15 / 16
追放された聖女は、竜の旦那様を射止めて幸せを満喫中です
前編
しおりを挟む
「聖女シャーリィ・レード、どうか我が元へ戻って来て欲しい」
第一王子にしてかつての婚約者・エルリスが恭しく差し出した手に、シャーリィは冷ややかな眼差しを向ける。
「そんな粗末な服より、華やかなドレスこそがキミには相応しい」
憐れむ言葉に、ぴくり、とシャーリィの目元が震える。
手を取ろうとしないシャーリィに痺れを切らしたエルリス王子が一歩踏み込む。が、「ひっ?!」と情けない悲鳴を上げて後退った。
シャーリィの足元に侍る大小様々な竜達が鋭い牙を剥き出しにして唸り、翼を打ち鳴らしてエルリス王子を威嚇したからだ。
「こっ、ここは聖女たるキミが居るべき場所ではない。今すぐ王城へ帰ろう」
端正な顔を恐怖に引きつらせ、声を上擦らせて早口に捲し立てる。シャーリィは顔色一つ変えず傍らの竜に手を添え、表面の鱗を軽く撫でて牙を引かせた。
「私を『ニセ聖女』と断じて、竜達が棲むこの辺境の森へ追放したのは、国王陛下とエルリス王子だったと記憶しておりますが?」
淡々と言って、左手の甲を王子に示す。神々しい程に白く輝くシャーリィの手を彩るのは、彫刻の如く描かれた緻密な紋様。
聖女の証たる紋様をその身に授かって生まれた伯爵令嬢シャーリィ・レードは、二歳年上のエルリス王子と婚約していた。
国の繁栄と安寧の為に結ばれた王子と聖女の婚約に、シャーリィの拒否権はなかった。それでも貴族に生まれ、聖女に選ばれた己の宿命に誇らしささえ覚えていた。
けれどエルリス王子は違った。
シャーリィが己の役割を全うすべく己を厳しく律し、狂暴な竜に対抗すべく日々知識を蓄えている間に、エルリス王子はある令嬢と恋仲になった。
他の女性に心を奪われるのも若さ故。それに彼が王位を継いだ後は、より多くの血筋を残す為にも側室や愛妾を囲うのは避けられない。
だからシャーリィは己の内に渦巻く感情を飲み込み、未来の王妃として毅然と背筋を伸ばして来た。
だが、そんなシャーリィの努力をエルリス王子は踏みにじった。
恋人と添い遂げたい一心で「竜などと言う、人間とは相容れない異種族に執着するなど聖女であるはずがない!」とシャーリィを貶めて強引に婚約を解消し、竜が棲むこの辺境の森にシャーリィを追放した。
あれから二年。とっくにシャーリィの事など忘れて件の令嬢とハッピーエンドを迎えているとばかり思っていたのだが――王子の様子から推察するに、どうやらそう上手く事は運んでいないらしい。
「こっ、この森にキミを追放……いや、送り込んだのは、竜相手にキミの聖女のチカラを如何なく発揮してもらい、父上や国民にキミの正当性を証明させる為さ」
怯えて真っ青な顔になりながら、声を裏返らせて御託を羅列する。
シャーリィは聞き苦しい言い訳に眉を顰めそうになる。不快感を追い払おうと水色の目を伏せ、軽く息を吐いた。
どれほど請われようとも今更王城に戻るつもりはないし、シャーリィ一人で決められる話でもない。
「お話は分かりました。一日、時間を下さい」
そう言って話を切り上げ、引き留めようと口を開きかけたエルリス王子へ慇懃に一礼して森へ引き返した。
第一王子にしてかつての婚約者・エルリスが恭しく差し出した手に、シャーリィは冷ややかな眼差しを向ける。
「そんな粗末な服より、華やかなドレスこそがキミには相応しい」
憐れむ言葉に、ぴくり、とシャーリィの目元が震える。
手を取ろうとしないシャーリィに痺れを切らしたエルリス王子が一歩踏み込む。が、「ひっ?!」と情けない悲鳴を上げて後退った。
シャーリィの足元に侍る大小様々な竜達が鋭い牙を剥き出しにして唸り、翼を打ち鳴らしてエルリス王子を威嚇したからだ。
「こっ、ここは聖女たるキミが居るべき場所ではない。今すぐ王城へ帰ろう」
端正な顔を恐怖に引きつらせ、声を上擦らせて早口に捲し立てる。シャーリィは顔色一つ変えず傍らの竜に手を添え、表面の鱗を軽く撫でて牙を引かせた。
「私を『ニセ聖女』と断じて、竜達が棲むこの辺境の森へ追放したのは、国王陛下とエルリス王子だったと記憶しておりますが?」
淡々と言って、左手の甲を王子に示す。神々しい程に白く輝くシャーリィの手を彩るのは、彫刻の如く描かれた緻密な紋様。
聖女の証たる紋様をその身に授かって生まれた伯爵令嬢シャーリィ・レードは、二歳年上のエルリス王子と婚約していた。
国の繁栄と安寧の為に結ばれた王子と聖女の婚約に、シャーリィの拒否権はなかった。それでも貴族に生まれ、聖女に選ばれた己の宿命に誇らしささえ覚えていた。
けれどエルリス王子は違った。
シャーリィが己の役割を全うすべく己を厳しく律し、狂暴な竜に対抗すべく日々知識を蓄えている間に、エルリス王子はある令嬢と恋仲になった。
他の女性に心を奪われるのも若さ故。それに彼が王位を継いだ後は、より多くの血筋を残す為にも側室や愛妾を囲うのは避けられない。
だからシャーリィは己の内に渦巻く感情を飲み込み、未来の王妃として毅然と背筋を伸ばして来た。
だが、そんなシャーリィの努力をエルリス王子は踏みにじった。
恋人と添い遂げたい一心で「竜などと言う、人間とは相容れない異種族に執着するなど聖女であるはずがない!」とシャーリィを貶めて強引に婚約を解消し、竜が棲むこの辺境の森にシャーリィを追放した。
あれから二年。とっくにシャーリィの事など忘れて件の令嬢とハッピーエンドを迎えているとばかり思っていたのだが――王子の様子から推察するに、どうやらそう上手く事は運んでいないらしい。
「こっ、この森にキミを追放……いや、送り込んだのは、竜相手にキミの聖女のチカラを如何なく発揮してもらい、父上や国民にキミの正当性を証明させる為さ」
怯えて真っ青な顔になりながら、声を裏返らせて御託を羅列する。
シャーリィは聞き苦しい言い訳に眉を顰めそうになる。不快感を追い払おうと水色の目を伏せ、軽く息を吐いた。
どれほど請われようとも今更王城に戻るつもりはないし、シャーリィ一人で決められる話でもない。
「お話は分かりました。一日、時間を下さい」
そう言って話を切り上げ、引き留めようと口を開きかけたエルリス王子へ慇懃に一礼して森へ引き返した。
0
あなたにおすすめの小説
石塔に幽閉って、私、石の聖女ですけど
ハツカ
恋愛
私はある日、王子から役立たずだからと、石塔に閉じ込められた。
でも私は石の聖女。
石でできた塔に閉じ込められても何も困らない。
幼馴染の従者も一緒だし。
役立たずと追放された聖女は、第二の人生で薬師として静かに輝く
腐ったバナナ
ファンタジー
「お前は役立たずだ」
――そう言われ、聖女カリナは宮廷から追放された。
癒やしの力は弱く、誰からも冷遇され続けた日々。
居場所を失った彼女は、静かな田舎の村へ向かう。
しかしそこで出会ったのは、病に苦しむ人々、薬草を必要とする生活、そして彼女をまっすぐ信じてくれる村人たちだった。
小さな治療を重ねるうちに、カリナは“ただの役立たず”ではなく「薬師」としての価値を見いだしていく。
感情の無い聖女様は、公爵への生贄にされてしまいました
九条 雛
恋愛
「――私など、ただの〝祈り人形〟でございます。人形に感情はありませぬ……」
悪逆非道の公爵の元へと生贄として捧げられてしまった聖女は、格子の付いた窓を見上げてそう呟く。
公爵は嗜虐に満ちた笑みを浮かべ言い放つ。
「これからは、三食きちんと食べてもらおう。こうして俺のモノとなったからには、今までのような生活を送れるとは思わぬことだな」
――これは、不幸な境遇で心を閉ざしてしまった少女と、その笑顔を取り戻そうとする男の物語。
存在感のない聖女が姿を消した後 [完]
風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは
永く仕えた国を捨てた。
何故って?
それは新たに現れた聖女が
ヒロインだったから。
ディアターナは
いつの日からか新聖女と比べられ
人々の心が離れていった事を悟った。
もう私の役目は終わったわ…
神託を受けたディアターナは
手紙を残して消えた。
残された国は天災に見舞われ
てしまった。
しかし聖女は戻る事はなかった。
ディアターナは西帝国にて
初代聖女のコリーアンナに出会い
運命を切り開いて
自分自身の幸せをみつけるのだった。
芋くさ聖女は捨てられた先で冷徹公爵に拾われました ~後になって私の力に気付いたってもう遅い! 私は新しい居場所を見つけました~
日之影ソラ
ファンタジー
アルカンティア王国の聖女として務めを果たしてたヘスティアは、突然国王から追放勧告を受けてしまう。ヘスティアの言葉は国王には届かず、王女が新しい聖女となってしまったことで用済みとされてしまった。
田舎生まれで地位や権力に関わらず平等に力を振るう彼女を快く思っておらず、民衆からの支持がこれ以上増える前に追い出してしまいたかったようだ。
成すすべなく追い出されることになったヘスティアは、荷物をまとめて大聖堂を出ようとする。そこへ現れたのは、冷徹で有名な公爵様だった。
「行くところがないならうちにこないか? 君の力が必要なんだ」
彼の一声に頷き、冷徹公爵の領地へ赴くことに。どんなことをされるのかと内心緊張していたが、実際に話してみると優しい人で……
一方王都では、真の聖女であるヘスティアがいなくなったことで、少しずつ歯車がズレ始めていた。
国王や王女は気づいていない。
自分たちが失った者の大きさと、手に入れてしまった力の正体に。
小説家になろうでも短編として投稿してます。
私の妹は確かに聖女ですけど、私は女神本人ですわよ?
みおな
ファンタジー
私の妹は、聖女と呼ばれている。
妖精たちから魔法を授けられた者たちと違い、女神から魔法を授けられた者、それが聖女だ。
聖女は一世代にひとりしか現れない。
だから、私の婚約者である第二王子は声高らかに宣言する。
「ここに、ユースティティアとの婚約を破棄し、聖女フロラリアとの婚約を宣言する!」
あらあら。私はかまいませんけど、私が何者かご存知なのかしら?
それに妹フロラリアはシスコンですわよ?
この国、滅びないとよろしいわね?
「魔道具の燃料でしかない」と言われた聖女が追い出されたので、結界は消えます
七辻ゆゆ
ファンタジー
聖女ミュゼの仕事は魔道具に力を注ぐだけだ。そうして国を覆う大結界が発動している。
「ルーチェは魔道具に力を注げる上、癒やしの力まで持っている、まさに聖女だ。燃料でしかない平民のおまえとは比べようもない」
そう言われて、ミュゼは城を追い出された。
しかし城から出たことのなかったミュゼが外の世界に恐怖した結果、自力で結界を張れるようになっていた。
そしてミュゼが力を注がなくなった大結界は力を失い……
タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。
渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。
しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。
「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」
※※※
虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。
※重複投稿作品※
表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる