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子は鎹
153 真昼の花火
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風邪は完治して、五月に入った。
あの夢を、カライトからの助言を聞いた日から、ずっと僕の頭の中でカライトの言葉がぐるぐると回っていた。
戌井が僕のことを忘れてしまうと言う話。
信用していないし、信じるに値しないと思っている……。
いや、正直、結構影響されてしまっているのは事実だろう。
僕が本当に気にしていないのならば、頭の片隅に置くだけ置いて、少し気にしておく程度だろうからね。
対策をとろうとしている時点で、気にしているも同然だ。
僕がとった対策はいくつかある。
学内は安全だろうとから、問題は外だと判断した。
戌井が街に行くときは不自然になら無いように、荷物持ちや外に用事があると言ってついてくようにいている。
箱庭試験での件や襲撃の件を理由に、何か不審なことがあれば僕にも共有しろと、学外では一人で動くなと言いつけた。
戌井に不思議そうにされたしまったが、誰が誰を狙ってきたのかはっきりしてない事と、戌井が襲撃にあったことを考えると、今もなるべく一人になるべきではないと言ったら納得してくれた。
僕も魔法が使えない事態になったときのために、もしもの時のために、ローシュテールの屋敷に行ったときから持っていた小さいナイフを常に携帯するようにした。
記憶がなくなるなんて外的要因か病気、魔法薬の三つが原因なのではないかと考えた僕は戌井にひとまず外的要因からどうにかするため、ヘルメットかを被せようかと思ったのだが、さすがにやめた。
怪しまれるし、確実に何かあると思われてしまうだろう。
話すことも選択のうちにありはするが、カライトは戌井を嫌っていることから、あまり二人に接点を持たせたくないのでギリギリまで言うつもりはない。
僕の知っている“からいとさん”と、夢に出てきたカライトが関係あるのかは、次にあったときに聞いてみたいとは思うけど。
魔法薬に関しては盛られるか、事故で被ってしまうかだろうけど、ビーグル先輩の例があるから盛られる可能性がないとは言えない。
それらしい効果が出る魔法薬の解毒ような薬を自作して持ち歩くことを対策とした。
事故で被る方は近くにいる限りどうにか出きるだろうし、回りもどうにかしそうだ、戌井の身体能力を考えると自力で避けそうな気もする。
病気に関しては……正直、僕の手に終えることではない。
記憶がなくなる病気の類いなんて、そう簡単にどうこうなるものには思えない。
真っ先にアルツハイマーとか思い浮かぶし……。
もし本当にアルツハイマーだとかの類いなら、帰ることも難しくなるかもしれない……。
病気の場合に関しては……割りきる他無いだろう。
戌井本人の意思で記憶がなくなるなんて、よほどの精神的ショックがないと無理だろうし、これはないと考えていいだろう。
カライトの言葉が正しければ、ことが起きるのは夏休み始めで、今からだいたい残り一ヶ月。
誰かが、この事を知ったなら心配性だと言われても仕方ないだうろが、今の僕は忘れられてしまったら冷静でいられる気はしなかったから。
忘れられることがどれ程の苦痛なのか、経験があるものしかわからないだろう。
忘れられることは、存在否定にも等しいものだ。
思い出したくない、またあの感覚を思い出したくはない。
これだけ対策をしておいて、失敗したとき、戌井が僕のことを忘れてしまったとき、僕は冷静さを保てるのだろうか。
きっと、酷く取り乱すに決まっているだろうな……。
だから、だから僕は……。
僕はできうる限りのことをしていた。
でも、6月には言って3ヶ月にわたる夏休みに入りってすぐ、事は起こった。
永華視点
今日も、朝早くに飛び起きるようにして、目が覚めてしまった。
カーテンを開けて、ベッドから降りる。
時計の針が指し示すのは午前五時だった。
寝ている三人を起こさないように気を付けて、朝の身支度をする。
運動着に着替えて部屋の扉に手を掛けると声をかけられた。
「えーか?」
寝起きらしい、舌足らずな声で名前を呼ばれた。
「ミュー?」
「また走り込み?」
「そうだよ。いつも起こしてごめんね」
ミューは猫の獣人だからか私が部屋を出るころには起こしてしまう。
「いーわよ。でもアンタ、篠野部に一人になるなって言われてなかった?」
「学校の外ではね。学校の中の事は特に言われなかったから大丈夫だと思うよ」
「そう、篠野部も心配性よね。でもえーかだけに言うの、なんか変よね?」
「私が襲撃されたからじゃないかな?」
「あぁ、あれね。確かに、篠野部が心配するのも納得だわ」
「はは……」
私が一番よく面倒ごとに巻き込まれているからだろうな、と篠野部に一人になるなと言われてすぐに思ったし、納得してしまったのは我ながら悲しいことよね……。
しかもミューに納得されちゃったし……。
まあ、事実、私は襲撃を受けたことがあるから篠野部に注意をうけるおもわかる。
なんか、今更かんあるけどね。
「それじゃあ、行ってくるね」
「学校の外、行っちゃダメよ」
「うん」
ミューに見送られて、寮を出る。
本当なら眠気覚ましや学校の授業開始まで暇潰しに街のあちこちを走り回るんだけど、1ヶ月前くらいに一人で出歩くなと言われてしまってからは学校の外周を回っている。
なんで今更、私に襲撃されたことを引き合いに出してまで一人での外出を避けろと言うのか不思議ではあるが、犯人も狙いもわかってないので反論は出てこない。
私としては街をフラッとしたいと思ったときとかに不満は出るんだけど、怪我とかしたくないから私たちの誰かを狙ってくる誰かをどうにかするまでは我慢するしかないだろう。
まぁ、不満と言っても、そこまではないしね。
学校で一人になろうと思ったらなれるし、人が来ない教室とかに行けばいいわけだから。
でも、私に一人になるなと言った、篠野部は妙に焦っているように見えて、それが気になっている。
聞こうにも、いつもはぐらかされて終わってしまうから知られたくないのか、はたまた知らない方がいいことなのか……。
まあ、誰にでも隠し事はあるわけだし、無理に聞き出そうとは思わないけどね。
魔法学校の外周を走り出していくらたったんだろうかとおもって見てみたら、時計は一周していたが私は息を切らしてはいない。
う~ん、この辺りが体力バカと言われる所以だろうな。
校門の前を通ったとき、視界のすみに誰かがいるのが見えた。
校門の向こうにいたのは警備員でも教師でも生徒でもない、元の世界でずっと探していた人物のような気がして思わず足を止め手慌てて振り向いた。
さっきまで人がいただろう場所には誰もいない。
暑さからくる幻覚?いや、まだ六月にはいってすぐでそこまで暑くないから暑さでやられてるわけではないだろう。
学外の魔獣か魔物に幻覚を見せられている可能性も、魔法学校の中だから低い。
もちろん、学外の魔導師が魔法を使っている可能性もない。
学内なら、話は別だけど、学校にはいれるような人間が、こんなことをするメリットなんてない。
「見間違い……?」
見間違い、それが私にとって一番良いことだ。
ずっと、昔から探し続けてきた人間が、この世界にいるだなんて……。
いや、私たちのように呼ばれたのなら、ここにいるのもおかしくはない。
「確認しないと……」
私は篠野部の言っていたとを忘れて、校門の外に走り出していた。
見てから私が走り出すまで、それほどの時差はないから遠くには行っていないはずだ。
魔方陣で木刀もどきを作り出し、片手に握りながら魔法学校から街に一直線に続く道を走る。
「どこだ……」
街の手前まで来たところで、方に手をついて息をつく。
そこで、やっと篠野部の言っていたことを思い出した。
「やばい、一人で外出ちゃった」
振り返って、魔法学校に戻ろうとした時、木刀を持った方の腕を捕まれて引き倒されそうになった。
「っ!?」
街路樹に糸を巻き付けて何とか、引き倒されずにすんだ。
もしかしたら私が追いかけていた相手かもしれないとおもって、相手の顔を見てみたら、冬に私を襲撃してきた三人組と同じ姿をしたやつがいた。
まずった……!
「クソッ!」
篠野部の言う通り、一人で外に出るんじゃなかった。
何とか腕を振り払い、距離をとろうとしたら黒服がゾロゾロと出てきた。
捕まえる気なのか、殺す気なのか……。
どちらにせよ、本気でやるつもりなのは確定だろう。
数の不利を察して魔方陣や木刀、体術を駆使して何とか逃げようとするものの、あの手この手で邪魔してくる。
「オッラァ!」
黒服の一人に蹴りを入れて、何とか退路を確保する。
木刀を放り投げて追手を妨害し、魔法学校に向かって一目散に走る。
一歩踏み出したところで、心臓に握りつぶされるかのような強烈な痛みがはしった。
「がっ!?」
痛みを感じて、転けるように地面にうずくまる。
「あ、あぁっ!」
痛みのせいで汗がボタボタと流れていく。
口からダバダバと血が溢れていく。
なんだこれ、なにが起こってる?
何とか起き上がろうとしたところで、黒服質の押さえつけられた。
「ぐ、ぅ……」
「間に合ってよかったですよ。逃げられてしまうかと思いました」
黒服質に押さえ込まれた私の前に現れたのはピエロの仮面を被った燕尾服を着た、うさんくさい男だった。
「私の名前はモカノフと申します。以後、お見知りおきを」
モカノフと名乗った男の手には藁人形が握られており、藁人形の胸部を思い切り握っていた。
「私は貴女達二人を、お迎えに上がりました。殺す気はありませんので安心してください」
私たち二人?もしかして、篠野部のこと?
狙われてたのは私たちだったのか。
「本当は二人揃って捕獲したかったんですが、仕方がないですね。まあ、貴女がいれば彼は連れるでしょうし、気にすることもないですかね」
どうにかして、篠野部に、誰でも良いから知らせないと……。
魔方陣、無理にでも何か魔方陣で空に魔法を打ち上げれば……。
空に、大きなわかりやすい目印……。
あぁ、ひとつ思い付いた。
「さて、さっさと魔法を使えなくなってもらいましょう。貴女の自己魔法は厄介ですから」
「だったらぁ!最初からそれをしとけばよかったなあ!」
すぐに私と黒服質の真上に魔方陣を作る。
魔法によってうち上がったのは花火、大きなおとで誰でも何かあったことに気がつく。
甲高い音を立てて、空に向かっていったのは花火の種、空高くうち上がって大きな音と共に大輪の花が空に咲いた。
「なっ!」
「はは、間抜け……」
死にそうなほど心臓が痛くて血を吐いているのに必死に魔方陣を組み上げてよかった。
「……はぁ、貴女と良い、あの厄介者と良い、肝心なときに邪魔をする。三十年前の怠惰の一派が失敗した作戦の一部を流用したのが間違いでしたかね。ここまで根性があるとは思いませんでしたよ」
モカノフがゴミでも見るような目で私を見てくる。
「まあ、来るまで時間はあるでしょうから、別の作戦に変更しましょうか。貴女には、全てを忘れてもらいます」
モカノフの言葉と共に首に痛みが走る。
注射器を使われたらしい、なにかを血管の中に注入されてしまった。
「これで最低限必要なことはしました。あとは彼次第ですね。あとは寝ていてください」
ガツンと、凄まじい力で頭を殴られ、私は意識を飛ばしてしまった。
ごめん、篠野部……。
「戌井!」
あの夢を、カライトからの助言を聞いた日から、ずっと僕の頭の中でカライトの言葉がぐるぐると回っていた。
戌井が僕のことを忘れてしまうと言う話。
信用していないし、信じるに値しないと思っている……。
いや、正直、結構影響されてしまっているのは事実だろう。
僕が本当に気にしていないのならば、頭の片隅に置くだけ置いて、少し気にしておく程度だろうからね。
対策をとろうとしている時点で、気にしているも同然だ。
僕がとった対策はいくつかある。
学内は安全だろうとから、問題は外だと判断した。
戌井が街に行くときは不自然になら無いように、荷物持ちや外に用事があると言ってついてくようにいている。
箱庭試験での件や襲撃の件を理由に、何か不審なことがあれば僕にも共有しろと、学外では一人で動くなと言いつけた。
戌井に不思議そうにされたしまったが、誰が誰を狙ってきたのかはっきりしてない事と、戌井が襲撃にあったことを考えると、今もなるべく一人になるべきではないと言ったら納得してくれた。
僕も魔法が使えない事態になったときのために、もしもの時のために、ローシュテールの屋敷に行ったときから持っていた小さいナイフを常に携帯するようにした。
記憶がなくなるなんて外的要因か病気、魔法薬の三つが原因なのではないかと考えた僕は戌井にひとまず外的要因からどうにかするため、ヘルメットかを被せようかと思ったのだが、さすがにやめた。
怪しまれるし、確実に何かあると思われてしまうだろう。
話すことも選択のうちにありはするが、カライトは戌井を嫌っていることから、あまり二人に接点を持たせたくないのでギリギリまで言うつもりはない。
僕の知っている“からいとさん”と、夢に出てきたカライトが関係あるのかは、次にあったときに聞いてみたいとは思うけど。
魔法薬に関しては盛られるか、事故で被ってしまうかだろうけど、ビーグル先輩の例があるから盛られる可能性がないとは言えない。
それらしい効果が出る魔法薬の解毒ような薬を自作して持ち歩くことを対策とした。
事故で被る方は近くにいる限りどうにか出きるだろうし、回りもどうにかしそうだ、戌井の身体能力を考えると自力で避けそうな気もする。
病気に関しては……正直、僕の手に終えることではない。
記憶がなくなる病気の類いなんて、そう簡単にどうこうなるものには思えない。
真っ先にアルツハイマーとか思い浮かぶし……。
もし本当にアルツハイマーだとかの類いなら、帰ることも難しくなるかもしれない……。
病気の場合に関しては……割りきる他無いだろう。
戌井本人の意思で記憶がなくなるなんて、よほどの精神的ショックがないと無理だろうし、これはないと考えていいだろう。
カライトの言葉が正しければ、ことが起きるのは夏休み始めで、今からだいたい残り一ヶ月。
誰かが、この事を知ったなら心配性だと言われても仕方ないだうろが、今の僕は忘れられてしまったら冷静でいられる気はしなかったから。
忘れられることがどれ程の苦痛なのか、経験があるものしかわからないだろう。
忘れられることは、存在否定にも等しいものだ。
思い出したくない、またあの感覚を思い出したくはない。
これだけ対策をしておいて、失敗したとき、戌井が僕のことを忘れてしまったとき、僕は冷静さを保てるのだろうか。
きっと、酷く取り乱すに決まっているだろうな……。
だから、だから僕は……。
僕はできうる限りのことをしていた。
でも、6月には言って3ヶ月にわたる夏休みに入りってすぐ、事は起こった。
永華視点
今日も、朝早くに飛び起きるようにして、目が覚めてしまった。
カーテンを開けて、ベッドから降りる。
時計の針が指し示すのは午前五時だった。
寝ている三人を起こさないように気を付けて、朝の身支度をする。
運動着に着替えて部屋の扉に手を掛けると声をかけられた。
「えーか?」
寝起きらしい、舌足らずな声で名前を呼ばれた。
「ミュー?」
「また走り込み?」
「そうだよ。いつも起こしてごめんね」
ミューは猫の獣人だからか私が部屋を出るころには起こしてしまう。
「いーわよ。でもアンタ、篠野部に一人になるなって言われてなかった?」
「学校の外ではね。学校の中の事は特に言われなかったから大丈夫だと思うよ」
「そう、篠野部も心配性よね。でもえーかだけに言うの、なんか変よね?」
「私が襲撃されたからじゃないかな?」
「あぁ、あれね。確かに、篠野部が心配するのも納得だわ」
「はは……」
私が一番よく面倒ごとに巻き込まれているからだろうな、と篠野部に一人になるなと言われてすぐに思ったし、納得してしまったのは我ながら悲しいことよね……。
しかもミューに納得されちゃったし……。
まあ、事実、私は襲撃を受けたことがあるから篠野部に注意をうけるおもわかる。
なんか、今更かんあるけどね。
「それじゃあ、行ってくるね」
「学校の外、行っちゃダメよ」
「うん」
ミューに見送られて、寮を出る。
本当なら眠気覚ましや学校の授業開始まで暇潰しに街のあちこちを走り回るんだけど、1ヶ月前くらいに一人で出歩くなと言われてしまってからは学校の外周を回っている。
なんで今更、私に襲撃されたことを引き合いに出してまで一人での外出を避けろと言うのか不思議ではあるが、犯人も狙いもわかってないので反論は出てこない。
私としては街をフラッとしたいと思ったときとかに不満は出るんだけど、怪我とかしたくないから私たちの誰かを狙ってくる誰かをどうにかするまでは我慢するしかないだろう。
まぁ、不満と言っても、そこまではないしね。
学校で一人になろうと思ったらなれるし、人が来ない教室とかに行けばいいわけだから。
でも、私に一人になるなと言った、篠野部は妙に焦っているように見えて、それが気になっている。
聞こうにも、いつもはぐらかされて終わってしまうから知られたくないのか、はたまた知らない方がいいことなのか……。
まあ、誰にでも隠し事はあるわけだし、無理に聞き出そうとは思わないけどね。
魔法学校の外周を走り出していくらたったんだろうかとおもって見てみたら、時計は一周していたが私は息を切らしてはいない。
う~ん、この辺りが体力バカと言われる所以だろうな。
校門の前を通ったとき、視界のすみに誰かがいるのが見えた。
校門の向こうにいたのは警備員でも教師でも生徒でもない、元の世界でずっと探していた人物のような気がして思わず足を止め手慌てて振り向いた。
さっきまで人がいただろう場所には誰もいない。
暑さからくる幻覚?いや、まだ六月にはいってすぐでそこまで暑くないから暑さでやられてるわけではないだろう。
学外の魔獣か魔物に幻覚を見せられている可能性も、魔法学校の中だから低い。
もちろん、学外の魔導師が魔法を使っている可能性もない。
学内なら、話は別だけど、学校にはいれるような人間が、こんなことをするメリットなんてない。
「見間違い……?」
見間違い、それが私にとって一番良いことだ。
ずっと、昔から探し続けてきた人間が、この世界にいるだなんて……。
いや、私たちのように呼ばれたのなら、ここにいるのもおかしくはない。
「確認しないと……」
私は篠野部の言っていたとを忘れて、校門の外に走り出していた。
見てから私が走り出すまで、それほどの時差はないから遠くには行っていないはずだ。
魔方陣で木刀もどきを作り出し、片手に握りながら魔法学校から街に一直線に続く道を走る。
「どこだ……」
街の手前まで来たところで、方に手をついて息をつく。
そこで、やっと篠野部の言っていたことを思い出した。
「やばい、一人で外出ちゃった」
振り返って、魔法学校に戻ろうとした時、木刀を持った方の腕を捕まれて引き倒されそうになった。
「っ!?」
街路樹に糸を巻き付けて何とか、引き倒されずにすんだ。
もしかしたら私が追いかけていた相手かもしれないとおもって、相手の顔を見てみたら、冬に私を襲撃してきた三人組と同じ姿をしたやつがいた。
まずった……!
「クソッ!」
篠野部の言う通り、一人で外に出るんじゃなかった。
何とか腕を振り払い、距離をとろうとしたら黒服がゾロゾロと出てきた。
捕まえる気なのか、殺す気なのか……。
どちらにせよ、本気でやるつもりなのは確定だろう。
数の不利を察して魔方陣や木刀、体術を駆使して何とか逃げようとするものの、あの手この手で邪魔してくる。
「オッラァ!」
黒服の一人に蹴りを入れて、何とか退路を確保する。
木刀を放り投げて追手を妨害し、魔法学校に向かって一目散に走る。
一歩踏み出したところで、心臓に握りつぶされるかのような強烈な痛みがはしった。
「がっ!?」
痛みを感じて、転けるように地面にうずくまる。
「あ、あぁっ!」
痛みのせいで汗がボタボタと流れていく。
口からダバダバと血が溢れていく。
なんだこれ、なにが起こってる?
何とか起き上がろうとしたところで、黒服質の押さえつけられた。
「ぐ、ぅ……」
「間に合ってよかったですよ。逃げられてしまうかと思いました」
黒服質に押さえ込まれた私の前に現れたのはピエロの仮面を被った燕尾服を着た、うさんくさい男だった。
「私の名前はモカノフと申します。以後、お見知りおきを」
モカノフと名乗った男の手には藁人形が握られており、藁人形の胸部を思い切り握っていた。
「私は貴女達二人を、お迎えに上がりました。殺す気はありませんので安心してください」
私たち二人?もしかして、篠野部のこと?
狙われてたのは私たちだったのか。
「本当は二人揃って捕獲したかったんですが、仕方がないですね。まあ、貴女がいれば彼は連れるでしょうし、気にすることもないですかね」
どうにかして、篠野部に、誰でも良いから知らせないと……。
魔方陣、無理にでも何か魔方陣で空に魔法を打ち上げれば……。
空に、大きなわかりやすい目印……。
あぁ、ひとつ思い付いた。
「さて、さっさと魔法を使えなくなってもらいましょう。貴女の自己魔法は厄介ですから」
「だったらぁ!最初からそれをしとけばよかったなあ!」
すぐに私と黒服質の真上に魔方陣を作る。
魔法によってうち上がったのは花火、大きなおとで誰でも何かあったことに気がつく。
甲高い音を立てて、空に向かっていったのは花火の種、空高くうち上がって大きな音と共に大輪の花が空に咲いた。
「なっ!」
「はは、間抜け……」
死にそうなほど心臓が痛くて血を吐いているのに必死に魔方陣を組み上げてよかった。
「……はぁ、貴女と良い、あの厄介者と良い、肝心なときに邪魔をする。三十年前の怠惰の一派が失敗した作戦の一部を流用したのが間違いでしたかね。ここまで根性があるとは思いませんでしたよ」
モカノフがゴミでも見るような目で私を見てくる。
「まあ、来るまで時間はあるでしょうから、別の作戦に変更しましょうか。貴女には、全てを忘れてもらいます」
モカノフの言葉と共に首に痛みが走る。
注射器を使われたらしい、なにかを血管の中に注入されてしまった。
「これで最低限必要なことはしました。あとは彼次第ですね。あとは寝ていてください」
ガツンと、凄まじい力で頭を殴られ、私は意識を飛ばしてしまった。
ごめん、篠野部……。
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