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#5 雲海、そして雲海
#5.3 ロックな幸せ
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目が覚めたら朝である。至極当然だが朝である。目覚めた場所はベットの上。そこで考えた、というより記憶を再生している最中である。そういえばリンダを寝かせた後、俺自身はどうしたものかと椅子に座って考えていたはずである。それでウトウトとして気が付けばリンダが寝ていたはずのベットで……俺が一人で寝ている。ではリンダはどこに行ったかと思えば、俺が座っていた椅子に座っている。つまり俺とリンダが入れ替わったことになる、いつの間に?
「起きたか、ケイ」
ジョンが何時もの顔で何時ものように言っている。先にジョンが起きていたということはジョンが俺をベットに寝かせたのだろうか、それもお姫様抱っこをして。
「ジョンが俺をベットに運んだのか」
「いや、俺ではない」
ジョンの、迷いの無い即答だ。では一体誰が、と考えれば残るのは二つ。
一つは俺が無意識のうちにベットに潜り込み、それに怒ったリンダがベットから這い出た。
もう一つはリンダが俺をベットに放り込んで自分は椅子に座り眠った。さて、真実はどっちだ。これはリンダに聞いた方が早いだろう。
「リンダ、何時から椅子に座っている?」
そういえば、今リンダの目が開いたばかりだ。では起きたばかりということだろう。俺の問いに対してリンダは無表情・無動作である。その心の声は多分「私に言わせないでよ、ね」だろう。すまん、朝から変なことを聞いたようだ。
だがここで、逆再生してジョンの言ったことを思い出す。そういえば「俺ではない」と言ったような気がするが、それは「俺ではなく〇〇だ」の短縮形だったのかもしれない。しかし今更聞き返すのも気がひける。何故なら、この問題に固執しているように思われかねない。そう、俺は些細なことは気にしない男である、のはずである。
◇◇
ブロロンと車のエンジンがかかり、いざ出発である。国境までは見上げる山々をクネクネと回り込んで行かねばならない。直線距離にしたら大したことはなさそうだが、この地形ではそうもいかない。だがそれも時間の問題である。いずれ到着し、そこを通過すれば取り敢えず安心というものである。
車は右や左、小さく上がったり下がったりで車酔いになりそうだ。どこまで耐えられるか勝負といったところだろう。この勝負、俺が勝ってみせよう、多分。
山間部の道とは言っても、きちんと舗装され道幅も十分にある。しかしガードレールのようなものはなく、勢い余って転落ということも有り得そうだが、絶景でもある。しかしその雰囲気を破壊するように渋滞が始まってしまった。
長閑で景色も良いこの場所が、どこかの国の観光地のように車で溢れかえっている。その最後尾で停車すると後続車も次々と列をなし大渋滞の誕生だ。それも長いこと動きが無いようで、前方では人が車から降りて、そこらでピクニックを楽しんでいる様子が見える。どうやら渋滞のプロが集結していると思われる。
「ジョン、国境まであとどのくらいなんだ」
車のエンジンを止め地図を広げるジョンである。暫くは強制休憩の時間だ。
「そうだな、あと1、2Kmくらいだろうか」
「この調子だと暫く動きそもないな。そのくらいなら歩いて先に様子を見てこよう」
車に乗り飽きたのと、気分がすぐれないので散歩がてら運動してこようと思う次第だ。
俺の提案に特に異論は無いようである。早速、車を降りて歩き始めるとジョンが俺を呼び止めている。なんだ、何か買ってきて欲しいのか?
「ケイ、リンダを連れて行くのか」
「リンダ?」
振り返るとリンダも車を降りて俺に近づいて来ている。どうやらリンダも車の移動には飽きていたのだろう。だがこれからお使いに行くわけではない、いわば敵陣視察のようなものだ。それに子供を同伴するのは少々危険であろう。
ここでふと疑問が湧いてきた。リンダは中学生くらい、15歳前後の年頃に見えるが、それは製造上の問題で、実際の設定年齢はもっと上かもしれない。これは本人に聞いてみないと分からないが、それを聞いて良いものかどうか躊躇してしまう俺だ。ここは一つ、遠回しに聞いてみよう。
「リンダはいくつなんだ?」
遠回しのつもりが直球勝負をしてしまった。まあ、暴投というやつだ。しかし俺の投げた球は擦りもしないのか無反応である。であるが「何、聞いてんの、よ」という感じでホームランを打たれて気分だ。
「ジョン、リンダも連れて行く。大丈夫だ、何かあったら俺がリンダを守る」
ジョンにそう言い返したが、何故かジョンも無反応だ。どいつもこいつも鉄仮面で心の内が読めないと来ている、困った連中だ。
◇◇
「リンダ、迷子になるなよ、しっかり俺に続け」
「はい、ご主人様」
とリンダが言ったような気がしたが、気のせいのようだ。
歩き始めると、割と平坦に見えた道が少し上り坂になっているようだ。しかし、このくらいでへこたれる俺ではない。空は曇ってはいるものの気持ちの良い風が吹いている。それに見方を変えれば高原を歩いているようなものである。先は長い、ゆっくりと行こう。
いつの間にか俺の前を歩くリンダである。それもそうだろう、向こうは疲れを知らぬバッテリー駆動、こっちは疲れきった足での気合駆動だ。これではお嬢様に付き従う執事に見えるかもしれない。お嬢様、待ってくれ。
気がつけばリンダに手を引かれている俺である。時折、風が強く吹くとリンダの長い髪が俺の顔を引っ叩くが、それでも俺にとっては有り難い存在になりつつあるようだ。だがこれでは孫に手を引かれるお爺ちゃんではないか、気持ちだけは若いつもりでいよう。
何故かリンダに背中を押されて歩く俺である。やっと国境のような検問所が見えてきたところだが、そこまでズラッと車が並び、全部が停車したまま動く気配は無い。ゴールが見えたことで一人で歩き始めたが、列の先頭ではライフル銃を構えた兵士らしき者達がいるように見える。それだからだろうか、車列の先頭からUターンし始めている。ということは国境は封鎖されたばかりなのだろう。これでは順番を待っていても仕方が無い。
「戻ろう、リンダ」
「えっ、つまんな~い」
というリンダの心の声を聞きながら回れ右をして来た道を戻る俺達である。
◇◇
何故かリンダに背負われて帰還した俺である。だってもう歩けないんだも~ん。
「リンダを連れて行ったのは正解だったな、ケイ」
何かジョンが皮肉めいたことを言っているような気がするが、それも気のせいだろう。サクッと車に乗り込みぐったりとする俺である。因みにリンダは汗一つかくことなく余裕である。
「国境で人数制限しているようだ。もうあそこは通れないだろう」
国境まで行った俺よりも情勢に詳しいジョンである、怪しい。
「銃を構えた兵士らしき者がいた。そいつらが追い返していたよ」
「俺達も戻ろう」
「それもそうだがジョン、人数制限している情報はどこからだ?」
俺の労力が無駄にならないように、確認するのは大事なことだ。
「ラジオで聞いた。それに戻って来る者の話が噂で広まっていた」
「ラジオがあるのか、それつけようぜ」
噂話よりもラジオである。この娯楽に飢えた車内を癒すにはラジオで音楽でも聞くのが一番だろう。というより今まで思いつかなかった方が馬鹿らしく思えてくる。
車は軽快なロックの音楽に満たされ、来た道を引き返すのであった。俺とリンダはロックに酔いしれているが、ジョンは余りこういう曲は好きではないようだ。俺はもっとクラシックのような落ち着いた音楽が好きなんだ、と言いたげな表情をしているジョン、のような気がするが、それでは何時まで経っても幸せはやってこないぞ、と思う俺とリンダだ、と思う。
◇◇
「起きたか、ケイ」
ジョンが何時もの顔で何時ものように言っている。先にジョンが起きていたということはジョンが俺をベットに寝かせたのだろうか、それもお姫様抱っこをして。
「ジョンが俺をベットに運んだのか」
「いや、俺ではない」
ジョンの、迷いの無い即答だ。では一体誰が、と考えれば残るのは二つ。
一つは俺が無意識のうちにベットに潜り込み、それに怒ったリンダがベットから這い出た。
もう一つはリンダが俺をベットに放り込んで自分は椅子に座り眠った。さて、真実はどっちだ。これはリンダに聞いた方が早いだろう。
「リンダ、何時から椅子に座っている?」
そういえば、今リンダの目が開いたばかりだ。では起きたばかりということだろう。俺の問いに対してリンダは無表情・無動作である。その心の声は多分「私に言わせないでよ、ね」だろう。すまん、朝から変なことを聞いたようだ。
だがここで、逆再生してジョンの言ったことを思い出す。そういえば「俺ではない」と言ったような気がするが、それは「俺ではなく〇〇だ」の短縮形だったのかもしれない。しかし今更聞き返すのも気がひける。何故なら、この問題に固執しているように思われかねない。そう、俺は些細なことは気にしない男である、のはずである。
◇◇
ブロロンと車のエンジンがかかり、いざ出発である。国境までは見上げる山々をクネクネと回り込んで行かねばならない。直線距離にしたら大したことはなさそうだが、この地形ではそうもいかない。だがそれも時間の問題である。いずれ到着し、そこを通過すれば取り敢えず安心というものである。
車は右や左、小さく上がったり下がったりで車酔いになりそうだ。どこまで耐えられるか勝負といったところだろう。この勝負、俺が勝ってみせよう、多分。
山間部の道とは言っても、きちんと舗装され道幅も十分にある。しかしガードレールのようなものはなく、勢い余って転落ということも有り得そうだが、絶景でもある。しかしその雰囲気を破壊するように渋滞が始まってしまった。
長閑で景色も良いこの場所が、どこかの国の観光地のように車で溢れかえっている。その最後尾で停車すると後続車も次々と列をなし大渋滞の誕生だ。それも長いこと動きが無いようで、前方では人が車から降りて、そこらでピクニックを楽しんでいる様子が見える。どうやら渋滞のプロが集結していると思われる。
「ジョン、国境まであとどのくらいなんだ」
車のエンジンを止め地図を広げるジョンである。暫くは強制休憩の時間だ。
「そうだな、あと1、2Kmくらいだろうか」
「この調子だと暫く動きそもないな。そのくらいなら歩いて先に様子を見てこよう」
車に乗り飽きたのと、気分がすぐれないので散歩がてら運動してこようと思う次第だ。
俺の提案に特に異論は無いようである。早速、車を降りて歩き始めるとジョンが俺を呼び止めている。なんだ、何か買ってきて欲しいのか?
「ケイ、リンダを連れて行くのか」
「リンダ?」
振り返るとリンダも車を降りて俺に近づいて来ている。どうやらリンダも車の移動には飽きていたのだろう。だがこれからお使いに行くわけではない、いわば敵陣視察のようなものだ。それに子供を同伴するのは少々危険であろう。
ここでふと疑問が湧いてきた。リンダは中学生くらい、15歳前後の年頃に見えるが、それは製造上の問題で、実際の設定年齢はもっと上かもしれない。これは本人に聞いてみないと分からないが、それを聞いて良いものかどうか躊躇してしまう俺だ。ここは一つ、遠回しに聞いてみよう。
「リンダはいくつなんだ?」
遠回しのつもりが直球勝負をしてしまった。まあ、暴投というやつだ。しかし俺の投げた球は擦りもしないのか無反応である。であるが「何、聞いてんの、よ」という感じでホームランを打たれて気分だ。
「ジョン、リンダも連れて行く。大丈夫だ、何かあったら俺がリンダを守る」
ジョンにそう言い返したが、何故かジョンも無反応だ。どいつもこいつも鉄仮面で心の内が読めないと来ている、困った連中だ。
◇◇
「リンダ、迷子になるなよ、しっかり俺に続け」
「はい、ご主人様」
とリンダが言ったような気がしたが、気のせいのようだ。
歩き始めると、割と平坦に見えた道が少し上り坂になっているようだ。しかし、このくらいでへこたれる俺ではない。空は曇ってはいるものの気持ちの良い風が吹いている。それに見方を変えれば高原を歩いているようなものである。先は長い、ゆっくりと行こう。
いつの間にか俺の前を歩くリンダである。それもそうだろう、向こうは疲れを知らぬバッテリー駆動、こっちは疲れきった足での気合駆動だ。これではお嬢様に付き従う執事に見えるかもしれない。お嬢様、待ってくれ。
気がつけばリンダに手を引かれている俺である。時折、風が強く吹くとリンダの長い髪が俺の顔を引っ叩くが、それでも俺にとっては有り難い存在になりつつあるようだ。だがこれでは孫に手を引かれるお爺ちゃんではないか、気持ちだけは若いつもりでいよう。
何故かリンダに背中を押されて歩く俺である。やっと国境のような検問所が見えてきたところだが、そこまでズラッと車が並び、全部が停車したまま動く気配は無い。ゴールが見えたことで一人で歩き始めたが、列の先頭ではライフル銃を構えた兵士らしき者達がいるように見える。それだからだろうか、車列の先頭からUターンし始めている。ということは国境は封鎖されたばかりなのだろう。これでは順番を待っていても仕方が無い。
「戻ろう、リンダ」
「えっ、つまんな~い」
というリンダの心の声を聞きながら回れ右をして来た道を戻る俺達である。
◇◇
何故かリンダに背負われて帰還した俺である。だってもう歩けないんだも~ん。
「リンダを連れて行ったのは正解だったな、ケイ」
何かジョンが皮肉めいたことを言っているような気がするが、それも気のせいだろう。サクッと車に乗り込みぐったりとする俺である。因みにリンダは汗一つかくことなく余裕である。
「国境で人数制限しているようだ。もうあそこは通れないだろう」
国境まで行った俺よりも情勢に詳しいジョンである、怪しい。
「銃を構えた兵士らしき者がいた。そいつらが追い返していたよ」
「俺達も戻ろう」
「それもそうだがジョン、人数制限している情報はどこからだ?」
俺の労力が無駄にならないように、確認するのは大事なことだ。
「ラジオで聞いた。それに戻って来る者の話が噂で広まっていた」
「ラジオがあるのか、それつけようぜ」
噂話よりもラジオである。この娯楽に飢えた車内を癒すにはラジオで音楽でも聞くのが一番だろう。というより今まで思いつかなかった方が馬鹿らしく思えてくる。
車は軽快なロックの音楽に満たされ、来た道を引き返すのであった。俺とリンダはロックに酔いしれているが、ジョンは余りこういう曲は好きではないようだ。俺はもっとクラシックのような落ち着いた音楽が好きなんだ、と言いたげな表情をしているジョン、のような気がするが、それでは何時まで経っても幸せはやってこないぞ、と思う俺とリンダだ、と思う。
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