苦手な人と共に異世界に呼ばれたらしいです。……これ、大丈夫?

猪瀬

文字の大きさ
99 / 234
恐るべき執着心

98 案内猫

しおりを挟む
カルタ視点

戌井が買い物をしてくると行って出ていってから一時間近くがたった。

 すぐに帰ると言ったこと、実際戌井の目的の店からメルリス魔法学校はそこまで遠くないこと、それを考えると遅い。

 ファーレンテインは心配になったらしく、図書室で本を読んでいた僕のところにやってきた。

「戌井が帰ってこない?」

「そうなんですの」

 別に戌井は用事でもないんだし、たかだか帰りが遅くなった程度でなんでそんなに騒ぎ立てているんだか……。

「どうせ手芸屋に入り浸っているんだろう。それか猫にかまっていて時間に気がついていないかだ」

 どっちもよくあること、日常茶飯事だ。

「う~ん、そうなんでしょうか?なんか胸騒ぎがしますの」

 ファーレンテインの言葉を聞いて何か嫌なものを覚える。

 人魚も獣人も、自然界を生き抜く動物が原種のようなものだ。それに加え、人魚は弱肉強食の世界を生き残る屈強な種族と言っても過言ではない。

 経験則なのか、それとも動物部分の本能なのか。ファーレンテインやミューの予感はよく当たっていた。

 あとは不思議なことに戌井とアルマックの勘も割りと当たる。

 純人間のレイスや僕、ホビットと人のハーフであるアスクスの勘なんて他に比べれば当たらないにも等しいだろう。

「胸騒ぎ、か」

 よく勘を当てるファーレンテインがそう言った。後ろでレイも頷いている。

 なんだか、僕もだんだん不安になってきた。

 換気のために開けられている窓から外を見る。

 曇り空、雪や雨でも降りかねない空模様だ。

 どうしようか……。

 ……確か、戌井の奴は傘持ってなかったはずだ。

「あと少しして帰ってこなければ探しに行けばいい。流石に天気が悪くなってきたなら気がつくだろうからな」

「それもそうですわね。……なんかずぶ濡れになって帰ってきそうですし、用意をして待ってい待っておくとしますわ」

 ファーレンテインの胸騒ぎは気になるが、そう過保護にあることもあるまい。

 どこかで寄り道をしているだけで、そのうちヒョコっと戻ってくるに__

「にゃ~」

 開いていた窓から、猫がスルリと入ってきた。

「あら、猫ちゃん?」

 猫は窓辺で立ち止まると、また「にゃ~」と鳴いた。

 じっと見つめていると窓辺から机の上に移動し、僕の制服の裾を噛んだと思ったらグイグイを引っ張ってきた。

 野良、だろうか?それにしてはずいぶんと人懐っこいな。

「あら、懐かれていますのね」

「いや、初対面なんだが……」

 別に動物に好かれる方でもないし、エサを与えた覚えもない。猫の好く撫で方とか、そう言ったものも一つも知らない。

 そう言うのを知っているのは戌井の方だし、猫に好かれてるのも戌井だ。

 猫、猫……?そういえば、こっちに来て一年もしないうちに猫に案内されて戌井を見つける、なんてことあったな。

「……いや、まさかな」

 あんなファンタジー小説みたいなこと……。

「……」

 そういえば、この世界って魔法や妖精の概念あったな。

 いまだ服の裾を引っ張ってくる猫を見る。

 一向に離そうとしないし、どうにも遊んで欲しいわけではなさそうだ。

 仮に、あの時のように戌井の元に連れていきたがっているのだとして、戌井に何かあったと考えるべきなのだろうか?

 あの時のように、僕は戌井を探してると言うわけでもないのに……。

 あのとき以来、猫に呼ばれるなんてことはなかったから判別が付かない。

 ……なら、聞いてみるのが手っ取り早いか。

「戌井のところに連れていきたいのかい?」

 僕がそう聞いた瞬間、猫は弾かれたかのように顔を上げ窓辺に駆けていく。

「にゃん!」

 窓の枠に乗っかってこちらを振り替える猫は、まるで付いてこいとでも行ってるようだった。

 なるほど、付いていってみるか。

 本を閉じファーレンテインに渡す。

「すまないが、これを片付けておいてくれないか?少し行ってくる」

「え、えぇ。でも、本当にえーちゃんがいるんですか?」

「前に一度同じことがあった。ついていったら本当に戌井がいたから、見に行くだけ行ってみる」

「わかりましたわ」

 窓辺に近づくと猫は外に出ていってしまった。外を覗き込むと、少し離れたところでこちらをみて待っていた。

 やっぱり、どこかに連れていこうとしているようだ。

 窓から出て走っていく猫を追いかけていく。

 猫は焦っているのか、僕がついてきているのを確認はするものの走るスピードは落とすつもりはないらしい。

 道中、捨て置かれた古い箒があったので拝借して箒に乗って追いかけることにした。

 この猫、走っているときよりも箒に乗り出してからの方が走るスピードが早くなっている。

 猫を追い帰ること数分、街に入っていくらかしたところで街が妙に騒がしいことに気がついた。

 視線の先を追ってみると離れたところで白いもやのようなものが広がっているのが見える。

 ボヤ騒ぎが起きたのかと思ったが違うようだ。焦げた匂いもしないし、赤い光も見えない、しかもちらほら聞こえてくる話によれば“道のど真ん中で突如として発生した”ものらしい。

 猫の向かっている方向は煙がもくもくと立ち込めている方向だ。もしかすると、あの煙は戌井が魔方陣で発生させたものなのかもしれない。

 そうやって考えていれば、白い煙の方向から少しずれた。

 路地裏に入り、ジグザグと進んでいく。

 路地裏を進んでいった先、視界に入ったのは足に鎖が巻き付いた戌井が落ちてくるところだった。

 鎖は自力でほどけたらしいが、このままでは頭から落ちてしまう。

 箒のスピードをあげる。

「戌井!」

 戌井は目をつぶって僕のことを認識していないらしい。

 必死に手を伸ばす、あと少し。

 ガシャン!!__

 鎖の落ちる音がした。

 戌井は、僕の腕の中で落下の衝撃を身構えてる。

 肩口を切りつけられて怪我があるが、他に怪我は見受けられない。無事、とはいいがいたが、さほどの怪我がないことにホッと息を吐く。

「うぅ……ん?あれ?篠野部?」

 腕の中に戌井は目をパチクリとさせている。状況が飲み込めていないらしいが、あの状態なら仕方ないだろう。

「今度は一体何に巻き込まれたんだ?」

「ほあ……」

 何をボーッとして……。

「戌井、惚けている暇があるんなら何があったか教えろ」

「はっ……あ、はい。って上!」

 正気に戻った戌井から敬意を聞こうとしたとき、戌井が空を見上げて悲鳴を上げた。

 振り替えると、そこには箒に乗った不審者と僕たちに向かって落ちてくる氷塊があった。

「なっ!?」

 慌てて箒のスピードをあげ、落ちてくる氷塊を避ける。

 落ちた氷塊は地面に当たるとヒビを作り、碎け散る。

 あれに当たっていたらと思うと背筋がヒヤリとする。

「し、篠野部、苦しいよ~」

「あ……」

 氷塊から逃げるのに必死で、振り落とさないように腕に力を入れていたから自然と絞めていたらしい。

 ……小さいな?腕の中にすっぽりと収まるサイズだ。

 いや、そんなことはどうでもいい。

 今は現状把握、そして迎撃か逃げることだ。

「すまん。で、あれはなんなんだ?」

「わ、わかんないよ。帰り道に人気がなくなったと思ったら行きなり襲われて……」

 人気がないところを狙ってる当たり、計画を練ってる可能性が高いな。

「剣持ってる奴と鉄パイプと、あと魔導師の三人。魔導師は今追いかけてきてるから、他の二人は屋根の上にいるのかも」

「三人組か」

 多対一を押し付けてくる当たり、一対一では勝てないと思ってるのか?

 後ろには執着に追いかけてくる魔導師がいる。
 
 魔法を打ってくるが、今のところはなんとか避けられているのは幸いだ。

 箒でのチェイスが始まって数分、狭い路地を箒で駆けるのは難しく、何度も曲がり損ねそうになった。

 これなら高度を上げてしまった方がいいか。

「戌井、高度をあげるから、しっかり掴まっていろ」

「う、うん」

 高度を上げて屋根よりも高いところに行こうとした。

 ふと横を見ると、屋根の上で弓矢を構えている襲撃者がいた。

「っ!」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私 とうとうキレてしまいました なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが 飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした…… スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

「キヅイセ。」 ~気づいたら異世界にいた。おまけに目の前にはATMがあった。異世界転移、通算一万人目の冒険者~

あめの みかな
ファンタジー
秋月レンジ。高校2年生。 彼は気づいたら異世界にいた。 その世界は、彼が元いた世界とのゲート開通から100周年を迎え、彼は通算一万人目の冒険者だった。 科学ではなく魔法が発達した、もうひとつの地球を舞台に、秋月レンジとふたりの巫女ステラ・リヴァイアサンとピノア・カーバンクルの冒険が今始まる。

『急所』を突いてドロップ率100%。魔物から奪ったSSRスキルと最強装備で、俺だけが規格外の冒険者になる

仙道
ファンタジー
 気がつくと、俺は森の中に立っていた。目の前には実体化した女神がいて、ここがステータスやスキルの存在する異世界だと告げてくる。女神は俺に特典として【鑑定】と、魔物の『ドロップ急所』が見える眼を与えて消えた。  この世界では、魔物は倒した際に稀にアイテムやスキルを落とす。俺の眼には、魔物の体に赤い光の点が見えた。そこを攻撃して倒せば、【鑑定】で表示されたレアアイテムが確実に手に入るのだ。  俺は実験のために、森でオークに襲われているエルフの少女を見つける。オークのドロップリストには『剛力の腕輪(攻撃力+500)』があった。俺はエルフを助けるというよりも、その腕輪が欲しくてオークの急所を剣で貫く。  オークは光となって消え、俺の手には強力な腕輪が残った。  腰を抜かしていたエルフの少女、リーナは俺の圧倒的な一撃と、伝説級の装備を平然と手に入れる姿を見て、俺に同行を申し出る。  俺は効率よく強くなるために、彼女を前衛の盾役として採用した。  こうして、欲しいドロップ品を狙って魔物を狩り続ける、俺の異世界冒険が始まる。

祝・定年退職!? 10歳からの異世界生活

空の雲
ファンタジー
中田 祐一郎(なかたゆういちろう)60歳。長年勤めた会社を退職。 最後の勤めを終え、通い慣れた電車で帰宅途中、突然の衝撃をうける。 ――気付けば、幼い子供の姿で見覚えのない森の中に…… どうすればいいのか困惑する中、冒険者バルトジャンと出会う。 顔はいかついが気のいいバルトジャンは、行き場のない子供――中田祐一郎(ユーチ)の保護を申し出る。 魔法や魔物の存在する、この世界の知識がないユーチは、迷いながらもその言葉に甘えることにした。 こうして始まったユーチの異世界生活は、愛用の腕時計から、なぜか地球の道具が取り出せたり、彼の使う魔法が他人とちょっと違っていたりと、出会った人たちを驚かせつつ、ゆっくり動き出す―― ※2月25日、書籍部分がレンタルになりました。

人生初めての旅先が異世界でした!? ~ 元の世界へ帰る方法探して異世界めぐり、家に帰るまでが旅行です。~(仮)

葵セナ
ファンタジー
 主人公 39歳フリーターが、初めての旅行に行こうと家を出たら何故か森の中?  管理神(神様)のミスで、異世界転移し見知らぬ森の中に…  不思議と持っていた一枚の紙を読み、元の世界に帰る方法を探して、異世界での冒険の始まり。   曖昧で、都合の良い魔法とスキルでを使い、異世界での冒険旅行? いったいどうなる!  ありがちな異世界物語と思いますが、暖かい目で見てやってください。  初めての作品なので誤字 脱字などおかしな所が出て来るかと思いますが、御容赦ください。(気が付けば修正していきます。)  ステータスも何処かで見たことあるような、似たり寄ったりの表示になっているかと思いますがどうか御容赦ください。よろしくお願いします。

眺めるだけならよいでしょうか?〜美醜逆転世界に飛ばされた私〜

波間柏
恋愛
美醜逆転の世界に飛ばされた。普通ならウハウハである。だけど。 ✻読んで下さり、ありがとうございました。✻

『異世界に転移した限界OL、なぜか周囲が勝手に盛り上がってます』

宵森みなと
ファンタジー
ブラック気味な職場で“お局扱い”に耐えながら働いていた29歳のOL、芹澤まどか。ある日、仕事帰りに道を歩いていると突然霧に包まれ、気がつけば鬱蒼とした森の中——。そこはまさかの異世界!?日本に戻るつもりは一切なし。心機一転、静かに生きていくはずだったのに、なぜか事件とトラブルが次々舞い込む!?

処理中です...