苦手な人と共に異世界に呼ばれたらしいです。……これ、大丈夫?

猪瀬

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蛇令嬢

73 情報提供者

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たまたま遭遇したビーグル先輩と共に目的地に向かう。道中は最近の学校のことや先輩がいなかった間に特になにかないかとお話していた。

「ここだな。知り合いと待ち合わせか?」

「呼び出しですね。知り合いからの置き手紙があったので」

 話していれると、すぐに目的地のついた。

 ついたのは人通りのある廊下にある古い空き教室だった。

「おま、置き手紙で呼び出されてホイホイ出てきたのか……。危機感死んでんじゃねえの?」

「え、唐突に罵倒された……」

「闇討ちだったらどうするんだよ?怖えなあ……」

「すぐに闇討ちとか出てくる先輩もなかなか怖いと思います」

「話しそらすなコラ」

 確かにちょっと迂闊だったかもしれない。知り合いの名前が書かれた呼び出しの紙がいつの間にか机の中にあるなんて罠を疑うべきだったかも……。

 ……まぁ、何かあればぶん殴っちゃえばいいか。

「今物騒なこと考えなかったか?」

「気のせいでは?」

「……まぁ、いいわ。入るぞ」

「え、一緒に来るんですか?」

「闇討ちだったらと思うと一人で行かせられねえわ」

 この先輩、面倒見がいいな。

 感心しているとビーグル先輩が躊躇なく、扉を開いた。

 中にいたのは私を呼び出した張本人。使われていない机に腰を掛けて難しそうな本を片手に持っているナーズビア・フィーリーだ。

「あ!来たん……なんでいるんだよ」

 ナーズビアは扉が開いた音に気がつくと本を机の上において振り向くが、視線の先にいるのが私ではなくビーグル先輩であると気がつくと綺麗な顔をしかめっ面にして毒をはいた。

 そういえばビーグル先輩がもめてた相手ってナーズビアだったな……。

 食堂で暴れてたシスコンって印象が強すぎて被害者がナーズビアであることを完全に忘れてしまっていた。

「私もいるよ~」

「永華!」

 声をかけるとすぐにしかめっ面を引っ込めて、いつもの明るい表情に戻った。

「仕方ねえことだが対応の差が激しいな……」

「当たり前だろ」

 ビーグル先輩には変わらずしかめっ面だ。

 う~ん、一方的だけど険悪ムード。

「で、なんでこのシスコンいるの?」

「あ、はは……途中であってね」

「シスコンじゃねえよ。ビーグル・ナリューラだ。はぁ……こいつが狙われてるってのに一人であるいってからついてきたんだよ。別れた後に襲われちゃあめ様が悪ぃからな」

「危機感無くしてない?大丈夫?」

「それ、さっきもビーグル先輩にいわれたな~。言われて自覚したよ」

「呑気だな……」

 う~ん、二人揃ってあきれられてしまった。自業自得ではあるから文句はでないんだけどさ。

「はぁ、置き手紙で呼び出すんじゃなくて教室まで迎えに行けばよかった」

「その方がよかったな。で、呼び出した本人なんだな?」

「はい。私を呼んだのはナーズビアですよ」

「ならいいわ……」

 ビーグル先輩はナーズビアをじっと見つめて黙り込む。

「この間はすまなかった」

「……」

 先輩は私の時と同じように頭を下げた。

 その先輩の様子をナーズビアはじっと見つめて、なにも言おうとしない。

「妹との縁談断ったのはに腹が立ってたのは事実だし、文句言うだけでとどめようと……。いや、言い訳にしかならねえな」

「はぁ……。頭を上げろ」

「ん……」

 ため息をはいたナーズビアが呆れとも怒りともとれる表情で先輩に顔を上げるように言った。先輩は何を言うでもなく、大人しく顔を上げる。

「先生から聞いた、魔法薬の事故らしいな」

「あぁ……」

 表向きは事故になっているって聞いていたけどナーズビアにも知らせられていないのか。その反面、“盛られた”と言う言葉から察するにビーグル先輩には少なくとも盛られたと言う事実は知らされている、と。

「素面であれなら、それこそ殴ってやろうと思ってたけど事故で薬品かぶってアレなんだったら別に怒りもしない。素直に謝ってくれたんだし、もういいよ」

「そうか」

「昼御飯食べそびれたのは不服だけどね」

 食べ物の恨みは怖いな。

「……今度、購買でなんかおごってやるよ」

「じゃあ、一番高いやつにしようっと」

「…………まぁ、一回言ったことだし撤回はしねえよ」

 ナーズビアはさっきまでのしかめっ面から一変して笑顔になっていた。

 一番高いやつ選ぼうとしている辺り、ナーズビアも良い性格している。

「じゃあ、俺ぁ帰るわ。帰りは送ってやれよ」

「わかってる~。てか、帰らないでよ」

「あ?なんでだよ」

「自分が知らなくてシスコンが知ってること、あるかもしれないだろ?」

「いやだからビーグルだって……」

 あっけらかんと良い放つ。シスコン呼びは定着してしまったらしい。ビーグル先輩はあきれた表情で訂正した。

「まぁ?自分の情報収集能力が劣ってるとは思わないけどね」

「俺、いるか?」

「だからいるって!保険!」

「そうかよ。チッ、しゃーねえ」

 先輩はそういうと杖をとりだし、詠唱を始めた。これは、恐らくは人避けの魔法だろう。

「ん、できた。これで邪魔も入るこたぁねえだろ」

「人避け?ありがと。はぁ、来るのは君だけだと思っていたからビックリしたよ」

「あ~、ごめんね?」

「いいよ。わざとじゃないみたいだし」

 まるで小さい子供相手にしているような、仕方がないとでもいいたげに肩をすくめて言う。

「それで、私を呼んだ理由ってなに?」

「あぁ、それね。君、というか君たち平民と貴族で仲良くしてたところを貴族至上主義とかいうめんどくさいのに絡まれてたじゃん?」

「そうだね?」

「絡んでた相手のこと教えてあげようと思って呼んだんだ」

「んえ?いいの?」

 まさかのところで情報がやってきた。

「いいよ。君のこと気に入ってるし、何かあって退学なんてされたら困るもん」

 ワンチャン退学あり得るの……?

 不意に出てきた言葉に言葉がでなかった。

「本当に仕方のないこととは言え、態度が違いすぎる……。というか、なんで懐かれてんの?」

「……さぁ?」

 “気に入ってる”って、やっぱり懐かれてるな。なんで懐かれているのか、その理由がわからなのが少し引っ掛かるが……今は一旦おいておこう。今話すことでもないし。

「それで、カリヤ・ベイベルツについてなんだけどさ。なんか最近“おかしい”らしいんだよ」

「“おかしい”?……そういえば、中庭であったときに何か変だったような……」

「心当たりある感じ?まぁ、話を続けるとカリヤ・ベイベルツは元々貴族と平民が一緒にいようがどうでもいいって感じで、自分は平民とか変わらないってスタンスだったんだ。君たちにしたみたいに絡むなんてことはしなかった。だろう?」

「そうだな。去年のカリヤはそんなんじゃなかったし、俺が入院する前も絡むこともなかった」

 でも先生は常習犯と言っていたけど……。

「疑問がある感じ?」

「うん、先生は常習犯って言ってたから」

「それね。テスト明けから直ぐに何度も繰り返してるからだよ。短時間に何度も繰り返して、先生を呼ばれて、それの繰り返し」

 テスト明けってことは大体、十日ってところ?十日で常習犯扱いされるって、いったいどれだけ絡んだらそうなるんだ。

「でも、永華達に絡むまでは話すだけで、そこまで執着はしなかった。一回話したらあっさり次に行く感じ」

「あ?お前らなにやった?」

「え、いや。なにも言ってないと思うけど……強いて言うならララが頼まれたことを断った、くらいかな?騎士に会おうとしてたんだよ」

 ララを仲介に騎士に会おうとしていた。それを断ってから様子がおかしくなったように思うし、これくらしか心当たりがない。

「騎士?」

「ヘラクレス・アリス。ララの兄」

「う~ん、ヘラクレス・アリスってなると……地位とか相手の貴族の権力とかが目的なのかな?」

「あいつん家よか、ヘラクレスんところの方が地位は高いし変な話ではねえな」

 でも、何か違う気がするんだよね。直接の交渉も手紙も断ってたし、お見合いの申し込みなら家を通してやるもんじゃないの?

 一度断られたから、ララに頼みに来た?

「わかんないな……」

「まあ、わかんないなら一旦置いといて他の事を話そっか」
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