苦手な人と共に異世界に呼ばれたらしいです。……これ、大丈夫?

猪瀬

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子は鎹

174 心配お掛けしました

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さっきまであったはずの気分の悪さを忘れて、私は職員室に飛び込んだ。

「ザベル先生!」

 さっきまでの様子とは大分違うせいか、ザベル先生は慌てて駆け寄ってくれた。

「どうしたんですか!?」

「思い出したんです!」

「え!?」

 篠野部ほどではないが表情が変わりにくいザベル先生が目を見開いて驚いていた。

「ど、どうやって__」

「そんなことどうだっていいんですよ!私を襲ったやつらは篠野部のことも狙っているかもしれないんです!」

 職員室が一気にピリついた。

「アイツ、“モカノフ”って名乗ってたやつが「貴女達二人を、お迎えに上がりました」って言ってたんですよ!」

「それだけじゃあ、篠野部くんが狙われてるとはいえないでしょう?」

 よく知らない教師が口を離さんできたが知らない。

「彼って言ってたから、確実に男です。それに、篠野部はアイツらが来る前からやけに私に一人で外出するなと言ってた。全てでなくとも、何かは知ってる!」

 少なくとも、私に危険が及ぶようなことが起こるとわかってて、私に一人で外出するなと言っていたんだろう。

「ピエロのやつ、あの集団のリーダーをしてたやつが“モカノフ”と名乗ってました」

「なるほど……。“モカノフ”について調べれば何かわかりそうじゃな」

「本名とは思えませんけど、調べないよりもましです」

 こうして、魔法学校から魔導警察に連絡がいって“モカノフ”について調べられることになった。

 私は劇物を飲んだ後だと言うこと、さっき吐いたせいで顔色が悪いこともあって寮に戻って休むように言われた。

 そんなことしてる場合じゃない、アイツらは平気で呪いを使い、平気でご禁制の薬を使うようなやつらなのだから。

 そういっても今でいることはないと言われてしまい、マーマリア先生の手によって寮の部屋に放り込まれることになった。

 さっき吐いたから、なるべくシェイクしないでほしい。

 部屋からでて私一人で探しにいこうと思ったが、私の行動は読まれていたらしく、同室であり友人の三人を見張りとしてつけられてしまって、抜け出せなかった。

「はぁ。ミュー……」

「ダメよ」

「……」

「ダメですわよ」

「まだ、何もいってな__」

「ダメ」

「……」

 泣くのを必死にこらえている友人三人相手に、どう立ち回ればいいと言うのだ。

「貴女が血を吐いて、頭から血を流して、しかも記憶をなくして、私たちがどれほど悲しくて心配したか……」

 それを言われてしまえば、私は何も言えなくなってしまう。

「篠野部もいなくなって……。篠野部が心配なのはわかるけど、また危ないことに飛び込んでいくの!?」

「……でも……」

「でももだってもないわ!」

 ミューは目から大粒の涙をこぼした。

「あ……はい」

 ミューが泣いてるところなんて、初めて見たかも……。

「アタシ達、別に篠野部くんを助けに行くなとは言ってないわ。でも、今は情報なんて無いに等しいの。行くのなら、ローレスくんの時のように情報がある程度あって、計画も練ってからよ。だから、待ちなさい」

「しのくんが危ない目に遭ってるかもしれないって心配になるのはわかりますけど、まずはえーちゃんが全快しなければなりませんわ」

「……はい」

 他にも色々言われて、反論も何も出来なくなった私は三人の言うとおり大人しく寮の部屋にいることになった。

 三人以外にも、各方面の方々から心配や説教、今の状態を気にする言葉や手紙をもらった。

 私、多方面に心配をかけたんだな……。

 怒られていると言うのに、嬉しくなるのは普段はこんなことがないからだろうな……。

 しんみりとしつつも手を止めるわけもなく、記憶をなくしている間に購買で買って印をつけた地図を取り出した。

 篠野部の目撃情報があったのは、西側だ。

 いりくんでいる道にはいる少し手前のあたり、そこから先の目撃証言は全くと言っていいほどにない。

 気になるのは、ブレイブ家も少しずれてはいるが西側にあると言うことと、ブレイブ家に関する噂で西側関連のものがあると言うことだ。

 その内容が“スラムから子供を拐っていた”や“無くなったスラムの人間たちを使って人体実験してる”と言ったものだ。

 西側はスラムがなくなった今でもなお、ギャングなんかがいて治安が悪いから濡れ衣の可能性があるけどね。

「憤怒の薬と強欲の薬を売った連中のアジトの位置も知りたいな」

 これが偶然でないと言うのならば、ずいぶんと前から私たちの存在は知られており、向こうは気を伺っていた……。

 モカノフの発言を考えると、故意に私を記憶喪失にするつもりだったようだ。

 でも、“神秘の魔法薬”は記憶を失くすような効果はないし、私が記憶を失くした原因は頭を殴られたことが原因だろう。

 だが、頭を強打して確実に記憶を失うのかといわれれば否と答える他ない。

 医学に詳しくない私だって、そう言うだろう。

 私を殴っただろう鈍器に何か細工がしてあったのかもしれないから、そこらへんは鈍器を見てみないとわからないことだから今はなんとも言えないので一旦置いておく。

 でも、故意に私を記憶喪失にさせたと言うことは篠野部が忘れられることが地雷であると言う事実を知っていてのことなのかもしれない。

 自分でも考えすぎと思いはしたが、わざと私を記憶喪失にさせた理由は篠野部の地雷を刺激するため以外に思い付かなかった。

 魔法についての記憶を消して戦力を削る作戦なのかとも思ったが、それならば“神秘の魔法薬”を投与したことで解決するはずだ。

 けど、篠野部の地雷を踏んで、どうするつもりだったのか……。

 結果的に私たちに対して本人がそのつもりがないにしろ、距離を置く状態になっていた。

 篠野部が一人になりやすい状態に仕向けたかったのなら、大回りな気もするがうまいことしたものだ。

 その証拠として篠野部は姿を消してしまったのだから。

 まだ犯人がモカノフだと決まっていないから早計と言われるかもしれないが、私はモカノフが篠野部がいなくなったことに関与していると確信していた。

「それにしても、篠野部は何で私に一人に外出するなって警告できたんだろう?」

「なにかで気がついたとか?」

「なにかって、何?」

「永華はブレイブ家も関係あると見てるのよね?なら、ブレイブ家になにかあったとか?」

「それなら魔導警察や軍が把握しているのではないのですか?」

「あ、そっか……」

 屋敷に幻覚魔法をかけていろんな証拠や見られたら困るものを隠していたローシュテールが気絶して魔法が溶けているから隠れている物もないはずだ。

 何か隠しいてるのなら家捜しした魔導警察や軍が見つけているはずだからね。

「……誰かが警告した、とか?」

 ララがポツリと呟いた。

「アタシ、兄さんに聞いたことがあるのだけれど、ある組織を潰そうとしたときに潰そうとしている組織と敵対している勢力が協力を申し出てきたことがあるのよ」

「あり得なくはないけど……」

 なら、なんで篠野部だけに話をしたんだろうか。

 多分、私が記憶喪失にならなければ篠野部は一人で行動時間を増やさずに誘拐や連れていかれるタイミングがなくなっているはずだ。

「ん~……」

「これならいっそのことブレイブ家の、ここ最近の動向も調べてもらったらどうかしら?アタシから兄さんに手紙をだしましょうか?」

 関係がないとも言いきれないだけで、ブレイブ家の情報で進展するかは微妙だ。

「……そうだね。お願いしても良い?」

「えぇ、まかせなさい」

 人身売買事件を始め、騎士に世話になりっぱなしだから、いつかお礼の品でも持っていかないと行けないな。

 パンでも作れば喜ぶかな?

 そんなこんな頭を回転させ、色々と考えているうちに消灯時間になってしまって、この日はお開きになった。
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