私を追放した王子と妹へ、聖女の力が本物だと証明して差し上げましょう 他

星山遼

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聖女様は年上獣人種を振り向かせたい

前編

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「聖女レイザよ。その清き力を以て蛮族たる獣人種じゅうじんしゅを浄化し、この国を守って欲しい」

もっともらしい理由を付けて、あたしを追い出したかった訳よね、王子様は」
 大海原を往く船上で、レイザは愚痴をらした。潮風を受けて乱れた夕陽色の髪を手櫛てぐしで整える。
 レイザが聖女の力に目覚めたのは一ヶ月前、とある伯爵家の庭で掃き掃除をしていた時だった。
 庭先に突如とつじょ出現した、邪悪な気配をまとう獣に遭遇そうぐうしたレイザは、無我夢中でほうきを振り回し――退治してしまったのだ。
 それを見ていた同僚達からメイド長へ、執事へ、伯爵へ、ついには王家へと話は伝わり、聖女と認められて王城へ上がった。
 国を守る聖なる者、唯一無二の天のつかいとして大歓迎を受けたレイザだったが、彼女の存在を快く思わない者が一人いた。
 第一王子ギーツである。
 国の安寧あんねいを確固たるものとすべく、国王はギーツ王子とレイザの婚姻を決めたのだが。
「貴族でもない庶民のあたしとの結婚、物凄く嫌がっていたものね」
 婚約を決められた瞬間の王子の、嫌悪感と絶望に染まった顔が脳裏に蘇る。
 絶世の美女とか、蠱惑こわく的な体とか、男性を惹き付ける魅力がレイザにあればまた違ったのかも知れない。まだ十六歳だし、これから花開く可能性もゼロではないのだが、王子は我慢出来なかった様だ。
最果さいはての孤島に住まう獣人種の浄化、かぁ」
 貴族ではないレイザはろくに教育を受けていないから、獣人種に関しては噂話で知っている程度の知識しかない。
 いわく、獣の容姿を持ちながら人間同様に二本足で立ち、力は段違いに強く凶暴。天に見放された下等な種、それが獣人種だと聞いている。
 正直言って、聖女の力を持つとは言え、所詮しょせんは非力な少女でしかないレイザにどうこう出来るとも思えないのだが。
「でも命令されたからにはお役目を果たさないと命が危ないし・・・・・・?」
 どちらに転んでも命懸けになりそうだ。
 ふぅ、と溜め息を吐いて船縁ふなべりから離れた時、レイザは船員達に囲まれた。まだ食事の時間ではないし、そもそも彼らの雰囲気が明らかにおかしい。
 嫌な予感。
 異変に後退あとずさりするレイザに船員達の手が伸びる。悲鳴を上げようと開いた口が塞がれ、手足を持ち上げられた体が船縁を乗り越え。そして。
「悪く思わないでくれよな」
「ギーツ様のご命令なんだ」
 船員達の言葉と共に、レイザは海へ放り込まれた。

「まったく、乙女の扱いがなってないんだから・・・・・・くしゅん!」
 命からがら辿り着いた砂浜で、海水をたっぷり含んだ服を絞りながらレイザは悪態あくたいをついた。
 沖を凝視しても、船の影も形も見えない。
「王子様の命令って言っていたわよね?つまり『聖女は奮戦ふんせんむなしく獣人種に殺されました』とか適当な話をでっちあげて、あたしとの結婚を白紙にする計画?」
 結婚から逃れたいが為にそこまでするのか。と言うか人の命を何だと思っているのか。
「普通なら死んでるわよね、あたし。やっぱりこれも聖女の力とか加護とかなのかしら?」
 憤懣ふんまん方無かたない怒りにこぶしを震わせつつ、海水で重くなった夕陽色の髪を乾かそうとして――視線を感じた。いで、荒い息づかいも。
 冷えて青紫色になった唇を薄く開いて深呼吸。砕けそうになる膝に力を込める。
「人間、何用なにようでこの島へ来た?」
 うなり混じりの、年齢を感じさせる低い男の声。レイザは意を決してゆっくり振り返った。
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