リンダ

Tro

文字の大きさ
1 / 35
#1 輝く空

#1.1 輝く空

しおりを挟む


天高く澄み渡る空。その一部となって世界を駆け巡る企業戦士の俺である。そして今は異国の地に向かう途中である。しかしその前に、そっと目を閉じて想像しておこう。飛行機の窓から見える遥かな水平線。それは己の器のように、どこまでも続いているのである。

海外出張に赴く俺であるが、暫しこの旅を楽しもうと思っている。出張慣れした余裕とでも言っておこうか。但し念のために重要なことは重ねて強調しておこう。これは遠足ではない、海外出張である、と。

さて、久しぶりの出張だ。前回は何時だったのか覚えていない。だから初めてのようにワクワク・ドキドキするというものだ。早速、飛行機に乗り込むが、行き先については企業秘密である。しかし、サービスで方角だけは明かしておこう、あっちの方角である。

俺は何時でも、外出する時は手ぶらだ。余計な荷物など持たない主義なので、ポケットがパンパンになっている。それでも清く俺の主義主張は曲げないつもりでいる。

飛行機に揺られること数十時間、ずっと窓の外を見ていたので首が痛む。だが決して飛行機に乗るが初めてという理由で、はしゃいでいたわけではない。それは子供がすることだろう。しかし何事もワクワクしない大人になったつもりもない。

飛行機が徐々に高度を下げ始め、やっと目的地に近づいてきたのだろう。今まで雲の上を飛んでいたのが、ドヒャーンと雲の中に入りそうだ。そんな光景を見ていると、何やら光るものが遥か水平線の向こうから見えてきた。それがあっという間に近づき、まるで太陽の一部か欠片のようなものが俺の乗る飛行機を襲う。

「あっ! うう」

思わず声を上げてしまう俺である。この危機を皆に知らせなければ、と決意した俺だが、何も親切心に駆られた訳ではない。死ぬ時は皆一緒、俺だけが怖がっていては損というものだろう。この恐怖を皆に分け与えてこその恐怖だ。そうやって慌てていると、隣の席の婆さんが、いきなり俺の頭を叩いてきた。何すんだよババーと振り向く俺に向かって、静かにしろと自分の口に指を当てている。序でに小言まで付け加えるようだ。

「小僧、飛行機は初めてかい?」

「いや、多分そうだが。でもあれが」

「これだから初心者は」

「そんなことを言っている場合ではないだろう。あれが当たったら、」

「小僧、ここをどこだと思っている」

ババーの講釈が始まったようだ。少しアゴを上げ得意げに目を吊り上げている。例の経験者が初心者を嘲笑う意地悪婆さんに変身だ。だがな、人を見下しているつもりだろうが、その小さな体で俺を見下ろそうなんて立ってからにしろ、と言いたい。何故なら俺の方が座高は高いんだ。

「勿論、空の上に決まっている」

「地に足のつかぬ小僧が天を語るなど笑止の至り。黙って見届けるが良い」

「何だと、」

隣の婆さんは言いたいことを言い切ると、それで満足したのかコクリと寝てしまったようだ。大体、飛行機に乗っているのに足がついたら大事だろうが、と思いつつ窓の外を観察する。相変わらず光の玉のようなものが我が飛行機の隣に見えているが、俺と同様に外を眺めている連中は平然としている。

まるでこんなことは日常だぜと余裕の構えだ。これが宇宙船ならもっとワクワクしただろうが、何せ光の玉が光っているだけだ。それぐらいで驚くのが初心者の証だとでもいうのか。

その光を見つめていると目をやられそうだ。そこで少し視線をずらすと、その光が変形していくではないか。いや、正確には変形というより、中から棒のようなものが四つ、四方に張り出してきやがる。それがスッと伸びて、伸びて、伸びて、おお、こっちに当たるのか?

「あっ! うう」

思わずまた声を上げてしまう俺である。わけの分からない光る棒のようなものが我が飛行機に当たった、のか?

「小僧、静かにしないか」

「ばあちゃん、あれがアレしそうだ」

「これだから初心者は」

「そんなことを言っている場合ではないだろう。飛行機が落ちるぞ!」

「小僧、ここをどこだと思っている」

婆さんと言い合っている場合ではないだろう、外を見よ、と見てみると棒のようなもが我が飛行機の遥か上空を漂っている。それは空に大きく描いた十文字のようにも見える。それが中心から分かれ四方に光の棒、というより光の筋状のものだけが飛んで行く。

しかしここで着陸態勢に移行した飛行機は雲の中に入り、その光の筋状のようなものも見えなくなってしまった。どうやら危機は脱したようで皆、平然としている。これが空での日常というのなら、次からは大人しくしていよう。これで初心者は卒業できたはずだ。

目的地に到着するまで、まだ時間が掛かりそうである。そこで卒業記念に俺自身を紹介しておこう。それは俺という企業戦士の誕生秘話である。序でに出張している理由も述べておこう。それでは俺の輝かしい人生に、乾杯。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~

菱沼あゆ
キャラ文芸
 突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。  洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。  天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。  洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。  中華後宮ラブコメディ。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

烏の王と宵の花嫁

水川サキ
キャラ文芸
吸血鬼の末裔として生まれた華族の娘、月夜は家族から虐げられ孤独に生きていた。 唯一の慰めは、年に一度届く〈からす〉からの手紙。 その送り主は太陽の化身と称される上級華族、縁樹だった。 ある日、姉の縁談相手を誤って傷つけた月夜は、父に遊郭へ売られそうになり屋敷を脱出するが、陽の下で倒れてしまう。 死を覚悟した瞬間〈からす〉の正体である縁樹が現れ、互いの思惑から契約結婚を結ぶことになる。 ※初出2024年7月

僕らの10パーセントは無限大

華子
青春
 10%の確率でしか未来を生きられない少女と  過去に辛い経験をしたことがある幼ななじみと  やたらとポジティブなホームレス 「あり得ない今を生きてるんだったら、あり得ない未来だってあるんじゃねえの?」 「そうやって、信じたいものを信じて生きる人生って、楽しいもんだよ」    もし、あたなら。  10パーセントの確率で訪れる幸せな未来と  90パーセントの確率で訪れる悲惨な未来。  そのどちらを信じますか。 ***  心臓に病を患う和子(わこ)は、医者からアメリカでの手術を勧められるが、成功率10パーセントというあまりにも酷な現実に打ちひしがれ、渡米する勇気が出ずにいる。しかしこのまま日本にいても、死を待つだけ。  追い詰められた和子は、誰に何をされても気に食わない日々が続くが、そんな時出逢ったやたらとポジティブなホームレスに、段々と影響を受けていく。  幼ななじみの裕一にも支えられながら、彼女が前を向くまでの物語。

後宮なりきり夫婦録

石田空
キャラ文芸
「月鈴、ちょっと嫁に来るか?」 「はあ……?」 雲仙国では、皇帝が三代続いて謎の昏睡状態に陥る事態が続いていた。 あまりにも不可解なために、新しい皇帝を立てる訳にもいかない国は、急遽皇帝の「影武者」として跡継ぎ騒動を防ぐために寺院に入れられていた皇子の空燕を呼び戻すことに決める。 空燕の国の声に応える条件は、同じく寺院で方士修行をしていた方士の月鈴を妃として後宮に入れること。 かくしてふたりは片や皇帝の影武者として、片や皇帝の偽りの愛妃として、後宮と言う名の魔窟に潜入捜査をすることとなった。 影武者夫婦は、後宮内で起こる事件の謎を解けるのか。そしてふたりの想いの行方はいったい。 サイトより転載になります。

処理中です...