じーさんず & We are

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#3 放浪の旅で章

#3.3 虹を超えて

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悪党どもは、老人達の奇行に付いて来れないようだ。画一的教育の弊害だな。当然、俺はその中には含まれていない。予想した通り、先に駆け出したシロちゃんが道に倒れていた。放っておこう。

「へい、たくしぃー」

アッ君がノリに乗っているようだ。通りすがりの、リヤカーを牽引している耕運機に声をかけた。あれのどこがタクシーなんだ? ああ、たくしぃーね。

耕運機を運転している、これまた爺さんが見事なスピンターンをキメ、砂埃を巻き上げて止まった。なんて心優しい行為なのだ。それにしても若者の姿が全く見えない。ちょっと街から外に出たらこれだ。どんだけ田舎なんだ、ここは。

「まだ生きってか?」

耕運機のプロドライバーが麦わら帽子越しに白い歯を見せた。季節は秋になりかけた時期だ。そよぐ風に俺は、小さな秋を見つけた。

「たぶん」と渋い顔で答えるアッ君。
「のっか?」と親切な麦わら爺さん。
「ああ」と人生が終わりかけたアッ君だ。

歳も近いのだろう、アッ君と麦わら爺さんが阿吽の呼吸で会話をしている。空には白い雲がプカプカと浮かんで、それは千切れ千切れに漂っている。ああ、自然っていいな。

リアカーにシロちゃんをぶん投げ、俺はそこに腰掛けるように座った。アッ君は麦わら爺さんと話しがしたいのだろう、前の方にしがみついている。

「うんじゃ、今日はあの虹を超えてみっか」

麦わら爺さんは訳のわからぬことを言いながらスロットを全開にしやっがった。凄い爆音だが、ちっとも前に進まない。こんなことじゃ虹を超える前に、違う場所に行き着きそうだ。

アッ君は麦わら爺さんとコミュニケーションするのかと思えば、ただ黙ったまま前を見てる。その見ている先はそこではなく『あそこ』ではないのか?

俺は足をぶらぶらさせながら、ふと少年の頃を思い出した。少年の頃? はて、記憶がない。ふと思い出しておきながら記憶がないとは神秘的であろう。単に忘れてしまっただけだ。俺にもそんな可愛い時期があったのだ、いや、あったはずだ。

可愛い少年の俺は、きっと可愛かったのだろう。だから可愛い少年の俺なのだ。フフ、照れてしまうじゃないか。

◇◇

俺達を乗せた耕運機はコンビニの前で止まった。そのエンジンが止まると、これでもか、と言うぐらい静かだ。晴れ渡った空が続く。

「ちょっと、そこで待ってな」

麦わら爺さんがひょいと座席から降りると、さっさと店の中に突入していった。それを待つ俺達。シロちゃんは、とうの昔に息を吹き返し、萎れている。アッ君は前の所に掴まったまま寝ている。まるでロープで繋がれた犬のようだ。

「ほれ」

麦わら爺さんが俺達一人一人に貴重な食料を支給してくれた。アンパンと牛乳だ。そして最後のセリフを言う。

「ここでお別れだ」
「爺さん、ありがとう」もちろん礼が言えるのは俺だけだ。
「いいってことよ、さよならは言わないぜ」

そう言って麦わら爺さんは、また爆音を轟かせて行ってしまった。俺の目に何やらウルウルするものが。

俺達は店先のベンチに座って支給された食料を頬張る。朝飯とは雲泥の差があるが、これはこれで旨いものだ。みんな、よく味わって、食え。

「シロちゃん?」
「なんじゃ、マオ」
「うんこ、したか?」

ブヒー、ヒッヒッ。

俺の策略の通り、シロちゃんの目と鼻から牛乳が飛び出してきた。ちょろいもんだ。

「喰っている時に何を言うんだ、マオー」
「アッ君。屁、こいたか?」

ブヒー、ヒッヒッ。

俺の策略の通り、アッ君の目と鼻から牛乳が飛び出してきた。ちょろいもんだ。そんな感じでジジイ二人を弄んでいると、目の前に軽トラが止まり、そこからドライバーが降りてきた。それを指差すアッ君だ。

「おい、マオ。あれ、魔王じゃないか」

ブヒー、ヒッヒッ。

俺の目と鼻から牛乳が飛び出してきた。やられた。アッ君が言う通り女性ドライバーだが、魔王とは似ても似つかぬ小娘だ。よく見れば分かったものを何故か勝手に体が反応してしまったぜ。

「よー、じーさんず。地元の人かい?」

女性ドライバーが気軽に声をかけてきた。俺を誰だと思ってるんだ? それに俺はじーさんではないぞ。

「おう、べっぴんさんじゃのー」
「やだよ~、違うよ~」

シロちゃんが速攻で手を出しやがった。それを否定しながら、もっと褒めろと暗に催促しているぞ。それにひきかえアッ君は、どこを見ているんだ? さては、アレなのか?

「俺達は途中まで親切な人に乗せてきて貰ったのだ」と女性の扱いに慣れた俺が返答してやった。

「どこまで行くんだい?」
「行けるところまでさ」
「おお、いいね。親切ってのは繋げないと意味がないからね。良かったら乗っていくかい?」
「それはありがたいの~。どうだ、礼に胸を揉んでやろう」

◇◇

シロちゃんの戯けた一言で俺達は荷物として荷台に乗っている。酷い乗り心地だ。おまけに振り落とされそうで困っている。だが、俺は前に進んでいる。それだけは確実だ、と思う。

「アッ君さー、俺達、ちゃんと魔王国に向かってるよな」
「いや、全然。むしろ反対方向だ」
「えー、なんでー、今更それを言うわけ?」
「歩くのは面倒だ」
「方向が違うんじゃ、意味ないじゃんかよー」
「ぐるっと回れば、いずれつく。星は丸いんだぞ、そんなことも知らんのか」
「何時になったら着くんだよ、いつだよー」
「うるさいガキだな。良くそれで魔王が務まったものだ。あっ、だからか、うんうん」
「なに納得してんだよー」
「どうりで小娘に頭があがらないわけだ。このたわけめ」
「おい、シロちゃんも何とか言ってやれよ。俺達、逆方向に行ってるんだぞ」
「わしも歩くのは嫌じゃ。流れに乗らんか、愚か者」
「ああ、ジジイに聞いたのが悪かったよー、ごめんよー」

さっきまで長閑に見えた雲が、俺の心のように寂しく漂って見える。俺も風に吹かれて自由に飛んでいきたいぜ。こんな役立たずなジジイどもに絡まれなけりゃ今頃余裕で帰れたものを。

「なー、アッ君。アッ君はさー、ヒッチハイクで俺の国まで来たんだろう。良く来れたもんだよな、全く」
「お前がいなければ、もっと楽勝だった。お前がいなければ、な」
「そうかよ。んでさー、シロちゃんもヒッチハイクしたのかー」
「わしか? わしは瞬間移動じゃ」
「え! それ本当? ならそれで帰ろうぜ、今すぐ、今、今、今」
「マオ、それを信じるとは、やはり愚かじゃの~」
「ムム、嘘をつくと3年寿命が縮むって聞いたぞ。どうだ、後悔したか」
「わしは大丈夫じゃ、なにせ時効じゃからな。既に踏み倒しておる」
「けっ、どいつもこいつも、どうなってんだよー」

軽トラが、これでもかってくらいに急停車した。ブレーキのテストでもしているのか? 3人まとめて頭を打ったじゃないか。

「じーさんず、ここまでだ。降りな」

魔王に似ても似つかぬ女性ドライバーが親切にもここで俺達を降ろしてくれるらしい。こことは、倉庫とトラックが並ぶところだ。リアカーから始まり、軽トラときた。着実にステップアップしている。次はあの大型トラックか。

「ここは」シロちゃんが周りを見渡して、どこか懐かしがっている。知っている場所か?

「シロちゃん、ここを知っているのか?」
「うんにゃ、知らん」

間際らしいジジイだ。おそらくその辺の荷物をぶん取ろうとでも考えていたのだろう。浅ましいジジイだ。お前が荷物になれ。おっと、既に俺のお荷物になっていたな。

「じーさんず、この人に乗せてもらいな」

親切な女性ドライバーが冴えない男を連れてきた。細身で弱々しい感じだ。こいつなら俺でも勝てるだろう、あらゆる意味で。

「俺が引き継ぎますんで、宜しくです」
「ああ、宜しく頼む」

交渉ごとは俺に任せろ。今までいろんな場を踏んできた。超えられない壁を超え、引くときは引く。その加減が重要なのだ。

「どちらまで行かれるのですか」
「風の吹くままよ。あの雲がそう言っている」
「ああそうですか。では行きましょうか」

俺の洒落が通じたのかどうか、食えぬ男だ。根が真面目なのか、それとも気が触れているか、のどっちかだな。

「お嬢ちゃん、これでお別れじゃ。お礼に胸を、」

シロちゃん、もう誰もいないぞ。誰に話してるんだ? それとも何かの練習か?

◇◇
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