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#15 夢見る風
#15.1 夢見る風
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静かな夜がゆっくりと訪れ、昼間の喧騒が嘘だったかのように静と動が入れ替わった時刻です。ケイコとマチコ、ノリコとエリコがそれぞれの部屋に分かれ、今は布団の中でスヤスヤと眠っています。それはきっと、良い夢を見ていることでしょう。
◇
ピーピピピー、ププププ、プー。
ところ変わって、風の子たちを卒業旅行に送り出した後、この世界は私の物になった、とヘンテコな夢を見ていたヨシコの元に、何かを知らせる警告音が鳴り響きました。しかしその音色からは、特に重要な出来事ではないと思われます。だって、とてもヘナチョコな音だからです、はい。
「むむ、この音は……この音は、もしかして……なんだっけ」
そうそう、ヨシコでさえ思い出せないくらいのヘナチョコ警告音です。そこで面倒くさそうにポチッと何かのボタンを押すと、ビヨヨーンとスクリーンが飛び出し、そこに世界地図のようなもが映し出されました。そして、ところどころに光の点滅がピーカピカしています。それにチラッと視線を向けたヨシコです。
「はあ? なんだって。うーむ、ふむふむ、ほっほー、なるほど、うんうん。で、あれなの? あれなんだ。そうかい、そうきたかい。なんだ、そうなんだ」
ブツブツと呟いた割に反応の薄いヨシコです。それはきっと、『大した事では無かった』のでしょう。それでまた何かのボタンをポチッと押してスクリーンを引っ込めると、大きな欠伸を一つ、「あ~ああ~」です。
そして、右手でグーパーしながら、「世界がこの手の中に、か」と世界を手中に収めた感触を味わって……「大変だよおおお!」と大騒ぎするヨシコです。
それもそのはず、でもありませんが、先程の地図が表していたのは世界中に点在する風の子たち、その就寝状況だったのです。
ええ、分かりますよ。なんでそんな地図があるのか、という疑問が沸き起こり、おちおちと眠れない夜をお過ごしのことでしょう。実は、そんな夜のためにヨシコが長年温めていた作戦があったのです。
それは名付けて『夢で遊ぼう大作戦』です。これは寝ている皆んなに同じ夢を見せて楽しく遊んでもらおうという、ちょっとしたプレゼント、のつもりのヨシコなのです。ええ、あくまで『つもり』なので、同じ夢を見せられて喜ぶ『はず』なのです。
しかし、ここに問題がありました。なにせ『夢を見る』わけですから、当然、プレゼントを受け取るには寝ている必要があるのです。そこで役に立つのが例の地図ということになります。
同時刻に寝ている風の子たちを見つけ、夢をプレゼントする。それも卒業旅行に行っているケイコたちに向けて特別に誂えた一品です。ですから、なるべく多くの風の子たちが参加できた方が好都合、いえ、より楽しい夢になること間違い無しなのです。
そして、これらの好条件が揃うと自動で教えてくれる便利な機能、それが例の警告音、待ってました、ヨシコ頑張ります、なのです、はい。
そうして意気揚々に、どこかの何かのボタンをポチッと押すヨシコです。すると、目には見えませんがヨシコの思念がプヨプヨと解き放たれ、楽しく愉快な夢となって飛んで行くのでした。
その夢を受け取るのはケイコとマチコは勿論のこと、ノリコとエリコ、何時も鳥さんと旅を続けるリンコ、川下りで自己を磨くミツコ、砂漠の上を絨毯で飛び回るサチコ、そしてどこかの島で遊んでいるシマコです。彼女たちは、まさにスヤスヤと眠っている最中、きっと楽しい夢を見ていることでしょう。それを強制終了させられ、ヨシコ自慢の一品、『夢で遊ぼう大作戦』の夢に引きずり込まれていく、大変ラッキーな風の子たちなのです。
では早速、その夢を覗き込んでみましょう、エイッ!
◇
学校の廊下を歩くケイコです。都合または手抜きにより、すれ違う人は誰もいません。おっと、学校なので制服姿のケイコです。
たぶん時間は午前中でしょう。廊下をスタスタと歩くケイコ、その顔は眠そうな、ではなく、何故かシャキッとしている珍しいケイコです。そのまま廊下を歩き続けると、ある教室の前で止まりました。そして後ろのドアをガラガラ、中に入って、
「おはようございます」と礼儀正しいケイコ、ですが誰も挨拶を返す人はいません。でも、そんなことを気にすることなく、ズンズンと進んで参ります。そして最初に出会ったのはエリコ、小さいままです。
「エリコさん、ここは高等部ですよ。教室を間違えてはいませんか」とケイコらしくないセリフが飛び出してきました。それに驚くエリコ、ではないようです。
「私は賢いから飛び級したのです。あなたこそ、初等部はあちらですよ」と、どこかを指差すエリコです。
「あら、そうですか、ごきげんよう」と澄まして通り過ぎるケイコです。そして次に出会ったのはノリコです。
「ノリコさん、ここは中等部ではないですよ。教室を間違えてはいませんか」のケイコに、
「間違えて入ってしまったのです」とモジモジしながら答えるノリコです。それに、
「あら、そうですか、ごきげんよう」と澄まして通り過ぎるケイコです。そして次に出会ったのは——、面倒になったのでしょう、自分の席に座ってニコニコのケイコ、大変嬉しそうです。
◇◇
場面は変わって職員室にて先生と会話をしているマチコです。その先生とは、椅子に座ってメガネ越しにマチコを見上げる、いかにも小難しそうな顔のヨシコ先生です。話の内容は今度の試験について、です。
「マチコ君、今度の試験のことで相談したいことがあるのさ」
試験のことで先生が生徒であるマチコに相談とは一体、なんでしょうか。その先を聞いてみましょう。
「クラスの問題児のことなんだけどさ、次の試験、頑張らないと落第なんだよね。それでさ、委員長であるマチコに、その子らの面倒を見てほしんさね」
ヨシコ先生が言う問題児とは、女王の権力で飛び級したエリコ、中等部なのに高等部の教室で『のほほん』としているノリコ、元気だけが取り柄のシマコ、几帳面だけど、それが過ぎるサチコ、他人に無関心でいて実は面倒見の良いツンデレのマチコ、そして、いつも遊ぶことしか考えていないケイコです。つまり、クラス全員が問題児ということになります、はい。
話は戻って、ヨシコ先生からの依頼を『あっさり』と引き受けた太鼓判のマチコです。それはきっと、委員長としてのプライドが、それとも適当に返事をしただけでしょう。それで、
「ちょっとぉ、任せなさいよねぇ」と自信たっぷりで職員室を後にしたマチコです。ですが、その割には「面倒だからサチコに任せようかなぁ」と呟くマチコでもあります。
そのサチコは副委員長を務めています。二人が並ぶと見分けが付かないほど似ているので、もしかしたらそれも計算の内なのかもしれません。それは、分身の術、または身代わりの術を繰り出す算段かも。因みにマチコとサチコは、名前だけではなく見た目も瓜二つなので、その見分け方としてアホ毛が右に傾いているのがマチコ、左がサチコになっています。
◇◇
ところ変わって生徒会室にて。そこの大きくて頑丈で重そうな机を前にして座っているのは生徒会長のリンコです。そして机の上には何やら黒くて分厚い本が置かれていました。その本のタイトルは、なんと『魔導師ケイコ』。それだけで何やら事件の予感プンプンです。
「君、そんなところから覗いていないで、中に入ってきたまえ」
生徒会室をこっそりと覗き込んでいたのは図書委員のミツコです。ですが、リンコから『こっそり』と言われたのは心外だったようで、スタスタっとリンコの前に進み出ました。そして、
「『こっそり』は会長の方です。本を図書室から勝手に持ちだされては困るのです。さあ、素直に返してください」とリンコに詰め寄ります、フハー、です。それに顔色一つ変えることなく、
「ミツコ君、それは誤解というものだよ。気が付いたら何時の間にか、この本がここにあったのだよ、不思議だね~」のリンコに、
「会長が挙動不審でその本を持ち出しているところを見た人が居るのです」と強気のミツコ、
「それは何かの見間違えだよ、きっと」と自信ありげなリンコ、それを鼻で笑い、
「見た人とは、私のことです。序でに証拠の写真も撮りました。今、見せましょうか」と動かぬ証拠を突き付けるミツコ、
「それはそうと、何の用かな、ミツコ君」と話を逸らし、遠くを見つめるリンコです。
図書室から無断で本を持ち出したリンコ、それを取り戻しに来たミツコとの間に暫しの沈黙が続きます。その間、リンコは言い訳を考え、ミツコは隙を見て机の上にある本に手を伸ばしました、後は手元に引き寄せるだけです。そこに、リンコの魔の手が本の上にドサっと覆い被さったのです。
「魔法はこの世界から消えてしまった、と思うかい?」と、本の奪取を阻害されて『チッ』と舌打ちするミツコを下から見上げるリンコです。
そのリンコが言う『魔法』とは、その昔、世界には魔法が存在したという言い伝え、というか噂があるのです。しかしそれは誰かの手で、または組織によって隠蔽されたのか、今ではお伽話として伝えられているだけです。なので、それを信じる者、魔法の存在を信じる人たちは周囲から『残念な人』と思われてしまうのです。それを口にしたということは、はい、リンコは『残念な人』と見られることを覚悟している、ということでしょう。その証拠に、ピクピクとリンコの顔が引きつっていた、と回顧録に記したミツコです。
そのミツコが何かを言おうと口もモコモコさせると、その前に語り始めたリンコです。
「魔法はね、君、実在するんだよ。一般的には、そう、今時そんなことを信じるなんて馬鹿げていると思うだろう、お伽話の世界の話だと。
だけどね、それがもし誰かの陰謀によって真実を隠すための罠だとしたらどうだろうか。魔法なんて使えるはずがない、あれは物語の世界の話で、この世には存在しないものだとね。
それはたぶん、その誰かにとって魔法の存在がとても都合が悪かった、だからあれは夢のようなものなんだと世間に思い込ませた、と私は思うのだよ。
しかし、世界はそんな誰かの思惑通りには動かなかった。それは魔法の呪文や方法が今でも伝えられているということで分かるだろう。
でも、残念ながらその方法で魔法を使うことは出来ないし、何も起こらない。それは何故なんだろうかと私はずっと考えていたのだよ。
そして、ある結論に達したのだ。それは、そう、魔法のための『何か』が足りないんだとね。一説によると、その『何か』が消滅したために、同時に魔法も消滅したというんだ。それもかなり昔、数千年もの前に、その『何か』がこの世から消え失せた。それだけ昔のことなら魔法が『ただのお伽話』になってしまったのは仕方のないことだろう。
ところが! だよ。諦めかけていた私は偶然? 否、必然的にこの本と出逢ってしまったのだよ。『大魔道師ケイコ』、この本のタイトル、ケイコといえば人類史上最後の魔法使いと言われている伝説上の人物だ。その人物が書いたと思われる本の存在こそ、魔法が本当は存在したという証拠ではないかね、君!」
熱く語るリンコに対して、椅子に座って寝ていたミツコです、
「はあ、終わりましたか?」とダルそうにリンコを見ましたが、そんなことにはお構いなく、まだまだ続ける気満々のリンコです。
「『大魔導士ケイコ』、ケイコといえば我が校に一人、同名な者がいるではないか」
「はあ、それが」
「君、分からないかね、ケイコだよケイコ。そんな珍しい名前が他に居るとでも言うのかかい?」
「はあ、居るのではないですか?」
「ダメだね、君は全然わかってはいないよ。この学校の創設者の名前がケイコ、そして何時も不在の校長先生、ケイコという名の生徒、最後にこの本の存在。どうだい、もうこれは決定的といっても過言ではあるまい、うん」
「偶然ですよ、それに……」
「それに、なんだい? 私はね、知っているのだよ。君がコッソリとケイコ君を調べていることをね」
「何故それを」
「私を誰だと思っているのかね、生徒会長だよ。この学校のことなら隅から隅まで良く知っているさ、フフッ」
「ところでその本、もう読みましたか?」
「いいや、それがまだなんだ。だってほら、ワクワクで本を開くどころではなかったからね。後で充分時間を掛けて読むつもりだよ」
「そうですか、それは良かったですね。ですがその本、写本と言っても原本は数千年前に書かれたもの、とされていますが日本語で書かれていますよね。それは何故なんでしょうか、不思議、ですね」
「なっ!」
驚きのあまり、ほぼ万歳をした形のリンコです。その隙に本をスパッと回収したミツコです。それに、更に驚いたリンコですが、目を丸くしても既に本はミツコの腕の中にあります。そして素早く後退したミツコは、
「それでは失礼いたします」とペコリ。それに、
「あ~、う~」と答えたリンコです。そんなリンコに、
「会長、ご安心ください。何か分かりましたらご連絡しますから、気が向いたらですけど」と言い残し、風のように去って行くミツコです。
閉ざされた生徒会室の扉を涙目で見つめるリンコの目的は、魔法を復活させて魔法を使ってみること、ミツコは『大魔導士ケイコ』が誰なのかを突き止めることのようです。
◇
◇
ピーピピピー、ププププ、プー。
ところ変わって、風の子たちを卒業旅行に送り出した後、この世界は私の物になった、とヘンテコな夢を見ていたヨシコの元に、何かを知らせる警告音が鳴り響きました。しかしその音色からは、特に重要な出来事ではないと思われます。だって、とてもヘナチョコな音だからです、はい。
「むむ、この音は……この音は、もしかして……なんだっけ」
そうそう、ヨシコでさえ思い出せないくらいのヘナチョコ警告音です。そこで面倒くさそうにポチッと何かのボタンを押すと、ビヨヨーンとスクリーンが飛び出し、そこに世界地図のようなもが映し出されました。そして、ところどころに光の点滅がピーカピカしています。それにチラッと視線を向けたヨシコです。
「はあ? なんだって。うーむ、ふむふむ、ほっほー、なるほど、うんうん。で、あれなの? あれなんだ。そうかい、そうきたかい。なんだ、そうなんだ」
ブツブツと呟いた割に反応の薄いヨシコです。それはきっと、『大した事では無かった』のでしょう。それでまた何かのボタンをポチッと押してスクリーンを引っ込めると、大きな欠伸を一つ、「あ~ああ~」です。
そして、右手でグーパーしながら、「世界がこの手の中に、か」と世界を手中に収めた感触を味わって……「大変だよおおお!」と大騒ぎするヨシコです。
それもそのはず、でもありませんが、先程の地図が表していたのは世界中に点在する風の子たち、その就寝状況だったのです。
ええ、分かりますよ。なんでそんな地図があるのか、という疑問が沸き起こり、おちおちと眠れない夜をお過ごしのことでしょう。実は、そんな夜のためにヨシコが長年温めていた作戦があったのです。
それは名付けて『夢で遊ぼう大作戦』です。これは寝ている皆んなに同じ夢を見せて楽しく遊んでもらおうという、ちょっとしたプレゼント、のつもりのヨシコなのです。ええ、あくまで『つもり』なので、同じ夢を見せられて喜ぶ『はず』なのです。
しかし、ここに問題がありました。なにせ『夢を見る』わけですから、当然、プレゼントを受け取るには寝ている必要があるのです。そこで役に立つのが例の地図ということになります。
同時刻に寝ている風の子たちを見つけ、夢をプレゼントする。それも卒業旅行に行っているケイコたちに向けて特別に誂えた一品です。ですから、なるべく多くの風の子たちが参加できた方が好都合、いえ、より楽しい夢になること間違い無しなのです。
そして、これらの好条件が揃うと自動で教えてくれる便利な機能、それが例の警告音、待ってました、ヨシコ頑張ります、なのです、はい。
そうして意気揚々に、どこかの何かのボタンをポチッと押すヨシコです。すると、目には見えませんがヨシコの思念がプヨプヨと解き放たれ、楽しく愉快な夢となって飛んで行くのでした。
その夢を受け取るのはケイコとマチコは勿論のこと、ノリコとエリコ、何時も鳥さんと旅を続けるリンコ、川下りで自己を磨くミツコ、砂漠の上を絨毯で飛び回るサチコ、そしてどこかの島で遊んでいるシマコです。彼女たちは、まさにスヤスヤと眠っている最中、きっと楽しい夢を見ていることでしょう。それを強制終了させられ、ヨシコ自慢の一品、『夢で遊ぼう大作戦』の夢に引きずり込まれていく、大変ラッキーな風の子たちなのです。
では早速、その夢を覗き込んでみましょう、エイッ!
◇
学校の廊下を歩くケイコです。都合または手抜きにより、すれ違う人は誰もいません。おっと、学校なので制服姿のケイコです。
たぶん時間は午前中でしょう。廊下をスタスタと歩くケイコ、その顔は眠そうな、ではなく、何故かシャキッとしている珍しいケイコです。そのまま廊下を歩き続けると、ある教室の前で止まりました。そして後ろのドアをガラガラ、中に入って、
「おはようございます」と礼儀正しいケイコ、ですが誰も挨拶を返す人はいません。でも、そんなことを気にすることなく、ズンズンと進んで参ります。そして最初に出会ったのはエリコ、小さいままです。
「エリコさん、ここは高等部ですよ。教室を間違えてはいませんか」とケイコらしくないセリフが飛び出してきました。それに驚くエリコ、ではないようです。
「私は賢いから飛び級したのです。あなたこそ、初等部はあちらですよ」と、どこかを指差すエリコです。
「あら、そうですか、ごきげんよう」と澄まして通り過ぎるケイコです。そして次に出会ったのはノリコです。
「ノリコさん、ここは中等部ではないですよ。教室を間違えてはいませんか」のケイコに、
「間違えて入ってしまったのです」とモジモジしながら答えるノリコです。それに、
「あら、そうですか、ごきげんよう」と澄まして通り過ぎるケイコです。そして次に出会ったのは——、面倒になったのでしょう、自分の席に座ってニコニコのケイコ、大変嬉しそうです。
◇◇
場面は変わって職員室にて先生と会話をしているマチコです。その先生とは、椅子に座ってメガネ越しにマチコを見上げる、いかにも小難しそうな顔のヨシコ先生です。話の内容は今度の試験について、です。
「マチコ君、今度の試験のことで相談したいことがあるのさ」
試験のことで先生が生徒であるマチコに相談とは一体、なんでしょうか。その先を聞いてみましょう。
「クラスの問題児のことなんだけどさ、次の試験、頑張らないと落第なんだよね。それでさ、委員長であるマチコに、その子らの面倒を見てほしんさね」
ヨシコ先生が言う問題児とは、女王の権力で飛び級したエリコ、中等部なのに高等部の教室で『のほほん』としているノリコ、元気だけが取り柄のシマコ、几帳面だけど、それが過ぎるサチコ、他人に無関心でいて実は面倒見の良いツンデレのマチコ、そして、いつも遊ぶことしか考えていないケイコです。つまり、クラス全員が問題児ということになります、はい。
話は戻って、ヨシコ先生からの依頼を『あっさり』と引き受けた太鼓判のマチコです。それはきっと、委員長としてのプライドが、それとも適当に返事をしただけでしょう。それで、
「ちょっとぉ、任せなさいよねぇ」と自信たっぷりで職員室を後にしたマチコです。ですが、その割には「面倒だからサチコに任せようかなぁ」と呟くマチコでもあります。
そのサチコは副委員長を務めています。二人が並ぶと見分けが付かないほど似ているので、もしかしたらそれも計算の内なのかもしれません。それは、分身の術、または身代わりの術を繰り出す算段かも。因みにマチコとサチコは、名前だけではなく見た目も瓜二つなので、その見分け方としてアホ毛が右に傾いているのがマチコ、左がサチコになっています。
◇◇
ところ変わって生徒会室にて。そこの大きくて頑丈で重そうな机を前にして座っているのは生徒会長のリンコです。そして机の上には何やら黒くて分厚い本が置かれていました。その本のタイトルは、なんと『魔導師ケイコ』。それだけで何やら事件の予感プンプンです。
「君、そんなところから覗いていないで、中に入ってきたまえ」
生徒会室をこっそりと覗き込んでいたのは図書委員のミツコです。ですが、リンコから『こっそり』と言われたのは心外だったようで、スタスタっとリンコの前に進み出ました。そして、
「『こっそり』は会長の方です。本を図書室から勝手に持ちだされては困るのです。さあ、素直に返してください」とリンコに詰め寄ります、フハー、です。それに顔色一つ変えることなく、
「ミツコ君、それは誤解というものだよ。気が付いたら何時の間にか、この本がここにあったのだよ、不思議だね~」のリンコに、
「会長が挙動不審でその本を持ち出しているところを見た人が居るのです」と強気のミツコ、
「それは何かの見間違えだよ、きっと」と自信ありげなリンコ、それを鼻で笑い、
「見た人とは、私のことです。序でに証拠の写真も撮りました。今、見せましょうか」と動かぬ証拠を突き付けるミツコ、
「それはそうと、何の用かな、ミツコ君」と話を逸らし、遠くを見つめるリンコです。
図書室から無断で本を持ち出したリンコ、それを取り戻しに来たミツコとの間に暫しの沈黙が続きます。その間、リンコは言い訳を考え、ミツコは隙を見て机の上にある本に手を伸ばしました、後は手元に引き寄せるだけです。そこに、リンコの魔の手が本の上にドサっと覆い被さったのです。
「魔法はこの世界から消えてしまった、と思うかい?」と、本の奪取を阻害されて『チッ』と舌打ちするミツコを下から見上げるリンコです。
そのリンコが言う『魔法』とは、その昔、世界には魔法が存在したという言い伝え、というか噂があるのです。しかしそれは誰かの手で、または組織によって隠蔽されたのか、今ではお伽話として伝えられているだけです。なので、それを信じる者、魔法の存在を信じる人たちは周囲から『残念な人』と思われてしまうのです。それを口にしたということは、はい、リンコは『残念な人』と見られることを覚悟している、ということでしょう。その証拠に、ピクピクとリンコの顔が引きつっていた、と回顧録に記したミツコです。
そのミツコが何かを言おうと口もモコモコさせると、その前に語り始めたリンコです。
「魔法はね、君、実在するんだよ。一般的には、そう、今時そんなことを信じるなんて馬鹿げていると思うだろう、お伽話の世界の話だと。
だけどね、それがもし誰かの陰謀によって真実を隠すための罠だとしたらどうだろうか。魔法なんて使えるはずがない、あれは物語の世界の話で、この世には存在しないものだとね。
それはたぶん、その誰かにとって魔法の存在がとても都合が悪かった、だからあれは夢のようなものなんだと世間に思い込ませた、と私は思うのだよ。
しかし、世界はそんな誰かの思惑通りには動かなかった。それは魔法の呪文や方法が今でも伝えられているということで分かるだろう。
でも、残念ながらその方法で魔法を使うことは出来ないし、何も起こらない。それは何故なんだろうかと私はずっと考えていたのだよ。
そして、ある結論に達したのだ。それは、そう、魔法のための『何か』が足りないんだとね。一説によると、その『何か』が消滅したために、同時に魔法も消滅したというんだ。それもかなり昔、数千年もの前に、その『何か』がこの世から消え失せた。それだけ昔のことなら魔法が『ただのお伽話』になってしまったのは仕方のないことだろう。
ところが! だよ。諦めかけていた私は偶然? 否、必然的にこの本と出逢ってしまったのだよ。『大魔道師ケイコ』、この本のタイトル、ケイコといえば人類史上最後の魔法使いと言われている伝説上の人物だ。その人物が書いたと思われる本の存在こそ、魔法が本当は存在したという証拠ではないかね、君!」
熱く語るリンコに対して、椅子に座って寝ていたミツコです、
「はあ、終わりましたか?」とダルそうにリンコを見ましたが、そんなことにはお構いなく、まだまだ続ける気満々のリンコです。
「『大魔導士ケイコ』、ケイコといえば我が校に一人、同名な者がいるではないか」
「はあ、それが」
「君、分からないかね、ケイコだよケイコ。そんな珍しい名前が他に居るとでも言うのかかい?」
「はあ、居るのではないですか?」
「ダメだね、君は全然わかってはいないよ。この学校の創設者の名前がケイコ、そして何時も不在の校長先生、ケイコという名の生徒、最後にこの本の存在。どうだい、もうこれは決定的といっても過言ではあるまい、うん」
「偶然ですよ、それに……」
「それに、なんだい? 私はね、知っているのだよ。君がコッソリとケイコ君を調べていることをね」
「何故それを」
「私を誰だと思っているのかね、生徒会長だよ。この学校のことなら隅から隅まで良く知っているさ、フフッ」
「ところでその本、もう読みましたか?」
「いいや、それがまだなんだ。だってほら、ワクワクで本を開くどころではなかったからね。後で充分時間を掛けて読むつもりだよ」
「そうですか、それは良かったですね。ですがその本、写本と言っても原本は数千年前に書かれたもの、とされていますが日本語で書かれていますよね。それは何故なんでしょうか、不思議、ですね」
「なっ!」
驚きのあまり、ほぼ万歳をした形のリンコです。その隙に本をスパッと回収したミツコです。それに、更に驚いたリンコですが、目を丸くしても既に本はミツコの腕の中にあります。そして素早く後退したミツコは、
「それでは失礼いたします」とペコリ。それに、
「あ~、う~」と答えたリンコです。そんなリンコに、
「会長、ご安心ください。何か分かりましたらご連絡しますから、気が向いたらですけど」と言い残し、風のように去って行くミツコです。
閉ざされた生徒会室の扉を涙目で見つめるリンコの目的は、魔法を復活させて魔法を使ってみること、ミツコは『大魔導士ケイコ』が誰なのかを突き止めることのようです。
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