苦手な人と共に異世界に呼ばれたらしいです。……これ、大丈夫?

猪瀬

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恐るべき執着心

128 ローレスの母

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メイメア視点

えーちゃんと別れ、アーネチカさん達を追って馬車を出た私たちは透明になれる魔法の布と言うのにアドバンテージを使って、アーネチカさん達を追いかける不届きものに奇襲を仕掛けた。

 私が得意な傀儡魔法を使って人間大のサイズになった人形をアーネチカさん達と、追っての間に割り込ませる。

「なんだあ!?」

 大きなテディベアの出現に一同揃って困惑の表情を浮かべている。

 魔法で人形を操り、一番近くにいる荒くれ者に組み付き雷魔法で気絶させてしまう。

 私が操る人形は、魔法を使うことができますの。

 通常、杖の先から魔法が放たれますが、私の場合、やろうと思えば人形を介して魔法を放つなんてことができますのよ。

 簡単に言ってしまえば、人形は杖の延長線のようなものになっているので人形から魔法を発せられるのですわ。

 いきなり現れた大きなテディベアによって気絶した仲間を見た荒くれ者達は敵襲だとわかったらしく、姿を現さない私達を探すようにキョロキョロと辺りを見回す。

 私達は透明になれる魔法の布を被ったまま、箒から降り立ち、魔法を打ち込むが。

 姿の見えない敵に荒くれ者達は人形に対して剣をふり、目に見えない敵を威嚇するように剣を振るう者もいる。

 アーネチカさん達は何が起こったのかわかっていない様子だが、これ幸いと荒くれ者達はから距離を取ろうと動く。

 アーネチカさん達の向かった方向を忘れないように記憶して、荒くれ者達の対処に集中する。

 最初の一撃はいきなり人形が現れたことで相手の虚を突く形となり、そして獲物を狩るだけの簡単な仕事だと思っていたから油断していたのもあるんだろう。

 荒くれ者がどれ程の実力かわからないが、このまま有利を取った状態を維持して鎮圧した。

 人形を操り、剣で切り裂かれないように立ち回らせる。

 魔導師と剣士なんかで魔導師が不利だと言われるのは真正面からの一対一を行ったとき。

 今のように魔導師が姿を隠した状態ならば、当然、魔導師側が有利になる。

 ピオくんと連携して、雷魔法を撃ち、金縛りの魔法を撃ち、着実に、そして確実に一人一人の荒くれ者達の動きを封じていく。

 荒くれ者達は、その様相のわりに連携が取れるらしく鎮圧には少し時間がかかった。

 リーダー格だろう、一人を除いて魔法を使って全員の意識を刈り取るに成功した。

 透明になれる魔法の布を使っていたことで、攻撃が当たることはなく無傷ですんだ。

 簡単に逃げられないように、一人でも取り逃さないように丁寧に縛り上げる。

 荒くれ者から得た情報はローシュテール様に仕事として与えられたもの、前報酬をもらっている、つれてこいとしか言われていない、の三つだけたった。

 情報を得たあと、どこかに逃げって言ってしまったアーネチカさん達に接触しようと言うことになった。

 透明になれる魔法の布を脱いで、アーネチカさん達が逃げていった方向に進んでいくと制服を着た人が何人かしゃがみこんでいました。

 よくよくみれば体のあちこちから血を流していて、回りにいる人達は傷口を強く押さえています。

 ここまで頑張ったのは良いけれど、出血量が多くで動けなくなってしまったんでしょう。

 私達は透明になれる魔法の布を使っていたから攻撃は空をきって当たらなかったけれど、アーネチカさん達は違ったようです。

 荒くれ者の武器には投げナイフや斧なんかがあったから、おそらくはそれに当たったんでしょう。

 制服を着た人達は、いきなり現れた私達に対して警戒心を露にして、一人が動けない人達をかばうように前にでました。

「あなた達は誰ですか?」

 彼らが着ている制服はみたことがありません。

 有名どころは知っていますがマイナーなもの走りません。陸の知識がないせいなのか、それとも完全に表にでない部隊や組織の類いなのかもしれません。

「レーピオ・アスクスと申しますう。ローレスくんの友人ですよお」

「メイメア・ファーレンテインですわ。ローくんとはお友だちですわ」

 私達が名を名乗ると制服を着た方々はポカンとした表情になりました。

「アスクス?ファーレンテイン?」

「なんでだ?」

 あぁ、誰かから聞こえた呟きでわかりましたわ。

 何で貴族の“アスクス”と海の貴族の“ファーレンテイン”がアーネチカさんの前にでローくんの友人だと名乗るんだ、とか思っていそうですわ。

 貴族なんて基本的に腹黒いものが多いですし、平民を見下しているものも一定数いますわ。

 それは陸も海も同じ、それどころかどこの種族でも同じかと思われます。

 私やピオくんが腹黒くないかと言われれば閉口いたしますけど、仲良くしているとは思っていなかったのでしょうね。

「なんでローレス様の友人だと名乗るアスクスとファーレンテインが、ここにいるんだ?と言うか本物なんだろうな?」

 今だ疑われているのか、制服を着た方々の視線は鋭いものです。

 仕方の無いことですが、私達は家紋の入った私物を見せることにいたしました。

 これは特殊な方法で家紋が刻まれており、簡単に盗めない、複製できない代物になっております。

 それを見た制服の方は姿勢をただし、疑ったことを謝罪いたしました。

「いいんですの。状況的にしかたの無いことですから」

「そういってくださると幸いです。それ、お二方はなぜここに?」

「説明がしますがあ、その前に治療をしましょう。重傷の方から順に治癒魔法と処置を行います。アスクス家が医者の家系で優秀であるのは知っているでしょう?」

 周囲の人に手伝ってもらい、治癒魔法を使いながら順々に怪我の治療をしていく。

 いったいどれだけの時間がかかったか、全員の手当てが終わる頃には日が暮れそうになっていた。

 魔法で作り出した水で汚れた手を洗う。

 感謝をされ、自分達はロンテ様の元使用人で今は部下をしているのだそう。

 元々ロンテ様のお世話係などをしていたのだが、ローシュテール様の癇癪と言っても良い理由でクビにされてしまい、路頭に迷うかと思ったところでロンテ様に雇われて色々としているのだそう。

 色々と言っても基本的に平和なことで、好きに動けないロンテの変わりに情報収集をしたり、ロンテから仕事を斡旋されたり、ロンテ様の変わりに企画した仕事をしていたり、そんな感じらしい。

 今回、なかなか危ない案件だが、ロンテ様の憔悴具合や恩義、ローシュテール様の所業、古株は昔何があったのかを知っているから乗ったのだそうです。

「レーピオ……メイメア……。もしかしてメメちゃん?」

 話が落ち着いた頃、ふと思い出したかのようにアーネチカさんが言葉をこぼす。

「はい!私、メメちゃんですわ!」

「ふふ、手紙にかいたあるとおり、可愛い子ね。私はアーネチカ・レイスよ」

 アーネチカさんが名字でピンときていないところを見るに、手紙に私達のことを書いてはいたけど名字を書くことはなかったのかもしれませんね。

「それで、あなた方は何故ここに?」

「ブレイブ家に呼び出された友人が心配になりましてえ、噂や告発の件もございますからあ」

 ピオくんの言葉でアーネチカさんの表情が変わりました。

「それは、ローレスのことかしら?」

「いえ、僕たちの友人でローレスとも仲の言いカルタ・篠野部と言う人物が呼ばれたのですう。理由は不明、あるとするのならばローレスくんやアーネチカさんよおびき寄せるエサにするためかと考えましたあ」

「残された文面には“脅されている”と言う言葉もございましたからね」

「……やりかねないな」

 制服を着た方々はローシュテール様のことを知っているらしく、妙に納得していました。

「それでブレイブ家に向かっている最中でしたのだけれど、途中で追いかけられている貴女方を見つけて助太刀に参った次第ですの!」

「元よりい、人質を取る作戦等ができないようにアーネチカさんかローレスくんを見つけたら保護しようと言うことにもなっていましたからあ」

「そうなんですね。私たちは数日の間、逃げ回っていましたから屋敷で何があったかは知らなくて、気絶させられることもあったし……。そもそも私は何がどうなっているのか、ブレイブ家が関わっていることしか把握できていないの……。多分、私とローレスのことを側に置きたいのでしょうけど……」

「いえいえ、元気で生きてることだけで十分ですう」

 本当にそうですわ。

 これでローくんもアーネチカさんも捕まっていたら目も当てられませんもの。

「ローレスくんが、どこにいるか知っていませんかあ?」

 ピオくんの質問で、空気は重たく変化する。

 ピオくんがローくんのことを聞いてみるけど、質問の答えには期待できませんわ。

 だって知っていたら二人一緒に行動させた方が武力的な意味でも、精神的な意味でも、安全なんですもの。

「それで……恐らくですが、ローレス様は多分、屋敷に、おられるかと」

 知らない、と答えていくなか、顔色の悪い人が、そう答えた。

 他の人達は慌てて口を閉じさせようとするが、もうすでに時は遅し。

 目を見開いたアーネチカさんが、ローくんの居場所を答えた人の胸ぐらに掴みかかる。

「どういうことなの!?あなた達、私が目覚めたときに逃げ回っていたから何があったのか、ローレスはどこなのかって聞いたら、ローレスの居場所は知らないって言ったじゃない!」

「ダメですう、ダメですう。その人一様、怪我人ですからあ」

「あわわ……」

 ピオくんと協力して何とか引き剥がす。

 掴みか狩られていた人はバツの悪そうな表情をして、訳を話し出した。

 ロンテ様は両親がレイス親子ばかり見るから、両親の視線を自分に向けさせようとしたのだが、ローくんと兄弟喧嘩をしている最中にローシュテール様が現れロンテ様の指示のもとアーネチカさんをつれて逃げたのだそうだ。

「私、屋敷に行きます!」

「なりません。あそこは、貴女やローレス様がいて良いところではない!」

 初老の男性が暴走しそうなアーネチカさんを止める。

 歳を重ねているところを見るに、彼は古株である程度の事情を知っているんでしょう。

「私はローレスの親です!こんなときに流暢にしてられますか!」

 ……ローくんのお母さん、とてもいい人ですわ。

「アーネチカさん、苦しいかもしれませんが貴女は行かない方が良いですわ」

「っ!なんで……!」

「ローシュテール・ブレイブは“人形の砂糖薬”を入手しようとしていましたあ。薬はウエディングドレスと共に仕舞われていましたあ。使い道は……わかるでしょう?」

「ローくんのためにも、行かない方が良いですわ」

「……っ!」

 アーネチカさんが唇を噛み締め、悔しげに表情を歪ませて俯く。

 自分が行けばローくんが逃げるチャンスを逃がすかもしれないと、考えているのでしょう。

「このまま魔法学校に向かってください。私達の担任が事情を知っておりますので、すぐに保護してくれるでしょう」

 ロンテ様の部下の方々は頷き、魔法学校を目指すと言いました。

 話している間に日が暮れてしまったので、開けた場所にまでは見送る。

 正直、アーネチカさんについて魔法学校まで送ろうとも思いましたが“応援”と決めた動きを人形がしたのでブレイブ家の方面に向かわざる追えません。

 アーネチカさん達を見送った私達は透明になれる魔法の布を被り、箒に乗って飛んでいきます。






「……やっぱり、無理よ」
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