聖戦協奏曲〜記憶喪失の僕は王女の執事をしながら音楽魔法で覚醒する〜

フクロウ

文字の大きさ
60 / 116
ユセフィナのご帰還編

第55話 慌ただしい1日

しおりを挟む
「話題を変えるのが上手いわね。まあ、いいわ。時間もないことだし、本題は、ディサナスのことよ」

「ディサナスがどうかしたのか?」

 カロリナは軽く頬杖をつくと、片手でカップのフチを撫でながら重々しそうに口を開いた。

「結論から言うと、ディサナスから情報を引き出してほしいのよ、貴方から」

「それはまた妙だな。あれから数カ月経っているから、尋問官か何かがとっくに話を聞いていると思っていたんだが」

 先の戦いで、完全無欠なカロリナを極限まで苦しめたディサナスは、戦闘後、なぜか大人しくというよりも自ら進んで投降した。あまりにもあっさりしていたために、素直に協力してくれそうな印象だったのだが。

「ところがそうじゃないのよ。私やシグルド王子も含めて代わる代わる彼女から話を聞き出そうとしたのだけど、重要な情報は全く得られなかった。以前にも増してゲリラ、いえ、反乱軍が各地で騒動を起こしているというのに、私達は彼らの目的すらまだ十分に把握できていない」

「目的はハッキリしてるんじゃないのか? あのアルヴィスという男、元王国軍の人間なんだろ? 解放軍と自ら名乗っていたからカールステッドの王権の奪取が目的なんじゃないのか?」

「ええ。だけど、あのときの彼らの軍はほとんどが魔物だった。仮にあのとき宮殿《ここ》が奪われたとしても、彼らのなかに国をつくるほどの人員はいなかったし、国民を納得できるような王位継承者もいなかったのよ。たとえばだけど、旧王家の生き残りであるシグリッド王子でもいれば別なんだけど」

「シグリッド……王子?」

 その名はどこかで聞いたことがある。確かあれは──。カロリナと瓜二つの顔が浮かんだ。

「仮定の話よ。私もシグリッド王子のことは知ってるけど、とてもそんなことをする方ではないわ。とにかく私達にはもっと情報が必要なの。反乱軍に関するどんな些細《ささい》なことでも」

「……けど、なんで、僕なんだ?」

「それはこっちが聞きたいわよ。あの子に会うと、必ず貴方と話がしたいと言うんだから。ねえ、ハルト、ディサナスに何かしたの?」

 射るような目でこちらを見るその視線に心臓が跳ねたが、もちろん心当たりはない。

「いやいや、あの戦い以降会ってすらいない」

「そうよねー。ハルトが仮に私に隠れて会ってたとしても警備兵から私に情報が来るはずだし。まあ、とにかく負担を増やすようで申し訳ないけど、早急にお願いするわ」

「早急にって今から?」

「ええ、当たり前じゃない」

 カロリナはコーヒーを飲み干すと、すぐにイスから立ち上がった。

「だって、もう9時からアーテムヘル神聖国クラーラ・ミシュリオン第三王女のご帰還よ。午後からは鍛治師にも会ってもらわなきゃいけないし。今しか時間がないじゃない。じゃあ、よろしくね」

 そう早口でまくし立てると、あっという間にカロリナは部屋から出ていった。呆然としたままおそらく数秒後、風が窓を叩く音で我に返ると、深く長い息を吐いて、コーヒーを喉奥に流し込み、準備に取りかかる。

 今日もまた慌ただしい一日になりそうだ、と心の中で嘆きながら。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件

美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…? 最新章の第五章も夕方18時に更新予定です! ☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。 ※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます! ※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。 ※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!

少し冷めた村人少年の冒険記

mizuno sei
ファンタジー
 辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。  トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。  優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

男爵家の厄介者は賢者と呼ばれる

暇野無学
ファンタジー
魔法もスキルも授からなかったが、他人の魔法は俺のもの。な~んちゃって。 授けの儀で授かったのは魔法やスキルじゃなかった。神父様には読めなかったが、俺には馴染みの文字だが魔法とは違う。転移した世界は優しくない世界、殺される前に授かったものを利用して逃げ出す算段をする。魔法でないものを利用して魔法を使い熟し、やがては無敵の魔法使いになる。

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。

ギルドの片隅で飲んだくれてるおっさん冒険者

哀上
ファンタジー
チートを貰い転生した。 何も成し遂げることなく35年…… ついに前世の年齢を超えた。 ※ 第5回次世代ファンタジーカップにて“超個性的キャラクター賞”を受賞。 ※この小説は他サイトにも投稿しています。

第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。

黒ハット
ファンタジー
 前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。  

世の中は意外と魔術で何とかなる

ものまねの実
ファンタジー
新しい人生が唐突に始まった男が一人。目覚めた場所は人のいない森の中の廃村。生きるのに精一杯で、大層な目標もない。しかしある日の出会いから物語は動き出す。 神様の土下座・謝罪もない、スキル特典もレベル制もない、転生トラックもそれほど走ってない。突然の転生に戸惑うも、前世での経験があるおかげで図太く生きられる。生きるのに『隠してたけど実は最強』も『パーティから追放されたから復讐する』とかの設定も必要ない。人はただ明日を目指して歩くだけで十分なんだ。 『王道とは歩むものではなく、その隣にある少しずれた道を歩くためのガイドにするくらいが丁度いい』 平凡な生き方をしているつもりが、結局騒ぎを起こしてしまう男の冒険譚。困ったときの魔術頼み!大丈夫、俺上手に魔術使えますから。※主人公は結構ズルをします。正々堂々がお好きな方はご注意ください。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

処理中です...