苦手な人と共に異世界に呼ばれたらしいです。……これ、大丈夫?

猪瀬

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子は鎹

182 案の定

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軍人さん達に囲まれて歩くこと数分、今のところ何も起こってはいない。

 念のために、と優男にいわれて杖と私の糸を取り上げられてしまっているのが気がかりではある。

 手錠をかけられているわけでもないし、杖を盗られたこと以外なにもされていないから大丈夫だとは思うんだけどな……。

「そういえばさ、なんでこの人達に対して辺りが強いの?」

 ララに近づき、ララ以外には聞こえないくらいの小さい声で話しかけてみる。

「兄さん、若くして出世しているの。当然、それをよく思わない人がいて、この人達がそうなの。まぁ、何人かは違うんだけどね」

「うわ……。なんか、騎士に向けられる感情って両極端気味だね」

「ほんとにね……」

 見た目が良いから行為を向けられたり、家柄が良いから取り入ろうとしてる人がいたり、出世の早さを理由に人に恨まれたり……。

 あの人、絶対色々と大変な思いしているんだろうな……。

 それはそうとして、ララから今いる軍人さん達がヘラクレスの事をよく思っていないときいたから思ったけど、これ大丈夫じゃないかもしれない。

 この場で襲撃されること以外は何かあることはないだろうけど、軍の施設にいったあとが問題でしかないな。

 軍の施設にいったらどうなるんだか……。

 もしかしたら、ヘラクレスの不利に働くようにするためにろくに私たちの話を聞く気はないのかもしれない。

 まぁ、そうでない人達もいるらしいから、その人達に期待するしかないかな……。

 何人か不服そうな人がいる理由って、多分反ヘラクレス派っていえばいいのかな?そんな感じの人達だけで組めなかったから何じゃないかな。

 まあ、班わりなんて上が決めるだろうから、思っていた通りにならなのは通例か。

 さて、これからどうなるんだろう。

 本当に何もないまま軍の施設につくと良いな……。

 襲撃とか無いと良いな……。

「あれ?」

 軍人さん達についていっていると、聞き覚えのある声が聞こえた。

「あ、やっぱりだ!最近、全然店にこねー同郷の嬢ちゃん!」

「あれ?日之出の店主の佐之助さん?」

 声をかけてきたのは、入学してからあまり時間がたってない頃に商店街に夕飯の買い物に行ったときに篠野部が見つけてきた醤油とか味噌を売ってるお店の人だ。

 篠野部に一人で外出するなと注意されてたし、襲撃受けたりしたから夏休みになってから一回も行ってなかったんだよね。

 ローシュテールの事件の時も外出控えていた事もあったから“全然店に来ない”っていわれるのも納得だよね……。

「そうだよ。全然こねーからてっきり帰ったのかと思ったわ」

「卒業もしてないのに帰れないって……。色々と巻き込まれてて、安全のために引きこもってたの。冬休み開けと夏休み両方ね」

 今思えば冬休み明けの襲撃ってモカノフの手先か何かだったんだろうけど、当時の私たちは何も知らないからローシュテールの手先にしか見えない買ったんだよねえ……。

「まじかよ、災難だな。で、今もか?」

 佐之助さん察しが良いな。

 いや、軍人さん達に囲まれてるのに何もないと思う方が無理あるか。

 ……それなのに私たちに話しかけるのって、佐之助さんの度胸すごいな。

「うん、まぁ……。ヘラクレス・アリスってわかる?」

「おう、騎士の兄ちゃんだろ?昨日の夜うちに来たわ」

「え?」

 佐之助さんの予想外の発言に軍人さんも私も固まる。

 ヘラクレスが昨日の夜に日之出に来ていた?

「そ、それは何時の出来事ですか?」

 軍人さんの一人、恐らくはヘラクレスに対して悪い感情を持っていないだろう人が佐之助さんに問いかける。

「ん~……閉店のちょっと前だから、十一時半は過ぎてたんじゃねえの?うち日が変わる頃に閉めるし」

「……兄さんが容疑者になってる事件の、殺された人達の死亡推定時刻って、どれくらいなの?」

「午後十一時三十分から日を跨ぐか跨がないかくらいだと……」

 佐之助さんの証言が正しいのならば、容疑者であるヘラクレスが反抗を行うのは難しいと言うことになる。

「やっぱり、兄さんじゃないじゃない!」

 ギャンッとララが軍人に噛みつく。

「で、でも、そう言う魔法かもしれないでしょう?」

「兄さんが分身の魔法なんて使えるわけないでしょ!魔法の才能なんて、微塵もないのに!」

「君たちの誰かが協力した可能性もある!」

「無いわよ!あの日は襲撃があってから一日ずっと同室のメンバーと一緒にいたもの!そもそも、その日だって兄さんと会えたのは襲撃犯を引き渡す時だけよ!」

「そのときに何かしたんじゃないのか?襲撃を受けたっていう金髪の子は魔方陣が得意だそうじゃないか」

 なんで知って……。

 協力者かもしれないから調べたのか。

 一応、魔法は使えないことになってるんだけど、それを知ってるのも先生とミア帝国の人と篠野部、あとはマッドサイエンティストとビーグル先輩だけなんだよなあ……。

 魔方陣なら魔力を注ぐか、発動条件を満たせば良いだけだから疑われても可笑しくはないよね。

 やってないけど。

「……何がどうなってんの?」

「騎士が殺人事件の容疑者になってて、協力者疑惑かけられてる私らを尋問するために軍の施設に向かってる途中。騎士は一番最後に死んだ奴の牢屋にはいったことと、鍵をもってたっていうか、上着にあったから疑われてる」

「なるほど……?」

 佐之助さん、なるほどと言いつつ首をかしげている。

「渡すタイミングが無いと言っても、透明化の魔法を簡単に使える生徒がいるだろう。その生徒と親しい仲らしいし、仲介役でもしたんじゃないのか?」

「篠野部は二ヶ月前から行方不明だよ。軍人さんの癖に、そんなことも調べてないわけ?」

 そう煽り気味に言ってみれば、キッと睨まれた。

「貴方達、もしや兄さんの足を引っ張りたいだけで、まともに捜査してないなんてことないでしょうね!?」

「そっちこそ、身内可愛さに犯罪を見過ごしてるんじゃないのか?」

「待て待て待て待て!往来ですることじゃないし、ヘラクレスが犯人だと決まったわけでもないだろう?」

 今にも掴み合いの喧嘩に発展しそうなのを、まともそうな軍人さんが止めにはいる。

「なぁなぁ、嬢ちゃん」

「ん、何ですか?」

「分身の魔法って、どんな感じになるんだ?」

「ん~……制度にもよりますけど、私達一年生レベルだとするなら本人の動きをトレースしただけの人形になりますかね。喋るのはできるけど、大分ぎこちなくなるはず……」

「それなら可笑しくねえか?店に来た騎士の兄ちゃんは、はっきり喋ってたぞ?「妹経由で友人に聞いたレシピを試すために来た」って言ってたしよ」

 そういえば、三学期が終わる直前にたらこの作り方教えろとか言われてたような……。
 
「それ、本当?」

「確かに聞かれてたわね。なんだっけ?魚卵の……」

「塩漬けしたやつだよ。たらこね」

「嬢ちゃんたらこ漬けれるの?」

「祖母直伝です。それでバイスの町にいた頃に食べた、たらこパン再現するって言ってたな……」

 あれ?そういえば私も、そのころに食堂の人の了承得てたらこを漬けてなかったっけ?

 ヤバい、使いきってない“たらこ”どうしたっけ……。

「なら可笑しくないか?さっき、その子が言ったみたいに分身の魔法をこの子達のどちらかがかけたとしても、そんな会話できないはずだ」

「そもそもさ、荒事なれてるタイプの騎士の兄ちゃんが分身の魔法使ってんのに、牢屋にはいる姿見られることや鍵持って疑われるなんて間抜けな真似するか?」

「てかさ。鍵って、複製しようと思えば簡単に出きるから証拠になりにくくない?」

 鍵、勝手に複製されて不法侵入された事件なんて山ほどあるからね。

「軍の施設でそんなこと起きるわけないだろ。外部の人間が入れるわけがない」

「なら裏切り者でもいるんじゃないの?あの襲撃犯達の一人が魔法学校の生徒だったみたいにさ」

 場に緊張が走る。

 私のいってることが事実ならば、軍部の不祥事まったなしだ。

「我々を侮辱しているのか?」

「何よ、永華が言ってるのは可能性の話でしょ?それとも心当たりがあるわけ?」

「あぁ、もう!そこ、喧嘩しない!」

 でも、そうだと言うのなら何が目的でこんなことをしたんだろうか?

「そもそも、騎士は何て言ってたのさ」

「“その時間帯は教えてもらったレシピを試すために買い物に出ていた。牢屋には入っていないし、鍵も日が暮れる前に定位置に返したから持ってるわけがない”といって、貴方の名前を出したんですよ」

 私が呼ばれた理由ってそれか。

「その話がでてなんで佐之助さんに話聞きに行ってないんですか?」

「いや、俺、昨日店閉めてから、さっきまで王都の外にいたんだわ。店にも張り紙してたんだけど、ほんとが今日もいないはずだったんだけどな」

「そうなんですか?」

「そう。仕入れとかのために港に言ってたんだけどよ。港のおっちゃんに船が事故って全部パアになったって言われて、確認したら俺のもダメになっててな。泣きながら帰ってきたんだわ」

 ……。

「御愁傷様です」

「はは……てなわけでいても意味ねえから帰ってきたんだよ。その人達は張り紙をみて俺がいないって思ったから嬢ちゃん達から先に話を聞こうとしたんだろ」

 佐之助さんの言葉に反ヘラクレス派じゃない軍人さんがうなずく。

 なるほど、一応先にこっちに来た理由はあったと……。

 ヘラクレスを陥れるために、捜査しなければ行けないのに家庭を省いたのかと、無駄に疑ってしまった……。

 それにしてもだ。

 日之出に入ったヘラクレスが本人であるのならば、牢屋には行っていた目撃証言があるヘラクレスは一体なんだというんだろうか。

 それに、鍵は返して持っているわけがないといっているのにも関わらずヘラクレスの上着から見つかったことも違和感がある。

 鍵は本当に複製しよう思えばできちゃうしな……。

 そう考えていると、町の人が多くいる方向から叫び声が聞こえてきた。
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