ケイコとマチコ、ときどきエリコ

Tro

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#14 冒険する風

#14.3 無敵の風

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別のルートを進む海賊三号、右側に三つの扉がある通路を忍び足で進みます。そして手前の扉を通り過ぎた辺りで、真ん中の扉が少しだけ開いた、ような気がしたようです。そして、

「なんか眠れないのじゃ」と言いながらケイコが部屋から出て参りました。そうです、海賊三号と鉢合わせになったケイコ、危うしです。

しかし、部屋から出てきた小さなケイコを見て、腰を抜かしそうなくらい驚いた海賊三号、夢でも見てるのかと自分の目を擦りますが、現実を認めたくない海賊三号は身動きが取れません、金縛りでしょうか。

そんな海賊三号にお構いなく、「何奴じゃ!」と威嚇するケイコ、とても小さなケイコです。そんな、お人形さんサイズのケイコが喋ったと、更に驚く海賊三号、得体の知れない恐怖で身動き一つ出来ないでいます。

勿論、そんなことにはお構いなく、「悪者じゃな、成敗してくれよう」と戦闘態勢に入ったケイコです。

そして、ここで奇妙なことが起こりました。海賊三号から見て、小さなケイコが時々、大きくなって普通の少女のように見えたかと思うと、次の瞬間、元の小さなケイコに戻る、を繰り返し始めたのです。

では、ケイコから海賊三号はどう見えてるのでしょうか。それは自分よりも背の高いおっさんで、サイズは固定されているようです。よって、チカチカと大きさが変わって見えるのは海賊三号だけです、参ったかあああ、です。

これは、豪華客船の大きさに原因があるようです。それは、ケイコたちにとって普通のサイズであり、また海賊たちにとっても普通のサイズ感覚なのです。そこに矛盾がある訳で、ケイコたちに合わせている関係上、お邪魔虫の海賊側に不都合が生じている、ということです、はい。

幻惑される海賊三号、そこに左手を上げてグーパーを繰り返すケイコ、そしてその手に、何時もの『魔法の杖』が現れました。そうなれば、こっちのものです。

「あらったまほんにゃらほんぷー」

呪文を唱えたケイコから無数の火の玉が海賊三号を襲います。それを海賊三号の視点で見ると、通路の床にちょこんと立つ小さなケイコから、線香花火のような火の粉がパラパラと向かって来るだけ、問題ありません。

それを、何かのトリックだと思った海賊三号です。そして、そろそろ平静を取り戻した海賊三号は不思議な現象を無視すると決めたようです。そうなれば、そんな子供騙しが通用する相手ではありません。これでは絶対的に不利なケイコ、危うしです。

ところがです、突然、大きくなったケイコです。そこから放たれる火の玉は線香花火の、その比ではありません。それに目を丸くする海賊三号。しかし、既に時遅しです。無数の火の玉でブチのめされる海賊三号は、その勢いで吹き飛ばされて行くのでした。後はアイのおっちゃんが処理しますので安心です。

誰も居なくなったことで、「寝るのじゃ」と部屋に戻るケイコ、成敗完了です。これで三名脱落です。

◇◇

部屋をこっそりと抜け出し、夜の散歩を楽しんでいるマチコです。デッキの柵に掴まりながら、海に浮かぶ揺れる月を見ていました。そこに海賊四号の出現です。勿論、誰かと出会うだろうと想定済みの海賊四号、全身黒装束のため、身を潜めるにはもってこいです。

「誰? 誰か居るのぉ? ケイコ?」

見えそうで見えない海賊四号に向かって声を掛けるマチコです。当然、返事をせず微動だにしない海賊四号、マチコを襲う機会を伺います。すると、四方八方からサーチライトに照らされる海賊四号、びっくり仰天です。そして、あまりの眩しさから何も見えなくなったようです。因みにマチコは小さいマチコではなく、人サイズのマチコに見えていたようです。そう、もう過去形なので今は見えていません。

「なんだ、ダメじゃないのよぉ」と海賊四号に動じないマチコです。そして、「いくら船だって言っても、ここは家なんだからぁ。誰かに入られるなんて、やっぱりぃ、ヨシコが言ってた通り、ポンコツ、よねぇ」と呟きながら手の平を上にしました。それで海賊四号に向かって「フー」としようとしましたが、その前に忽然と消えてしまった海賊四号です。これで四名脱落です。

「やれば出来るじゃないのよぉ、全くぅ。ポンコツ、よねぇ」のマチコです。

◇◇

同じ頃、通路を忍び足で進む海賊五号、向かう先は突き当りの部屋のようです。そして運悪く、その部屋の扉を内側から開けようとしているのがエリコ、こっそり部屋を抜け出そうと思ったようです。しかし、少しだけ扉を開けたところで止めてしまいました。きっと気が変わったのでしょう。そんなエリコに何故か気が付いたケイコです。

「どうしたのじゃ、エリコや」と声を掛けると、
「ちょっと、お外に行ってみようかと思って」と正直に答えるエリコです。それに、
「ほう」と応えるケイコ、
「でも、お外に誰か居そうな感じがしたから止めたの」のエリコです。

「それは正解じゃ。さっき悪人を懲らしめたところじゃて」と武勇伝を語るケイコ、それを聞いてプルプルのエリコです。そこで、「じゃが安心せい。悪人は吹き飛ばしておいたから、もう安心じゃ」と保証しましたが、エリコのプルプルは止まりません。そこで、「では、お姉さんが確かめてきてあげよう」とベッドから飛び起きたケイコです。

そしてトコトコと扉に向かうと、あれれ、その扉がありません。その代わり、そこは大きな窓になっていたのでした。そこで仕方なく外の夜空を見上げた後、

「エリコや、誰もおらんぞ、安心いたせ」と振り向いてから適当に答えたケイコです。

◇◇

ところ変わって、デッキから部屋に戻ろうと船内への扉を開けたマチコです。そしてそのまま進むと、あら不思議、部屋に戻ったマチコです。そのマチコに駆け寄って抱きつくエリコ、おやおやまあまあと抱きしめるマチコ、夜空が綺麗じゃのう、のケイコです。

ところで、どうやらマチコにポンコツ呼ばわりされた『アイのおっちゃん』が本領を発揮したようです。ちょっと余興のつもりで海賊たちを招き入れたつもりでしたが、女王様であるエリコにまで危険が及びそうになったことで大慌てのおっちゃんです。それに、このことがヨシコにバレたら何を言われるか分かったものではありません、本気出します、です。

それで、通路に居た海賊五号が、どうなったかというと、エリコが部屋の扉を開ける寸前に、その通路ごと無くなりました。これで海賊全員が脱落したことになります。

そして、脱落した海賊たちは乗ってきた小型艇に強制送還され、豪華客船に忍び込んだことさえ記憶が曖昧になったようです。その豪華客船も既に動き出していて、遠くにその光が見えるだけとなっていました。

小型艇で留守番をしていた海賊六号は、不甲斐ない仲間たちを叱咤しましたが、あれはヤバイと戦意喪失の一号から五号です。そこで渋々、海賊船に戻ることにしましたが、あと少し、というところで、ブーンとドローンのブン太の登場です。そして何やら眩い光を海賊船に放つと、あれれ、ドカーン、ではなく蒸発するように消えて無くなって綺麗さっぱりの海賊船、どこにもありません、になりました。

そうして遭難した海賊たち、一週間ほど海を漂流した後、救助され、お縄になったそうです、はい。

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