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追放された聖女は、竜の旦那様を射止めて幸せを満喫中です
後編
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「職人が仕立てるドレスの素晴らしさは理解しているつもりだけれど」
森を進むシャーリィの表情が険しくなる。身に纏う、エルリス王子から酷評された服にそっと指を滑らせた。
シャーリィにとって、この服は特別な意味を持つ。
「愛しい人がその身から分け与えて下さった貴重な鱗。それを編み込んだ大切な服を侮辱されるのは良い気がしませんわね」
瞳が怒りの色で染まった時、視界が開けた。広がるのは、岩肌が露出する空間。
「何やら外が騒がしかった様だが?」
低く轟く男の声が後方から掛けられる。
地面を揺らしながら迫る足音に、シャーリィは立ち止まる。そのまま待っていると、鋭い爪を持つ大きな手が背後から伸び、シャーリィの細い体が抱き寄せられた。
人間の男性とは明らかに作りが異なる腕に囲われると胸が高鳴る。しかし力を加減してくれないと、シャーリィの華奢な体はへし折られてしまいかねないのが口惜しい。
「あぁ、済まない」
シャーリィが漏らした苦悶の吐息と身じろぎに、腕の力が緩む。呼吸が楽になった反面、寂しさを覚えてしまうのは我儘だろうか?
「私のかつての婚約者が復縁を迫って押しかけて来たんですよ、リュガー様」
言って、長い金髪を揺らしてくるりと振り返る。
そこに立っていたのは、シャーリィよりも大きい体躯の竜だった。表面を覆う鱗が、夕日を弾いて鮮やかに煌めいている。
シャーリィの言葉に、リュガーの血色の双眸がぎょろりと光った。
「我が伴侶を横取りしようとは、何たる不届き者」
「同感ですわ」
頷いて、シャーリィはリュガーの逞しい足に寄りかかる。うっとり夢見心地で目を伏せると、リュガーの爪がシャーリィの黄金色の髪を丁寧に梳いた。
二年前、この森に放り込まれた日。シャーリィはこの竜に出会い――一目で心を鷲掴みにされた。
人間とは全く違う体格、容貌、力。力強く羽ばたく翼と、輝く鱗。それら全てがシャーリィの目を、心を、がっつり捕らえて離さなかった。
当然、竜は侵入者たるシャーリィを排斥しようとした。しかし聖女のチカラはどんな凶悪な攻撃も無効化してしまった。
竜達の頂点に君臨するリュガーが振り下ろす足も平然と受け流し、繰り出す剛腕にも掠り傷一つ負う事なく――シャーリィが軽く叩いただけでリュガーが吹っ飛ばされた時、勝敗は決した。
彼女の力に完服したリュガーに、シャーリィは己の気持ちを包み隠さず告げて「好き好き大好き!」と押して押して押しまくった。
最初のうちは種族の差を理由に相手にしてくれなかったリュガーも、シャーリィの本気を知ってからは向き合ってくれるようになり、今では御覧の通り。
「それで、どうするつもりだ?」
「そもそも『聖女』とは何だと思いますか?」
疑問には答えず、質問で返す。リュガーは低く唸った。
「聖女と言うからには、清らかで、癒しや平和をもたらす存在なのでは?」
「私を見てもそう思いますか?」
リュガーの眼前に、紋様が刻まれた手の甲をかざす。かつて自分を叩き伏した彼女の力を思い出したのか、リュガーの表情が渋くなる。
リュガーの硬い鱗に愛おしそうに頬を擦り寄せ、シャーリィは微笑んだ。
「明日、聖女の務めを果たして参りますわ」
そして。
足元に倒れ伏してもがくエルリス王子を、シャーリィは感情のない瞳で見下ろす。
「な、ぜだ……シャーリィ……っ」
呆然と、エルリス王子がシャーリィを見上げる。
「キミは、聖女、なのだろう……?なのに、どうして、こんな……事をっ?」
その言葉に、シャーリィはあからさまに落胆して見せる。
昨日のリュガーもだったが、やはりエルリス王子も『聖女』と言う呼称に惑わされている。
「そもそも『聖女』とは何だと思いますか?」
昨日、リュガーに向けた質問と一言一句同じものをエルリス王子にもぶつける。エルリス王子は虚を突かれて呆けた。
「そ、れは……人々を異種族の脅威から守り、平和を約束する……」
「違います」
きっぱり切って捨てる。
「いがみ合い、相争う全てのものをチカラで屈服させ、『聖女』の名の下に等しく統一する。それが聖女のもたらす平和なのです」
「そんな、馬鹿なっ?」
エルリス王子の目が驚愕に見開かれる。
「信じる、信じないはご自由に」
聖女は人間だけを庇護する訳ではない。
かと言って異種族に加勢もしない。
まぁ、竜と恋仲になっているから、完全に中立でもないのだが――それでもシャーリィが従えている限り竜は人間に危害を加えない。逆に人間が竜を含む異種族を迫害しようとする時は、シャーリィの力で人間を叩き伏せる。
『異種族』と『人間』の双方を圧倒的なチカラで以って抑え付け、種族間の諍いを抑止する絶対的な存在として君臨する事で争いのない世界を実現する。
それが聖女。
言葉を失うエルリス王子に、シャーリィは無垢な微笑みを浮かべて告げた。
「愛する者と生きる平和なこの世界で、お互い幸せになりましょう?」
森を進むシャーリィの表情が険しくなる。身に纏う、エルリス王子から酷評された服にそっと指を滑らせた。
シャーリィにとって、この服は特別な意味を持つ。
「愛しい人がその身から分け与えて下さった貴重な鱗。それを編み込んだ大切な服を侮辱されるのは良い気がしませんわね」
瞳が怒りの色で染まった時、視界が開けた。広がるのは、岩肌が露出する空間。
「何やら外が騒がしかった様だが?」
低く轟く男の声が後方から掛けられる。
地面を揺らしながら迫る足音に、シャーリィは立ち止まる。そのまま待っていると、鋭い爪を持つ大きな手が背後から伸び、シャーリィの細い体が抱き寄せられた。
人間の男性とは明らかに作りが異なる腕に囲われると胸が高鳴る。しかし力を加減してくれないと、シャーリィの華奢な体はへし折られてしまいかねないのが口惜しい。
「あぁ、済まない」
シャーリィが漏らした苦悶の吐息と身じろぎに、腕の力が緩む。呼吸が楽になった反面、寂しさを覚えてしまうのは我儘だろうか?
「私のかつての婚約者が復縁を迫って押しかけて来たんですよ、リュガー様」
言って、長い金髪を揺らしてくるりと振り返る。
そこに立っていたのは、シャーリィよりも大きい体躯の竜だった。表面を覆う鱗が、夕日を弾いて鮮やかに煌めいている。
シャーリィの言葉に、リュガーの血色の双眸がぎょろりと光った。
「我が伴侶を横取りしようとは、何たる不届き者」
「同感ですわ」
頷いて、シャーリィはリュガーの逞しい足に寄りかかる。うっとり夢見心地で目を伏せると、リュガーの爪がシャーリィの黄金色の髪を丁寧に梳いた。
二年前、この森に放り込まれた日。シャーリィはこの竜に出会い――一目で心を鷲掴みにされた。
人間とは全く違う体格、容貌、力。力強く羽ばたく翼と、輝く鱗。それら全てがシャーリィの目を、心を、がっつり捕らえて離さなかった。
当然、竜は侵入者たるシャーリィを排斥しようとした。しかし聖女のチカラはどんな凶悪な攻撃も無効化してしまった。
竜達の頂点に君臨するリュガーが振り下ろす足も平然と受け流し、繰り出す剛腕にも掠り傷一つ負う事なく――シャーリィが軽く叩いただけでリュガーが吹っ飛ばされた時、勝敗は決した。
彼女の力に完服したリュガーに、シャーリィは己の気持ちを包み隠さず告げて「好き好き大好き!」と押して押して押しまくった。
最初のうちは種族の差を理由に相手にしてくれなかったリュガーも、シャーリィの本気を知ってからは向き合ってくれるようになり、今では御覧の通り。
「それで、どうするつもりだ?」
「そもそも『聖女』とは何だと思いますか?」
疑問には答えず、質問で返す。リュガーは低く唸った。
「聖女と言うからには、清らかで、癒しや平和をもたらす存在なのでは?」
「私を見てもそう思いますか?」
リュガーの眼前に、紋様が刻まれた手の甲をかざす。かつて自分を叩き伏した彼女の力を思い出したのか、リュガーの表情が渋くなる。
リュガーの硬い鱗に愛おしそうに頬を擦り寄せ、シャーリィは微笑んだ。
「明日、聖女の務めを果たして参りますわ」
そして。
足元に倒れ伏してもがくエルリス王子を、シャーリィは感情のない瞳で見下ろす。
「な、ぜだ……シャーリィ……っ」
呆然と、エルリス王子がシャーリィを見上げる。
「キミは、聖女、なのだろう……?なのに、どうして、こんな……事をっ?」
その言葉に、シャーリィはあからさまに落胆して見せる。
昨日のリュガーもだったが、やはりエルリス王子も『聖女』と言う呼称に惑わされている。
「そもそも『聖女』とは何だと思いますか?」
昨日、リュガーに向けた質問と一言一句同じものをエルリス王子にもぶつける。エルリス王子は虚を突かれて呆けた。
「そ、れは……人々を異種族の脅威から守り、平和を約束する……」
「違います」
きっぱり切って捨てる。
「いがみ合い、相争う全てのものをチカラで屈服させ、『聖女』の名の下に等しく統一する。それが聖女のもたらす平和なのです」
「そんな、馬鹿なっ?」
エルリス王子の目が驚愕に見開かれる。
「信じる、信じないはご自由に」
聖女は人間だけを庇護する訳ではない。
かと言って異種族に加勢もしない。
まぁ、竜と恋仲になっているから、完全に中立でもないのだが――それでもシャーリィが従えている限り竜は人間に危害を加えない。逆に人間が竜を含む異種族を迫害しようとする時は、シャーリィの力で人間を叩き伏せる。
『異種族』と『人間』の双方を圧倒的なチカラで以って抑え付け、種族間の諍いを抑止する絶対的な存在として君臨する事で争いのない世界を実現する。
それが聖女。
言葉を失うエルリス王子に、シャーリィは無垢な微笑みを浮かべて告げた。
「愛する者と生きる平和なこの世界で、お互い幸せになりましょう?」
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