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第2章 仲間を迎えるって大変だ
第24話 女の秘密は1つや2つじゃ足りないらしい
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エルサさんが血を怖がる理由──それを探るために私はクリスさんのお店に来ていた。
本人に直接聞く手もあったが、前にはぐらかされたこともある。そして、優しいエルサさんならきっとあいまいな笑顔ではぐらかそうとするだろう。だから、周りに聞く必要があるのだけれど。
「エルサが血を怖がる理由ぅ?」
「あの、あからさまにものすっごい嫌な顔するのやめてもらってもいいですか?」
目を細めて眉間にしわを寄せて。酒樽持ったまま。
「あのねぇ、サラ。……よいしょっと」
酒樽をその場に置くと、クリスさんは長い金髪を手で払った。
「人の隠している秘密を探るのは良くないよ。特に、女は1つや2つ、いや9つや10は秘密を持っているもの」
「そ、そんなにあります?」
「もう少し大人になればわかるよ、サラちゃんにもね。まっ、そういうことだから、諦め──」
「──ません! 諦めません! クリスさんが酒場の仕事を誇りに思っているように、私もこのギルドの仕事を誇りに思っていますから!」
……たぶん……まあ、少しは。
私のハッタリを真に受けたのか、クリスさんは「ふ~ん」と見定めるように私の顔を見つめてきた。
私も負けじと見つめ返す。そうして、お互いの腹を探る壮絶なにらめっこが0.1秒続いたくらいで、クリスさんはなぜかうれしそうに笑い声を上げた。
「いい顔するようになったね、サラちゃん。いや、サラ。事情は聞くよ。私もサラのギルドの一員なわけだし。少し待ってて。今、ジュースを出すから」
「いや、あの、クリスさん。私、もう立派な大人ですから、お酒でも──」
ジュース一択ってなぜ?
「いやいや、お酒は酸いも甘いもわかった上でってね」
「……はぁ……」
*
「──というわけなんです」
事情を一通り話したところで、クリスさんの新作「薬草ミックスジュース」に入れられた氷を一つ口に入れる。何とも言えないクセのある薬草のつんとした香りが鼻にくる。
一緒に金色のカクテルの材料を探しに行って以降、研究にハマっているんだ。薬草を使ったメニュー。
「なるほどね。今の底辺ギルドを立て直すためには、エルサの力がどうしても必要だってことか」
「ええ。エルサさんは、仮とはいえ私の無茶なお願いを快く引き受けてくれました。村長のところにも一緒に行ってくれたし、猫探しもまるで自分事のように率先して動いてくれた。決して、ギルドの仕事が嫌とかそういうことじゃないから、なんとか正式なギルド員になってほしいと思って」
「確かに。エルサは昔から良い子だけど、やりたくないことを無理にやるような人間じゃない。……でも、まだ血が怖い……か」
まだ? 今、まだって言ったよね。
クリスさんがポロリと漏らした重要な言葉をさらに掘り下げようと口を開いたが、続きは聞けなかった。
クリスさんの顔が、とても苦しそうに歪んだからだ。まるで苦虫を食べたように。今、私が特製ミックスジュースを飲んだみたいに。
いや、冗談を言ってる場合ではないか。
私の考えがわかったのか、目が合うとクリスさんは苦笑いした。
「ふふっ。大丈夫。そんなに気が重たい話じゃないんだ。だけど……そうだな」
クリスさんは、自分用に出した強っそうなお酒をロックで割ったやつを傾けた。私のと違って、氷がいい音を出している気がする。
「なぜ、エルサが美容師をしているのか。それがヒントかな」
「エルサさんが美容師をしている理由? えっ、でもそんなの──」
「チハヤくんなら、わかるかもしれないね。異世界転生者なんだろ? 世界中も旅してるし。ごめん、サラちゃん、私から言えるのはこれだけ」
クリスさんの視線が外されて、私はそれ以上突っ込むことができなかった。
*
「サラ様」
ノック音のあとにドアが開き、チハヤがひょっこり顔を出した。
「なに?」
ベッドに寝転がりながら考え事をしていた私は、体にかけていた薄手のタオルをどかして起き上がる。
……体が、少しだけ重たい気がした。
「夕食の時間です」
「そっか、もうそんな時間?」
「ええ。グレースが待ちわびています。先に」
「うん、待たせるのもかわいそうだし、食べてていいよ」
「……では」
チハヤはなにか言いたげに一瞬、私の目を見たけど、結局なにも言わずにドアを閉めていった。
「はあ」
やっぱり、体が重い。
もう一度ベッドに横になる。目を閉じればきゃっきゃと楽しそうなグレースの声が聞こえてきた。
グレースが家に来てから、もう数日。ずいぶんと騒がしくなった。いい意味で。
グレースは人間になったばかりだから、人間らしい生活スタイルは知らない。行儀作法もわからないから、最初は料理だって皿に直接口を持っていってたし、とにかくあちこち走り回っていた。
おじいちゃんと暮らしていたときみたいに、退屈しない毎日だ。……おじいちゃんは、ちゃんとナイフとフォークでご飯食べてたけど。
『サラちゃん、おじいちゃんがいないと独りぼっちでしょ? でも、新しくギルドを始めるならいろんな人がここへ集まるじゃない。きっと、寂しくないようにと思って残しておいてくれたんじゃないかなと思うんだけど、ね』
エルサさんが仮でギルドに来てくれたその日、エルサさんは優しい笑顔でそう言ってくれた。
あのときは、単純に忘れていただけじゃ、って思っていたけど、今なら、もしかしたらワンチャン、おじいちゃんはそんなことを思ってくれていたのかなという気もする。
寂しがり屋でもあるんだ、おじいちゃんは。だから、とにかくいっぱいしゃべってたんだから。
ギルドもいいかも、と思えたのはエルサさんの言葉がきっかけで。だけど、エルサさんはギルドへの加入を断っていて。
『女は1つや2つ、いや9つや10は秘密を持っているもの』
……このままエルサさんの秘密を探ってもいいのかな?
そのとき。ぐ~と気持ちいいくらいお腹が鳴る。
「こんなときでもやっぱり、お腹は空くのか」
しゃあない。楽しい夕食タイムだ。
ドアを開けて階段を下りていく。下りきった先のリビングでは──食卓テーブルの上に立ち上がっているグレースが私の分の肉にかぶりつこうとしていた。
「って、てめぇ!! いくらかわいいからって、それだけはダメだ! 乙女にとっておいしいご飯はなにより大事なんだぞ!!!」
本人に直接聞く手もあったが、前にはぐらかされたこともある。そして、優しいエルサさんならきっとあいまいな笑顔ではぐらかそうとするだろう。だから、周りに聞く必要があるのだけれど。
「エルサが血を怖がる理由ぅ?」
「あの、あからさまにものすっごい嫌な顔するのやめてもらってもいいですか?」
目を細めて眉間にしわを寄せて。酒樽持ったまま。
「あのねぇ、サラ。……よいしょっと」
酒樽をその場に置くと、クリスさんは長い金髪を手で払った。
「人の隠している秘密を探るのは良くないよ。特に、女は1つや2つ、いや9つや10は秘密を持っているもの」
「そ、そんなにあります?」
「もう少し大人になればわかるよ、サラちゃんにもね。まっ、そういうことだから、諦め──」
「──ません! 諦めません! クリスさんが酒場の仕事を誇りに思っているように、私もこのギルドの仕事を誇りに思っていますから!」
……たぶん……まあ、少しは。
私のハッタリを真に受けたのか、クリスさんは「ふ~ん」と見定めるように私の顔を見つめてきた。
私も負けじと見つめ返す。そうして、お互いの腹を探る壮絶なにらめっこが0.1秒続いたくらいで、クリスさんはなぜかうれしそうに笑い声を上げた。
「いい顔するようになったね、サラちゃん。いや、サラ。事情は聞くよ。私もサラのギルドの一員なわけだし。少し待ってて。今、ジュースを出すから」
「いや、あの、クリスさん。私、もう立派な大人ですから、お酒でも──」
ジュース一択ってなぜ?
「いやいや、お酒は酸いも甘いもわかった上でってね」
「……はぁ……」
*
「──というわけなんです」
事情を一通り話したところで、クリスさんの新作「薬草ミックスジュース」に入れられた氷を一つ口に入れる。何とも言えないクセのある薬草のつんとした香りが鼻にくる。
一緒に金色のカクテルの材料を探しに行って以降、研究にハマっているんだ。薬草を使ったメニュー。
「なるほどね。今の底辺ギルドを立て直すためには、エルサの力がどうしても必要だってことか」
「ええ。エルサさんは、仮とはいえ私の無茶なお願いを快く引き受けてくれました。村長のところにも一緒に行ってくれたし、猫探しもまるで自分事のように率先して動いてくれた。決して、ギルドの仕事が嫌とかそういうことじゃないから、なんとか正式なギルド員になってほしいと思って」
「確かに。エルサは昔から良い子だけど、やりたくないことを無理にやるような人間じゃない。……でも、まだ血が怖い……か」
まだ? 今、まだって言ったよね。
クリスさんがポロリと漏らした重要な言葉をさらに掘り下げようと口を開いたが、続きは聞けなかった。
クリスさんの顔が、とても苦しそうに歪んだからだ。まるで苦虫を食べたように。今、私が特製ミックスジュースを飲んだみたいに。
いや、冗談を言ってる場合ではないか。
私の考えがわかったのか、目が合うとクリスさんは苦笑いした。
「ふふっ。大丈夫。そんなに気が重たい話じゃないんだ。だけど……そうだな」
クリスさんは、自分用に出した強っそうなお酒をロックで割ったやつを傾けた。私のと違って、氷がいい音を出している気がする。
「なぜ、エルサが美容師をしているのか。それがヒントかな」
「エルサさんが美容師をしている理由? えっ、でもそんなの──」
「チハヤくんなら、わかるかもしれないね。異世界転生者なんだろ? 世界中も旅してるし。ごめん、サラちゃん、私から言えるのはこれだけ」
クリスさんの視線が外されて、私はそれ以上突っ込むことができなかった。
*
「サラ様」
ノック音のあとにドアが開き、チハヤがひょっこり顔を出した。
「なに?」
ベッドに寝転がりながら考え事をしていた私は、体にかけていた薄手のタオルをどかして起き上がる。
……体が、少しだけ重たい気がした。
「夕食の時間です」
「そっか、もうそんな時間?」
「ええ。グレースが待ちわびています。先に」
「うん、待たせるのもかわいそうだし、食べてていいよ」
「……では」
チハヤはなにか言いたげに一瞬、私の目を見たけど、結局なにも言わずにドアを閉めていった。
「はあ」
やっぱり、体が重い。
もう一度ベッドに横になる。目を閉じればきゃっきゃと楽しそうなグレースの声が聞こえてきた。
グレースが家に来てから、もう数日。ずいぶんと騒がしくなった。いい意味で。
グレースは人間になったばかりだから、人間らしい生活スタイルは知らない。行儀作法もわからないから、最初は料理だって皿に直接口を持っていってたし、とにかくあちこち走り回っていた。
おじいちゃんと暮らしていたときみたいに、退屈しない毎日だ。……おじいちゃんは、ちゃんとナイフとフォークでご飯食べてたけど。
『サラちゃん、おじいちゃんがいないと独りぼっちでしょ? でも、新しくギルドを始めるならいろんな人がここへ集まるじゃない。きっと、寂しくないようにと思って残しておいてくれたんじゃないかなと思うんだけど、ね』
エルサさんが仮でギルドに来てくれたその日、エルサさんは優しい笑顔でそう言ってくれた。
あのときは、単純に忘れていただけじゃ、って思っていたけど、今なら、もしかしたらワンチャン、おじいちゃんはそんなことを思ってくれていたのかなという気もする。
寂しがり屋でもあるんだ、おじいちゃんは。だから、とにかくいっぱいしゃべってたんだから。
ギルドもいいかも、と思えたのはエルサさんの言葉がきっかけで。だけど、エルサさんはギルドへの加入を断っていて。
『女は1つや2つ、いや9つや10は秘密を持っているもの』
……このままエルサさんの秘密を探ってもいいのかな?
そのとき。ぐ~と気持ちいいくらいお腹が鳴る。
「こんなときでもやっぱり、お腹は空くのか」
しゃあない。楽しい夕食タイムだ。
ドアを開けて階段を下りていく。下りきった先のリビングでは──食卓テーブルの上に立ち上がっているグレースが私の分の肉にかぶりつこうとしていた。
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