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婚約破棄を言い渡されたので、大人しく実家へ帰ろうと思います
前編
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「エディラ!貴様との婚約を破棄する!」
高圧的な青年の宣言に、集っていた人々の歓談がぴたりと止んだ。声にならない動揺と困惑の気配がパーティー会場を支配する。
華やかな楽の音が流れる中、床を踏むハイヒールの硬い音がひとつ、響いた。人々の視線がそちらへ吸い寄せられる。
全員の注目を集めても臆する事なく足音は進む。一人、また一人と人垣が退き、遂に一本の道が出来た。
怒りもなく、畏れもなく。
ただ静かに進み出ていた女性・エディラは歩みを止めた。身にまとう、一目で上質と分かるドレスと、緩やかに波打つ結い上げられた金色の髪が、その動きに合わせて揺れる。
段上に立つ青年を青い瞳で見上げ、口紅で品良く彩られた唇を開いた。
「アルフレイド様、今、何と仰いました?」
「貴様との婚約を破棄すると言ったんだ、エディラ」
アルフレイドは、会場の外にまで聞こえんばかりに声を張り上げた。そして、傍らに立つ少女の腰に腕を回し、これ見よがしに引き寄せる。少女の長い赤髪が、シャンデリアの光を弾いて輝く。
突然抱き寄せられて、少女は空色の双眸を驚きに見開いた。が、すぐにアルフレイドに体を擦り寄せて親密さを見せつける。
「怪しげな香水の調合に明け暮れ、私服を肥やすようながめつい女など願い下げだ!」
それはアルフレイド様がご自身のブランドを作りたいと仰るから私が・・・・・・という言葉を、胸の中だけで呟く。
「その上、オレが声を掛けた女達を片っ端から追い出した事も知っているぞ!」
それはアルフレイド様が見境なく女性を口説いて回るから、身元も定かではない者が近付かないよう私は・・・・・・という言葉を、口の中だけで呟く。
「美肌に効果がある薬草だとか言って、温室を雑草だらけにするくらい草が好きなら、領地へ帰って好きなだけ雑草にまみれた生活を送るがいい!」
それはアルフレイド様が美しい肌の女性がお好みだと仰るから私は・・・・・・という言葉を、腹の底だけで呟く。
「心配しなくても、オレにはこのユーフィがいる」
「・・・・・・」
沈黙するエディラに構わず、アルフレイドは得意げに続ける。
「ユーフィは貴様と同じ伯爵令嬢だ、異論はなかろう?」
その言葉に、人々がどよめいた。その反応に気を良くしたのか、アルフレイドは自慢げに視線を巡らせた。
「皆にも聞いておいてもらおう。ユーフィはハーディス伯爵家との養子縁組が決まった。そしてオレの婚約者として迎え入れる」
『侯爵が伯爵令嬢との婚約を破棄、一般庶民との婚約を宣言』ならアルフレイドの父が黙っていないだろう。
だが、ユーフィが伯爵令嬢であるなら話は別になる。
「明日中にこの地から出ていけ!良いな?」
エディラが反論しない事に優越感を覚えたのか、或いは密着した少女・ユーフィの柔らかな体の感触に満足しているのか。アルフレイドは指を突き付けて言い放った。
エディラは涙ひとつ見せずに頭を垂れた。貴族の女性として教え込まれた振る舞いを守って、逆らう事なく従順に。
「アルフレイド様のお言葉に従いましょう」
顔を上げた瞬間、ユーフィと目が合った。真っ赤な口紅で彩られた彼女の唇が微かに引きつり、次いで笑みの形を作る。
その表情を見届けて、エディラは踵を返して会場から立ち去った。
高圧的な青年の宣言に、集っていた人々の歓談がぴたりと止んだ。声にならない動揺と困惑の気配がパーティー会場を支配する。
華やかな楽の音が流れる中、床を踏むハイヒールの硬い音がひとつ、響いた。人々の視線がそちらへ吸い寄せられる。
全員の注目を集めても臆する事なく足音は進む。一人、また一人と人垣が退き、遂に一本の道が出来た。
怒りもなく、畏れもなく。
ただ静かに進み出ていた女性・エディラは歩みを止めた。身にまとう、一目で上質と分かるドレスと、緩やかに波打つ結い上げられた金色の髪が、その動きに合わせて揺れる。
段上に立つ青年を青い瞳で見上げ、口紅で品良く彩られた唇を開いた。
「アルフレイド様、今、何と仰いました?」
「貴様との婚約を破棄すると言ったんだ、エディラ」
アルフレイドは、会場の外にまで聞こえんばかりに声を張り上げた。そして、傍らに立つ少女の腰に腕を回し、これ見よがしに引き寄せる。少女の長い赤髪が、シャンデリアの光を弾いて輝く。
突然抱き寄せられて、少女は空色の双眸を驚きに見開いた。が、すぐにアルフレイドに体を擦り寄せて親密さを見せつける。
「怪しげな香水の調合に明け暮れ、私服を肥やすようながめつい女など願い下げだ!」
それはアルフレイド様がご自身のブランドを作りたいと仰るから私が・・・・・・という言葉を、胸の中だけで呟く。
「その上、オレが声を掛けた女達を片っ端から追い出した事も知っているぞ!」
それはアルフレイド様が見境なく女性を口説いて回るから、身元も定かではない者が近付かないよう私は・・・・・・という言葉を、口の中だけで呟く。
「美肌に効果がある薬草だとか言って、温室を雑草だらけにするくらい草が好きなら、領地へ帰って好きなだけ雑草にまみれた生活を送るがいい!」
それはアルフレイド様が美しい肌の女性がお好みだと仰るから私は・・・・・・という言葉を、腹の底だけで呟く。
「心配しなくても、オレにはこのユーフィがいる」
「・・・・・・」
沈黙するエディラに構わず、アルフレイドは得意げに続ける。
「ユーフィは貴様と同じ伯爵令嬢だ、異論はなかろう?」
その言葉に、人々がどよめいた。その反応に気を良くしたのか、アルフレイドは自慢げに視線を巡らせた。
「皆にも聞いておいてもらおう。ユーフィはハーディス伯爵家との養子縁組が決まった。そしてオレの婚約者として迎え入れる」
『侯爵が伯爵令嬢との婚約を破棄、一般庶民との婚約を宣言』ならアルフレイドの父が黙っていないだろう。
だが、ユーフィが伯爵令嬢であるなら話は別になる。
「明日中にこの地から出ていけ!良いな?」
エディラが反論しない事に優越感を覚えたのか、或いは密着した少女・ユーフィの柔らかな体の感触に満足しているのか。アルフレイドは指を突き付けて言い放った。
エディラは涙ひとつ見せずに頭を垂れた。貴族の女性として教え込まれた振る舞いを守って、逆らう事なく従順に。
「アルフレイド様のお言葉に従いましょう」
顔を上げた瞬間、ユーフィと目が合った。真っ赤な口紅で彩られた彼女の唇が微かに引きつり、次いで笑みの形を作る。
その表情を見届けて、エディラは踵を返して会場から立ち去った。
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