聖戦協奏曲〜記憶喪失の僕は王女の執事をしながら音楽魔法で覚醒する〜

フクロウ

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ノーゲスト市街戦編

第100話 残酷な陰謀

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「みんな逃げろ!!!!」

 それで全てを察した僕は大声を上げて外に出てきた子どもたちの前へ走った。

「ゲイル」

 隊列から聞こえた詠唱とともに疾風が巻き起こり、笑顔の少女の首が飛び跳ねた。

 真っ二つに斬られた首の付け根から血飛沫が滝のように噴き出し、辺りを真っ赤に染め上げる。一瞬の間のあと、子どもたちの叫び声が一斉に発せられた。

 ちらりと後ろを振り返ると、事態を察したゾーヤとクラーラが混乱状態の子どもたちを何とか誘導しようとしていた。ルイスは、やはりというべきか呆然と立ち尽くしている。

 喚きそうになった感情を何とか抑え込むと、走りながらヴェルヴを起動させる。選んだエレメントは赤。揺らめく赤い刀身を下から振り上げると、アレシュが創ったものと同じ蛇のように表面が蠢く炎の壁が現出した。続いて風のエレメントに切り換え、黄色く変わった刀身をルイスの怒りのピッチとともに振り下ろす。空間を切り裂くように現れた薄い風の刃は、追い風となって炎の壁を前方へ押し進めていく。

「フロッド」「インシ・ヴァント」「モラ・ヴァント」

 次々と水粒や水流が繰り出されるが、演奏を浮かべることによって出現した上級魔法には全く意味がなかった。それらの攻撃全てを打ち消しながら、燃え盛る火炎の壁は、じっくりと触れるものを焼き付くしながら歩んでいく。

 後ろではまだ混乱が続いていた。泣き喚く声に、叫び声、怒鳴り声が不協和音の大合唱のようにひっきりなしに続いている。

「なんで!? なんでだよ!?」

 飛び抜けてうるさいアレシュの声に、ヴェルヴを持つ手が震えた。

「ちくしょう! 殺してやる! この魔法を使って、あいつらを!!」

「アレシュ!!!!」

 その言葉に感情を留まらせることがもうできなかった。──その魔法の使い方を教えたのは、僕なんだ。

「さっさっと逃げろ!! ここにいれば邪魔なだけだ!」

「なんでだよ!? 俺だってもう戦えるんだ! ハルトとマリーに学んで魔法が──」

「黙れ! 人が一人死んだくらいで動揺するようにやつに戦場にいる資格はない!」

「──その言葉。ぜひ、そっくり君にも投げかけたい」

 嘲笑混じりのその声のあとに、聞き慣れたフルートの不協和音が響き渡った。怒りをぶつけたような音のその奥に哀しみが、確かに潜んでいる。

 跳んできた青い炎が瞬時に僕が出現させた炎の壁を凍り付かせた。

 続いて鼓膜を揺るがす低いチューバの音が、幾重にも渡る風の刃を形成する。それらは一斉に凍った壁を切り刻み、数瞬のうちに破壊した。

 崩れた壁の向こうに、フルプレートに囲まれたバルバロッサ大臣──いや、バルバロッサの姿があった。その一見優しそうな顔に残忍な笑みを浮かべる。

「バルバロッサ様!? どうしてここに!」

 すっとんきょうな声を上げながら前へ進もうとするアレシュを左手で止めた。バルバロッサの名を聞いて、後ろの子どもたちのわめき声も止まった。

「下がってろ」

「なんで!? バルバロッサ様だぞ?」

「そのバルバロッサ様が、あいつが、殺したんだ」

「……え!?」

 耳障りな高笑いが、静寂に包まれた街を汚していく。こびりついた黴《かび》のように、その声はしばらく耳から離れることはないだろう。

「その少年。まだ状況が呑み込めていないみたいだね」

 列から離れ、ツルンとした毛皮のコートを羽織ったバルバロッサが踏みつけるたびに聞こえる雪の音を楽しむかのようにゆっくりと近付いてくる。

「バルバロッサ様? ウソだろ? だって俺は、俺たちはバルバロッサ様の命令でここに来たんだ──」

「アレシュ、それ以上しゃべるな」

「ハルトに教えてもらったヴェルヴで反乱軍を追い払ったんだ!」

 ──頼む。

「なのに、なんで」

 ──お願いだから。

「俺たちだって、王国の役に立ちたいって、他に何もできないけど、戦うことならできるって、だから──」

「ゾーヤ! 早くアレシュを連れていけ!!」

「なんでだよぉぉぉ!!!!!」

 素早く駆け付けたゾーヤに抱きかかえられるようにアレシュは離れていった。慟哭の声を上げながら。

「いやぁ、子どもはうるさいですね。そう思いませんか?」

 手を伸ばせば届きそうな距離で立ち止まると、バルバロッサは微笑みながら手を体の後ろで組んだ。

「でも、まあ、役立ったからいいことにしましょう。いえ、正確にはこれから役立つんですが、ね、反乱軍のみなさん」

 乱雑に雪を踏む音が聞こえ、ルイスが僕の横に並んだ。

「どういうことですか、お義父様! いったい何の目的で!?」

「おや、貴女はどなたでしたっけ?」

「え……」

「ああ、そう。確かハンナでしたっけ?」

 ルイスが息を呑んで、一歩後ろへと下がる。

「ち、違います。私は、私はル──」

「ルイスはもう死んだんですよ。そこの稀人ごときに負けたときにね」
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