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#1 輝く空
#1.1 輝く空
しおりを挟む天高く澄み渡る空。その一部となって世界を駆け巡る企業戦士の俺である。そして今は異国の地に向かう途中である。しかしその前に、そっと目を閉じて想像しておこう。飛行機の窓から見える遥かな水平線。それは己の器のように、どこまでも続いているのである。
海外出張に赴く俺であるが、暫しこの旅を楽しもうと思っている。出張慣れした余裕とでも言っておこうか。但し念のために重要なことは重ねて強調しておこう。これは遠足ではない、海外出張である、と。
さて、久しぶりの出張だ。前回は何時だったのか覚えていない。だから初めてのようにワクワク・ドキドキするというものだ。早速、飛行機に乗り込むが、行き先については企業秘密である。しかし、サービスで方角だけは明かしておこう、あっちの方角である。
俺は何時でも、外出する時は手ぶらだ。余計な荷物など持たない主義なので、ポケットがパンパンになっている。それでも清く俺の主義主張は曲げないつもりでいる。
飛行機に揺られること数十時間、ずっと窓の外を見ていたので首が痛む。だが決して飛行機に乗るが初めてという理由で、はしゃいでいたわけではない。それは子供がすることだろう。しかし何事もワクワクしない大人になったつもりもない。
飛行機が徐々に高度を下げ始め、やっと目的地に近づいてきたのだろう。今まで雲の上を飛んでいたのが、ドヒャーンと雲の中に入りそうだ。そんな光景を見ていると、何やら光るものが遥か水平線の向こうから見えてきた。それがあっという間に近づき、まるで太陽の一部か欠片のようなものが俺の乗る飛行機を襲う。
「あっ! うう」
思わず声を上げてしまう俺である。この危機を皆に知らせなければ、と決意した俺だが、何も親切心に駆られた訳ではない。死ぬ時は皆一緒、俺だけが怖がっていては損というものだろう。この恐怖を皆に分け与えてこその恐怖だ。そうやって慌てていると、隣の席の婆さんが、いきなり俺の頭を叩いてきた。何すんだよババーと振り向く俺に向かって、静かにしろと自分の口に指を当てている。序でに小言まで付け加えるようだ。
「小僧、飛行機は初めてかい?」
「いや、多分そうだが。でもあれが」
「これだから初心者は」
「そんなことを言っている場合ではないだろう。あれが当たったら、」
「小僧、ここをどこだと思っている」
ババーの講釈が始まったようだ。少しアゴを上げ得意げに目を吊り上げている。例の経験者が初心者を嘲笑う意地悪婆さんに変身だ。だがな、人を見下しているつもりだろうが、その小さな体で俺を見下ろそうなんて立ってからにしろ、と言いたい。何故なら俺の方が座高は高いんだ。
「勿論、空の上に決まっている」
「地に足のつかぬ小僧が天を語るなど笑止の至り。黙って見届けるが良い」
「何だと、」
隣の婆さんは言いたいことを言い切ると、それで満足したのかコクリと寝てしまったようだ。大体、飛行機に乗っているのに足がついたら大事だろうが、と思いつつ窓の外を観察する。相変わらず光の玉のようなものが我が飛行機の隣に見えているが、俺と同様に外を眺めている連中は平然としている。
まるでこんなことは日常だぜと余裕の構えだ。これが宇宙船ならもっとワクワクしただろうが、何せ光の玉が光っているだけだ。それぐらいで驚くのが初心者の証だとでもいうのか。
その光を見つめていると目をやられそうだ。そこで少し視線をずらすと、その光が変形していくではないか。いや、正確には変形というより、中から棒のようなものが四つ、四方に張り出してきやがる。それがスッと伸びて、伸びて、伸びて、おお、こっちに当たるのか?
「あっ! うう」
思わずまた声を上げてしまう俺である。わけの分からない光る棒のようなものが我が飛行機に当たった、のか?
「小僧、静かにしないか」
「ばあちゃん、あれがアレしそうだ」
「これだから初心者は」
「そんなことを言っている場合ではないだろう。飛行機が落ちるぞ!」
「小僧、ここをどこだと思っている」
婆さんと言い合っている場合ではないだろう、外を見よ、と見てみると棒のようなもが我が飛行機の遥か上空を漂っている。それは空に大きく描いた十文字のようにも見える。それが中心から分かれ四方に光の棒、というより光の筋状のものだけが飛んで行く。
しかしここで着陸態勢に移行した飛行機は雲の中に入り、その光の筋状のようなものも見えなくなってしまった。どうやら危機は脱したようで皆、平然としている。これが空での日常というのなら、次からは大人しくしていよう。これで初心者は卒業できたはずだ。
目的地に到着するまで、まだ時間が掛かりそうである。そこで卒業記念に俺自身を紹介しておこう。それは俺という企業戦士の誕生秘話である。序でに出張している理由も述べておこう。それでは俺の輝かしい人生に、乾杯。
◇
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