苦手な人と共に異世界に呼ばれたらしいです。……これ、大丈夫?

猪瀬

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異世界旅行

223 火柱

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下層へと下りる際に、上層とは比べ物にならない強さの魔物に追いかけ回されたり、真っ当ではないモノに追い付かれそうになったりしつつ、もう下から数えた方が早いんじゃない勝手ぐらい下に下りた。

 ここまで下りてもカムラさんが見つからないことを考えると、キノさんが聞いた目撃情報は他人の空似の話だった可能性や、既にすれ違ってしまっていてカムラさんがダンジョンの外にいる可能性すら考えてしまう。

「ねえ、キノさん、本当にカムラさんダンジョンにいるの?」

「いるはずなんだけどなあ」

「すれ違いとか嫌なんですけど……」

「ギョエエエエ!!!!!」

「コカトリスだ!燃やせ!」

「またかい!」

「カムラ~!!どこ~!!」

 コカトリスは雄鶏と蛇を会わせた姿をした魔獣であり、まだ治療が出きる石化の力と、ほとんど治療ができない毒を持っている。

 遠距離攻撃が出きる冒険者初心者いない場合、会適したら恥を投げ捨てても逃げろと言われる魔獣である。

 ザベル先生からは会ったら初手で炎魔法を当てて焼き鳥にしろ何て言われたぐらいである。

 またもやコカトリスの丸焼きが出来上がったが、これいったい何体目のコカトリスの丸焼きなんだろうか……ってくらいには焼いてる。

 一角鷲に関しては迷い混んだダンジョンとは全く関係のない魔獣なので、最初の三階層付近から見なくなった。

 更に一階層下りたときの事だ。

 森の左側から火柱が上がった。

「ひ、火柱?」

「カムラさん?」

「わ、わかんないけど、誰かいるのは確定だよね」

 カムラさんかどうか確定できないものの、人がいることは確定した。

 これでカムラさんでないのならば巻き込まれる者が増えるだけではあるけれど、カムラさん本人であるのならば情報を得ることと同時に状態をどうにか出きるかもしれない。

 これでカムラさんでもなく、そもそも冒険者とかじゃなくて魔獣だったら普通にぼこぼこにする自信がある。

 さすがにやばいものに追われながらダンジョンを下るのは疲れる。

 どれであれ、あの火柱、私が知っている炎魔法で出した物にしてはだいぶん太いものだった気がするんだが……。

「ドラゴンを倒せる者は魔法の威力もけた違いなのか?」

「かもしれない……」

 ネレーオさんだって生き残る才能は別格のモノだったし……。

 火柱を見たとたん走り出したキノさんを追いかけていく。

 急いで走って、というかキノさんが私たちを置いていく勢いで走っていくのに私たちが必死についていっている状態になっている。

 家出した、1ヶ月も行方不明だった妻を見つけた旦那の行動としては何ら間違っていないんだけれど、いつ命をおとしてもおかしくないダンジョンの中で同行者をふりきりそうな勢いで走らないで欲しい。

「カムラ~!!」

「キノさん、キノさん待って。カルタが死にそうになってるから、待って。ちょっと、キノさん。ちょっ……待ってつってんでしょ!!」

 もはやカムラさんしか見えていないキノさんは私の言葉なんて聞こえていないらしく、走る勢いが衰えないままに飛び出てきた魔獣すら蹴飛ばして森のなかを邁進していく。

 あまりにも私の声が届かないものだから、思わずキレ気味になってしまったが、仕方のないことだと思いたい。

「はぁ……はぁ……はぁ……む、むり……。離して……置いてけ……」

「ちょっと、その言葉地雷だから無理かな!!」

 キャシーに捕まっていたときのカルタの置いていけ発言が原因である。

 キノさんがあまりにも全力疾走するものだから、カルタが途中でふりきられそうになって、はぐれたら危ないと咄嗟に手を掴んでいたのだが……。

 うん、完全に裏目に出ている。

 体力バカと言われる私もずっとダンジョンを下へと下っていることから、段々としんどくなってきているのだからカルタは息切れするのも無理はないだろう。

 そのうちに焦げの匂いが強くなり、開けた場所に出たと思ったら視界には焦土が広がっていた。

「はぁ……はぁ……。なにこれ……」 

 きれた息を整える。

 いや、いくら火柱がたったからって、だからって焦土になる?

 本当に草の根すら残ってないし、ぬかるんでいる箇所が多々ある、このダンジョンの地面が完全に炭化してひび割れてるんだけど……。

 その割に、回りの植物なんかに延焼は全くしていない。

 燃やされただろうものは灰一つすら残っていないし……。

「はぁ……はぁ……はぁ……はぁ…………。ず、いぶんと……腕が、いいのが……すう……いるな」

「いや、同感なんだけどさ。大丈夫?」

「はぁ、死にそう……」

 ダメだこりゃ……。

 カルタは完全に肩で息をしてしまっている。

「はぁ……すぅ……ふぅ……。湿地のような土地でこの有り様、延焼も無し、あの派手な火柱。火力も、魔力操作も、相手への牽制も、全て魔法学校の先生たち並み。……いや、先生たち以上か」

 仮にこれをの犯人が意志疎通がちゃんととれる状態だったとして、私たちが疑っているみたいにSDSサイドのものだった場合、私たちは勝てないな。

 逆にこれがカムラさん、カムラさんがSDSの被害者であるのならば、私たちが怯える心配なんて意味はないんだけど……。

「ねえ、カルタ」

「なんだ?」

「私たちが、この焦土に唖然としてる間にキノさんがどこかに消えちゃったけど、どっちいったと思う?」

「とりあえず、まっすぐ進んでいたと思うんだが……」

 私たちが怯える意味なんて微塵もないんだけどさ、ビックリしてたり、息を整えていたりしている間にキノさんのこと見失っちゃったから、それはそれでやばいよね。

「どうしよう……。まっすぐ進んでみる?」

「悪いが、走れないぞ。もう体力なんてミリで単位でない」

 とりあえず、先に進んでみることにしたが、キノさんの走るスピードと私たちの歩くスピードじゃ違いすぎるから、どこかでこの火柱の犯人を捕まえていない限り、一生追い付けない気がする。

「潔いけど、体力つけようね?」

「君たちがおかしいんだ。体力バカ」

「でも、ダンジョンの中で味方に置いていかれるのはね?」

「これに関してはキノさんが悪いだろ……。正直、責められないけどさ」

「うん、まあ……。わかるけど」

 キノさんの様子や、話していた惚気を考えればMバレンティノ夫婦の仲は冷めきっているとか言うわけでもなく、熱々なんだろう。

 そんな夫婦の嫁さんの方が犯罪組織に狙われてる状態なのに家出して、目撃情報もあるとはいえ一ヶ月もの間、行方知れずだったのだから、嫁さんがいるかもしれないと言う証拠を見つけたら、キノさんのようになるのも納得だ。

 う~ん、でもやっぱり文句だけは言わせて貰おう。

 ダンジョンの奥の階層で仲間、というか同行者を置いていくのはいかがなものかと思う。

「カムラさん!俺がどれだけ心配したと思ってるんだ!?」

「あ、いた」

「いたな」

 よかった、それほど距離は離れてなかった。

 火柱が上がっただろう焦土から少し離れたところには怒っていてカムラさんだろう女性の肩を掴んでいるキノさんと、ポカンとした表情でキノさんのことを見上げている女性がいた。

 あのザ・魔女みたいな格好をしたグラマラスなで妖艶な、どこかの国の女王様のような勝ち気そうな美人がカムラさんのようだ。

 耳がとんがっていることを見るに、魔族か妖精辺りの血は入ってそう。

「というか、なんでほぼ最下層にいるんだ?いつもは浅い層にいるだろうに……。君は狙われのみなんだから、あんまり一人でどこそこへいかないでくれ!喧嘩の件なら謝るから、心臓が潰れるかと思ったんだぞ」

 キノさんの説教にカムラさんはだんだんとシュン……としてきた。

「ご、ごめんなさい……。でも、ワラワはそう簡単には負けないぞ?」

「嫁を心配して何が悪いの?俺が同じことをしたら、こっぴどく叱るでしょう?」

「それはそうだろう。キノはか弱いに人間なのだぞ」

「俺のことをか弱いって思うの、カムラだけだよ」

 カムラさん、だいぶ尊大である。

 本当にどこかの国の女王様だったのかもしれない。

「二人とも~……」

「よく声をかけれるな」

「いつまでもこの状態じゃってわけにはいかないでしょ。後ろからやばいの来てるんだから」

 ちょっと控えめではあるが、私が声を二人にかけたらキノさんははっとした様子でこちらを振り返ったし、カムラさんは不思議そうにこちらを見ている。

「ごめん、二人とも。置いていっちゃった……」

「誰だ、そなたらは?知り合いか?」

「うん、そうだよ。宿屋であってね。巻き込んだ、というか向こう的には好都合だったのか……一緒に追いかけられ中だよ」

「と言うことは、この子供たちも暴食に狙われているのか?何をしたんだ?」

 何をしたって言うか、なにもしてないって言うか……。

「僕たちは特になにもしていませんよ。せいぜい、虚飾の幹部を倒したくらいです」

「あの一番弱いのを?幹部たちは仲間意識が強いから、変な話ではないが……」

「異世界から来た人間だから、そこらへんが関係してるんじゃないですか?」

「異世界?と言うことは……」

 カムラさんが何かを考え、口を開こうとした瞬間、ダンジョンが揺れた。

 来た方向の植物が枯れているのが見える。

 真っ当ではないモノが同じ階層に現れたのだ。
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