苦手な人と共に異世界に呼ばれたらしいです。……これ、大丈夫?

猪瀬

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異世界旅行

232 山中の霧

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 故郷のためが一人、旦那家族のためが一人、刀のためが一人、勝手に厄介ごとに突っ込んでいった知人たちについていくのが一人。

 そんなパーティー編成でギルドに向かうと、ちょうど神鋼龍の住みかである山に向かう部隊を冒険者と国軍の混合で組んでいるところだった。

 飛び入り参加で、この時期に現れたみたこと無いものが三人と言うことで警戒心を持たれたがキノさんがいることで誤解はとけた。

 どうも、キノさんが冒険者として活動しだしてから余り時間がたっていないころ、このギルドをよく使用していたらしく、ギルドで一番偉い人であるギルドマスターと知り合いだったのだ。

 当時はただの受付だったらしが、ずいぶんと出世したものだ。

 そんな伝もあったことと、今は猫の手も借りたい状態であることから僕たちは速攻で部隊に組み込まれ、神鋼龍の住みかである山を登ることになった。

 一応、ギルドでの依頼を請け出してから二年がたつだが、最初の頃は薬草採取や町の人たちの手伝いをしていたこと、この四ヶ月で受けていた依頼は初心者向けが多かったので完全に初心者扱いされている。

 パンドラの遺産のことや、SDSのことを考えれば僕たちがどんな実績をつんでいるか知ったら卒倒しそうな気もするが……知らぬが仏だな。

 初心者扱いで、参加には一部反対されたもののキノさんとカムラさんという有名で強い人たちが大丈夫だと、何かあった場合は責任を取ると言ったので場は収まった。

 それでも初心者扱いが抜けないのは基本的になにもしてなかった期間があったからだろうな。

 さて、国軍と地元民先導のもと、神鋼龍の住みかである山を登っているのだが、季節が季節であり標高もそれなりにあることから寒い。

 雪が降っていないだけましだが、着込んでてよかった。

 なんで夜に出発したかって、神鋼龍の住みかである山は神鋼龍がいることで並大抵の魔獣は現れないし、取引相手に何かあると困る神鋼龍が間引いていることから危険がほとんど無いからだ。

 道のりも神鋼龍の住みかであると言うこともあって自然は残しつつも整備されており、最近は雨が降っていないので滑落なんかの危険性も少ない。

 というわけで山を登っているのだが……。

「カルタ、大丈夫?」

「……箒に乗って良いか?」

「それ聞く前に乗りなよ」

 冒険者と言うのは体力バカの集団と言っても過言ではない。

 そんな集団は山登りなんて平気なのだろうが、平均的体力をしている僕はついていける訳もなく、ダンジョンでキノさんに置いていかれないようにしていたとき並みに疲れ、早々に箒に乗ることを選択した。

 決して僕が体力が少ないだとか、モヤシだとかそんな訳じゃない。

 違う、決して違う。

 僕がモヤシならレーピオもモヤシになる。

 永華やキノさんたちが体力バカで体力お化けなだけなんだ。

 冒険者たちにモヤシだとか言われて心配されたり、役に立つのかとか失礼なことを言われたけど僕はモヤシじゃない。

 そうこうしていると、先頭をいっていた冒険者が異変に気がついた。

 曰く、妙な結界が張っているらしいのだ。

 揃いも揃って見たことの無い結界で、とにかく破ってみるか?と一人が攻撃を加えてみると見事攻撃が跳ね返ってきて吹っ飛んで木にぶつかった。

 一瞬にして静まり返り、壊す方向性ではなく魔法を解読して結界をとく方向性にかたまった。

 カムラさんが魔法を分析した結果、結界の外と中を遮断して、空気などは除いて全てを解離させる高度な結界だと判明した。

 僕や永華はもちろん、ここにいる大半の魔導師が使えない、そもそもこの魔法を知る機会すらもないような魔法である。

 なんでここにこんな結界魔法を張っているんだ?

 だが、神鋼龍が町に来ない理由も判明した。

 さすがの魔獣の中でも強いドラゴンの括りである神鋼龍ももとから強度が高い、しかも中と外を完全に遮断する結界が相手となると無理があったようだ。

 だが、この結界があると言うことで神鋼龍が町に来れないのも、神鋼龍の行方がわからなくなっているのも理解できることだ。

 だからこそ、おかしいと思うのが先にこの山に来ただろう部隊が帰ってきていないことである。

 結界があると言うだけで先見部隊が帰ってこないのは随分とおかしな話だ。

 これなら怒り狂った神鋼龍の餌食になったと判明した方が納得できるものだ。

 魔導師が集まって、結界をどうやって解くかと会議している間、魔法が専門外であるものや僕と永華は周囲の見回りをしていた。

 先見部隊が帰ってこないと言うこともあるし、この結界が持続する期間と神鋼龍が降りてこない期間を考えれば誰かしらが結界の張り直しなどを行っているのは確実だった。

 魔法を解析している間に攻撃を受けないために見回りを行っていたのだが……。

「……」

 永華が猫のように一点を見つめて微動だにしなくなったし、剣の柄に手を掛けている。

 勘か何かで感じ取ったんだろうか……。

 永華の側にたって弓をいつでも使えるようにする。

 キノさん含め、何人かが永華のようすに気がつき、その人たちもなにかを感じ取ったのか武器を構えている。

 時間も時間、場所も場所。

 だんだんと、足元から霧が這ってきて、次第に辺り一帯を覆い隠すように広がっていく。

 視界が遮られた。

 月明かりがあるものの、霧のせいで何が起こっているのもわからなくなってしまっているし、人影を発見できたとしても敵が味方かわからない。

 現状は“最悪”、その一言につきるものだ。

 どうするか?探知魔法でも使うか?と考えていると、何かが風を切った音がした。

 何が音をだしたのかわからないが、永華が剣を抜いて何かを弾いたのはわかった。

「永華!?」

「なんかいる!」

 攻撃をしてきたものは霧に紛れ、どこかに消える。

 更に霧が濃くなって、人影すらも見えない状態になり、すぐにあちこちから冒険者と国軍の悲鳴が聞こえてくるような状態になった。

 ほんっとうに、最悪だ。

 なんで先見部隊が帰ってこないのかと思っていたが、今の僕たちと同じ状態になって壊滅させられたんだろう。

 この霧のせいで敵と味方の区別がつかない状態、迂闊に動けない上に孤立させられたものから狩られる現状、魔導師は結界魔法の解析中で動けないと言う事実、これらは僕たちを狩るのに絶好の状態だ。

 次から次に断末魔のような声が聞こえてくる。

 どこから襲ってくる?誰が襲われる?

 嫌な気配が背を這い上がってくる。

 どうにか霧をはらさないとけないが、これはどうした方法が最適だろうか。

 自然現象ならば一度霧をはらしたところで、また霧が立ち込めることになるだろうし……。

 だからといって、この状態が続くのは不味い。

 ……決めた。

「永華」

「何?」

「風を、あわせるから」

「風?……あぁ、わかったよ」

 余り話すと相手に何をするつもりなのかバレてしまうから、短い会話になったが理解してくれたようだ。

「嬢ちゃん、兄ちゃん、どうにか出きるのか?」

「多分?」

「成功したら盛大に暴れて貰って良いですよ」

「わかった」

 永華の持つ糸同士が摩れる音がする。

 タイミングは向こうに、僕は矢をつがえてこれから起こることを見逃さないようにすれば良い。

 風が揺れる。

 風が吹いて、吹いて、だんだんと風を切る音が強くなっていく。

 風にあわせて霧が揺れ動く。

 次の瞬間、突風が吹いたかと思えば、少しではあるが霧が晴れた。

 僕は霧が晴れた瞬間にとらえた“それ”を見逃すこともなく、弓を放った。
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