと知り、曾祖叔父の遺産を一部を紅音に譲ると遺言を遺した。 その額なんと、50億円。 あまりの巨額に驚くがなんとか手続きを終える事が出来たが、巨額な遺産の事を何処からか聞きつけ、金の無心に来る輩が次々に紅音の元を訪れ、疲弊した紅音は、誰も知らない土地で一人暮らしをすると決意。 だが、引っ越しを決めた直後、突然、異世界に召喚されてしまった。 だが、持っていた遺産はそのまま異世界でも使えたので、遺産を使って、スローライフを楽しむことにしました。

異世界に転移したら、孤児院でごはん係になりました

雪月夜狐
ファンタジー
ある日突然、異世界に転移してしまったユウ。 気がつけば、そこは辺境にある小さな孤児院だった。 剣も魔法も使えないユウにできるのは、 子供たちのごはんを作り、洗濯をして、寝かしつけをすることだけ。 ……のはずが、なぜか料理や家事といった 日常のことだけが、やたらとうまくいく。 無口な男の子、甘えん坊の女の子、元気いっぱいな年長組。 個性豊かな子供たちに囲まれて、 ユウは孤児院の「ごはん係」として、毎日を過ごしていく。 やがて、かつてこの孤児院で育った冒険者や商人たちも顔を出し、 孤児院は少しずつ、人が集まる場所になっていく。 戦わない、争わない。 ただ、ごはんを作って、今日をちゃんと暮らすだけ。 ほんわか天然な世話係と子供たちの日常を描く、 やさしい異世界孤児院ファンタジー。

スキルはコピーして上書き最強でいいですか~改造初級魔法で便利に異世界ライフ~

深田くれと
ファンタジー
【文庫版2が4月8日に発売されます! ありがとうございます!】 異世界に飛ばされたものの、何の能力も得られなかった青年サナト。街で清掃係として働くかたわら、雑魚モンスターを狩る日々が続いていた。しかしある日、突然仕事を首になり、生きる糧を失ってしまう――。 そこで、サナトの人生を変える大事件が発生する!途方に暮れて挑んだダンジョンにて、ダンジョンを支配するドラゴンと遭遇し、自らを破壊するよう頼まれたのだ。その願いを聞きつつも、ダンジョンの後継者にはならず、能力だけを受け継いだサナト。新たな力――ダンジョンコアとともに、スキルを駆使して異世界で成り上がる!

大学生活を謳歌しようとしたら、女神の勝手で異世界に転送させられたので、復讐したいと思います

町島航太
ファンタジー
2022年2月20日。日本に住む善良な青年である泉幸助は大学合格と同時期に末期癌だという事が判明し、短い人生に幕を下ろした。死後、愛の女神アモーラに見初められた幸助は魔族と人間が争っている魔法の世界へと転生させられる事になる。命令が嫌いな幸助は使命そっちのけで魔法の世界を生きていたが、ひょんな事から自分の死因である末期癌はアモーラによるものであり、魔族討伐はアモーラの私情だという事が判明。自ら手を下すのは面倒だからという理由で夢のキャンパスライフを失った幸助はアモーラへの復讐を誓うのだった。

間違い召喚! 追い出されたけど上位互換スキルでらくらく生活

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕は20歳独身、名は小日向 連(こひなた れん)うだつの上がらないダメ男だ ひょんなことから異世界に召喚されてしまいました。 間違いで召喚された為にステータスは最初見えない状態だったけどネットのネタバレ防止のように背景をぼかせば見えるようになりました。 多分不具合だとおもう。 召喚した女と王様っぽいのは何も持っていないと言って僕をポイ捨て、なんて世界だ。それも元の世界には戻せないらしい、というか戻さないみたいだ。 そんな僕はこの世界で苦労すると思ったら大間違い、王シリーズのスキルでウハウハ、製作で人助け生活していきます ◇ 四巻が販売されました! 今日から四巻の範囲がレンタルとなります 書籍化に伴い一部ウェブ版と違う箇所がございます 追加場面もあります よろしくお願いします! 一応191話で終わりとなります 最後まで見ていただきありがとうございました コミカライズもスタートしています 毎月最初の金曜日に更新です お楽しみください!

処理中です...