苦手な人と共に異世界に呼ばれたらしいです。……これ、大丈夫?

猪瀬

文字の大きさ
122 / 234
恐るべき執着心

121 ブラコン疑惑?

しおりを挟む
「真剣も真剣だ。今はバレてないんだろうが、屋敷はテリトリー。そうそう簡単に逃げきれると思うか?」

「それ関係あるのかよ」

「あるね。アーネチカさんが捕まるのは時間の問題だろ。そして今は兄様もいる。二人揃ってるなら父様の目的は叶うし、母様の目的は叶わない。俺も……二人とも捕まってないのなら、現状維持でどうにかなる」

「現状維持?続けるのか?死ぬぞ!」

 ローレスはチラリと、そこら辺に転がる物騒な道具たちに視線を向ける。

 ローレスの言葉はロンテ先輩が、この先どうなるのか。それを想像して、

「あれくらいじゃ死なない、あれより酷いこともされたし……。俺が望む状態にするなら、捕まられたら困るし、このままでも困る。俺は足手まといで、兄様が嫌いなブレイブ家の人間、捕まる原因になった奴、連れて逃げればハイリスクでローリターンだ」

 さっきまで怒鳴っていたのが嘘のように、静かに、淡々と言葉を並べていく。

「連れ出そうとする価値も、意味も、理由も、願いも、ない。なにより、俺自身が望んでない」

「……っ!」

 レイスは色々と言いたいことがあるようだか、うまく言葉にできないのか、それとも言われたことがショックだったのかハクハクと口を開けては閉じてを繰り返す。

 本人が望んでいないのならば、連れ出すのは無理がある。

「だからって、だからって!おま、弟が死ぬかもしれないのを見て見ぬふりをしろと!?」

「そうだよ!それに、なにも死ぬって決まった訳じゃないだろ!」

「ロンテの言ってることあわせりゃそう言ってるようにしか聞こえねえんだよ!」

「はっ!考えすぎだろーが!」

「悪かったな考えすぎて!」

「第一、優秀なオニイサマには親にすら褒めてもらえない俺なんかいない方がいいだろ」

「それ本気で言ってんだったら気絶させて担ぐからな」

「目が怖い!」

 レイスの目が据わってる。

 これは本気だ。

「アイツらがなんだ。俺のローレス・レイスの弟はロンテただ一人だ。本人でも、それ以上言うことは許さないぞ」

「え、えぇ……。でも……」

「でももだってもない。凄くなくても、卑屈でも、俺のこと嫌いでも、俺はロンテが弟で嬉しいし、誇らしいし、大好きだ」

「……はっ!?なに、いってんの?十四年も放置したのに、よく言えるな!」

 二人の言い合い、形勢逆転しだした。

 ロンテ先輩からすればさっきのローレスの発言は爆弾みたいなものなんだろう。

「うるさい、黙って拐われてろ」

「いや、だから__」

「あ?文句あんのか?今の俺の言葉に嘘はない。魔法で契約してもいいぞ、魔法剥奪でもなんでもペナルティにするといい」

「……は?いや__」

「お前のこと大好きな兄様のために、拐われてくれるよな?ロンテ、お前は俺の大事な兄弟だ。そうじゃなきゃ、こうやって話何てしてないし、連れ出そうともしていない」

「……」

「沈黙は了承、そうとるぞ?」

「……反抗しようとしてもかぶせるだろ」

「あぁ、そうだ。それで、どうする?」

「……もう、好きにしろ」

 動揺した隙を好機と見たのか、レイスは次から次にロンテ先輩の言葉を遮り、自分の思いを吐露する。

 結局はレイスの強い押しにロンテ先輩が折れて、ローレスが勝った。

 あんな愛に飢えた人間に、あんな好意を思いきり滲ませた声で、好意全開の言葉をかければどうなることか……。

 レイスの目にはローシュテールよりもましではあるものの、ドロドロとした重たい好意を感じる。

 その好意の部類はローシュテールと違う部類のものなんだろう。

 けど、あの重く、ドロドロとした感情は弟に向けるようなものなのか?

 ……僕にはわからない。

 それはそうと、ロンテ先輩はレイスを睨み付けている。

 表情こそ嫌そうではあるが、その目には嬉しさのようなものがうっすらと透けて見えた。

 ああは言っていたが、どこかで助けを望んでいたのかもしれない。

 はぁ……まったく、ブラコン共め。

「話し合いは終わったか?」

「あ、すまん。放置しちまってたな」

「……なんでいるんだ?」

 ……そうか。この人、ここに連れてこられるまでの数日は屋敷に帰ってきていないしブレイブ家とも連絡を取ってないから僕がここにいる理由は知らないのか。

「当主から手紙が来た」

「あっ……。そっか」

 一言で察してくれた。

 普段のローシュテールが、どんな風なのか、わかった気がする。

 知りたくもないことを知ったが、僕たち三人は地下から出て、更に屋敷から出て魔法学校に向かうことになる。

 道中は僕の自己魔法だよりになってしまうが、しかたのないことだろう。

 二人は透明化の魔法を使うと言っていたが、二人とも元は大ケガをしていた怪我人がし、レイスに至っては弟のために治癒魔法でたくさんの魔力を使った奴だ。

 元大怪我、そして体力的にそこまで残っていない、魔力も、それなりに消費している。

 僕の自己魔法を全員にかけることになるのもやむ無し。

 僕がレイスの腕をつかんで、レイスがロンテ先輩の
腕を掴む。その状態で進んでいく。

 牢屋にも、ローシュテールのや部屋にも、倉庫にも、年のため覗いた監禁部屋も、誰もいないことが確認できたし、監視もないことが確認できた。

 ローシュテールが、どこにも監視を置いていないのは油断していると言うことなのだろうか?

 それか、監視を置く余裕がないか、気が回っていないのか……。

 どこか不気味だ。

 最大限警戒しつつ、妙に静かな屋敷の中を進んでいく。

 使用人の話を聞く限り、数日前に呼びつけた商人が屋敷に頼んだ代物を持ってきたらしい。

 ロンテ先輩に視線を送ってみれば、首を横に振られた。

 ロンテ先輩が知らないと言うことは、ここ数日の間に呼び、なにかを頼んだと……。

 きっと、監禁関係のろくでもない代物だろうな。

 その執念に呆れの感情が出てくる。

 なんで、そんなに執着するんだか……。

 ふと窓の外が見えたとき、商人のものであろう馬車が視界に入った。

 あの馬車に刺繍された紋様は、確か人身売買事件で背徳行為をしていた軍人に脅されてカリヤ先輩の兄、ネレーオさんの情報を流した人がやってる紹介だったか。

 ベイベルツ家に関わりのある商人が、ブレイブ家にやってきた。

 偶然のことなのかもしれないが、もしかしたら……。

 そう考えると、どうも早足になってしまう。

 ローシュテールと遭遇しそうになったが、商人たちと荷物を連れて客室に連れていった。

 ローシュテールがこちらに気がつくことはなく、ニコニコと気持ち悪いくらいの上機嫌さがわかる笑顔で商人を__いや、商人たちの持っている荷物を見ている。

 ローシュテールは、こちらに気がついておらず、そして客室に入っていった。

 これは好機である。

 商人たちの会話がいつ終わるかわからないのが懸念ではあるものの、あの場所に乗ってバレさえしなければ王都アストロに帰れる。

 それができなかったとしても、屋敷から出られる。

 二人に合図で、それを知らせると頷く。

 ササッと使用人たちに見つからないように屋敷の中を駆けていく。

 徒歩になれば時間はかかるだろうし、過酷かもしれない。

 だが僕は定期的に町や村を行き来している馬車を乗り継いできた。

 その手段が取れれば徒歩よりも早く、しかも安全に移動できるかもしれないが、運転手がこの辺りの人間だと言う思うとブレイブ家の手が回っていないか心配だ。

 仮にそんなことになってみれば脱出劇は全てパアだ。

 金の問題もあるが、徒歩で逃げるしかないんだろうか。

 いや、そんなの逃げてる途中で考えればいいことだ。

 そうこう考えてるうちに、屋敷から脱出できた。

 喜ばしことだ。

 歓喜しようにも、今はまだ屋敷の庭の中。騒げない。

 だと言うのにレイスが騒ぎそうになっていたから手が出てしまった。

 さて、これから、どの選択肢を取ろうか。

 そう考えて、馬車の荷台の前を通ると誰かの手が、こちらに延びてきた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私 とうとうキレてしまいました なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが 飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした…… スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

「キヅイセ。」 ~気づいたら異世界にいた。おまけに目の前にはATMがあった。異世界転移、通算一万人目の冒険者~

あめの みかな
ファンタジー
秋月レンジ。高校2年生。 彼は気づいたら異世界にいた。 その世界は、彼が元いた世界とのゲート開通から100周年を迎え、彼は通算一万人目の冒険者だった。 科学ではなく魔法が発達した、もうひとつの地球を舞台に、秋月レンジとふたりの巫女ステラ・リヴァイアサンとピノア・カーバンクルの冒険が今始まる。

『急所』を突いてドロップ率100%。魔物から奪ったSSRスキルと最強装備で、俺だけが規格外の冒険者になる

仙道
ファンタジー
 気がつくと、俺は森の中に立っていた。目の前には実体化した女神がいて、ここがステータスやスキルの存在する異世界だと告げてくる。女神は俺に特典として【鑑定】と、魔物の『ドロップ急所』が見える眼を与えて消えた。  この世界では、魔物は倒した際に稀にアイテムやスキルを落とす。俺の眼には、魔物の体に赤い光の点が見えた。そこを攻撃して倒せば、【鑑定】で表示されたレアアイテムが確実に手に入るのだ。  俺は実験のために、森でオークに襲われているエルフの少女を見つける。オークのドロップリストには『剛力の腕輪(攻撃力+500)』があった。俺はエルフを助けるというよりも、その腕輪が欲しくてオークの急所を剣で貫く。  オークは光となって消え、俺の手には強力な腕輪が残った。  腰を抜かしていたエルフの少女、リーナは俺の圧倒的な一撃と、伝説級の装備を平然と手に入れる姿を見て、俺に同行を申し出る。  俺は効率よく強くなるために、彼女を前衛の盾役として採用した。  こうして、欲しいドロップ品を狙って魔物を狩り続ける、俺の異世界冒険が始まる。

祝・定年退職!? 10歳からの異世界生活

空の雲
ファンタジー
中田 祐一郎(なかたゆういちろう)60歳。長年勤めた会社を退職。 最後の勤めを終え、通い慣れた電車で帰宅途中、突然の衝撃をうける。 ――気付けば、幼い子供の姿で見覚えのない森の中に…… どうすればいいのか困惑する中、冒険者バルトジャンと出会う。 顔はいかついが気のいいバルトジャンは、行き場のない子供――中田祐一郎(ユーチ)の保護を申し出る。 魔法や魔物の存在する、この世界の知識がないユーチは、迷いながらもその言葉に甘えることにした。 こうして始まったユーチの異世界生活は、愛用の腕時計から、なぜか地球の道具が取り出せたり、彼の使う魔法が他人とちょっと違っていたりと、出会った人たちを驚かせつつ、ゆっくり動き出す―― ※2月25日、書籍部分がレンタルになりました。

人生初めての旅先が異世界でした!? ~ 元の世界へ帰る方法探して異世界めぐり、家に帰るまでが旅行です。~(仮)

葵セナ
ファンタジー
 主人公 39歳フリーターが、初めての旅行に行こうと家を出たら何故か森の中?  管理神(神様)のミスで、異世界転移し見知らぬ森の中に…  不思議と持っていた一枚の紙を読み、元の世界に帰る方法を探して、異世界での冒険の始まり。   曖昧で、都合の良い魔法とスキルでを使い、異世界での冒険旅行? いったいどうなる!  ありがちな異世界物語と思いますが、暖かい目で見てやってください。  初めての作品なので誤字 脱字などおかしな所が出て来るかと思いますが、御容赦ください。(気が付けば修正していきます。)  ステータスも何処かで見たことあるような、似たり寄ったりの表示になっているかと思いますがどうか御容赦ください。よろしくお願いします。

眺めるだけならよいでしょうか?〜美醜逆転世界に飛ばされた私〜

波間柏
恋愛
美醜逆転の世界に飛ばされた。普通ならウハウハである。だけど。 ✻読んで下さり、ありがとうございました。✻

『異世界に転移した限界OL、なぜか周囲が勝手に盛り上がってます』

宵森みなと
ファンタジー
ブラック気味な職場で“お局扱い”に耐えながら働いていた29歳のOL、芹澤まどか。ある日、仕事帰りに道を歩いていると突然霧に包まれ、気がつけば鬱蒼とした森の中——。そこはまさかの異世界!?日本に戻るつもりは一切なし。心機一転、静かに生きていくはずだったのに、なぜか事件とトラブルが次々舞い込む!?

処理中です...