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#9 世界に吹く風(お迎え編)
#9.1 待ち侘びる風
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夏の終わりを告げる風が涙をポロリ、そんな風が吹き始めた頃。
ザブーン・シュワシュワ・サササー。
夕日の浜辺に立って、沈みゆく今日を見送っているケイコとマチコです。それぞれの顔を夕日で紅く染めながら、今日一日、楽しく遊んだことを振り返ります。そして太陽に向かって『さようなら』をしているケイコに、
「私さぁ」と言いかけたマチコです。ですが、それを遮るように、
「うん、知ってるよ」と答えるケイコです。
「あっそ……で、何を知ってるのよぉ?」
マチコの問いに一瞬、「えっ」となったケイコ、想定外のようです。しかしここは勇気を持って、
「マチコはー、アホー、なんでしょう、知ってるよ」とニコニコ顔で答えたのでした。もちろん、心の中では『えへん』を付けることを忘れていません。
そんなケイコにムキになるマチコ……ではなく、ケイコの声が聞こえなかったように続けるマチコです、あれ?
「二三日、都会の方に帰ってみようかと思ってさぁ。まあ何ていうのかなぁ、里帰り? だからさぁ、前もって言っておこうかなぁって、あんたには」
それに「ふ~ん」と答えたケイコですが、内心は『えっ』とドキドキしているようです。そんなケイコの心を揺さぶるかのように続けるマチコです。
「ほら、急に私が居なくなったらきっと、あんたのことだからさぁ、探すと思うんだよねぇ。だから先に言っておこうって思ってさぁ」
言い終わったマチコが、ケイコの反応を探るように見ていると、いかにも平気だよと言わんばかりの笑顔で、
「わかったよ、行ってきなよ。マチコも、たまには羽目を外してバカしたいんだよね」と答えました。そして心の中で『私は、何でも知ってるよ』と付け加えることも忘れませんでした。
「はあ? あんたそれ、どこで覚えてきたのよぉ、全くぅ。
だけどさぁ、それ聞いて安心したよ。あんたのことだから、きっと泣いちゃうかもって思ったんだけどね、大丈夫そうだね。それに——」
その先を言うか言うまいかと思案するマチコです。そのマチコをジロジロと見つめては、『早く、その先は?』と目で訴えかけるケイコです。
「それにぃ、あんたも誘おうかと思ったんだけど、都会だからねぇ、ちょっとぉあんたには無理かなぁって、危ないしねぇ」
ケイコと同様に笑顔で返したマチコでしたが、頬を膨らませたケイコが、
「大丈夫だもん、都会、行ったことあるもん。黄色いやつにも乗ったもん」と少々怒った様子です。
「あそこ? あそこはねぇ、都会と言えばそうだけどねぇ」
マチコの云う『あそこ』とは、以前、銀の船で行った『あの街』のことですが、怒りんぼのケイコから話を逸らそうと、話しを続けるマチコです。
「ほら、私の居ない間、あんたも羽を伸ばせばいいじゃないのぉ、こうやってさぁ」と背中の羽をピクピクさせるマチコです。それに気を取られているケイコに、「あれぇぇぇ、あんたさぁ、背中の羽、どうしたのよぉ、付いてないよぉぉぉ」と揶揄うと、
「大変じゃあああ、どうしよう」と慌てるケイコです。
「うっそぉ、ちゃんと付いてわよぉ」
「マ”チ”コ”ー、早く、どっか行っちゃへ」
「はいはい、そうするわよ」
◇
葉っぱベットから起き上がったケイコは、遊ぶに行く前にマチコの部屋の前で立ち止まりました、そして窓の前に立ったケイコは少し背伸びをし、鼻の下を伸ばしながら『どれどれ』と中の様子を覗くのです。
そこにマチコが居ないのを知りながら、部屋の隅々まで目を光らせています。それはまるで泥棒が部屋の中を物色しているようにも見える、怪しいケイコです。そして、「ふーん」と呟くとマチコの部屋を離れ、それから遊ぶに行くのでした。
冬の澄み切った空を風と一緒にスイスイと飛び回り、街から丘陵、そこから高原に辿り着きます。そしてまだ凍っていない湖の上を通って、また高原へ。そこで一休のために降り立つと、周囲をクルクルと見渡し、遠くの景色を堪能。そして街の上空まで戻ると、また高原に行く、といったことを繰り返すケイコです。
それは当て所もないようにも見えますが、何かを探しているようにも思えます。それはきっと当たっているのでしょう。でもケイコは、そのことに気が付かない『フリ』をしながら、普段、見もしない場所を見ているのでした。
◇
翌日、遊びを途中で切り上げたケイコは、最後にマチコと会った浜辺に居ました。そして、その時と同じように海に沈んでいく太陽に手を振りながら、「はあ~」と自然に溜息が出てしまったようです。
そしてその翌日、葉っぱベットから起き上がったケイコは、いの一番にマチコの部屋を覗きに行き、誰も居ないのを確認してから、また家に戻って来てしまいました。そうして家の中を行ったり来たりしながらムニムニ・ブツブツと呟き、今日は何をして遊ぼうかと考えてはムニムニ・ブツブツを繰り返していました。
「ケイコ~、さっきから何やってんのよ~」
そう声を掛けたのは、あぁ、ヨシコでした。それに、「ほあ~」と答えただけのケイコです。そんな腑抜けたケイコに、
「ああっ、わかっちった」と何かを企んでいそうなヨシコです。そして後ろに手を組んだままケイコを覗き込むように屈むと、「あれだ、マチコが居ないから、寂しいんだ」と言うとすぐさま、
「違うもん、そんなこと、ないもん」とボソボソ、目をあっちに向けてヨシコと目を逸らすケイコです。
「まあまあ、そう言いなさんなって。ほれ、マチコもそろそろ戻って来るんだろう。なら、もうちょっと待てばいいだけじゃん」
そう言うヨシコに頬を膨らませながら、「帰って来ないんだもん」と拗ねるように言い出すケイコです。それに少し困り顔のヨシコは名案が浮かんだようです。
「ならさー、迎えに行ってあげればいいじゃん」
「お迎え?」
「そうそう、そうしたらさ、きっとマチコのやつ、驚くぞー」
「驚く? うんうん、それ、いいかも」
「でしょう」
「うんうん」
「それならさ、マチコは西の方に行ったから、風に乗っていけばすぐさね」
「西? の方?」
「そう、西ね、太陽が沈む方だよ」
「うん、わかった」
こうしてマチコを迎えに行くことにしたケイコです。何故か満面の笑みを浮かべながら、「ふっ、困った子だねえ、マチコは。どれどれ、迎えに行ってやろうじゃないかいのぉ」と言うと駆け出して行ったのでした。それを、
「ちょっとー、もう陽が暮れるよー、明日にしたらー」とヨシコが止めても、
「行ってきまーす」と相変わらず聞く耳を持たないケイコです。
「あれれ、行っちゃったよ。まあ、いいか」と呟いたヨシコに、
「ただいまぁぁぁ」と帰って来たマチコです。
◇
ザブーン・シュワシュワ・サササー。
夕日の浜辺に立って、沈みゆく今日を見送っているケイコとマチコです。それぞれの顔を夕日で紅く染めながら、今日一日、楽しく遊んだことを振り返ります。そして太陽に向かって『さようなら』をしているケイコに、
「私さぁ」と言いかけたマチコです。ですが、それを遮るように、
「うん、知ってるよ」と答えるケイコです。
「あっそ……で、何を知ってるのよぉ?」
マチコの問いに一瞬、「えっ」となったケイコ、想定外のようです。しかしここは勇気を持って、
「マチコはー、アホー、なんでしょう、知ってるよ」とニコニコ顔で答えたのでした。もちろん、心の中では『えへん』を付けることを忘れていません。
そんなケイコにムキになるマチコ……ではなく、ケイコの声が聞こえなかったように続けるマチコです、あれ?
「二三日、都会の方に帰ってみようかと思ってさぁ。まあ何ていうのかなぁ、里帰り? だからさぁ、前もって言っておこうかなぁって、あんたには」
それに「ふ~ん」と答えたケイコですが、内心は『えっ』とドキドキしているようです。そんなケイコの心を揺さぶるかのように続けるマチコです。
「ほら、急に私が居なくなったらきっと、あんたのことだからさぁ、探すと思うんだよねぇ。だから先に言っておこうって思ってさぁ」
言い終わったマチコが、ケイコの反応を探るように見ていると、いかにも平気だよと言わんばかりの笑顔で、
「わかったよ、行ってきなよ。マチコも、たまには羽目を外してバカしたいんだよね」と答えました。そして心の中で『私は、何でも知ってるよ』と付け加えることも忘れませんでした。
「はあ? あんたそれ、どこで覚えてきたのよぉ、全くぅ。
だけどさぁ、それ聞いて安心したよ。あんたのことだから、きっと泣いちゃうかもって思ったんだけどね、大丈夫そうだね。それに——」
その先を言うか言うまいかと思案するマチコです。そのマチコをジロジロと見つめては、『早く、その先は?』と目で訴えかけるケイコです。
「それにぃ、あんたも誘おうかと思ったんだけど、都会だからねぇ、ちょっとぉあんたには無理かなぁって、危ないしねぇ」
ケイコと同様に笑顔で返したマチコでしたが、頬を膨らませたケイコが、
「大丈夫だもん、都会、行ったことあるもん。黄色いやつにも乗ったもん」と少々怒った様子です。
「あそこ? あそこはねぇ、都会と言えばそうだけどねぇ」
マチコの云う『あそこ』とは、以前、銀の船で行った『あの街』のことですが、怒りんぼのケイコから話を逸らそうと、話しを続けるマチコです。
「ほら、私の居ない間、あんたも羽を伸ばせばいいじゃないのぉ、こうやってさぁ」と背中の羽をピクピクさせるマチコです。それに気を取られているケイコに、「あれぇぇぇ、あんたさぁ、背中の羽、どうしたのよぉ、付いてないよぉぉぉ」と揶揄うと、
「大変じゃあああ、どうしよう」と慌てるケイコです。
「うっそぉ、ちゃんと付いてわよぉ」
「マ”チ”コ”ー、早く、どっか行っちゃへ」
「はいはい、そうするわよ」
◇
葉っぱベットから起き上がったケイコは、遊ぶに行く前にマチコの部屋の前で立ち止まりました、そして窓の前に立ったケイコは少し背伸びをし、鼻の下を伸ばしながら『どれどれ』と中の様子を覗くのです。
そこにマチコが居ないのを知りながら、部屋の隅々まで目を光らせています。それはまるで泥棒が部屋の中を物色しているようにも見える、怪しいケイコです。そして、「ふーん」と呟くとマチコの部屋を離れ、それから遊ぶに行くのでした。
冬の澄み切った空を風と一緒にスイスイと飛び回り、街から丘陵、そこから高原に辿り着きます。そしてまだ凍っていない湖の上を通って、また高原へ。そこで一休のために降り立つと、周囲をクルクルと見渡し、遠くの景色を堪能。そして街の上空まで戻ると、また高原に行く、といったことを繰り返すケイコです。
それは当て所もないようにも見えますが、何かを探しているようにも思えます。それはきっと当たっているのでしょう。でもケイコは、そのことに気が付かない『フリ』をしながら、普段、見もしない場所を見ているのでした。
◇
翌日、遊びを途中で切り上げたケイコは、最後にマチコと会った浜辺に居ました。そして、その時と同じように海に沈んでいく太陽に手を振りながら、「はあ~」と自然に溜息が出てしまったようです。
そしてその翌日、葉っぱベットから起き上がったケイコは、いの一番にマチコの部屋を覗きに行き、誰も居ないのを確認してから、また家に戻って来てしまいました。そうして家の中を行ったり来たりしながらムニムニ・ブツブツと呟き、今日は何をして遊ぼうかと考えてはムニムニ・ブツブツを繰り返していました。
「ケイコ~、さっきから何やってんのよ~」
そう声を掛けたのは、あぁ、ヨシコでした。それに、「ほあ~」と答えただけのケイコです。そんな腑抜けたケイコに、
「ああっ、わかっちった」と何かを企んでいそうなヨシコです。そして後ろに手を組んだままケイコを覗き込むように屈むと、「あれだ、マチコが居ないから、寂しいんだ」と言うとすぐさま、
「違うもん、そんなこと、ないもん」とボソボソ、目をあっちに向けてヨシコと目を逸らすケイコです。
「まあまあ、そう言いなさんなって。ほれ、マチコもそろそろ戻って来るんだろう。なら、もうちょっと待てばいいだけじゃん」
そう言うヨシコに頬を膨らませながら、「帰って来ないんだもん」と拗ねるように言い出すケイコです。それに少し困り顔のヨシコは名案が浮かんだようです。
「ならさー、迎えに行ってあげればいいじゃん」
「お迎え?」
「そうそう、そうしたらさ、きっとマチコのやつ、驚くぞー」
「驚く? うんうん、それ、いいかも」
「でしょう」
「うんうん」
「それならさ、マチコは西の方に行ったから、風に乗っていけばすぐさね」
「西? の方?」
「そう、西ね、太陽が沈む方だよ」
「うん、わかった」
こうしてマチコを迎えに行くことにしたケイコです。何故か満面の笑みを浮かべながら、「ふっ、困った子だねえ、マチコは。どれどれ、迎えに行ってやろうじゃないかいのぉ」と言うと駆け出して行ったのでした。それを、
「ちょっとー、もう陽が暮れるよー、明日にしたらー」とヨシコが止めても、
「行ってきまーす」と相変わらず聞く耳を持たないケイコです。
「あれれ、行っちゃったよ。まあ、いいか」と呟いたヨシコに、
「ただいまぁぁぁ」と帰って来たマチコです。
◇
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