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狼と魔女
幕間ー少女の夢―
しおりを挟む耳障りな嘲笑が耳を焦がす。
異形、化け物、騙り屋、売女。
三日月形に口を吊り上げけたけた笑うのは、つい最近まで同士だとかたく信じて疑わなかった人間たち。ともに語らったこともある。ともに笑いあったこともある。
それが今や、嫌悪に双眸を染め上げ私を睨み据えている。
なんて悲しいことだろう。
息も絶え絶えの朦朧とした意識で私は思った。
見渡す三方で村が、森が、燃えている。焼け落ちきっていない建物の中からは時折悲鳴すら聞こえる。
地に突き立てた剣にすがるようにして私は崩れ落ちそうになる体を必死で立て直した。
「どうして……どうしてわかってくださらない……?」
誰に向かってでもなく私は訴えた。
いや、語りかける相手などただ一人。ここからはるか離れた彼の地に住まうこの国の王。
「貴方は仰られたではないか我が君……この力は、この証は、まさに天から授けられた祝福であると……それを」
こらえきれずに咳き込んだ私の口からこぼれ落ちた、炎のそれとは異なる赤。
あまりに悲しくて、視界がにじんだ。
この悲しみは後悔だろうか、それとも裏切られたことへの憤りだろうか。
不快に笑い続けていた人間たちが、ふと笑顔を収めて投げやりに腕を持ち上げた。その手の先に握られた鉛色の剣は、私がこの世で最も憎むもの。
「おのれ人間…」
荒れ狂う胸中を制して最後に口から飛び出したのは人間を呪う怨嗟の言葉だった。
僅かに人間たちが怯えたように後ずさる。
最後の力を振り絞って私は凛と立ち上がった。
甘い思いなど捨ててしまえ。悲しみも、これまでの思い出すら何一つ、私の心に残すまい。
許さない。決して許しはしない、人間の王。彼らに与する他種族にすら、断じて容赦などするものか。
「呪ってやる」
そのとき背後で気配が蠢いた。
風のごとく疾駆する気配は見る間に近づき、あまりの衝撃がわき腹を襲った。
血反吐を吐きながら、それでも最後の言葉を絞り出す。
「覚えておけ、幾星霜の彼方で私は―――……」
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