私を追放した王子と妹へ、聖女の力が本物だと証明して差し上げましょう 他

星山遼

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シナリオでは婚約破棄&追放される予定の侯爵令嬢でしたが、何故か聖女に救われました

後編

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 この世界には見覚えがある。

 つい先日まで『私』がプレイしていた、様々なタイプの男性キャラクターと出会い、協力し、時に恋をはぐくみながら世界を救う、いわゆる『乙女ゲーム』。それに酷似こくじしていたのだ。
 何故『私』はここにいるのか。新社会人として慌ただしい日々を送っていたはずの自分に、一体何が起こったと言うのか。
 混乱するあまりがんがん痛む頭を押さえてソファにもたれていると、控えめなノック音がした。緩慢な動作で青い瞳を上げると、入室してきたのは黒髪黒眼の小柄な少女ーー聖女だった。
 聖女はヴィヴィアの許可も得ずに室内へ踏み込んだ。無遠慮にヴィヴィアの顔を覗き込み、うーん、と眉を寄せて唸る。
「私が知る限り、隠しルートにもこんなシナリオはなかったはずだけれど」
 ヴィヴィアの言葉に、聖女は目を見開いた。質問には答えず、小首を傾げる。
「もしかしてあなたも『このゲームに入り込んじゃった人』だったりします?」
「あなた『も』?」
 ヴィヴィアの眼差しが鋭くなり、声がとがる。
 聖女の言葉で確信した。つまりこの少女ーー聖女の中にいる『誰か』も、自分と同じくこの世界を知っているのだと。
 対する聖女も、ヴィヴィアの反応を見て同じ結論に至ったらしい。ヴィヴィアの手を取ってぶんぶん振り、「同じ境遇の人がいてくれて良かったです」と無邪気に喜んでみせる。
 しかしヴィヴィアは聖女みたいに楽観的にはなれなかった。舌打ちしたい気持ちを抑えて手を振りほどく。
「それが分かったところで、これからどうするつもり?」
「え、何がですか?」
 きょとんと瞬きする聖女に、ヴィヴィアは苛立ちをつのらせながら続ける。
「シナリオには幾つかの攻略ルートがあるわよね?」
「はい、そうですね」
「王子が聖女を選ぶ、いわゆる『王子ルート』では、婚約破棄されたヴィヴィアは追放される。でも、あなたはそれを阻止してしまった」
 これはシナリオを逸脱いつだつする行為だ。このままではゲームの世界が狂ってしまいかねないし、そうなると自分達もどうなってしまうか分からない。
 と言うかそもそも元婚約者レガード王子と聖女のラブラブハッピーエンドを間近で見せつけられるとか屈辱的過ぎる。
 もしそれが聖女の狙いなのだとしたらーー性格が悪いにも程がある。
 警戒心を剥き出しにするヴィヴィアの額に、聖女が人差し指を突きつけた。息を飲んで硬直するヴィヴィアに、聖女は目を細める。
「わたしは聖女。愛のチカラで国を守護する者」
 舌足らずだった口調をがらりと変えた聖女の右手が、ヴィヴィアの輪郭りんかくでる。
 可憐な容姿と相反あいはんするおぞましさを感じ取ったヴィヴィアは、戦慄せんりつして身を引こうと足掻あがく。
「『向こうの世界げんじつ』では誰からも見向きもされなかったわたしは愛が欲しいの。愛で満たされたいの。攻略キャラクターの、いいえ、それだけじゃない、この世界全てのキャラクターから愛されたいの!」
 聖女は左手を己の胸にーー心臓の上に押し当てた。ドレスの胸元をくしゃりと握って叫ぶ。
「愛を注いでくれないあなたヴィヴィアの敵意は邪魔。だから、あなたにはここで大人しくなってもらうね」
 少女の微笑は聖女に相応しい慈愛じあいに満ちているが、その声音にはどす黒い狂気と欲望がにじんでいる。逃げようと身をよじるヴィヴィアに、聖女は囁いた。

「さようなら、ヴィヴィアの中の『あなた』」

 そして。
 瞬きした瞬間、目に飛び込んで来たのはノイズが走るパソコンのディスプレイだった。
 しばし呆然と画面を見つめていたが、ふと我に返ってキーボードを操作する。しかし、画面はノイズのまま。

 プレイしていたその恋愛育成ゲームに謎のバグが発生。
 ゲームの発売元から『修正不可能』と発表され、二度とプレイ出来なくなったと知ったのは、それからしばらく経ってからの事だった。
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