リンダ

Tro

文字の大きさ
23 / 35
#8 希望の星

#8.3 今晩の夕食は

しおりを挟む
さて、『犯人は君だ』風に真実を探り当てたつもりだが、そうなると空港を目指していた俺をどうしてくれようか。もう脱出できそうな施設や場所を目指しても意味が無さそうである。いわば人生の目標を失ったに等しい俺だ。おそらく光の柱で区切られた境界線を超えても、またC国に入ってしまうだけだろう。一体、何がしたいのか、その動機が不明だ。それは多分、動機なき殺人というのだろう、違うと思うが。

俺が予想した通り、一旦立ち止まってしまうと動けなくたちである。向かうべき方向を失い、序でに希望まで失くしてしまいそうである。勘違いでも、それは行動する原動力となっていたはずだ。もし今の状況を占えば多分『凶』と出たことだだろう。しかしその『凶』は悪い事ではない。何故ならこれ以上、悪い事は起こらないという事だからだ。おっと、『大凶』を忘れていた。

無理矢理、心を奮い立たせるために再度、地図を広げて行きたい場所を選ぼうとするが、別に旅行に来たわけではないでの、特に行きたい場所があるわけでもない。せめてこの国を下調べでもしていれば話は別だが、仕事一筋の俺には無理な相談だ。

だが急に高いところに登ってみたくなった。バカと煙は、という話ではないが、高いところから周辺を眺めてみたくなったのだ。これといった情報源が無い今、直接目に見える現実を見定めようという魂胆である。

地図によると近くに小高い山があるようだ。それも頂上付近まで車で行けるような道路がある。高いところと言っても登山はもうこりごりである。車で行けるのなら申し分無いだろう。もうそろそろ日が暮れそうである、善は急げだ。

◇◇

車をビューンと飛ばし、山道をかっ飛ばすが、舗装された広い道なので問題は無い。途中、小さな橋を渡ると、ギョとする光景が目に入った。橋の下を流れる川も真っ赤である。夕日のせいか、それとも何かの自然現象か。または誰かが赤い塗料を流したか。まあ、ここで考えても答えは分からないので、何かの錯覚を見たとしておこう。車は右に左にクネクネ、グイグイと山頂を目指す。

山頂は自然の展望台のように周囲がよく見渡せる位置にある。俺が求めていた通りの光景だが、それだけである。ああ、景色がいい、それだけだ。ここで何かが分かるとか新発見するような出来事は、無い。それでもせっかく来たので暫くこの風景を堪能、と思いきや日が沈んでしまい真っ暗である。街灯も月明かりもなく、場合によっては、とても恐ろしい場所でもある。よりによって一人だ。怖くなっても抱きつく相手もいない。

しかしここで新たな発見である。周囲が暗くなったおかげで遠くの方、東の方角にチラつく光が見えてきた。どうやら街の灯りだろう。あそこにはまだ人が住んでいるに違いない。ようやく見つけた人の存在である。その方角を頭に叩き込み、明日そこに向かう決心である。そこに居るであろう人達と俺は同じ運命を共にする者達である。多分、良い仲間になれることだろう。

ここで遅い夕食と洒落込む。俺の希望としては優雅に星を見ながら、といきたいところだが、生憎と星々はお休みである。見えないものは仕方ないので、代わりに俺の希望の星を輝かせてやろう。ほら、行って夜空に輝いてこい。

一人で食べる飯は不味かろうと思うかもしれないが、長年一人で食べていると、味のことなど、どうでもよくなるものだ。腹が満たされればそれで良し。どんなに美味しいものを食べても、食べ終われば同じことだ。だが一番重要なことは、そんなことを考えないことである。少なくとも俺は好き好んで一人で食べているわけではない、ということだ。

相変わらず光の柱は、真っ暗な夜だというのに、何の役にも立っていない。不思議だが、人の役には立ちたくないという強い意志を感じるところである。それはともかく、今夜は車の後部座席でお休みである。今朝のように夜露に濡れるのは勘弁だからだ。

◇◇

さて、今は午後の3時くらいである。天気は曇り。別にこの時間まで寝ていたわけではない。しっかりと東の方角に向けて走ってきたところである。そして今、戻って来た訳だ。何故戻って来たかというと、それは、あれである。

東に向けて車を走らせると、街という街が破壊尽くされていた。これだけでも引き返すには十分は理由だが、例によって人影もなく、それでも勇気があるつもりで突き進んだ俺である。しかし昨夜見た街の付近で引き返した次第だ。何かこう、これ以上進んではいけないという俺の勘が囁き、それに素直に従った結果、気が付けば此処に居るという訳だ。とんだチキン野郎だが命を落としてからでは遅い。これは正しい判断だったと自負しておこう。序でに食料も確保してきたのは言うまでもない。それをどのような手段で入手したかは俺の心の中に仕舞ってあるので取り出すことは出来ないのであ~る。

時間的におやつの時間なので、生温いコーヒーを味わっている最中である。まだ日没までは時間があるので海の方がよく見えるが、相変わらず見事なまでに赤に染まっている。昨日、間近で見たときは赤潮かと思ったが、そんな小さな範囲ではない。海は広いな大きなと言いたくなるくらい、全体が赤くなって見える。もしかしたら、元々このような色なのかもしれないが、一見さんの俺としては判断しかねる光景だ。

ここで一服した後は今後の予定を決めなくてはならないが、しかし行く当てもなくフラフラとする訳にもいかない。さて、どうしたものか。どうするよ、ジョン、と言ってそのジョンがいきなり返事を返してきたら、それはそれで驚くものだ。だがそんな心配は無用とばかりに、人類といえば俺だけである。

地図を広げて眺めてはみるが、良い考えが浮かばない。砂漠ではないが、それと似た様な状況でもある。見渡す限り、俺の希望が削がれていく気分だ。

あれこれと考えているうちに日が沈んでしまったようだ。昨夜と同様、月明かりも星の瞬きもない、冴えない夜空である。そして東の街の灯りが見えてくる。その場所が何だか今日は不気味に見えるのは気のせいだろうか。灯りがあるということは人の生活があるということだろう。そこまで辿り着くことは出来なかったが、変な予感がしたのも、ただの臆病風に吹かれただけかもしれない。しかし明日、もう一度行ってみるか、という気にはなれない。不思議なものだ。

俺の奥底にある本能のようなものが、あれは偽物だと、何かと理由を付けたがる。なら、それに従い無理に行く必要はないだろう。他にも行ってみたい場所が思いつくかもしれない。

そんな事を考えながら、今日は早めの夕食である。新しい食材を手にしたら、それを試したくなるのは人情だろう。一人での味気ない食事にも楽しみが増えるのは大いに結構な事である。誰だい? 味などどうでも良いと言ったのは。

調理したての料理を一口、スプーンで味わう。う~む、一応、美味であると評価しておこう。そうして二口目を試そうとした時、目の錯覚か周囲が少し暗くなったような気がしたのである。それが気のせいなのか何なのかを見回してみるが、記憶の限りではその違いを認識することは出来なかった。

分からないことは深く追求しないのが俺の主義主張である。それでは誤解が生じるかもしれないが、要は物事がはっきりするまでは自己流の判断をしない、ということである。それと、分からないことをクヨクヨ考えるのは合理的ではない。今の俺にとっては重要な振る舞いだと思いながら二口、三口と食べ続ける俺である。幸いにもまだ俺の心の灯りは消えてはいない。それが風前の灯火だとしてもだ。

余談だが、今夜の食事に拘った本当の理由は、美味しい夢のせいである。俺達、ジョンとリンダとで、どこかで食事をしている夢だったのである。当然、リンダは食べないが、俺は美味しそうな肉をジュージューと焼いていたのだ。そこで余り関心が無さそうな振りをしつつ、どれどれ一口と、口を開けて肉を噛んだところで夢から覚めてしまった。この、目覚めた時の虚しさは、後味が悪いと表現するのが最適だろう。だが、これでも食べることに関しては余り興味がないのには変わりはない。腹が膨れれば何を食べても結果は同じである、はずである。

◇◇
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~

菱沼あゆ
キャラ文芸
 突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。  洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。  天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。  洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。  中華後宮ラブコメディ。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

烏の王と宵の花嫁

水川サキ
キャラ文芸
吸血鬼の末裔として生まれた華族の娘、月夜は家族から虐げられ孤独に生きていた。 唯一の慰めは、年に一度届く〈からす〉からの手紙。 その送り主は太陽の化身と称される上級華族、縁樹だった。 ある日、姉の縁談相手を誤って傷つけた月夜は、父に遊郭へ売られそうになり屋敷を脱出するが、陽の下で倒れてしまう。 死を覚悟した瞬間〈からす〉の正体である縁樹が現れ、互いの思惑から契約結婚を結ぶことになる。 ※初出2024年7月

僕らの10パーセントは無限大

華子
青春
 10%の確率でしか未来を生きられない少女と  過去に辛い経験をしたことがある幼ななじみと  やたらとポジティブなホームレス 「あり得ない今を生きてるんだったら、あり得ない未来だってあるんじゃねえの?」 「そうやって、信じたいものを信じて生きる人生って、楽しいもんだよ」    もし、あたなら。  10パーセントの確率で訪れる幸せな未来と  90パーセントの確率で訪れる悲惨な未来。  そのどちらを信じますか。 ***  心臓に病を患う和子(わこ)は、医者からアメリカでの手術を勧められるが、成功率10パーセントというあまりにも酷な現実に打ちひしがれ、渡米する勇気が出ずにいる。しかしこのまま日本にいても、死を待つだけ。  追い詰められた和子は、誰に何をされても気に食わない日々が続くが、そんな時出逢ったやたらとポジティブなホームレスに、段々と影響を受けていく。  幼ななじみの裕一にも支えられながら、彼女が前を向くまでの物語。

後宮なりきり夫婦録

石田空
キャラ文芸
「月鈴、ちょっと嫁に来るか?」 「はあ……?」 雲仙国では、皇帝が三代続いて謎の昏睡状態に陥る事態が続いていた。 あまりにも不可解なために、新しい皇帝を立てる訳にもいかない国は、急遽皇帝の「影武者」として跡継ぎ騒動を防ぐために寺院に入れられていた皇子の空燕を呼び戻すことに決める。 空燕の国の声に応える条件は、同じく寺院で方士修行をしていた方士の月鈴を妃として後宮に入れること。 かくしてふたりは片や皇帝の影武者として、片や皇帝の偽りの愛妃として、後宮と言う名の魔窟に潜入捜査をすることとなった。 影武者夫婦は、後宮内で起こる事件の謎を解けるのか。そしてふたりの想いの行方はいったい。 サイトより転載になります。

処理中です...