リンダ

Tro

文字の大きさ
14 / 35
#5 雲海、そして雲海

#5.3 ロックな幸せ

しおりを挟む
目が覚めたら朝である。至極当然だが朝である。目覚めた場所はベットの上。そこで考えた、というより記憶を再生している最中である。そういえばリンダを寝かせた後、俺自身はどうしたものかと椅子に座って考えていたはずである。それでウトウトとして気が付けばリンダが寝ていたはずのベットで……俺が一人で寝ている。ではリンダはどこに行ったかと思えば、俺が座っていた椅子に座っている。つまり俺とリンダが入れ替わったことになる、いつの間に?

「起きたか、ケイ」

ジョンが何時もの顔で何時ものように言っている。先にジョンが起きていたということはジョンが俺をベットに寝かせたのだろうか、それもお姫様抱っこをして。

「ジョンが俺をベットに運んだのか」

「いや、俺ではない」

ジョンの、迷いの無い即答だ。では一体誰が、と考えれば残るのは二つ。
一つは俺が無意識のうちにベットに潜り込み、それに怒ったリンダがベットから這い出た。

もう一つはリンダが俺をベットに放り込んで自分は椅子に座り眠った。さて、真実はどっちだ。これはリンダに聞いた方が早いだろう。

「リンダ、何時から椅子に座っている?」

そういえば、今リンダの目が開いたばかりだ。では起きたばかりということだろう。俺の問いに対してリンダは無表情・無動作である。その心の声は多分「私に言わせないでよ、ね」だろう。すまん、朝から変なことを聞いたようだ。

だがここで、逆再生してジョンの言ったことを思い出す。そういえば「俺ではない」と言ったような気がするが、それは「俺ではなく〇〇だ」の短縮形だったのかもしれない。しかし今更聞き返すのも気がひける。何故なら、この問題に固執しているように思われかねない。そう、俺は些細なことは気にしない男である、のはずである。

◇◇

ブロロンと車のエンジンがかかり、いざ出発である。国境までは見上げる山々をクネクネと回り込んで行かねばならない。直線距離にしたら大したことはなさそうだが、この地形ではそうもいかない。だがそれも時間の問題である。いずれ到着し、そこを通過すれば取り敢えず安心というものである。

車は右や左、小さく上がったり下がったりで車酔いになりそうだ。どこまで耐えられるか勝負といったところだろう。この勝負、俺が勝ってみせよう、多分。

山間部の道とは言っても、きちんと舗装され道幅も十分にある。しかしガードレールのようなものはなく、勢い余って転落ということも有り得そうだが、絶景でもある。しかしその雰囲気を破壊するように渋滞が始まってしまった。

長閑で景色も良いこの場所が、どこかの国の観光地のように車で溢れかえっている。その最後尾で停車すると後続車も次々と列をなし大渋滞の誕生だ。それも長いこと動きが無いようで、前方では人が車から降りて、そこらでピクニックを楽しんでいる様子が見える。どうやら渋滞のプロが集結していると思われる。

「ジョン、国境まであとどのくらいなんだ」

車のエンジンを止め地図を広げるジョンである。暫くは強制休憩の時間だ。

「そうだな、あと1、2Kmくらいだろうか」

「この調子だと暫く動きそもないな。そのくらいなら歩いて先に様子を見てこよう」

車に乗り飽きたのと、気分がすぐれないので散歩がてら運動してこようと思う次第だ。

俺の提案に特に異論は無いようである。早速、車を降りて歩き始めるとジョンが俺を呼び止めている。なんだ、何か買ってきて欲しいのか?

「ケイ、リンダを連れて行くのか」

「リンダ?」

振り返るとリンダも車を降りて俺に近づいて来ている。どうやらリンダも車の移動には飽きていたのだろう。だがこれからお使いに行くわけではない、いわば敵陣視察のようなものだ。それに子供を同伴するのは少々危険であろう。

ここでふと疑問が湧いてきた。リンダは中学生くらい、15歳前後の年頃に見えるが、それは製造上の問題で、実際の設定年齢はもっと上かもしれない。これは本人に聞いてみないと分からないが、それを聞いて良いものかどうか躊躇してしまう俺だ。ここは一つ、遠回しに聞いてみよう。

「リンダはいくつなんだ?」

遠回しのつもりが直球勝負をしてしまった。まあ、暴投というやつだ。しかし俺の投げた球は擦りもしないのか無反応である。であるが「何、聞いてんの、よ」という感じでホームランを打たれて気分だ。

「ジョン、リンダも連れて行く。大丈夫だ、何かあったら俺がリンダを守る」

ジョンにそう言い返したが、何故かジョンも無反応だ。どいつもこいつも鉄仮面で心の内が読めないと来ている、困った連中だ。

◇◇

「リンダ、迷子になるなよ、しっかり俺に続け」

「はい、ご主人様」

とリンダが言ったような気がしたが、気のせいのようだ。

歩き始めると、割と平坦に見えた道が少し上り坂になっているようだ。しかし、このくらいでへこたれる俺ではない。空は曇ってはいるものの気持ちの良い風が吹いている。それに見方を変えれば高原を歩いているようなものである。先は長い、ゆっくりと行こう。

いつの間にか俺の前を歩くリンダである。それもそうだろう、向こうは疲れを知らぬバッテリー駆動、こっちは疲れきった足での気合駆動だ。これではお嬢様に付き従う執事に見えるかもしれない。お嬢様、待ってくれ。

気がつけばリンダに手を引かれている俺である。時折、風が強く吹くとリンダの長い髪が俺の顔を引っ叩くが、それでも俺にとっては有り難い存在になりつつあるようだ。だがこれでは孫に手を引かれるお爺ちゃんではないか、気持ちだけは若いつもりでいよう。

何故かリンダに背中を押されて歩く俺である。やっと国境のような検問所が見えてきたところだが、そこまでズラッと車が並び、全部が停車したまま動く気配は無い。ゴールが見えたことで一人で歩き始めたが、列の先頭ではライフル銃を構えた兵士らしき者達がいるように見える。それだからだろうか、車列の先頭からUターンし始めている。ということは国境は封鎖されたばかりなのだろう。これでは順番を待っていても仕方が無い。

「戻ろう、リンダ」

「えっ、つまんな~い」

というリンダの心の声を聞きながら回れ右をして来た道を戻る俺達である。

◇◇

何故かリンダに背負われて帰還した俺である。だってもう歩けないんだも~ん。

「リンダを連れて行ったのは正解だったな、ケイ」

何かジョンが皮肉めいたことを言っているような気がするが、それも気のせいだろう。サクッと車に乗り込みぐったりとする俺である。因みにリンダは汗一つかくことなく余裕である。

「国境で人数制限しているようだ。もうあそこは通れないだろう」

国境まで行った俺よりも情勢に詳しいジョンである、怪しい。

「銃を構えた兵士らしき者がいた。そいつらが追い返していたよ」

「俺達も戻ろう」

「それもそうだがジョン、人数制限している情報はどこからだ?」

俺の労力が無駄にならないように、確認するのは大事なことだ。

「ラジオで聞いた。それに戻って来る者の話が噂で広まっていた」

「ラジオがあるのか、それつけようぜ」

噂話よりもラジオである。この娯楽に飢えた車内を癒すにはラジオで音楽でも聞くのが一番だろう。というより今まで思いつかなかった方が馬鹿らしく思えてくる。

車は軽快なロックの音楽に満たされ、来た道を引き返すのであった。俺とリンダはロックに酔いしれているが、ジョンは余りこういう曲は好きではないようだ。俺はもっとクラシックのような落ち着いた音楽が好きなんだ、と言いたげな表情をしているジョン、のような気がするが、それでは何時まで経っても幸せはやってこないぞ、と思う俺とリンダだ、と思う。

◇◇
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~

菱沼あゆ
キャラ文芸
 突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。  洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。  天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。  洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。  中華後宮ラブコメディ。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

烏の王と宵の花嫁

水川サキ
キャラ文芸
吸血鬼の末裔として生まれた華族の娘、月夜は家族から虐げられ孤独に生きていた。 唯一の慰めは、年に一度届く〈からす〉からの手紙。 その送り主は太陽の化身と称される上級華族、縁樹だった。 ある日、姉の縁談相手を誤って傷つけた月夜は、父に遊郭へ売られそうになり屋敷を脱出するが、陽の下で倒れてしまう。 死を覚悟した瞬間〈からす〉の正体である縁樹が現れ、互いの思惑から契約結婚を結ぶことになる。 ※初出2024年7月

僕らの10パーセントは無限大

華子
青春
 10%の確率でしか未来を生きられない少女と  過去に辛い経験をしたことがある幼ななじみと  やたらとポジティブなホームレス 「あり得ない今を生きてるんだったら、あり得ない未来だってあるんじゃねえの?」 「そうやって、信じたいものを信じて生きる人生って、楽しいもんだよ」    もし、あたなら。  10パーセントの確率で訪れる幸せな未来と  90パーセントの確率で訪れる悲惨な未来。  そのどちらを信じますか。 ***  心臓に病を患う和子(わこ)は、医者からアメリカでの手術を勧められるが、成功率10パーセントというあまりにも酷な現実に打ちひしがれ、渡米する勇気が出ずにいる。しかしこのまま日本にいても、死を待つだけ。  追い詰められた和子は、誰に何をされても気に食わない日々が続くが、そんな時出逢ったやたらとポジティブなホームレスに、段々と影響を受けていく。  幼ななじみの裕一にも支えられながら、彼女が前を向くまでの物語。

後宮なりきり夫婦録

石田空
キャラ文芸
「月鈴、ちょっと嫁に来るか?」 「はあ……?」 雲仙国では、皇帝が三代続いて謎の昏睡状態に陥る事態が続いていた。 あまりにも不可解なために、新しい皇帝を立てる訳にもいかない国は、急遽皇帝の「影武者」として跡継ぎ騒動を防ぐために寺院に入れられていた皇子の空燕を呼び戻すことに決める。 空燕の国の声に応える条件は、同じく寺院で方士修行をしていた方士の月鈴を妃として後宮に入れること。 かくしてふたりは片や皇帝の影武者として、片や皇帝の偽りの愛妃として、後宮と言う名の魔窟に潜入捜査をすることとなった。 影武者夫婦は、後宮内で起こる事件の謎を解けるのか。そしてふたりの想いの行方はいったい。 サイトより転載になります。

処理中です...