苦手な人と共に異世界に呼ばれたらしいです。……これ、大丈夫?

猪瀬

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つかの間の平穏

149 勇者三人組

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カルタ視点

もうすぐ三学期も終わる頃、僕は気分転換にふらりと町を散歩していた。

 戌井にススメられたように、特になにも考えずに迷わないようにだけ気を付けて歩を進めていく。

 歩いているときに、いきなり背後から声をかけられた。

「ちょっとそこの君!メルリス魔法学校の制服を着てる君だよ」

 ……まわりにメルリス魔法学校の制服を着ているのは僕しかいない。

 渋々、振り替えると、そこには軍服のような服を__アスロンテ軍学校の制服を着た男三人組がいた。

 アスロンテ軍学校の制服を見たとたん、メルリス魔法学校に帰りたくなってしまった。

 アスロンテ軍学校とメルリス魔法学校は昔から仲が悪い。

 だと言うのにわざわざ声をかけてきたと言うことは。目をつけられたのかもしれない。

 町でトラブルを起こすことになるなんて勘弁願いたいものだ。

 聞こえなかったふりして、そのまま通りすぎれば良かった……。

 ただ、この三人組、どうにもアジア系の顔立ちをしているのが気になる。

 ……もしかして、この三人が呼ばれてきた三人組なのだろうか?そうなのだとしたら、僕に声をかけるのも頷ける。

「……なんですか?」

 警戒しつつも、それを悟られないように対応する。

「君はもしかして、“日本”の出身かい?」

 やはり、この三人は騎士から聞いた噂の異世界から呼ばれた三人組だ。

 メルリス魔法学校の生徒が一人と、アスロンテ軍学校の生徒が三人揃っている場面なんか、大体がトラブルが起こる前兆と見られているところがある。

 だから、僕たちはあまり人がいない、けれど完全に人がいないわけではない、喫茶店に移動してテラスの席を使うことになった。

 チラチラと店主から視線が来るのは仕方のないことだろう。

 両校の仲の悪さは王都じゃ有名だからな。

 僕は長居する気はないのでアイスコーヒーを一杯だけ、相手は人数分の飲み物とケーキやサンドイッチなんかの軽食を頼んでいた。

「それで、君は日本人なのかな?」

 おそらくはハーフ、人好きのする笑みを浮かべたリーダー各の男が確認を取ってきた。

「えぇ、日本生まれのに本育ちですよ」

「じゃあ、日本人が長い間争ってる戦争ってなにか知ってる?」

 は……?

「……キノコ竹の子戦争?」

「せいか~い!」

 ……正解だといったのはリーダー各の男ではなく不良風も見た目をした人物だった。

 この人、戌井と同じ質の人間かもしれない……。

 一人で外に出るんじゃなかった。

 呆れた様子の僕に、苦笑いにリーダー各の男とメガネの男、メガネの方に関しては歳が近そうだ。

「俺はすめらぎ・サンタニア・ベルヴァーグ、見ての通りハーフの大学生だ」

「オレは多聞 夏月たもん なつき、大学生!」

「ぼ、僕は英 柴はなぶさ しばです。高校生、です」

 上から順にリーダー各の男、戌井と同種かもしれない男、メガネの男。

 この三人の話を聞くところによると、僕たちと似たような時期に、一年半以上も前に勇者候補としてこの世界に呼ばれたらしい。

 一年半以上と言っても、あと三ヶ月程度で二年も時間がたってしまうんだがな。

 三人が呼ばれた理由は戌井が予想した通りのものだった。

 説明された内容は以下の通りだ。

 いずれ、この世界のどこかで世界を破滅させるような厄災が起こると予言が出た。

 予兆らしきものは、北の地にあるアニエス王国にて起こっている。

 現在は解決されているが、いつ似たような事態がが起こってもおかしくはない。

 どうにかできないかと考えた結果、勇者伝説にしたがい異世界の人間を呼ぶことになって三人が呼ばれた。

 三人には、これからこの世界について知ってもらい出来ることならば厄災をどうにしかしてほしい。

 厄災をどうにか出来た暁には三人を元の世界に返すことを確約する。

 異世界から来た人間は死の概念はあるが時間の概念はないに等しいらしく、時間はいくらでもあるし、元の世界との時差は不明だが戻すときは連れてきた時間と相違無いようにするし衣食住と教育を保証する。

 と言うことらしい。

 皇さんが反発したが、荒廃した世界を、つまりは未来を見せられてしまって唖然としている間に話が進んだらしい。

「ハッ、いわゆる詰みの状態にしておいて衣食住や、この世界で必要な知識は保証する変わりに起こってもいない事を解決させようとして、しかも自分達が動く前に他人を呼びつけてそんなことを言うなんて……。最近の詐欺の方がよっぽどしっかりしてる」

 魔法がある世界だから予言者の存在にそこまで疑問を持たないが、内容がきちんとしたものなのかは疑問だ。

 僕の言葉に三人は苦笑いを浮かべる。

「ま、まあ、まあ、俺たちがなにも知らないだけで色々したあとなんだと思うよ。王様も打てる手は尽くしたって言ってたし」

 皇さんも戌井と似たようなタイプ、僕からすると光が強くて目が痛くなってくる。

 キーマンになりそうな人物を呼んで話をしたが、心当たりがあるのか無いのか、まともな話し合いにならずに帰ってしまったらしい。

 真偽のほどは知らないが、話を聞く限りは自分達なりに動いているらしい。

 まあ、最近の詐欺の方がよほどしっかりしてるって意見は変わらないけどな。

「君は一人できたのかい?」

「いや、二人です。戌井永華という名前の金髪に女子高生です。僕と同じメルリス魔法学校に通ってるので、見たらわかると思いますよ」

「……えいか?」

 英が戌井の名前に反応した。

 ……まさか知り合いか?世間は狭いどころの話じゃなくなるんだが……。

「知り合いなのか?」

「あ、いえ、違うと思います。名字違うし……。どこの学校に通っていたんですか?」

 英の問いに答えると、やっぱり違うと言った。

 その子は小さい頃に引っ越してしまったらしい、戻ってきたと言う話しも聞かなかったし、違うだろうと言う話だ。

「話しは変わるけれど、王が異世界の人間を呼んだと知っていたのなら何で保護を求めなかったんだい?というか、そもそも誰に呼ばれたんだ?」

 皇さんの問いに、僕たちが呼ばれたときの状態を説明すると頬をひきつらせてしまった。

 まあ、暴走状態になっているシマシマベアーに追い回されて森で遭難しかけたって話を聞けば、この反応のもさもありなんと言うものだ。

「余裕がなかったと言うのもあるけど、一体誰が信用してくれると言うんですか?」

 こんな話し、信じてくれるのは記憶や心を読める魔法を使ったものか、同じ境遇か、善人くらいだろう。

「王の言う厄災を招こうとする者の手下と思われて処刑されるかもしれない、ただの頭のおかしい者の妄言かもしれない、僕たちを呼んだものが王宮に出向いたことで僕たちも見つけて当初の目的を達成しようと動くかもしれない」

 コーヒーには表情の変わっていない自分が写っていた。

「一人だけなら、その方法を取るのも構いませんけど、二人なので。他人の命まで背負えません」

「キミ、シビアだな」

「疑り深いだけです」

 性格が悪いとも言えるけど。

 王宮に保護を求めなかった理由は色々あるけど、僕たちをあんなところで呼び出して放置した犯人はどこにいるかもわからないって言うのもある。

 絶対ろくでもない理由で呼び出しただろうしね。

 それから情報交換をして、いくつか確認した。

 僕たちが保護を求めた場合は運良くて三人と同じ感じになりそう、運が悪くて問題解決まで牢屋行きかもしれない。

 あやしいけど、厄災の手がかりであると判断される可能性を考慮した結果の結論だ。

 三人の方は厄災について調べているらしいけれど、アスロンテ軍学校に通っていることもあって遅々として進んでいないらしい。

 わかったことと言えば、壊滅していた国は一つどころの話ではなかったと言うことくらい。

 ずいぶんと規模の大きな話だ。

 喫茶店を出て、別れようとしたところで戌井を見つけた。

 だが、だいぶん遠いから声をかけても聞こえないかもしれない。

「皆さん、あそこにいる金髪わかりますか?」

 とりあえず、知っておくだけでもしといて方がトラブルは起きないだろうと戌井の方を指差す。

 そして呼んでみたけれど、案の定反応はなかった。

「あれが僕と一緒に来た戌井です」

「あぁ、あのご機嫌な子だね」

「ぎゃ、ギャル……?」

「ん?あれ…?」

「ギャルではないです」

 皇さんと英の反応は何らおかしいものではなかったが、多聞さんの反応がおかしかった。

「ひっ……!」

 首をかしげたと思えば、ひきつった声をあげて慌てたように皇さんの背後に隠れた。

「夏月さん?」

「ど、どうしたんですか?」

 戌井のいる方向に何かあるのかと思ったが、さっきとは何ら変わらない風に思う。

 トラウマでも刺激してしまったのだろうか?

「さ、さっき、見えちゃった……」

「……何が見えたんだい?」

「血みたいな文字で、文字化けしてて……」

「文字化け?」

 一体なんの事だ?

 訝しげに三人を見つめていると、戌井がどこかにふらりと消えて、多聞さんはそれにホッと息を吐く。

「どう言うことですか?」

「あ~、自己魔法の効果です。多聞さんはバフやデバフが見えるみたいで……はてなはあっても血文字で文字化けなんて見たこと無いから驚いたんだとお思います」

 皇さんが多聞さんをなだめている間に英が説明してくれた。

「制御できるようにしてないのか?」

「多聞さんは魔法が苦手で、制御よりも知識とか優先してたから……」

 なるほど、まあ僕たちの師がマッドハッドさんだと言うのもあるんだろうな。

「……もう、大丈夫ッス。すんません、あーいうホラーものみたいなの苦手で……」

「いえ、別に……」

 本人がこの場にいないし、戌井がいたとしても文句は言わないだろう。

 トラブルは起こったものの、解散することには変わり無い。

 ここで会えたことは僥倖だった。

 そう思うことにして、三人と別れ戌井に情報共有をしようと思い歩を進めていると、ふいに後ろが気になった。

 そこには恐ろしい顔で戌井が消えていった方向を見つめる皇さんがいた。

 背筋に冷たいものが走り、早々とその場を去り戌井と合流する。

「戌井」

「あれ?篠野部じゃん」

「皇さんに気を付けろ」

「え、皇って誰?」

 困惑気味の戌井に説明しつつ、考える。

 少し前まで変な反応をしていなかった皇さんが見せた恐ろしい表情の意味、理由。

 多聞さんが見たものが原因なんだろうか。

 答えがなんにせよ、あの人は腹に一物か変えてそうだ……。
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