苦手な人と共に異世界に呼ばれたらしいです。……これ、大丈夫?

猪瀬

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子は鎹

169 誘導

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カルタ視点

カライトの忠告も忘れて、モカノフの提案に乗り、あとをついて歩いてどれくらいたっただろうか。

 進んでいる方向は王都の西側と言うことしかわからず、途中でいりくんだ道に入ったこともあって自分の現在地がわからなくなってしまった。

 元々、この辺りはスラム街だったと聞いた。

 もしかしたら違法建築で魔法学校のようにいりくんだ作りになっているのかもしれない。

 スラムがなくなったのは、割りと最近のことらしいが……。

 スラム時代の建物を解体するのは、まだ途中らしくちらほらと残っている。

 これ、違法建築で建物が増えていっていりくんだ作りになっているってところだろうか。

 魔法学校はウィンチェスター・ミステリー・ハウスで、ここは九龍城砦って感じだな。

 例え異世界だとしても、似たようなことは起きるし、似たようなことを考えるやつはいるんだな。

 それから更に進み、途中で地下へと続くだろうトンネルに入ったお陰で余計に場所がわからなくなった。

 しかも、この地下通路は生ぬるい風が吹いているし、湿気ていて、薄暗さも合間って不気味だ。

 どこからか人の唸り声が聞こえてくるような……。

 いや、風の音がそう聞こえるだけか。

 ……そうだよな?

 というか、振り返ったからわかったことだが、このトンネルって微妙に傾斜がないか?

 僕が思っているよりも地下にいるのかもしれないな……。

 地下トンネルを進んでいると行き止まりについたらしい。

 モカノフが止まって、奥にある扉を開けて、中にはいるように催促した。

 扉の向こうは階段になっており、上からは明かりが漏れている。

 階段を上りきり、ある一室に案内された。

 その部屋には煙が充満しており空気は淀んで、息がしずらい。

「ちょっと~。また空調おかしくなってるんだけど~」

 恐らくは部屋の主だろう女性……なのだろうか?が魔法を使って部屋の中の空気をどうにかしようと試行錯誤していた。

「地下はこれだから嫌なんだよね~」

 次の瞬間、パッと空気が入れ替わったかのようにきれいなものになった。

「キャシー様、お客人を連れてきました」

 キャシーと呼ばれた、この部屋の主は振り向き、僕を見るとニヤッとギザ歯を見せるように笑って見せた。

「君が篠野部カルタくんだね?」

 名前も知られている……。

「……アンタは?」

「キャシー・シミー、ここの……あ~、いわゆる支部長的な立ち位置になるのかな?まぁ、そんな感じだね~」

 支部長?

 何かの施設だろうと言うのはわかるけど、こんな露出度が高い上に曖昧な回答をするような者が支部長とは到底思えない。

 長命の種であるものが見た目で判断できないことが多いから一概には言えないが、キャシー・ミシーに関しては子供に見えてしまうせいで余計にそう思ってしまう。

 机にはシーシャと食べかけの果物が散乱しており、部屋の奥には服が散乱しており、部屋全体が散らかっているのが目に見える。

 これで良く僕を招いたものだな……。

「キャシー様、私が篠野部様を迎えに言っている間に、また散らかしましたね?」

 ……つまり、数時間もしないうちにこの惨状にしたと?

 恐ろしいな……。

「だって~?お客が来るんだから着飾るべきじゃない?それにお腹空いちゃって……」

 キャシー・ミシーの側近だろうモカノフも呆れた表情をしていた。

「はぁ……キャシー様がすみません」

「いや、別に……」

 何だろう……。

 怪しいは怪しいけど、キャシー・ミシーが本当に子供のなんじゃないかと思えてきたな。

「それで、なんだっけ?」

 ソファにどかっと座り込む。

「私たちに手を貸していただく変わりに、篠野部様に手を貸すのですよ」

「そう。そんで、故郷に帰ることと記憶喪失をどうにかするんだっけ?」

「そうだ」

 ……でも、一体どんな組織が異世界に渡る術を知っていると言うのだろうか。

 降って沸いた違和感は、徐々に僕の思考にかかった霧を張らすには十分だった。

 あれ?僕は、なんで敵の本拠地に丸腰で入るようなことをしているんだろう?

 普段の僕なら、こんな選択はしないはずだ。

 なにより、カライトの警告もあった。

 そうだ……。

 モカノフと一瞬、目があったあとから思考が朧気になって、きちんと考えられなくて、早く辛い現状をどうにかしたくてモカノフについていった。

 なんで、思考が朧気になったんだ?

 “精神に作用する魔法も使える”。

 そう疑問に感じた瞬間、カライトの言葉がリフレインした。

 そうだ、カライトが言っていたことだがモカノフは精神に作用する、洗脳するような魔法が使える。

 その魔法には条件があって、精神的な余裕を失くすこと、精神体な隙になるような何かが必要だ。

 だが、モカノフにお母さんが僕のことを忘れてしまっているのではないかと言う発言ので動揺してしまったから、精神的な隙はできてしまっている。

 精神に作用する、洗脳魔法を使う条件は揃っていることから考えるに、そのタイミングで精神に作用する魔法を使われたんだろう。

 しくじった……!

 精神に作用する魔法を使えると知っていだから、カライトに言われてすぐに対策でも練れば良かったんだ。

 異世界である、元の世界に帰るための調べものや、時間がかかっても確実に帰れるだろう、少なくとも情報を得られるだろう王宮魔導師になるための勉強でそこまで考えている余裕はなかった。

 言い訳にしかならないが、これは完全に僕の落ち度だ。

 疑問が出てきて次から次に思考が動いていく、背筋に冷たいものが走った。

「ふ~ん……。キヒヒ」

 キャシー・ミシーが歪んだチェシャ猫のような笑顔で、こちらを見る。

 その笑みは、まるで勝ち誇っているような笑みで、その目は草食動物を狙う肉食動物の目と同じだった。

「まぁ、君の願いを叶えるのは、僕らの望みを叶えたあとで“生きていたら”だけどね」

 生命の危機を感じ、咄嗟にジャケットの内側、懐にしまっている杖を取り出そうとしたところでモカノフの体術によって弾き落とされ、組伏せられる。

「ぐっ!」

 虚しくも、杖の落ちる音と僕の呻き声が部屋に響いた。

「おっと、思考誘導が解けてしまいましたか。なかなか優秀ですね」

「アンタに褒められたって嬉しくない!」

 どうにか踠いて拘束から逃れようとするが、動く度に拘束する力が強くなり、間接が痛くなるだけだった。

 肩からギチギチと嫌な音が聞こえてくる。

 このままなら、腕の骨が折れてしまってもおかしくないだろう。

 骨が折れると脱出に支障を来してしまうので、一旦抵抗をやめることにして大人しくする。

「私の精神干渉系の魔法は、それなりに得意なつもりだったんですがね。こうも短時間で振り払われてしまうとは」

「さっすが~。キヒヒ、ただの迷い込んだ一般人か何かだったら、記憶を消したりして僕の元で働かせるのもあり何だけど……。“あのお方”からの仕事だから勝手出来ないんだよねえ」

 ヘラヘラと笑い、明らかに僕を見下しているキャシー・ミシーを睨み付ける。

「キヒヒ、冥土の土産に教えてあげよう。僕は虚飾の幹部、キャシー・ミシー、支部長何かじゃないよ」

 “虚飾の、幹部”?

 虚飾って、中が伴わないのに外ばかり飾ることだよな?

 しかも幹部って、一体どう言うことだ?

「じゃあ、おやすみ」

 疑問に誰も答えてくれることはなく、歪な笑みが近づいてくる。

 キャシーが近づいてきたと思ったら、首筋に衝撃が走り、僕は意識を手放した。

 ……最悪だ。
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