2 / 16
私を追放した王子と妹へ、聖女の力が本物だと証明して差し上げましょう
前編
しおりを挟む
「フィオレナお姉様、どうか罪をお認めになって下さい!」
闇色の双眸を涙で濡らして懇願する妹へ、伯爵令嬢フィオレナ・ギザンは冷めた眼差しを向ける。
「妹がこれ程までにお前を慕っているのに無視するつもりか、フィオレナ!」
詫びるでも反論するでもないフィオレナに憤りを覚えたのか、婚約者にして第一王子であるアズレッドが碧眼を吊り上げて声を荒らげた。王子は傍らに立つ少女――フィオレナの妹ラーミア――の肩を抱き、厳しい表情でフィオレナの反応を待っている。
フィオレナは小さく息をつくと、銀色の瞳で王子と妹を見遣った。
「そもそも私の罪とは何なのですか?」
「とぼけるな、ニセ聖女め!」
アズレッド王子の目が血走り、顔が怒りで赤く染まる。
フィオレナは喉元まで出かかった溜め息を飲み込んだ。無駄だと承知の上で、これまでに何度も繰り返して来た言葉を口にする。
「私は授かったチカラを、与えられた使命を、疎かにした事は一度もございません。全ての元凶は、」
「もういい!」
だん!と床を踏み鳴らし、アズレッドが激昂する。憎々しげに口元を歪め、フィオレナに指を突き付けた。
「自分に聖女のチカラが無い事を隠す為に、実の妹を陥れようとする女など聖女であるはずがない!」
掌で顔を覆い、しゃくり上げるラーミアに労りの眼差しを注いだ後、アズレッド王子は侮蔑も露わに吐き捨てた。
「王家を、国を謀るなど本来なら極刑ものだが……ラーミアからの嘆願もあり、お前を国外追放とする。せいぜい妹に感謝するんだな!」
「ワタシの勝ちね、お姉様」
勝ち誇った声に、フィオレナは読んでいた手紙をさりげなくカバンに滑り込ませながら顔を上げた。
「その『お姉様』という呼び方、止めて欲しいのだけど」
「あら、どうして?」
無邪気に小首を傾げる仕草は可憐な少女そのもの。しかしフィオレナには通用しない。
「私の妹などではないでしょう?だって貴女は、」
ギザン伯爵家に娘はフィオレナしかいない。それなのにフィオレナ以外の誰もがラーミアをギザン伯爵家の令嬢だと、フィオレナの妹だと認識している。その矛盾に誰も気付かない。
何故なら。
「人間を誑かして生命力を食らう魔物――夢魔なのだから」
フィオレナの指摘に、ラーミアは紅い唇に勝ち誇った笑みを浮かべた。嘲笑う様に顎を上げ、細い腰に手を当ててフィオレナを見下す。
「その魔物一匹すら追い払えないなんて、お可哀想な聖女様。奥の手を隠しているのかと警戒していたのに、まさかあっさり追い出されちゃうとは思わなかったわ!」
高らかに笑うラーミアに、フィオレナは無言を貫く。
指摘された通り、魔物であるラーミアに対して、フィオレナは無力だった。
王城への侵入を易々と許し、アズレッド王子を含む大多数の人間に『フィオレナの妹、ラーミア・ギザン』と言う偽りの記憶を植え付けさせてしまった。
「それで、貴女の目的は何?」
ラーミアの挑発には取り合わず、淡々と問う。肩透かしを食らったラーミアは面白くなさそうな表情を見せたが、己の優位を確信したのか、すぐに機嫌を直した。
「市井の人間と違って、貴族の生命力って美味しいのよね。若い男は特に」
つまりラーミアにとって、貴族の頂点たる王子は極上の餌と言う訳か。
「これからは連日連夜楽しめるわね。ああもう夜が待ち切れない!」
体をくねらせて一人で盛り上がるラーミアを尻目に、フィオレナは荷物を詰めたカバンを閉じて立ち上がった。もうここに用はないし、居場所もない。
「あら、本当に出て行くの?」
部屋を出ようとドアノブに手を掛けたフィオレナに、意外感を隠さないラーミアの声が投げ付けられる。
気にせず廊下へ出てドアを閉じる寸前、ラーミアの声が耳に刺さった。
「さよなら、役立たずの聖女様」
闇色の双眸を涙で濡らして懇願する妹へ、伯爵令嬢フィオレナ・ギザンは冷めた眼差しを向ける。
「妹がこれ程までにお前を慕っているのに無視するつもりか、フィオレナ!」
詫びるでも反論するでもないフィオレナに憤りを覚えたのか、婚約者にして第一王子であるアズレッドが碧眼を吊り上げて声を荒らげた。王子は傍らに立つ少女――フィオレナの妹ラーミア――の肩を抱き、厳しい表情でフィオレナの反応を待っている。
フィオレナは小さく息をつくと、銀色の瞳で王子と妹を見遣った。
「そもそも私の罪とは何なのですか?」
「とぼけるな、ニセ聖女め!」
アズレッド王子の目が血走り、顔が怒りで赤く染まる。
フィオレナは喉元まで出かかった溜め息を飲み込んだ。無駄だと承知の上で、これまでに何度も繰り返して来た言葉を口にする。
「私は授かったチカラを、与えられた使命を、疎かにした事は一度もございません。全ての元凶は、」
「もういい!」
だん!と床を踏み鳴らし、アズレッドが激昂する。憎々しげに口元を歪め、フィオレナに指を突き付けた。
「自分に聖女のチカラが無い事を隠す為に、実の妹を陥れようとする女など聖女であるはずがない!」
掌で顔を覆い、しゃくり上げるラーミアに労りの眼差しを注いだ後、アズレッド王子は侮蔑も露わに吐き捨てた。
「王家を、国を謀るなど本来なら極刑ものだが……ラーミアからの嘆願もあり、お前を国外追放とする。せいぜい妹に感謝するんだな!」
「ワタシの勝ちね、お姉様」
勝ち誇った声に、フィオレナは読んでいた手紙をさりげなくカバンに滑り込ませながら顔を上げた。
「その『お姉様』という呼び方、止めて欲しいのだけど」
「あら、どうして?」
無邪気に小首を傾げる仕草は可憐な少女そのもの。しかしフィオレナには通用しない。
「私の妹などではないでしょう?だって貴女は、」
ギザン伯爵家に娘はフィオレナしかいない。それなのにフィオレナ以外の誰もがラーミアをギザン伯爵家の令嬢だと、フィオレナの妹だと認識している。その矛盾に誰も気付かない。
何故なら。
「人間を誑かして生命力を食らう魔物――夢魔なのだから」
フィオレナの指摘に、ラーミアは紅い唇に勝ち誇った笑みを浮かべた。嘲笑う様に顎を上げ、細い腰に手を当ててフィオレナを見下す。
「その魔物一匹すら追い払えないなんて、お可哀想な聖女様。奥の手を隠しているのかと警戒していたのに、まさかあっさり追い出されちゃうとは思わなかったわ!」
高らかに笑うラーミアに、フィオレナは無言を貫く。
指摘された通り、魔物であるラーミアに対して、フィオレナは無力だった。
王城への侵入を易々と許し、アズレッド王子を含む大多数の人間に『フィオレナの妹、ラーミア・ギザン』と言う偽りの記憶を植え付けさせてしまった。
「それで、貴女の目的は何?」
ラーミアの挑発には取り合わず、淡々と問う。肩透かしを食らったラーミアは面白くなさそうな表情を見せたが、己の優位を確信したのか、すぐに機嫌を直した。
「市井の人間と違って、貴族の生命力って美味しいのよね。若い男は特に」
つまりラーミアにとって、貴族の頂点たる王子は極上の餌と言う訳か。
「これからは連日連夜楽しめるわね。ああもう夜が待ち切れない!」
体をくねらせて一人で盛り上がるラーミアを尻目に、フィオレナは荷物を詰めたカバンを閉じて立ち上がった。もうここに用はないし、居場所もない。
「あら、本当に出て行くの?」
部屋を出ようとドアノブに手を掛けたフィオレナに、意外感を隠さないラーミアの声が投げ付けられる。
気にせず廊下へ出てドアを閉じる寸前、ラーミアの声が耳に刺さった。
「さよなら、役立たずの聖女様」
10
あなたにおすすめの小説
石塔に幽閉って、私、石の聖女ですけど
ハツカ
恋愛
私はある日、王子から役立たずだからと、石塔に閉じ込められた。
でも私は石の聖女。
石でできた塔に閉じ込められても何も困らない。
幼馴染の従者も一緒だし。
役立たずと追放された聖女は、第二の人生で薬師として静かに輝く
腐ったバナナ
ファンタジー
「お前は役立たずだ」
――そう言われ、聖女カリナは宮廷から追放された。
癒やしの力は弱く、誰からも冷遇され続けた日々。
居場所を失った彼女は、静かな田舎の村へ向かう。
しかしそこで出会ったのは、病に苦しむ人々、薬草を必要とする生活、そして彼女をまっすぐ信じてくれる村人たちだった。
小さな治療を重ねるうちに、カリナは“ただの役立たず”ではなく「薬師」としての価値を見いだしていく。
私の妹は確かに聖女ですけど、私は女神本人ですわよ?
みおな
ファンタジー
私の妹は、聖女と呼ばれている。
妖精たちから魔法を授けられた者たちと違い、女神から魔法を授けられた者、それが聖女だ。
聖女は一世代にひとりしか現れない。
だから、私の婚約者である第二王子は声高らかに宣言する。
「ここに、ユースティティアとの婚約を破棄し、聖女フロラリアとの婚約を宣言する!」
あらあら。私はかまいませんけど、私が何者かご存知なのかしら?
それに妹フロラリアはシスコンですわよ?
この国、滅びないとよろしいわね?
感情の無い聖女様は、公爵への生贄にされてしまいました
九条 雛
恋愛
「――私など、ただの〝祈り人形〟でございます。人形に感情はありませぬ……」
悪逆非道の公爵の元へと生贄として捧げられてしまった聖女は、格子の付いた窓を見上げてそう呟く。
公爵は嗜虐に満ちた笑みを浮かべ言い放つ。
「これからは、三食きちんと食べてもらおう。こうして俺のモノとなったからには、今までのような生活を送れるとは思わぬことだな」
――これは、不幸な境遇で心を閉ざしてしまった少女と、その笑顔を取り戻そうとする男の物語。
存在感のない聖女が姿を消した後 [完]
風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは
永く仕えた国を捨てた。
何故って?
それは新たに現れた聖女が
ヒロインだったから。
ディアターナは
いつの日からか新聖女と比べられ
人々の心が離れていった事を悟った。
もう私の役目は終わったわ…
神託を受けたディアターナは
手紙を残して消えた。
残された国は天災に見舞われ
てしまった。
しかし聖女は戻る事はなかった。
ディアターナは西帝国にて
初代聖女のコリーアンナに出会い
運命を切り開いて
自分自身の幸せをみつけるのだった。
芋くさ聖女は捨てられた先で冷徹公爵に拾われました ~後になって私の力に気付いたってもう遅い! 私は新しい居場所を見つけました~
日之影ソラ
ファンタジー
アルカンティア王国の聖女として務めを果たしてたヘスティアは、突然国王から追放勧告を受けてしまう。ヘスティアの言葉は国王には届かず、王女が新しい聖女となってしまったことで用済みとされてしまった。
田舎生まれで地位や権力に関わらず平等に力を振るう彼女を快く思っておらず、民衆からの支持がこれ以上増える前に追い出してしまいたかったようだ。
成すすべなく追い出されることになったヘスティアは、荷物をまとめて大聖堂を出ようとする。そこへ現れたのは、冷徹で有名な公爵様だった。
「行くところがないならうちにこないか? 君の力が必要なんだ」
彼の一声に頷き、冷徹公爵の領地へ赴くことに。どんなことをされるのかと内心緊張していたが、実際に話してみると優しい人で……
一方王都では、真の聖女であるヘスティアがいなくなったことで、少しずつ歯車がズレ始めていた。
国王や王女は気づいていない。
自分たちが失った者の大きさと、手に入れてしまった力の正体に。
小説家になろうでも短編として投稿してます。
「魔道具の燃料でしかない」と言われた聖女が追い出されたので、結界は消えます
七辻ゆゆ
ファンタジー
聖女ミュゼの仕事は魔道具に力を注ぐだけだ。そうして国を覆う大結界が発動している。
「ルーチェは魔道具に力を注げる上、癒やしの力まで持っている、まさに聖女だ。燃料でしかない平民のおまえとは比べようもない」
そう言われて、ミュゼは城を追い出された。
しかし城から出たことのなかったミュゼが外の世界に恐怖した結果、自力で結界を張れるようになっていた。
そしてミュゼが力を注がなくなった大結界は力を失い……
偽りの呪いで追放された聖女です。辺境で薬屋を開いたら、国一番の不運な王子様に拾われ「幸運の女神」と溺愛されています
黒崎隼人
ファンタジー
「君に触れると、不幸が起きるんだ」――偽りの呪いをかけられ、聖女の座を追われた少女、ルナ。
彼女は正体を隠し、辺境のミモザ村で薬師として静かな暮らしを始める。
ようやく手に入れた穏やかな日々。
しかし、そんな彼女の前に現れたのは、「王国一の不運王子」リオネスだった。
彼が歩けば嵐が起き、彼が触れば物が壊れる。
そんな王子が、なぜか彼女の薬草店の前で派手に転倒し、大怪我を負ってしまう。
「私の呪いのせいです!」と青ざめるルナに、王子は笑った。
「いつものことだから、君のせいじゃないよ」
これは、自分を不幸だと思い込む元聖女と、天性の不運をものともしない王子の、勘違いから始まる癒やしと幸運の物語。
二人が出会う時、本当の奇跡が目を覚ます。
心温まるスローライフ・ラブファンタジー、ここに開幕。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる