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桜咲上京
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わたしは、今、汽車に揺られている
山の景色には、薄い桃の色が、
あちらこちらに見てとれる。
山陽本線を東に向かい
目的もないまま
車窓の外を眺めている。
行く当ての無いまま・・・
もう少ししたら、大阪駅に着く
外はまだ肌寒く、幾人もの人々が
群れをなして練り歩いている。
わたしは、故郷の祭り以上の人達に
見入っていた。
"どん"
人が多い中、
立ち尽くしていたわたしは、
後ろからの衝撃で、前によろめいた。
「何をつったってんや!、じゃまや」
いきなりの罵声に、しゃがんだまま
振り返った。
しかし、
罵倒した人は、言葉を発しながら
人混みに消えていった。
熱い洗練を受けたわたしは、
そそくさと駅の外へと進んで行く
またもや、わたしは、
歩みを止めてしまった
幅広い道と
これまで、新聞でしか
見たことがないコンクリートのビル群
その景色に、圧倒されてしまった
数分の間、
その場で立ち止まっていると
「兄さん、歩みを止めちゃいかんよ」
と、後ろから優しく、声をかけられた
『すみません』
と、はっとした後
謝りながら、声の方を向くと
テーラー仕立ての洋服に外套、
パナマ帽にステッキ、
流行のファッションを身に付けた
紳士が立っていた。
もう一度
『すみません』
謝り、頭を垂れた
「いや、良い、
それより、少し時間はあるかね。」
と、尋ねられた
わたしは、未だ故郷からの心が
この場に届いておらず
返答に戸惑っていると
「失礼、私は眞島慶悟と言う者だ。
青年、名前は?」
と、少しゆっくりな口調で話てきた
『あっ、はい、わたしは、
城瀬充伸と言います。』
わたしは、少し慌てたように
返答をした
「城瀬と言うのだな、よし、
城瀬君、少し付き合いたまえ」
そう言うと、眞島さんは、
踵を返して、
そそくさと歩みを始めた
何故だか、
この人に付いて行かなければと、
わたしも歩み始めた。
眞島さんが向かった先には
駅より少し離れた
コンクリートビルの入口、
ビルの扉には
眞島商会と書いてある
眞島さんは、後ろを振り向き
わたしが付いてきているのを
確認すると、
扉を開け入って行った
わたしは、少し戸惑いながら
扉を開け、歩みを進める
中には、机が沢山、並べられている
その奥に、一つの扉が開いている
その部屋から声がした
「城瀬くん、入っておいで。」
そう、声がした部屋に入ると
眞島さんがソファーに座っていた
「城瀬くん、どうぞ。」
眞島は、空いている席に
わたしを案内した
『失礼します』
一言、この言葉を出すだけが
精一杯なわたしに
「城瀬くん、突然、申し訳ない」
と、眞島は頭を垂れた。
わたしは未だ、困惑したままで
状況が認識しないでいると
「失礼します。」
と、今度は入口の方から声がした
「早百合くん、ありがとう」
眞島さんは、入口から入って来た
女性に声をかけた
「いえ」と言葉を切り
「粗茶です」
と、眞島とわたしの前に
お茶と茶菓子を置いた
早百合さんと呼ばれた女性は
そのまま部屋を出ようとした
「早百合くん、そっちにかけてくれ」
早百合さんは「はい」と
短く返事をして
わたしの対面に座った
「城瀬くん、悪かったね。
急に連れてきて」
少し間を開け
「早速だけど、城瀬くん、
就職はしているかな?」
わたしは唐突な質問に驚き
『はい?』と、声が裏返った
すぐさま
『いえ、大阪に来てから
探そうと思っています。』
「それは良かった。
城瀬くんさえ良ければ
うちで働かないか?」
「社長、いきなり面接ですか?」
眞島の言葉に早百合が続けて言った
「早百合くん、まぁまぁ、」
眞島は早百合を少し宥め
「城瀬くん、どうかな?」
わたしは驚き戸惑いはしたが
『わたしに、
何ができるか分かりませんが、
宜しくお願いします。』
わたしは、眞島に向かい、
深く頭を垂れた
「良かった。」
眞島は少し頷きながら笑顔でいる
「社長」
と、早百合が眞島を見ている
「おっ、そう、早百合くん
城瀬くんを宜しく」
早百合はいっそう眞島を睨んだ
「おっと、待ち合わせを過ぎてた」
眞島はそう言いながら、
会社を後にした
「城瀬さん?少し良いですか?」
早百合はわたしに向き直って
「城瀬さん、私は、眞島早百合
この会社では、事務員をしています。」
「城瀬さんは、なぜ?社長と?」
その問いに、わたしはこれまでの
経緯を話しをした
「えっ!ほんのさっき出会ったの!
叔父様は何を考えてるの?」
言葉の最後の方は呟きに近かった
『あの、すみません。
わたしは、どのようにすれば
よろしいでしょうか?』
早百合は少しうつむき加減で
考えていたが
「ごめんなさい、
少し会社の話をするわね」
そう言って、早百合さんは
会社の話をしてくれた
会社の仕事は
生活雑貨の仕入れ販売
綿花や絹、毛織物による
繊維産業の独自工場
農産組合との仲介
作物や家畜、買取、輸送、販売
衣、食に渡る、幅広い商社である
『凄いですね。わたしが
入社しても宜しいのでしょうか。』
早百合さんは、少し笑みを浮かべ
「良いに決まってますよ
叔父、いえ、
社長が決めてますから」
なんだか、狐に摘ままれた
感じで居ると
「城瀬くん、今日、
大阪に着いたばかりよね?」
『はい』
「宿とか泊まる所はある?」
『あっ、しまった。宿を探さないと』
急に現実に戻って焦ってしまった
「今から探しても、
どこか空いてるかしら」
早百合さんが、そう言うのを
不思議に思って窓を見ると
外は薄暗くなっている
『あー、どうしよう』
わたしが項垂れていると
「わたしに付いてきて。」
『えっ』
驚きと同時に早百合を見た
早百合は軽く笑みをして
帰り支度を始めた
わたしは少しの間、ソファーにもたれ
頭の中で、これまでの出来事を
簡潔に整理していった
「準備出来たわ。帰るわよ。」
はっと体を起こし
会社の出口に向かった
「さっ帰るわよ。付いてきて。」
わたしは、早百合の言葉に
違和感?を覚えていたが
あえて言葉にしなかった。
十三橋を渡り、神路村の外れの丘に
立派な屋敷が立っている
「ただいま」
早百合が扉を開け中に入って行った
「お帰りなさいませ」
年輩の女性が出迎えていた
「どうぞ、あがって」
早百合はわたしの方に向き
話している
『えっ、あっ、えっ』
早百合は
しどろもどろのわたしを見て
少し笑いながら
「泊まる所がないでしょう。
今日は泊まって行きなさい。」
『えっ、はっ、はい』
なんとも変な返事をしながら
屋敷へ入って行く
「いらっしゃいませ」
年輩の女性が
わたしに頭を垂れている
「幸乃さん、そちらは城瀬くん
明日から、叔父様の会社で働く事に
なって、今日は泊まる所が無いから
客間に止まって貰うから」
そう言ってから早百合は
2階に上がっていった
玄関口で取り残されたわたしは
『すみません。お世話になります』
深々と頭を垂れた
「申し遅れました。わたしは、
酒井幸乃と申します。
ここのお屋敷で使用人を
務めさせて頂いております」
『あっ、すみません
わたしは城瀬充伸と申します』
「御丁寧にありがとうございます」
「ぞうぞ、御上がり下さいませ。」
『失礼します。』
二人の会話が終わり、
一息着く為に、幸乃さんに
談話室に連れてこられた
「お茶を入れて参ります
こちらで寛ぎ下さい」
そう言って幸乃は談話室を後にした
わたしは落ち着きを取り戻そうと
談話室の椅子に腰をかけた
数分後
談話室に近づく足音がして
談話室の開け放たれた扉前には
和服の早百合が立っていた
「城瀬くん、こちらに来て
荷物はその手鞄だけ?」
『あっ、はい
この鞄で全部です』
少し早百合の着物姿に見とれていて
簡潔な言葉になった
早百合は少し意地悪な笑みをして
「会社では洋服だったから
見違えた?」
『はい』
わたしは素のまま答えてしまった
「お嬢様、意地悪はおよし下さい」
その言葉でわたしは我に戻った
「意地悪ではないわ」
早百合は少し拗ねたように
そっぽを向いた
『すみません。』
驚いて、謝る事しか出来なかった。
そんなやり取りをしていると
「帰ったぞ」
玄関から声が聞こえて来た
幸乃さんがいち早く談話室より
退室していった。
「旦那様、お帰りなさいませ。」
幸乃の声に
「帰ったぞ、早百合は居るか」
「はい、旦那様、
談話室にいらっしゃいます。」
幸乃が返答すると、
眞島は少し急ぐように
談話室に向かった
「早百合!あの少年はどうだ」
眞島は廊下を歩きながら
声を高らかに談話室に
近づいていた
「叔父様、そう声を上げるものでは、
ありませんわ」
「何を言う」
そう言いながら談話室を覗きこんだ
「おっ、城瀬くん、来ていたのかね」
眞島は、そう言ってわたしを見た
「叔父様、城瀬さんには、今日、
泊まっていただきます」
「おっ、そうか」
短く返答を切った眞島は
何かを察知して話しを
止めてしまった。
「旦那様、お食事の用意が
整っています」
幸乃さんが談話室の入口で
眞島に一礼をして
廊下に消えて行った
「城瀬くん、食事にしよう」
眞島はわたしに向かって
笑顔で話してきた
わたしが返事をする前に
眞島は食事をする場所であろう
方向へ進んで行った
「叔父様ったら、
城瀬さん食堂へ行きましょう」
早百合はわたしを案内するように
少し前を歩きながら進んで行った
食堂へ到着すると
幸乃さんが料理を運んでいる
眞島はテーブルの上座に座り
真っ赤な葡萄酒を飲んでいた
幸乃さんがわたしに
「こちらにお掛け下さい」
と言いながら
椅子を少し下げてくれた
早百合さんは
わたしの真向かいに座っている
「叔父様、城瀬さんの仕事ですけど
どうされるのですか?」
食事の前に早百合さんが
眞島に聞いてきた
わたしも
不安が無いわけでは無いのだが
明日から何をするのだろうと
興味がある
わたしも眞島に向き
返答を期待した
「ん?、先に食事をしよう」
眞島の返答にとりあえず
食事をし始めた
ある程度食事が進み
眞島の葡萄酒が
もう一杯注がれた時に
眞島が話し始めた
「城瀬くん、唐突で何だが、
明日の昼から、京都の緋雲村に
行ってくれないか」
わたしは今日、大阪に来て
明日は京都?
本当に唐突過ぎて
驚いてしまった
「叔父様、急過ぎでは、
ありませんか?」
早百合さんも
驚いて言葉に出した
「いやいや、だから唐突だが、と
前置きしただろう。」
少し笑みを含めたように
眞島が言った
少し間をおき
「一週間行って貰うから
必要な物があれば、
午前中に早百合と一緒に、
買い物しとく良い」
『よろしくお願いします。』
わたしは早百合に向かい
頭を垂れた
「あっ、早百合も一緒に緋雲村に
行って貰うから」
わたしの言葉にの後に
すぐさま眞島は
早百合に少し、嫌みある笑みで
言ってきた
「叔父様!急過ぎます。」
少し拗ねたように眞島を睨む
「本当に、悪いな」
眞島はわたしに向かって
謝ってきた
「それで、緋雲村での仕事だが、
農産組合の卸値の調整、
農家で作物の実り具合を調べて、
話を聞くだけ、
組合の方は、早百合に任して、
城瀬くんは、農家さんと馴染んで」
『あっはい』
わたしは眞島の"馴染んで"の言葉に
少し笑みをしながら返事をした
「細かい内容は、明日、早百合に
会社で書類を渡すから、
道中で、確認するように」
早百合さんとわたしは同時に
返事を返した
食事も終わり風呂も借りて
客間に案内されて
今日起こった出来事の整理を
頭の中でしていると、
何時の間にか寝てしまっていた。
山の景色には、薄い桃の色が、
あちらこちらに見てとれる。
山陽本線を東に向かい
目的もないまま
車窓の外を眺めている。
行く当ての無いまま・・・
もう少ししたら、大阪駅に着く
外はまだ肌寒く、幾人もの人々が
群れをなして練り歩いている。
わたしは、故郷の祭り以上の人達に
見入っていた。
"どん"
人が多い中、
立ち尽くしていたわたしは、
後ろからの衝撃で、前によろめいた。
「何をつったってんや!、じゃまや」
いきなりの罵声に、しゃがんだまま
振り返った。
しかし、
罵倒した人は、言葉を発しながら
人混みに消えていった。
熱い洗練を受けたわたしは、
そそくさと駅の外へと進んで行く
またもや、わたしは、
歩みを止めてしまった
幅広い道と
これまで、新聞でしか
見たことがないコンクリートのビル群
その景色に、圧倒されてしまった
数分の間、
その場で立ち止まっていると
「兄さん、歩みを止めちゃいかんよ」
と、後ろから優しく、声をかけられた
『すみません』
と、はっとした後
謝りながら、声の方を向くと
テーラー仕立ての洋服に外套、
パナマ帽にステッキ、
流行のファッションを身に付けた
紳士が立っていた。
もう一度
『すみません』
謝り、頭を垂れた
「いや、良い、
それより、少し時間はあるかね。」
と、尋ねられた
わたしは、未だ故郷からの心が
この場に届いておらず
返答に戸惑っていると
「失礼、私は眞島慶悟と言う者だ。
青年、名前は?」
と、少しゆっくりな口調で話てきた
『あっ、はい、わたしは、
城瀬充伸と言います。』
わたしは、少し慌てたように
返答をした
「城瀬と言うのだな、よし、
城瀬君、少し付き合いたまえ」
そう言うと、眞島さんは、
踵を返して、
そそくさと歩みを始めた
何故だか、
この人に付いて行かなければと、
わたしも歩み始めた。
眞島さんが向かった先には
駅より少し離れた
コンクリートビルの入口、
ビルの扉には
眞島商会と書いてある
眞島さんは、後ろを振り向き
わたしが付いてきているのを
確認すると、
扉を開け入って行った
わたしは、少し戸惑いながら
扉を開け、歩みを進める
中には、机が沢山、並べられている
その奥に、一つの扉が開いている
その部屋から声がした
「城瀬くん、入っておいで。」
そう、声がした部屋に入ると
眞島さんがソファーに座っていた
「城瀬くん、どうぞ。」
眞島は、空いている席に
わたしを案内した
『失礼します』
一言、この言葉を出すだけが
精一杯なわたしに
「城瀬くん、突然、申し訳ない」
と、眞島は頭を垂れた。
わたしは未だ、困惑したままで
状況が認識しないでいると
「失礼します。」
と、今度は入口の方から声がした
「早百合くん、ありがとう」
眞島さんは、入口から入って来た
女性に声をかけた
「いえ」と言葉を切り
「粗茶です」
と、眞島とわたしの前に
お茶と茶菓子を置いた
早百合さんと呼ばれた女性は
そのまま部屋を出ようとした
「早百合くん、そっちにかけてくれ」
早百合さんは「はい」と
短く返事をして
わたしの対面に座った
「城瀬くん、悪かったね。
急に連れてきて」
少し間を開け
「早速だけど、城瀬くん、
就職はしているかな?」
わたしは唐突な質問に驚き
『はい?』と、声が裏返った
すぐさま
『いえ、大阪に来てから
探そうと思っています。』
「それは良かった。
城瀬くんさえ良ければ
うちで働かないか?」
「社長、いきなり面接ですか?」
眞島の言葉に早百合が続けて言った
「早百合くん、まぁまぁ、」
眞島は早百合を少し宥め
「城瀬くん、どうかな?」
わたしは驚き戸惑いはしたが
『わたしに、
何ができるか分かりませんが、
宜しくお願いします。』
わたしは、眞島に向かい、
深く頭を垂れた
「良かった。」
眞島は少し頷きながら笑顔でいる
「社長」
と、早百合が眞島を見ている
「おっ、そう、早百合くん
城瀬くんを宜しく」
早百合はいっそう眞島を睨んだ
「おっと、待ち合わせを過ぎてた」
眞島はそう言いながら、
会社を後にした
「城瀬さん?少し良いですか?」
早百合はわたしに向き直って
「城瀬さん、私は、眞島早百合
この会社では、事務員をしています。」
「城瀬さんは、なぜ?社長と?」
その問いに、わたしはこれまでの
経緯を話しをした
「えっ!ほんのさっき出会ったの!
叔父様は何を考えてるの?」
言葉の最後の方は呟きに近かった
『あの、すみません。
わたしは、どのようにすれば
よろしいでしょうか?』
早百合は少しうつむき加減で
考えていたが
「ごめんなさい、
少し会社の話をするわね」
そう言って、早百合さんは
会社の話をしてくれた
会社の仕事は
生活雑貨の仕入れ販売
綿花や絹、毛織物による
繊維産業の独自工場
農産組合との仲介
作物や家畜、買取、輸送、販売
衣、食に渡る、幅広い商社である
『凄いですね。わたしが
入社しても宜しいのでしょうか。』
早百合さんは、少し笑みを浮かべ
「良いに決まってますよ
叔父、いえ、
社長が決めてますから」
なんだか、狐に摘ままれた
感じで居ると
「城瀬くん、今日、
大阪に着いたばかりよね?」
『はい』
「宿とか泊まる所はある?」
『あっ、しまった。宿を探さないと』
急に現実に戻って焦ってしまった
「今から探しても、
どこか空いてるかしら」
早百合さんが、そう言うのを
不思議に思って窓を見ると
外は薄暗くなっている
『あー、どうしよう』
わたしが項垂れていると
「わたしに付いてきて。」
『えっ』
驚きと同時に早百合を見た
早百合は軽く笑みをして
帰り支度を始めた
わたしは少しの間、ソファーにもたれ
頭の中で、これまでの出来事を
簡潔に整理していった
「準備出来たわ。帰るわよ。」
はっと体を起こし
会社の出口に向かった
「さっ帰るわよ。付いてきて。」
わたしは、早百合の言葉に
違和感?を覚えていたが
あえて言葉にしなかった。
十三橋を渡り、神路村の外れの丘に
立派な屋敷が立っている
「ただいま」
早百合が扉を開け中に入って行った
「お帰りなさいませ」
年輩の女性が出迎えていた
「どうぞ、あがって」
早百合はわたしの方に向き
話している
『えっ、あっ、えっ』
早百合は
しどろもどろのわたしを見て
少し笑いながら
「泊まる所がないでしょう。
今日は泊まって行きなさい。」
『えっ、はっ、はい』
なんとも変な返事をしながら
屋敷へ入って行く
「いらっしゃいませ」
年輩の女性が
わたしに頭を垂れている
「幸乃さん、そちらは城瀬くん
明日から、叔父様の会社で働く事に
なって、今日は泊まる所が無いから
客間に止まって貰うから」
そう言ってから早百合は
2階に上がっていった
玄関口で取り残されたわたしは
『すみません。お世話になります』
深々と頭を垂れた
「申し遅れました。わたしは、
酒井幸乃と申します。
ここのお屋敷で使用人を
務めさせて頂いております」
『あっ、すみません
わたしは城瀬充伸と申します』
「御丁寧にありがとうございます」
「ぞうぞ、御上がり下さいませ。」
『失礼します。』
二人の会話が終わり、
一息着く為に、幸乃さんに
談話室に連れてこられた
「お茶を入れて参ります
こちらで寛ぎ下さい」
そう言って幸乃は談話室を後にした
わたしは落ち着きを取り戻そうと
談話室の椅子に腰をかけた
数分後
談話室に近づく足音がして
談話室の開け放たれた扉前には
和服の早百合が立っていた
「城瀬くん、こちらに来て
荷物はその手鞄だけ?」
『あっ、はい
この鞄で全部です』
少し早百合の着物姿に見とれていて
簡潔な言葉になった
早百合は少し意地悪な笑みをして
「会社では洋服だったから
見違えた?」
『はい』
わたしは素のまま答えてしまった
「お嬢様、意地悪はおよし下さい」
その言葉でわたしは我に戻った
「意地悪ではないわ」
早百合は少し拗ねたように
そっぽを向いた
『すみません。』
驚いて、謝る事しか出来なかった。
そんなやり取りをしていると
「帰ったぞ」
玄関から声が聞こえて来た
幸乃さんがいち早く談話室より
退室していった。
「旦那様、お帰りなさいませ。」
幸乃の声に
「帰ったぞ、早百合は居るか」
「はい、旦那様、
談話室にいらっしゃいます。」
幸乃が返答すると、
眞島は少し急ぐように
談話室に向かった
「早百合!あの少年はどうだ」
眞島は廊下を歩きながら
声を高らかに談話室に
近づいていた
「叔父様、そう声を上げるものでは、
ありませんわ」
「何を言う」
そう言いながら談話室を覗きこんだ
「おっ、城瀬くん、来ていたのかね」
眞島は、そう言ってわたしを見た
「叔父様、城瀬さんには、今日、
泊まっていただきます」
「おっ、そうか」
短く返答を切った眞島は
何かを察知して話しを
止めてしまった。
「旦那様、お食事の用意が
整っています」
幸乃さんが談話室の入口で
眞島に一礼をして
廊下に消えて行った
「城瀬くん、食事にしよう」
眞島はわたしに向かって
笑顔で話してきた
わたしが返事をする前に
眞島は食事をする場所であろう
方向へ進んで行った
「叔父様ったら、
城瀬さん食堂へ行きましょう」
早百合はわたしを案内するように
少し前を歩きながら進んで行った
食堂へ到着すると
幸乃さんが料理を運んでいる
眞島はテーブルの上座に座り
真っ赤な葡萄酒を飲んでいた
幸乃さんがわたしに
「こちらにお掛け下さい」
と言いながら
椅子を少し下げてくれた
早百合さんは
わたしの真向かいに座っている
「叔父様、城瀬さんの仕事ですけど
どうされるのですか?」
食事の前に早百合さんが
眞島に聞いてきた
わたしも
不安が無いわけでは無いのだが
明日から何をするのだろうと
興味がある
わたしも眞島に向き
返答を期待した
「ん?、先に食事をしよう」
眞島の返答にとりあえず
食事をし始めた
ある程度食事が進み
眞島の葡萄酒が
もう一杯注がれた時に
眞島が話し始めた
「城瀬くん、唐突で何だが、
明日の昼から、京都の緋雲村に
行ってくれないか」
わたしは今日、大阪に来て
明日は京都?
本当に唐突過ぎて
驚いてしまった
「叔父様、急過ぎでは、
ありませんか?」
早百合さんも
驚いて言葉に出した
「いやいや、だから唐突だが、と
前置きしただろう。」
少し笑みを含めたように
眞島が言った
少し間をおき
「一週間行って貰うから
必要な物があれば、
午前中に早百合と一緒に、
買い物しとく良い」
『よろしくお願いします。』
わたしは早百合に向かい
頭を垂れた
「あっ、早百合も一緒に緋雲村に
行って貰うから」
わたしの言葉にの後に
すぐさま眞島は
早百合に少し、嫌みある笑みで
言ってきた
「叔父様!急過ぎます。」
少し拗ねたように眞島を睨む
「本当に、悪いな」
眞島はわたしに向かって
謝ってきた
「それで、緋雲村での仕事だが、
農産組合の卸値の調整、
農家で作物の実り具合を調べて、
話を聞くだけ、
組合の方は、早百合に任して、
城瀬くんは、農家さんと馴染んで」
『あっはい』
わたしは眞島の"馴染んで"の言葉に
少し笑みをしながら返事をした
「細かい内容は、明日、早百合に
会社で書類を渡すから、
道中で、確認するように」
早百合さんとわたしは同時に
返事を返した
食事も終わり風呂も借りて
客間に案内されて
今日起こった出来事の整理を
頭の中でしていると、
何時の間にか寝てしまっていた。
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