聖戦協奏曲〜記憶喪失の僕は王女の執事をしながら音楽魔法で覚醒する〜

フクロウ

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ノーゲスト市街戦編

第101話 陰謀の真実

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 ルイスが何事かを言おうと息を吸う音が聞こえた。が、そこからは何の音も漏れ出てはこなかった。

「まあ、せっかくですから状況を教えて差し上げましょう」

「その必要はない」

 舌が勝手に動いた。

「え? なんですって?」

「その必要はないって言ったんだ」

 俯いていた顔を上げると、視界にはバルバロッサの顔しか入ってこなかった。

「バルバロッサ。全てはお前の企みだろ? 子どもたちに反乱軍を倒せとそそのかして、市民を襲わせ、自分たちは解放軍として、子どもたちを裏切り『反乱軍』を殲滅させる。聴衆が一人もいない舞台で演奏者を変えても、誰も気づかないからな」

 分厚い手袋で拍手をすると、バルバロッサは顔を歪ませた。

「さすが正解です。ですが、私の企みというのは、間違っています。そして私は裏切ってはいません」

「なに?」

「さすがの貴方も気づかなかったようですね。そうですねぇ、ヒントを一つ教えるとしたら、こんな大それたこと、私の力だけで実際に通用すると思いますか? ──おや、顔色が変わりましたね、それでは、勘のいいクラーラ様、お答えをどうぞ」

 首を後ろへ捻るようにしてクラーラを見る。青ざめた顔に明らかに動揺したように目が泳いでいた。

「こ……この作戦は、机上の空論です。実際には、王宮から子どもたちがそっくりいなくなっていることやヴェルヴがなくなっていることなどから、戦いに動員されたことがすぐにわかりますし、目撃者が一人でもいれば計画は水泡に帰してしまう。それを実現するためには、いくつもの矛盾を強引に真実とする権力が必要となります。つまり、それは──」

 一瞬、猛禽類の瞳が僕を捉えた。

「まさか、シグルド王子の力……?」

 再び乾いた拍手が鳴った。

「ブラボー! その通りです。これはね、全てシグルド王子の命令なんですよ。反乱軍と結託していたのはクラーラ王女、貴女です。そして、一時英雄の名を冠したハルト殿、貴方も加担したということになれば民衆の怒りに火がつき、その怒りの矛先はアーテムヘル神聖国へと向かう。神聖国との戦争の大義名分が生まれるわけです」

「なぜ、なぜそこまでして!」

「その答えはもう知ってるでしょう? この世界へ復讐するため、ですよ。そのためには、まずここで、あなた方には死んでもらう必要があります」

 バルバロッサが片手を上げると同時に演奏が始まった。再びディサナスのフルートの音色が鳴り響く。

 イメージするのはエドの地鳴りのようなティンパニの乱打。創造するのはとにかく巨大な土壁。青々とした緑色に変化した刀身を鬱々とした曇り空に向かって突き上げると、地から生命力が溢れ出たように土の塊が盛り上がっていった。形成されたその瞬間に凍り付いていくが、時間稼ぎには少しでも役立つだろう。

「今のうちに逃げ──」

 振り返ろうとしたそのときに、即席の土の壁をすり抜けて一人の少年が現れ、その手に握った剣を振った。咄嗟に柄で黒豹のように迅速な一撃を防いだが、衝撃に耐えきれずにヴェルヴは雪の上へと転がっていった。──こんな芸当ができるのは一人しかいない。

「グラティス!」

 グラティスは舞い散る雪を連想させる白い前髪をかき分けると、冷たい笑顔を浮かべた。

「久しぶりだね、ハルト。こうして君とまた剣を交えるのを楽しみにしていた。並みの人間じゃ、もう殺しても愉しくなくてね」

 グラティスが話す間にも、凍りついた壁を破壊するために間をおかずに次々と魔法がぶつけられる。こいつと戦っている暇はない。

「ゾーヤ! 早く全員を避難させろ!!」

 そう叫ぶと同時に転がったヴェルヴへと飛びつくが、首筋に冷えた剣の切っ先が触れる。

 目だけを真上に向けてその顔を見ると、おもちゃで遊ぶ幼児のように無邪気な笑顔があった。

「何してるの? 人の心配してる場合じゃないでしょ? 早くあの黒い刃を出しなよ!」

 ドン!っと爆発にも似た音とともに壁に穴が空いた。一カ所でも崩れれば、崩壊するのはたやすい。オーケストラの調和が、たった一つの楽器のミスで崩れるように。

「邪魔だ」

 握り締めたヴェルヴに怒りを込める。頭の中には今まで耳にした曲の全てが、バラバラに掻き鳴らされていた。出現した硬質化した黒い刃を横に払うと、グラティスは紙一重でそれを避けて後ろへと一回転した。

「いいよ! その目! 所詮人間も魔物と同じなんだ。厄介な理性を取り払ってしまえば、そこにはもう殺るか殺られるかの本能しかない」

 僕はなぜか空っぽになった思考のままに辺りを見渡した。ゾーヤとクラーラが順次子どもたちを誘導しているが、かなりの抵抗を受けてまだ時間がかかりそうだ。ルイスは、トラウマが甦ったのか膝をついて固まったまま。壁はすでに大半が破られ、その奥には数百、あるいは数千の数え切れないほどの兵士が待ち構えている。そして、首を切られ地面に倒れたままの少女の身体からはまだ新鮮な血が流れ周りの雪を赤く溶かしていく。

「……多すぎる」
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