苦手な人と共に異世界に呼ばれたらしいです。……これ、大丈夫?

猪瀬

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つかの間の平穏

143 ミューはツンツン

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ミュー視点

なにかが弾ける音がして、次の瞬間土くれが出来上がる。

 次に落雷が落ちて、水球が弾ける。

 次から次に繰り出される魔法での攻防戦は目を見張るものがある。

 私達は今、戦闘訓練に勤しんでいる。

 先日のブレイブ家の一件、人身売買事件、箱庭試験での黒いワイバーン、それから黒服達の襲撃。

 それら全て勝利とは言えず、人に手伝ってもらったり、魔導警察や軍が介入したり、向こうが撤退したり、先生がどうにかしたり、私達の勝ちとはいいがいた結果が続いていた。

 強いて言うのならば人身売買事件のとき、カリヤ先輩と決闘した永華が辛くも勝利という結果になったけれども、あれはカリヤ先輩が体調不良だったから出た結果である。

 再戦したとき、ものの見事にカリヤ先輩に永華は負けてしまったわけだし。

 最近ではたまに来るカリヤ先輩に善戦し出しているものの、敗北する事実は変わらない。

 基本的に戦うのが格上か、逃げに徹する者達なだけあり、仕方のない結果と言っても言いかもしれないが私達は甘んじることなく訓練に勤しんでいる。

 今は永華とローレスが一対一の対決をしている。

 状態は一進一退の攻防戦と言った感じである。

 勝敗の行方だけど、結果は永華の勝ちである。

 ローレスの敗因はカルタが新しく考えた魔法の威力を弱めたものを試してみようと試みた結果、好きが多きなった挙げ句、魔法が不発に終わったことである。

「しくった~」

「やはり、ある程度の出力が必要なのかもしれないな」

「篠野部、ほんとうにお前が言ってた理屈でいけるのか?」

「いけるから話している」

「それもそうか」

 新しい魔法の習得に挑んでいるのは何もローレスだけではない。

 カルタも、ベイノットも、ララもだ。

 他の私を含めた四人に関しては新しい魔法の使い方について挑んでいる。

 そして、新しい魔法や、魔法の使い方の話についてからローレスがいなかった間についても話に移り変わっていって。

「え!?皆ドレス着たの!?めっ茶見たかったんですけど!?」

「いなかった貴方の自業自得じゃないの」

 私がピシャリと言い放つとローレスの驚愕の表情は一瞬でショボンとしたものになる。

「そもそもローレスくんがいても、あの場につれていくのは気が引けますよお」

「ローシュテールからの招待状が来てって感じだったもんね」

 レーピオと永華からの援護射撃が来た。

 他の面々私の言葉にうなずき、ローレスをなだめるものは誰一人としていなかった。

「うぅ……どんな感じだったの?」

 しょぼくれつつも、どんなドレスを着ていたのか聞いてくる辺り、とてもローレスらしい。

「私、赤のAラインってやつだったよ」

「アタシは濃い青のエンパイアドレスよ」

「メメが紫で普段と変わらない感じでした」

「私は黄色のマーメイド」

 あのドレス、綺麗だったけれど動きにくかったのよね。

 まあ、基本的にどのドレスだって動きにくいことには変わりないだろうけれども。

「へ~、きっと皆綺麗だったんだろうなあ」

 そんな風に言われて悪い気はしないけれど、ローレスってよく真っ正面から、そんな照れ臭いこと言えるわね。

 言い方は悪いかもしれないけれど、女好きなところがあるからなのかしら?それともほぼ片親の状態で、母親であるアーネチカさんに育てられたからなのかしら?

 もしアーネチカさんに育てられたからだとしたら、アーネチカさんすごいわね。

 それともローシュテールがマトモだったときにアーネチカさんを口説き落としたって話らしいし、そこら辺はローシュテールからの遺伝だったりするのかしら?

 何て考えているが決して口には出さない。

 ローレスはいくら父親であるローシュテールが憤怒の薬の被害者であるっても、嫌いなものは嫌いなのだそうだ。

 家族としての情があるかどうかに関してはわからないけれど、優しくて情深いローレスのことだから、いくら嫌っていても情事態はありそうだ。

 私は、どちらかと言えば素直なものいいができない方だ。

 小さい頃から遊び相手なんて親か兄か弟か、年上だけれどお馬鹿で脳筋なリアンだけだった。

 しかも家族は生まれたときから私のことを知っているし、リアンだって物心つく前から仲がよかったらしい。

 それが原因なのか、私が素直じゃない物言いや刺の多い物言いをしても察してくれることが多くて、ついつい甘えて素直じゃないことをいう。

 直したいと思っているけれど物心ついてからずっと続けている言動は早々簡単に変えられはしない。

 それを思うと、ローレスのナンパと言ってもいいほど自然に褒め言葉を出せる心持ちは羨ましい。

 ローレスだけじゃない、これはメメや永華、ベイノットにも思うことだ。

 レーピオは腹黒くて変態だし、ララは貴族の荒波に揉まれているからか大人じみた言動が多い、カルタに関しては元々喋ろうとしないし私以上にキツいものいいが多い。

 もしかしたらカルタの発言でなれているのかもしれない……。

 考えている間に話は進んでいく。

「なあ、篠野部。綺麗だったっしょ?」

 おふざけで話を振った永華を呼んでいた本から顔を上げて一瞥すると、また視線を本に戻して一言。

「馬子にも衣装」

「どういう意味だ、コラ」

 カルタの発言に永華がキレ気味で返す。

 “馬子にも衣装”……。

 無理矢理好意的に考えるのならば見た目は綺麗だったと言ってることになると思うんだけど……。

 表情が変わらないせいで照れ隠しでの発言なのか、本心でそう思っているからした発言なのか見当がつかない。

「ガチガチに緊張してぎこちない動きしてたから、その印象しかない」

 さすがに今の言い方は不味いと思ったのか、カルタは目をそらしながら言葉を付け足していく。

「くっ!それを言われるとなにも言えない……」

 あぁ……わかる。

 多分、ああいうところに慣れてない人は皆、永華と
同じ感じになっていたでしょうね。

「あ~、ああいうのってやっぱり緊張するもんなんだな。いや、でもどんな感じなんだろ」

「今度や会の招待状が来てるので僕の付き添いとしてきてみますう?」

「あ、やめときます。平民だし」

「平民云々の前に、公表されてないけれど別の問題があると思うわよ。アタシ」

「だろうな」

 あぁ、ブレイブ家の血が流れてるってことのバレるとめんどくさいことに、貴族に絡まれて嫌みを言われたりしそうだものね……。

 ローシュテール、色々やらかしているし……。

「むぅ……私はミューが一番大人っぽくて綺麗だったと思いま~す」

「えぇ!?いきなりなにいうのよ!馬鹿!」

 カッと顔が熱くなる。

 今ごろ私の顔は茹でられた蟹みたいに真っ赤になっていることでしょう。

「だって~、メメとララは可愛いって感じだったじゃん?」

「あ、あのねえ……!」

 メメもララも見た目やドレスのデザインもあって綺麗よりも可愛らしいという言葉が似合う感じになっていた。

 永華だってどちらとも見れる容姿だけれど、普段の振るまいからメメ達と同じところに分類してしまう。

 思ってることを口に出して、きちんと褒めればいいくせに、恥ずかしさから言葉が出せない。

「メメも同意します!」

「うふふ、アタシも」

 私達の前では貴族の仮面を被らず海出身ゆえに天然発言が多いメメはまだいい。

 上品に笑いながら、こちらを見てくるララに関しては絶対にからかうつもりで話をしているわ。

 永華に関してはよくない方向に進みそうだった話からそらすために話題を振ったんでしょうけど、私の反応を見てからかおうとしてるわね……。

「だってさあ、緊張した私やメメ、見た目が幼いララと違って堂々としててかっこよかったんだもん」

「うるさいわねっ!」

 やっぱり私、素直なものいいって苦手よ!
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