苦手な人と共に異世界に呼ばれたらしいです。……これ、大丈夫?

猪瀬

文字の大きさ
123 / 234
恐るべき執着心

122 逃走経路の確保

しおりを挟む
手が延びてきたのをかわそうと思っていたが、荷台の中から糸が出てきてロンテ先輩とレイスごと荷台の中に引きずり込まれてしまった。

 引きずり込まれたことで、もしやブレイブ家の手の者が隠れていなのではないかと考えた僕は急いで応戦しようとしたのだが__

「大丈夫だった!?」

 聞き覚えのある声が頭の上から振ってきて、思考が一瞬止まった。

 すぐに透明化の魔法を解除して、声の発生源の方向を見てみれば、そこには戌井がいた。

「……戌井?」

「手荒な真似してごめんね。透明になってたみたいでどこにいるかわからなくって、怪我とかしてない?」

 引きずり込まれはしたものの、上手いこと受け身が取れていたのか誰も怪我はしていなかった。

「えっと、ローレスもロンテ先輩もボロボロだけど、それ大丈夫なの?」

「二人とも治癒魔法で治療してるから大丈夫だ」

 僕の言葉に戌井は安心したように、息を吐いた。

「それより、透明化していたのになんで気づいたんだ?」

「切れやすい糸を、通るだろうと思って門と馬車周辺に仕掛けたんだ。糸が切れたのに人の姿が見えなかったから、あ、これ篠野部の自己魔法使ってるなって思って」

「なるほど」

 いつかのチンピラにやった手口と同じものだな。

「え、永華ちゃん?なんで、ここに……」

「間接的ではあれ、ブレイブ家に関係がある人が三人も姿を消したら、いくら止められててもさすがに動くっての。それに、篠野部が不穏な手紙残していったし」

「見たか」

「見たよ、ビックリした」

 よかった。仕掛けがちゃんと動いてくれたらしい。

「だからって、一人で来るか?普通」

 確かに、荷物がいくつか入ったままの荷台の中には戌井以外の人間の姿は見えない。

 隠れる理由もないだろうから本当に荷台の中には戌井だけなんだろう。

「あぁ~……その、本当は三人で来ることになってたんだけど……色々あって……」

「色々?」

 戌井は頷く。

「あんまり大人数で行くとバレるかもしれないからって、三人だけでブレイブ邸に行く予定だったんだ。他の三人は別行動でアーネチカさんを探そうってことになって……」

 戌井曰く、ミューとベイノット、ララがアーネチカさん捜索にいき、戌井とメメ、レーピオがブレイブ邸に来ることになっていたらしい。

 それが途中でトラブルが起きたらしい。

「放置できない案件だったから、別れることになったんだ。今回はあくまで隠密だし、占星術の先生が占ってくれたんだけど“待てばよし”って教えてくれたし。向こうは教われてたから二人に行ってもらったんだ」

「そういうことか」

 トラブルの内容が気になるが今は脱出が優先だ。

 話を聞くのはあとにして、ブレイブ家の敷地内から出ることになった。

「で、どうするんだ?」

「箒が三本、透明になれる魔法を編み込んだ布を六枚あるから、それ使おう。空を飛ぶから魔力探知には引っ掛からない、力流眼持ちがいたときは……その時はその時かな」

「少なくとも使用人たちの中にはいなかった。そこまで気にしなくてもいいだろう」

「ならすぐ行こう」

 いたのなら僕たちのことをローシュテールに告げるはずだからな。

「……さっき、三人で来る予定だったんだよな?」

「え、そうですけど、どうかしました?」

「占いで俺がいるの知ってて動いてるんだよな?人数足したら六人で、箒一本足りなくねえか?」

「自分、体質の問題で飛べないんであるだけ無駄です」

「そんなあっけらかんと言うことか?」

「別に気にしてませんし」

 透明になれる魔法の布を羽織り、それぞれが箒を持つ。

 レイスがロンテ先輩を心配して相乗りしようと言い出したが、ロンテ先輩は即却下。

 魔力が厳しいわけでもないのにレイスの魔力を余計に削るわけにはいかないという尤もらしい理由で断っていたが、単純に兄とくっつきたくないのかもしれない。

 戌井に関しては僕の箒に乗ることになった。

 魔力の減り具合的な話でも、体力的な話でも、僕が一番残っているだろうから、僕がいいだろうと言うことになった。

 使わない箒と透明になれる魔法の布は戌井が回収していた。

 リンデヒル商会の馬車に証拠が残っていたら迷惑をかけることになるからな。

 箒に乗り、飛び立つ。

 簡単にはブレイブ邸の敷地から出れた。

 僕たちが脱出したことに気がついていないのか、追手は来ない。

 空を飛び続け、振り返ってもブレイブ邸が見えなくなった頃にようやく体に入っていた力が抜け、緊張から解放された。

「さすがに、ここまで来れば簡単に見つかったりはしないだろう」

「見えないくらいはなれたもんな。ふぅ、なんか疲れた」

 レイスがそういうのも無理はないだろう。それどころか、口には出さないが他の二人も思っていそうだ。

「あ、そうだ。途中で起きたトラブルってなんなんだ?」

 余裕が出たのか、気になったらしいトラブルの件を聞いた。

「実はね、会ったんだよ。アーネチカさんに」

「は!?おわっ!?」

 あまりの爆弾発言に箒の操作を誤ったらしく、一瞬で視界から消えた。

「ローレス!?」

「兄様!?」

「おい!!」

 僕たちは焦ったものの、レイスはすぐに体勢を立て直した。

「お、落ちるかと思った……」

「兄様、ビックリした……」

「何してるんだ……」

「わかるけどさあ……」

 驚くのも無理はないが、箒が落ちそうになるのは勘弁して欲しい。

「って、そんなことどうでもいいんだ。母ちゃんにあったって本当か!?」

「ちゃんと見た訳じゃないけど、“アーネチカさん”って呼ばれてたし、ローレスに見せてもらった写真のアーネチカさんとそっくりだったから本人だと思う」

「戌井が見たってことは、魔法学校方面に向かってるってことなのか?」

「恐らくはな。逃げる算段はたててはいないが、安全な場所に行けと言ったから目指したんだろう」

「ん?なんで、そこでロンテ先輩が出てくるの?」

 あ、そうか。

 アーネチカさんがロンテ先輩に拐われて、今までローシュテールのところに行かないようにされてたのを知らないんだった。

 不思議そうな表情でレイスとロンテ先輩を交互に見る。

 ブレイブ家で知ったことを色々と説明してやれば、余計に目を白黒させていた。

「は?ローレスとロンテ先輩が腹違いの兄弟?ロンテ先輩がアーネチカさんをローシュテール・ブレイブに渡さないために誘拐した?アーネチカさんはロンテ先輩の部下に保護されてる?は?」

「混乱するのもわかるが、今は飲み込んでくれ」

「……??……????そ、そうね?」

 レイス親子が狙われているのを知ってはいたが、その理由が明確になっていない、しかもロンテ先輩の振るまいから執着している理由はろくでもない理由だと思っていたら“いなくなっていた妻と息子を探していた”という理由だったのだから混乱するのもよくわかる。

 戌井は何とか状態を飲み込み、ロンテ先輩にアーネチカさんを保護しているという部下の特徴を聞いていた。

「んっと、特徴が当てはまるから、十中八九アーネチカさんたちだろうね。だとすると、ちょっとヤバイかもしれない」

「母ちゃんに何かあったのか!?」

「人から逃げてる最中だったんだよ。多分、盗賊とかの類いだと思う。逃げてるけど守ってる人たち、大怪我じゃないけどあちこち怪我してたから、メメとレーピオが助けに行ったんだよ」

 だから戌井が一人できたのか。

「持っときちんと説明するとだね」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私 とうとうキレてしまいました なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが 飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした…… スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

「キヅイセ。」 ~気づいたら異世界にいた。おまけに目の前にはATMがあった。異世界転移、通算一万人目の冒険者~

あめの みかな
ファンタジー
秋月レンジ。高校2年生。 彼は気づいたら異世界にいた。 その世界は、彼が元いた世界とのゲート開通から100周年を迎え、彼は通算一万人目の冒険者だった。 科学ではなく魔法が発達した、もうひとつの地球を舞台に、秋月レンジとふたりの巫女ステラ・リヴァイアサンとピノア・カーバンクルの冒険が今始まる。

『急所』を突いてドロップ率100%。魔物から奪ったSSRスキルと最強装備で、俺だけが規格外の冒険者になる

仙道
ファンタジー
 気がつくと、俺は森の中に立っていた。目の前には実体化した女神がいて、ここがステータスやスキルの存在する異世界だと告げてくる。女神は俺に特典として【鑑定】と、魔物の『ドロップ急所』が見える眼を与えて消えた。  この世界では、魔物は倒した際に稀にアイテムやスキルを落とす。俺の眼には、魔物の体に赤い光の点が見えた。そこを攻撃して倒せば、【鑑定】で表示されたレアアイテムが確実に手に入るのだ。  俺は実験のために、森でオークに襲われているエルフの少女を見つける。オークのドロップリストには『剛力の腕輪(攻撃力+500)』があった。俺はエルフを助けるというよりも、その腕輪が欲しくてオークの急所を剣で貫く。  オークは光となって消え、俺の手には強力な腕輪が残った。  腰を抜かしていたエルフの少女、リーナは俺の圧倒的な一撃と、伝説級の装備を平然と手に入れる姿を見て、俺に同行を申し出る。  俺は効率よく強くなるために、彼女を前衛の盾役として採用した。  こうして、欲しいドロップ品を狙って魔物を狩り続ける、俺の異世界冒険が始まる。

祝・定年退職!? 10歳からの異世界生活

空の雲
ファンタジー
中田 祐一郎(なかたゆういちろう)60歳。長年勤めた会社を退職。 最後の勤めを終え、通い慣れた電車で帰宅途中、突然の衝撃をうける。 ――気付けば、幼い子供の姿で見覚えのない森の中に…… どうすればいいのか困惑する中、冒険者バルトジャンと出会う。 顔はいかついが気のいいバルトジャンは、行き場のない子供――中田祐一郎(ユーチ)の保護を申し出る。 魔法や魔物の存在する、この世界の知識がないユーチは、迷いながらもその言葉に甘えることにした。 こうして始まったユーチの異世界生活は、愛用の腕時計から、なぜか地球の道具が取り出せたり、彼の使う魔法が他人とちょっと違っていたりと、出会った人たちを驚かせつつ、ゆっくり動き出す―― ※2月25日、書籍部分がレンタルになりました。

人生初めての旅先が異世界でした!? ~ 元の世界へ帰る方法探して異世界めぐり、家に帰るまでが旅行です。~(仮)

葵セナ
ファンタジー
 主人公 39歳フリーターが、初めての旅行に行こうと家を出たら何故か森の中?  管理神(神様)のミスで、異世界転移し見知らぬ森の中に…  不思議と持っていた一枚の紙を読み、元の世界に帰る方法を探して、異世界での冒険の始まり。   曖昧で、都合の良い魔法とスキルでを使い、異世界での冒険旅行? いったいどうなる!  ありがちな異世界物語と思いますが、暖かい目で見てやってください。  初めての作品なので誤字 脱字などおかしな所が出て来るかと思いますが、御容赦ください。(気が付けば修正していきます。)  ステータスも何処かで見たことあるような、似たり寄ったりの表示になっているかと思いますがどうか御容赦ください。よろしくお願いします。

眺めるだけならよいでしょうか?〜美醜逆転世界に飛ばされた私〜

波間柏
恋愛
美醜逆転の世界に飛ばされた。普通ならウハウハである。だけど。 ✻読んで下さり、ありがとうございました。✻

『異世界に転移した限界OL、なぜか周囲が勝手に盛り上がってます』

宵森みなと
ファンタジー
ブラック気味な職場で“お局扱い”に耐えながら働いていた29歳のOL、芹澤まどか。ある日、仕事帰りに道を歩いていると突然霧に包まれ、気がつけば鬱蒼とした森の中——。そこはまさかの異世界!?日本に戻るつもりは一切なし。心機一転、静かに生きていくはずだったのに、なぜか事件とトラブルが次々舞い込む!?

処理中です...