苦手な人と共に異世界に呼ばれたらしいです。……これ、大丈夫?

猪瀬

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子は鎹

170 何でだろう?

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永華視点

篠野部くんがいなくなってから、一ヶ月近くが立った。

 先生達や魔導警察が探してくれているが、目撃証言以外の行方が知れそうな情報は全くといっていいほどなかった。

 魔導警察の人に話をするときに、「また、君達か」と言われてしまったことが気になる。

 多分、ローレスくんの解きにお世話になったんだろうけど、またと言われる程お世話になってるってこと?

 記憶を失くす前の私って何やってたんだろ……?

 魔導警察の人に“また”と言われたときにローレスくん達の方を見てみたら目をそらされた。

 これ私たちって言うか、私が何かしている気がする……。

 何やったんだろう、私……。

 あ、それはどうで良くて篠野部くんの話だ。

 魔導警察の人の話によると、王都の西側に向かっていくのを見た人がいるらしいけど、目撃証言だってそれだけ。

 そこから先じゃあ、それらしい人影を見たって話すらない。

 途中から全く証言がないのだ。

 一体どう言うことだと思ったのだが、あの辺りはいりくんでおり迷路のようになっているから目撃情報が無いのも自然なことなんだそうだ。

 なんか、目が覚めてからされた学校の説明と似たようなことを言われたから、迷路みたいになってるんだろう。

 なんで、どこもかしこも迷路みたいになってるの?

 魔導警察の人と話をしたことを思い返しつつ、私は購買に売ってある地図を購入してきて篠野部くんの目撃情報があった箇所に目印をつける。

 地図を見てもわかったが、本当にいりくんでいるし二階も三階も地下あって、多分だけどメルリス魔法学校よりもいりくんでるんじゃないかな。

 これじゃまるで要塞のようだ。

 この辺りを移動するなら皆がしているみたいに箒に乗って、空を飛んだ方が早そう。

 まぁ、魔法が使えない状態である私には出来ないことなんだけどね。

 あぁ、そうだ。

 魔法が使えないと言えば、“神秘の魔法薬”だっけ?二つなが物騒な薬の解毒薬的なものがないか問い合わせとかして、近々ミア帝国の人がメルリス魔法学校に来ることになったらしい。

 曰く、本当に“神秘の魔法薬”が原因なのか、類似品を使われているかどうかの検査をするためらしい。

 後ろ暗いことに使われていたと言う話もあるらしいから、類似品や模造品が出来ているのはそこら辺が関係しているんだろう。

 何が嫌って、血液検査をするから注射をしないといけないことだ。

 解毒薬に関してはあるかどうかの返答はなかったのが気にかかる。

 まぁ、希望は捨てないでおこうと思う。

 魔法が使えたら、篠野部くんを探しに行けたりしないだろうか……。

 いや、あっさりと見つかってしまうか。

「はぁ……」

 広げた地図を見てもため息を吐く。

 記憶を失くす前の私なら何かしら情報を持っていないだろうか。

 私が思い出したくないと言わなければこんなことにならなかったんだろうか。

 そもそもの話、私が記憶を失わなければ良かったのだ。

 唇を噛みしめ、思いが一気に溢れ出した瞬間、ゾワリと冷たいものが背中を撫で、冷や汗が流れる。

 記憶を取り戻したいとか、記憶を失くす前のことに触れるとか、そういったことを考える度に悪寒が私の背を撫でるつける。

 首筋に滲んだ汗を脱ぐって、机に転がしていたペンを握る。

 あぁ、唇が血の味がする……。

 メルリス魔法学校がある位置に印をつけて、それからブレイブ家と言う貴族の家があった場所にも印をつけてみるが、解くに何か見えてくると言うわけでもなかった。

「……変な薬が絡んでるから関係あるかもと思ったけど、何もわからなさそうだな~」

 なんだっけ?憤怒の薬と強欲の薬だったかな?

 ご禁制になってるものを使ってるから、何か繋がりがあったんじゃないかって思ったんだけどな。

「そう言えばローシュテールさん達にご禁制の薬売った人達のアジットってどこだったんだろう?レーピオくんから話は聞いたけど場所までは言ってなかったんだよねえ」

 一ヶ月前に魔導警察の人が来てたんだから聞けば良かったや。

 あぁ、でも、もしかしたら職務上の守秘義務?とかあるだろうから聞いても無駄だったかもね。

 ゴーン……ゴーン……__

 あ、お昼を知らせる鐘が鳴った。

 てことは、もうそろそろ予定の時間か。

 筆記用具と地図を片付けて適当に制服のポケットに突っ込む。

 教室から出て学校の地図を出し、指定された研究棟なる場所を確認して、現在地を確認する。

 記憶を無くしてから、だいたい二ヶ月ちょっとたつ今でも魔法学校の地図は覚えきれていなくて、未だに迷ってしまう。

「えっと……こっちだよね?」

 正直地図を見ても曖昧なところがあるから、ちずがあっても迷わないと言う自信はない。

「とりあえず行こ」

 魔法学校の地図を片手に一先ず進むことにした。



 どうにか、こうにか、地図を便りに進んでいき研究棟なる場所についた。

 少し時間はかかったが指定された時間を過ぎていないことにホッと息をついた。

 途中に迷いかけて焦った……。

「ん~……。あ、ここの部屋だ」

 ここがスノー先輩の研究室か。

 ノックをすると返事が返ってきたので中に入る。

 中はきれいに整理整頓されていて、いくつも研究に使うだろう器具がいくつもおいてある。

「ごめんね。大変なのに、こっちまで来てもらって。今、あんまり長時間この部屋から出られないんだ」

「い、いえ。別に……」

 入ってすぐに恐ろしいものが目に入り、思わず頬がひきつる。

 スノー先輩の後ろにある大きなケースの中には大きな銀色で赤い斑点模様のある蜘蛛が閉じ込められており、その回りを結界魔法で囲んでいる。

 しかも暴れて、威嚇までしている。

 少し離れた棚には蚕の様な大きな虫が鎮座しており、近くにはコロコロと白い毛玉のようなものが転がっていて、一見卵にも見える。

 蚕もどきはモシャモシャと餌だろう葉っぱを食べおり、蜘蛛よりも可愛くはある。

「この子達がいるからさ。あんまり放置していると魔鉄虫が魔法結界しゃぶっちゃいそうで、数時間おきに張り直しているんだ。逃げられると騒ぎになっちゃうし、妖精蚕を食べられでもしたらもっと騒ぎになるし……」

 魔鉄虫は蜘蛛のことで、妖精蚕は蚕もどきのことだろう。

 素直に言うなら今すぐにこの部屋から出ていきたい。

「え、えっと……それでなんのようでしょう?」

「あ、そうそう。これを渡したかったんだよね。はい、開けていいよ」

 差し出されたのは木箱で、言われた通りに開けてみる。

 そこには様々な太さの糸が巻かれた、少し大きめの駒巻きが大量に入っていた。

 一つ取り出して見てみると駒巻きに巻かれたか細い糸が光に反射してキラキラと輝いている。

「わぁ……」

 その美しさに見惚れ、簡単の声が漏れる。

 これを渡した張本人であるスノー先輩はニコニコと嬉しそうにしている。

「この蜘蛛は魔鉄虫、蜘蛛の一種なんだけど吐く糸が特殊なんだ。狂暴な程、吐く糸が鋼のように固く、切れにくくなる。しかも魔力が流れやすい」

 ガタンと魔鉄虫が入っているケージが揺れて私は驚くが、スノー先輩は慣れてしまっているのか無反応だ。

「こっちの蚕は妖精蚕といって、餌と交換で糸をくれるんだ。この糸も切れにくい、しかも燃えにくくて汚れも簡単に落ちるし長持ちするよ。お高めの服とかに使われてるんだ」

 ふむふむ……。

「他にも色々と混ぜて頑丈で燃えにくい糸を作ったんだ。君の自己魔法に会わせてカスタマイズしたのさ。君が気にしてた糸の耐久性や燃えやすさ、切れやすさを重点的にカバーしてみた」

 う~ん、とりあえず燃えなくて切れづたい頑丈な糸だと思えばいいのかな?

「あ、魔鉄虫は無理だけど妖精蚕、触ってみる」

「いや!いいです!自分虫ダメなんで!」

「あら、そうなの?じゃあ仕方ないね」

 確かに妖精蚕はもふもふしているけど虫は虫なんだよ。

 しかも私の頭よりもでかいの……。

「……あの」

「ん?」

「私の自己魔法に会わせて作ってくれたのはありがたいのですが、この一番細い糸って本当に簡単に切れないんですか?」

 裁縫で使う糸並に細いんだけど……。

「君が懸念するのもおかしくはないだろう。自己魔法でその糸をを使って重たい物でも持ち上げて……って、確か__」

「記憶を思い出すまで使わないようにと……。私も良くわかっていないですし」

 まぁ、ザベル先生が自己魔法関連で何かあれば言えと、言われていた建前なんだけどね。

「そうだったね。ん~……ちょっと貸して?」

 先輩に言われるままに一番細い糸を渡してみると、空中に投げて遠慮なしの攻撃魔法をぶつけた。

 いきなりのことに慌てるも、スノー先輩は特に変わった様子はなく、地面に落ちた糸を拾い上げて私に見えるように掲げて見せた。

「……あれ?壊れてないし、焦げてもない?」

「この糸の強度、わかったかな?」

 これは……。

 スノー先輩がドヤ顔するのも頷けるものだ。

 さっきのは爆炎系の魔法だっただろうに、燃えてないし煤もない。

「凄いですね」

「でしょう?じゃあ、記憶を取り戻したら、これ使ってレポート出してね」

「あ、はい」

 糸を箱の中にしまって、箱の上に紙をバサッと置いてきた。

 これ、結構分厚くない?

 この分厚い分、レポート書かなきゃいけない感じなの?

 今すぐ投げ捨てたい……。

「……にしても、不思議だよね」

「え?何がですか?」

「なんで、犯人はこんなことしたんだろうね?」

「……“こんなこと”?」

「そう、君を襲撃したり何かしらの薬を投与したり、かと思えばパーティー会場の襲撃。で、恐らくは篠野部くんがいなくなった件にも絡んでるんでしょ?」

 やっぱり、私の襲撃の件と関係があると考えるよね。

「君に対する攻撃性の高さ。一ヶ月前のあの日に篠野部くんを唆したか何かで連れていっているのに、君には何もない。それに襲撃のときは、いつもある程度たったらあっさりと引いた」

 襲撃当時のことはわからないんだよな……。

 でも、先輩の疑問もわかる。

 私の時と、篠野部くんのとき、扱いの差があるような気がする。

「ま、何があるかわからないから気をつけてね」

「はい」

 私は疑問を胸にしまい、スノー先輩の研究室を後にした。
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