苦手な人と共に異世界に呼ばれたらしいです。……これ、大丈夫?

猪瀬

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蛇令嬢

74 理由は?

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「カリヤ・ベイベルツが何で貴族と平民が仲良くしてるところに、ちょっかいをかけ出したのか。それは不明瞭だね」

 ナーズビアがバッサリと言いきった。

「不明なの?」

「んだよ。知らねえのか」

「シスコン、うるさい」

「だからビーグルだって……」

 マジでシスコン呼びが定着してる……。

「はぁ、一応はそれっぽい話はいくつか聞いたけど、どれが原因か確定できないの。テスト明けかテスト中に何かあったと思った自分は色々と探ってみたわけ、それでいくつか話が出てきたんだ」

 複数……。そりゃ不明瞭だって言うわけだ。

「まず一つ、隠居してる祖母の考え方の影響している可能性、祖母は過激派らしい。でもカリヤ・ベイベルツの両親は健在だし、親子間で喧嘩やトラブルがあったって言う噂は聞いてないし端から見たら家族仲は良好。育ての親が祖母って訳でもない。二人とも一年くらい前のカリヤ・ベイベルツと同じタイプ」

 ナーズビアが指を一つ立てる。

「二つ目、テスト明けすぐに構成メンバーが全員平民の冒険者グループに絡まれていたらしい、幸いにも近くに使用人がいて事なきを得たらしいけど凄い泣いてたんだと。あぁ、でもちょっと怪我してたらしいね」

 指が二本に増える。

「三つ目、旅人だった彼女の二番目の兄と連絡が取れないらしい。でもこれはよくあることで今回だっていつもと同じだろうって親も特に気にしていないらしいね」

 指が三本。

「四つ目、どこかに出していたらしい手紙をテスト明けから出していない。宛名は同じだけど送る先はバラバラだね」

 四本。

「この自分が集めた情報で原因になり得そうなのが、この四つだね」

 隠居してる祖母の影響というのは考えにくい気がする。人の考え方がいきなり変わりなんて早々ないことだし、どちらかと言えば残り三つが関係していそうだな。

 でも、ただ絡まれたからって平民に辺りが強くなるのかな?いや、怪我していたって話だしな……。

 お兄さんの方に関しては、いつものことらしいからあんまり関係無さそうかな。

 手紙は……送る相手次第ってところかな。その相手に何かあったとしたら、まぁ変わりようにも納得は行く。

「どれもこれもそろって微妙だな。何かあったから変わったって言う訳じゃねえのか?」

「どーだか、人の考え方が変わるなんてよほどのことがない限り早々ないと思いますけどね」

 ナーズビアが調べてくれた令嬢に起こったことはぉれも、それほどの事とは思えない。考え方も感じかたも人それぞれだから、これって言えないけど。

 まあ、正直変わってしまった理由は気になるけど私たちに関係ないと言えば関係のないことだ。

「そういえば、あの令嬢って“風魔法の天才”って呼ばれてなかったっけ?」

「あぁ、そうだよ。永華と同じぐらいの歳に無詠唱の風魔法が使えるようになってる、逆を言えば無詠唱で使えるのは風魔法だけ。自己魔法も使えないから戦うのなら風魔法に気を付けるべきだ」

「戦うって……まぁ、私たちも想定はしてるけどあるの?」

 そういえば先生も奇襲をしかけられるかも、的なことを言っていたような……。

「ん~、何か言われたりした?」

「“私にも考えがある”って」

「なら、ありうるね。決闘するさい、双方の同意があれば賭けのようなことができるんだ。それを使って押し通そうとする可能性もある。なにより、この学校じゃ権力による圧力という手段は取れないから自然と実力行使になるんだ。色々と強いからね、先生も校長も」

「決闘ねえ。双方の同意があれば、でしょ?私らが拒否すればすむ話じゃん?」

「誰か人質に取られたらどうするんだよ?」

「あ~……」

 それなら決闘するだろうな。相手が無関係なものでも正義感の強いミューやベイノット、ローレス辺りは確実に乗ってしまうだろう。

 私たちの中の誰かが捕まるってなると他のメンツだって乗ってきそうだ。篠野部は……たぶん乗るかな?それかバッサリ断りそうだな。

 あいつの行動だけは全くもって想像がつかない……。篠野部のやつ、私が人質にされたらどんな反応するんだろうね?

「まぁ、誰かしらは乗っかりそうだなと思います。はい」

「だろうな」

 私の言うことは予想できていたらしい先輩は呆れが見える表情で私のことを見る。

「そもそも永華がすでにお人好し気味だもんね」

「一番最初に決闘に乗っかりそうだよな」

「わかる」

 一方的とはいえさっきまでのバチバチしててたのに急に意見が一致するじゃん。

「絶対貶してるでしょ。馬鹿か何かとお思いで?私だってホイホイ誘いに乗らないし」

「ここまで一人で来ようとしてたのに?」

「置き手紙が本当にこいつかどうか確定してないのに単身で乗り込もうとしてたのに?」

「あ、ごめんなさい。私が悪かったです」

 心底不思議とだめだこいつを混ぜたような表情をされ、正論で言い返されて直ぐに謝ってしまった。

「わかればいいよ」

「おう」

 今日やらかしすぎてまともに反論できる気がしない……。

「話戻してカリヤ・ベイベルツは無詠唱の風魔法を扱う、突風が吹いたと思ったら身体中が切り刻まれてるとか決闘相手によくあることらしいから戦うことになったら風に気を付けてね」

「こっわ、末恐ろしいな令嬢」

「うへぇ……」

 というか風に気を付けって、どうやって気を付けてばいいの?風向き?風向きなの?

 ……一先ず、風が吹いてきたら防御魔法はる方向で行こうかな。あぁ、それだとどっちの魔力が早くなくなるかの持久戦になりそうだな。

「知ってるのに、その反応なの?カリヤ・ベイベルツと幼馴染みのシスコンさん?」

「うえ!?」

 なん、え!?あ、だからナーズビアが引き留めたのか!あ、そういうこと……。

「気持ち悪いぐらい知ってるな」

「気持ち悪いは余計だ」

「先輩、あの令嬢と幼馴染みだったんすか!?」

「一応な、俺はじゃなくて俺の妹と幼馴染みって方がしっくり来るけどよ」

 令嬢とビーグル先輩の妹が仲良くて、そのかねあいで先輩も幼馴染みなのか。今になってナーズビアがビーグル先輩を引き留めた理由もわかったし、少し不思議の思ってた一年前の令嬢の様子を知ってた理由も幼馴染みだからか……。

「妹とは大分仲がよかったが、俺とは人見知り程度だったと思うぜ」

「先輩とは人見知り程度だとして、なんで私たちの邪魔しないんです?先輩、妹の大事な人ってなると、その人の不利益になる真似とかしなさそうなのに」

 本当にこれが不思議だ。

 私だって先輩ほどではないが兄弟達の子とをとても大切に思っている。私の行動で、あの子達に不利益をかぶってほしくないから自分の行動にはある程度気を付けているのだ。

 それを先輩がしないとは思えない。

「……確かに俺の行動のせいで妹や、その友人が不利益を被るなんざ真っ平ごめんだ。だがな、カリヤのやつはよりにもよって、俺の妹を泣かせやがったんだ」

 ビーグル先輩の顔が怒りによって歪む。

「詳しい理由は知らねえよ。ただ、アイツがおかしくなりだした頃に来た手紙にもう遊べねえつってかいてたらしい、それ以来会おうともしねえ。妹はなにか悪いことをしたんじゃないかって、泣いてんだよ」

「……」

「だから、だからお前らを利用してカリヤのやつがなに考えてこんなことしやがったか吐かせようと思ってな」

「……シスコン、お前かっこいいな」

 ナーズビアが“見直したぞ”と続けて言う。

 正直、私もかっこいいって思ったし、こんな感じのお兄ちゃんほしかったなと一瞬思ってしまった。

「いやだからビーグル……。もういいわ……」

 あ、先輩呼び方の訂正諦めちゃった……。

「先輩が邪魔しないで素直にここにいてくれる理由がわかりました。もしうまくいったら妹さんに送った手紙の真意を聞き出しておきますね」

「そんときはなるべく俺を呼べ、身内の問題だからな」

「勿論」

 もともと吹っ掛けられれば勝つ予定だったけど、尚更負けられなくなったな。

「勝つ気満々なのはいいけど、気を付けなよ」

「わかってるよ。風魔法のことや他の情報も共有しておくって」

「……一応、耳にいれておこうか」

「ん?」

 ナーズビアが少し言いずらそうにしている。ナーズビアの表情や雰囲気で何を言おうとしているのか察したビーグル先輩はしかめっ面になってしまった。

「カリヤ・ベイベルツがおかしくなりだして、ほどなくして流れ出した噂があるんだ」

「噂?」

「うん、噂。その様子だとやっぱり知らないか……。その噂の内容がカリヤ・ベイベルツが獣憑きになったんじゃないかって話し」

 獣憑きって、日本にもある妖怪的な感じの、動物の幽霊や妖怪が取り憑いて……って話しだよね?この世界にもあるの?

「獣憑き、知ってる?」

「えっと、何となく?」

「説明しといてやれば?」

「そうだね。じゃあ、獣憑きについて、教えて上げる」

 私の認識であってるといいんだけど……。

「獣憑きは文字通り獣の幽霊などが取り憑いた状態の人を指す言葉だよ。獣憑きの特徴は直情的になる、特定のものに固執する、魔力が大幅に増す、攻撃的になる、他にもあるけどわかりやすいのはこんなのかな?獣憑きは身近に動物の死後、近くの人に取り憑くんだ」

「特徴……少しだけ、当てはまるね」

 魔力の変動はいざ知らず、貴族と平民の関係に固執していること。

 ララとのやり取りの間にわりと直ぐにイライラして、直情的になっていたこと。

 “考えがある”といって睨み付けていった攻撃的な部分……でいいのかな。

「魔力は増えてねえから違うと思いたいがな」

「でも、可能性はあるし要警戒だよ」

「わぁってるよ」

 二人とも令嬢が獣憑きである可能性は低いと考えているみたいだね。

「獣憑きの何がヤバイって、取り憑いてる相手の生気を吸っていくことや、体が獣に近づいていくと人に戻れなくなること、獣言葉がわかるようになること、狂暴性ゆえの攻撃力の増加……。単純にパワーが増すんだ。あと引き剥がすのが危険、当然抵抗するから実力差がそれなりにないと死にかねない」

「なるほど、獣っぽくなるうえに引き離すのにも危険が伴うと……」

 二人が渋い顔になるのも納得だ。

 聞く限りは私の知識と相違ないきがする。

 獣憑きかもしれないと言う噂が立ったのは、その変わりようが原因なんだろう。

「渡せる情報はこれくらいかな?カリヤ・ベイベルツはとくに獲物とか使わなかったし」

「十分十分」

「そう?また何かあったら呼び出__教室までいくね?」

 ナーズビアが途中で言葉を止めてなにかを言おうとするのが結局は別の言葉を続けた。私の視界に入らない位置でビーグル先輩が首を横にふっていることのが見て、今日この教室に来るまでのことを思い返したがゆえの言葉だ。

 このあと、情報は出きったことや追加情報がないことや時間がないことを考え解散するでなくビーグル先輩とナーズビアに両脇を固められながら皆のもとに帰ることになった。
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