苦手な人と共に異世界に呼ばれたらしいです。……これ、大丈夫?

猪瀬

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メルリス魔法学校

66 ついてきてる……?

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テストが終われば休日を挟んで通常授業に戻る。

 魔法学校も、わりと私達の通っていた高校と変わらない。

 今、受けている授業はザベル先生が担当する魔法史だ。

 ザベル先生の話を聞きながら永華はふと思う。

 何か平和だなあ、と。

 行きなり異世界に呼ばれて、事故とは言え熊に襲われて、運良く優しい人にあって衣食住と職がなんとかなって、魔法を学べることになって、チンピラに絡まれていた騎士を助けたらいきなり試験になったり、資金集めに奔走していたり、森に薬草採取に行ったときに血塗れの人を二人拾ったり、そのうち一人が記憶喪失だったり、魔法学校の試験で黒いドラゴンが出てきたり……。

 ……私たちトラブルに巻き込まれすぎじゃない?

 一年でこれだよ?異世界から来た人間の定め?嫌だよ。そんな定め。

 試験でトラブルがあったとはいえ、今のところの学校生活は平和……平和……。

 ……入学してからいくらかたった頃に食堂でトラブルがあって、あの良くわからない薬も出てきたっぽいいんだよね。

 そういえば、あれって結局同じ薬だったんだろうか。あれから、ほぼ一ヶ月がたっているし結果は出ていたっておかしくないよね。

 授業終わりに聞くか。

「魔方陣ができたのが魔力が少なく、魔法をそう簡単に扱えないものでも魔法が扱えるようにするためです」

 今は絶賛、比較的私の得意分野である魔方陣についてやってます。

「とわいえ魔方陣は書く必要があるためものによっては詠唱するよりも時間がかかることもあり魔導師の大半が魔方陣を使うことはありませんし、使うと考えるものも少ないです」

 ザベル先生が一瞬、私を見た。

 まあ、魔方陣を積極的に使う稀有な魔導師ですものね。

 時間は過ぎていき授業が終わる。

「行くぞ、篠野部」

「え?ちょっ……!どこに……」

 私は本を読もうとしてる篠野部を捕まえて教室から出ていったザベル先生のあとを追いかける。

「ザベル先生~」

「授業についての質問なら僕いなくても良いだろ……」

「いや、食堂の時の薬、なんにも聞いてないなと思って」

「……あれか」

 すこし先にいたザベルが永華の声に反応して足を止めて振り返る。

 永華はカルタをひっぱりつつ小走りでザベルのもとに行く。

「どうかしましたか?」

「聞きたいことがあるんです」

「聞きたいこと?授業の内容についてですか?」

「あ、ちがうんです。入学して少したった頃に食堂でトラブルがあったでしょう?あの時の瓶についてなにかわかっていませんか?」

「あれですか。ちょうど昨日に結果が届いたところですよ」

 ザベルはまわりを見渡すし、生徒や教員がちらほらと見えるこの場で話すのは良くないだろうと判断した。

「場所を変えましょう。余計な混乱は避けたいですから、こちらに」

「はーい」

「はい」

 ザベルは地図をとりだし学校のなかを進んでいく。右に左、また右にとジグザクに進んでいくと段々と人が少なくなってくる。

 たどりついたのはアルファベットと数字が書かれた釣り看板が風に揺られている学校の外側に面した廊下だった。

「ここならいいでしょう」

「廊下のど真ん中ですけど大丈夫なんですか?」

「大丈夫だとは思いますが、念のため防音魔法も張っておきましょうか。“静かになれ”」

 杖を振るうと防御魔法とに通った、色のちがう半透明の半球型の壁が出現した。

「これでいいですね。なぜここを、といいたげな顔ですね。入学した日に行った通り、この学校は長い間増改築を繰り返したために迷路のようになっています。そのため私達教師や教員は“教職員を含めて人の立ち入りがあまりない場所”を把握しているんです。何かあっては困りますからね」

「その“人が立ち入りがあまりない場所”がここなんですか?」

「えぇ、そうです」

 確かに、さっきまで聞こえていた生徒達の賑やかな声が大分遠く感じるし、周囲に人の気配は感じられない。

「それで、あの薬なのですが君たちの知っているものと同じといっていいでしょう。細かいところがいくつか違うようですが、恐らくは人間用に改良したからではないかという話です」

 人間用に改良……。

 あの森でシマシマベアーさんが薬を打たれたのは動物実験のためだったのだろうか。

「でも、なんでそれが魔法学校に……?」

「それは不明です。あの日、食堂にいたもの全員を特定することはできませんから犯人も同じく不明……。我々教員も気を付けておきますが貴方達も何かあれば報告を」

「はい」

「わかりました」

 確かにあれだけの人数がいれば特定もできないか。

 でも瓶を落としたの、何となくわざとじゃない気がする……。何となく、あのシスコンの発言が原因なきが……。

「それから薬を飲んでしまった生徒、ビーグル・ナリューラくんですが後遺症等が見られなかったため近いうちに学校に復帰します」

 ナリューラ……あのシスコンの先輩か。病院にかつぎ込まれたとは聞いてたけど、まだ退院してなかったんだ。

「あ、良かった。特になにもないんですね?」

いや、よくよく考えればそれも変な話ではないか。わかってないことの方が多い薬を飲んでしまったんだし、これでも短い方なんじゃないかな。

「えぇ、薬に依存しているようすもありませんでした。ですが当分は身元がはっきりとしている教職員の監視がつくでしょうけどね」

「妥当でしょう。二度目がないとも限らない」

 無差別っぽい気がしたから二度目はない気がするけど、どうなんだろう……。
 
「あぁ、そうです。そこに看板がぶら下がっているでしょう?あれは地図にも書いてあるもので、迷子防止のためのものなんです」

 看板を見上げて地図を見る。確かに地図にも同じ様にアルファベットと数字がふられていた。

「あれを参考にして迷わないようにしてくださいね。それでは送っていきますから、教室行きますよ」

 先生に先導されて、またジグザグと学内を進んでいく。

 生徒の通りが多いところに送られ、さっきの道のりを思い出すが何度も曲がっていたからか上手いこと頭の中で組み立てられない。

 まぁ、地図はあるから道順は気にしなくていいだろう。必要なところは嫌でも覚える。

 にしてもやっぱり同じ薬だったのか。

 シマシマベアーさんに打たれていたものを見つけたのが一年前、場所は私達の目が覚めた森の中。

 そして今度は入学して間もない頃、私達の目の前。

 ……。

「……私達について来てるとかないよね?」

「……恐ろしいことを言うな。どうせ偶然だ」

「なんでそう思うのさ」

「まず一つ、僕らを呼んでいるのにあの状態にするなんて使ったものをゴミ箱に投げてるようなものだ。第二、一年の間薬関連でなにもなかったこと、不都合があれば目撃者を消すだろう。第三、薬の制作者が僕らを追いかけてなんの特になる?特になるンだったらすでに行動を起こしててもおかしくないだろう。それに遭遇したのだって二回だけ、これ以上続くのなら……まぁ、考えなくもないが」

 確かに一年間音沙汰がなかったし、あの薬を見たのだってたったの二回だし狙われたのは知り合いでもなんでもない赤の他人だ。

「だが、学校側が公にせず通常通りに生活するように行ったのは驚いたな」

「魔法薬学の実技で薬かぶって……なんて事故はわりとあるらしいし、表向きはそれで片付けたみたいだよね。なんで公にしないんだろ?」

「余計な混乱を避けるためだろう。水面下で罠でも張って待ってるんじゃないのか?」

「それなら早く引っ掛かるといいんだけどね……」

 シスコン発言に驚いて瓶を落とすような犯人だし、もしかしたら簡単に捕まってくれるかもしてない。

 でも、なんというか。まだ何か起こる気がするんだよねえ……。
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