逆・異世界転生 Ⅰ

Tro

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#5 シルキーの涙

大空へ

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翌日から訓練施設に囚われたお姉さんは晴れ晴れとした気分で最後の調整をしていますが、一瞬よぎる不安が脳裏から離れないようです。それは、もしシルキーが見送りに来てくれなかったら、ということですが、あの子に限って、と何度も自分に言い聞かせ、平常心を保っていました。

そうして迎えた出発の日。陽はとうに暮れ、辺りは暗くなっていますが、ある一点だけが異様に明るく灯る場所。そこに今回の宇宙飛行士たちが一列に並んで歩き、多くの観衆の声援に応えているところです。勿論、その中にはあのお姉さんの姿も含まれています。

笑顔を見せ、手を振ってみせるお姉さんですが、胃はキリキリ、頭はクラクラ、目はギラギラクルクルと観衆の中からシルキーを探しているところです。そうして隅の方で佇むシルキーを見つけました。

「キャプテン! 友達がいるので挨拶してきます」と叫ぶお姉さん、隊列を離れ、一人ビューンと走り出しました。

「おい! 君! 許可できない! 戻りたまえ!」
「すぐ戻りますから、すぐですよー」と船長の制止も聞かず、ぶっ飛ぶように走るお姉さんです。その速さ、尋常ではありません。

シルキーのもとに辿り着いたお姉さんは有無も言わせずシルキーの手を取り、更に走り続け、暗闇の中に消えて行くのでした。そうして周囲に誰の目もないことを確認すると、いきなり着ている宇宙服をスポーンと脱ぎ始めたのです。

「これを着てちょうだい! そしてあの人たちに付いて行って! お願い」
「(はあ)チッ」

何が何だか分からないシルキーですが、取り敢えず言われるがままに宇宙服を着用していきます。ですが正確には宇宙服を『着た』というよりも『重ねた』と表現した方が良いでしょう。シルキーは実体があって無いようなものですから。

宇宙服姿のシルキー、その頭にヘルメットをグイグイと装着して完了です。
「いい? 絶対そのヘルメットを取ってはダメよ、死んじゃうから、絶対よ」とシルキーを心配そうに見つけるお姉さんです。そして遠く離れた一箇所を指差し、
「あの人たちに付いて行って、椅子に座るだけのお仕事だから、頼んだわよ。ああそうそう、何か聞かれても返事しなくていいから、ね」と言い終わるとシルキーの背中を押すお姉さん。
「さあ、行って、皆んなが貴女を、待ってるわ」

◇◇

火星行きのロケットの発射直前でシルキーと入れ替わったお姉さんです。まあ、なんてことでしょう。列に戻ったシルキーは船長に叱られながら連れ去れ、一方のお姉さんは暗闇の中に消えていくのでした。

お姉さん、あなたはそれで良かったのですか? 心は痛まないのですか? そんな問い掛けに、だって、仕方ないじゃーん、と聞こえてきそうな、そんな闇が見えてきそうです。

ドカーン。シルキーを乗せたロケットが火星を目指して飛び立ちました。煙モクモク、船体ガタガタ、エンジンゴーゴゴゴ、そして強烈なGがシルキーを襲っています。

「おわあぁぁぁぁぁ」
とうとう、悲鳴を上げてしまうシルキーです。ですがそれは苦しいからではなく、単に驚いたためでしょう。ここはどこ? なんで私はここにいるの? といった疑問で一杯のようです。

宇宙に飛び出したロケット、いえ、もう宇宙船と言ったほうが相応しいでしょう。早速、スイングバイをするための軌道に入ったところです。そう、今は地球をグルグルと回っている最中。それで勢いをつけてからエイヤーと火星に向かうコースになっています。

「おわあぁぁぁぁぁ」
今度はシルキーの隣の座席に座る男性がシルキーの悲鳴を真似て揶揄っています。「お嬢さん、もうヘルメットは外してもいいだぜ。なんなら俺が外して差し上げようか」と言ったものの、全く反応しないシルキーに次第に不安になってきてもいます。そこで、何気なく胸にある小さなパネルと見ると、

「おきゃぁぁぁぁぁ……なんてね」と一瞬、強張った顔からまたニヤけた顔に戻りましたが、それは半信半疑でもあるようです。何故なら、この男性が見たパネルには脈拍、呼吸、血圧共にゼロと表示されていたからでしょう。そして力なく伸びきったシルキーの両腕が、何やら不吉な予感を誘います。

「キャプテン、キャプテン! 彼女の宇宙服は故障しているようだ」と男性が報告すると船長は正確な報告を求めるのでした。『~ようだ』では門前払いです。

「生命表示が機能していません、全ての数値がゼロを指しています」
男性の声に船内が凍りつくような緊張に包まれました。それを言った本人自身が一番驚いたのかもしれません。冗談半分で言ったことが現実に起ころうとは。オロオロの男性です。それに追い打ちをかけるかのように船長がシルキーのヘルメットをとるように指示しました。えっ? なんで? 俺が? の男性です。

何とか平静を装う男性、そっとヘルメットに手を添えます。因みにヘルメットの前部はシールドを覆われているため中身、シルキーの顔は見えません。さあ、エイッとヘルメットを持ち上げると、ポカ、「ウオォォォォ」と悲鳴を上げる男性です。

ああ、そこにシルキーは居ませんでしたね。何時までも窮屈な宇宙服を着ているシルキーではありません。そう、自由と孤独を愛する女性なのです。

当然、船内は大騒ぎです。何時シルキーがいなくなったのか、そもそも乗っていたのか。しかし隣の男性はシルキーの叫ぶ声を聞いています。他の人もその声を耳にしていたことでしょう。では一体いつどこで、となるわけですが、これまた誰にも分からないことなのです。ですが現実は空っぽの宇宙服だけが虚しく漂うばかり、それを受け入れことしか今は出来そうにありません。

当のシルキーは、宇宙服を取り払い、自由気ままに船内を散策中であります。狭い船内は苦にならないシルキーですが、人との至近距離は大の苦手。それで抜け出してしまったのでしょう。幸いと言うのかどうか、シルキーの姿は誰にも見えてはいないようです。それは、一説によるとシルキーを求めたり必要としない限りその姿が見えないとか、またはその存在を信じている人だけに見えるとかとかです。

大騒ぎの船内ですが、今更引き返すわけにもいかず、クルクルと地球を回ります。その間、この問題をどうしたものかと思案する皆さん。結局、未知のウィルスで死亡した、という尤もらしい理由をつけ、この先の長い旅を考慮して忘れることにしたようです。

シルキーの旅は続きます。火星まで行くとあってか、船内は結構広いというか、クネクネと通路が伸びていますが、そこは宇宙船、結構ヤバいくらい煩雑になっています。当然、それを見てジッとしてはいられないシルキーです。適当に刺さっている配線を抜ては綺麗に揃え、書きなぐってある付箋のようなものは片っ端から剥がし整理整頓を心がけました。それが終わると次のブロックへ、そして次へと進み、結構な時間をかけてしまったようです。

そうして時折、船外に出ては広大な宇宙を眺め、明けない夜を過ごしました。そう、シルキーにとってそこは宇宙ではなく、長く続く夜の世界だったのです、はい。

そんな時、ある事件が起きたのです。乗組員が覗く小さな窓、そこには果てしなく続く宇宙が広がって見える、のはずでしたがそこに時折、白い影がチラチラと見えたそうです。それは他の乗組員も同様です。こうして集まった目撃情報を検証した結果、それは今は亡きシルキーの亡霊、正確にはお姉さんが死んだことになっていますから、その浮かばされない霊が宇宙遊泳、いえ、化けて出てきていると結論づけました。

しかしその実態はシルキーが船外を散歩していた雄姿、その片鱗です。そして誰かと目が合いそうになると、サッと隠れたりしたシャイなシルキーです。

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