『スローライフどこ行った?!』追放された最強凡人は望まぬハーレムに困惑する?!

たらふくごん

文字の大きさ
29 / 147

第28話 ロキラス殿下の来訪

しおりを挟む
ライトが少女ココナを救う少し前―――。

良く晴れた小春日和の3月。
親衛隊隊長マザルドは馬を走らせながら、遠ざかる領地とライトの姿を思い浮かべていた。

(はあ……ライト様、王都に行っちまうのか。寂しくなるなあ)

まだ朝晩は冷える季節。
遠くの山には雪の残滓が光る。

しかしライトの『結界の魔石』のおかげで、馬車の周囲だけは春の陽気のように暖かかった。

(これ、普通に売ったらいくらだ?……ほんとライト様は規格外だよな)

頬を掠める冷たい風に季節の名残を感じつつ、マザルドはライトとのやり取りを思い返す。


※※※※※


実はライト。
父ノイドの目を盗み、時折兵士たちに稽古をつけていた。

(……あの指導、本当に聞いたことない内容ばかりだった)

体内の魔力を意識して巡らせる。
今では無意識でできるが、以前は感知すらできなかった。

魔力循環――防御力向上、疲労回復、集中力……数々の恩恵をもたらす技術。

(俺ら騎士は魔術なんざ関係ねえ……そんな考え、今では鼻で笑っちまう)

索敵の魔力を広げる。
以前とは比べ物にならないほど滑らかに馴染む魔力に、思わず顔が緩む。

(……あの時の魔物襲来も、ライト様の武具がなければ死んでた。感謝してもしきれん)

雷撃魔術を内包したライト謹製の武具――

生物に必ず存在する電流を乱し、数万ボルトで拘束する。
魔物の動きを一時的に完全に止める、前代未聞の兵装だった。

(ほんと、次代様はとんでもねえ)


※※※※※


その時、マザルドの警戒魔術が強烈な魔力反応を捉えた。
護衛隊が緊張し、剣に手をかける。

「ノイド様、強い魔力反応です!」
「……ああ。問題ない。客人だ」

風のように駆けてくる影。
可視化できるほどの魔力を身にまとう――第2王子ロキラス殿下だ。

纏う魔力を振りほどき、馬を降りる殿下。
馬車が止まり、ライトが顔を出す。

「っ!? 殿下……お久しぶりです」
「うむ。久しいな。……大きくなった。ますます男前になったな」
「う、あ……お戯れを」


※※※※※


殿下の急な訪問に、その場で休憩を取ることになった。
サルツが水を手渡し、お茶を準備する。

「それで、どうされたのです?そんな急いで」
「ああ……教会だ」

ロキラスが息を整え、水を飲み干す。
見れば、馬は疲労で座り込んでいた。
殿下はおそらく休むことなく、全力で走ってきたのだろう。

「ライト、例の魔術……皆にも伝えてあるのか?」
例の魔術――転移魔術のことだ。

ライトが視線を父に向ける。
ノイドは静かに頷き、指示を飛ばす。

「マザルド、これからの会話は他言無用だ。護衛も同じく」
「はっ!」

父ノイドはライトに優しい視線を投げる。

「……分かりました。どこへ向かえばいいのでしょう?」
「さすがライトだ。話が早い。――王都の教会だ。ここが目的地だ」

ロキラスは地図を渡す。

「教皇が真っ黒だ。金が動き、貴族も多数巻き込まれている。逃げる前に捕らえる必要がある」
「教会……嫌な話です」
「うむ。だが権威にはつきものだ。前任の教皇の死も不可解でな……突然死だが、毒の可能性はない。私が立ち会った」

ライトの背に冷たいものが走る。

前教皇ビーンジャ。
確かに高齢だったけど、高潔なまさに殉教者。
何より数年は務めを果たせるほどの覇気を纏っていた姿が目に浮かぶ。

(――あいつらだ)

すでに紛れている。
僕はティアと頷き合う。

「殿下、ティアを連れていってもいいですか?」
「女神さまを? ……光栄の極み。ご協力いただけるならこれ以上の力はない」
「もちろんですわ。ライト様の願いが最優先です」

ティアリーナは頬を染めながら答える。
ロキラスがぼそっと呟く。

「……女神さままで落とすとは。ライト、恐ろしい男だ」
「なっ!? い、今はそういう話じゃ……!」

一瞬和む空気。
僕は咳ばらいをし、術式を展開させた。


※※※※※


ティアがライトを抱きしめ、転移の光が舞う。
春の陽光にキラキラと魔力の残滓が舞い踊り、馬車周辺には静寂が戻った。

「まったく……凄まじいなライトは」
「我が息子ながら、たいしたものだ」


※※※※※


お茶を飲みながら談笑するロキラスとノイド。
その表情は穏やかで、周囲の家族や護衛たちも朗らかな空気に包まれていた。

「キャルン嬢も美しくなったな。ルードリッヒも落ち着いている。……ノイド、誇るべきだが、同時に心配も尽きぬだろう」

キャルンとルードリッヒは照れながら礼を述べる。

可愛い我が子。
ノイドは二人の頭に手をのせる。
しかし次の瞬間、彼の顔が引き締まった。

「それで……ライトと女神さまに“聞かせたくない話”とは?」

空気が一変する。
ロキラスは重く口を開いた。

「……懸念だ。ノイド。ライトは――今後も我らの味方でいてくれると思うか?」
「そう信じている。……ライトの力は、底が見えん。
魔王を凌駕し、全盛期の女神ティアリーナ様すら越える。
……あれが本気なら」

息を呑む音が一斉に走る。

「この世界――いや宇宙のすべての中で、並ぶ者がいない最強の存在だ」

ロキラスはサルツに視線を向ける。
真直ぐに見つめ返す瞳。
そこにはみじんも心配する光は存在しない。

「……お前がそこまで信じ切るとはな」
「はい。ライト様はお優しく、平穏を望まれています。問題ありません」

ロキラスは深く息を吐き、姿勢を正した。

「王都に着いたらすぐに面会する。――その後、魔王殿との会談も段取りを組もう。
ヒューマン同士の争いをしている場合ではない」
「……ああ」

この世界にはいまだ多くの国があり、戦争は続いている。
ロキラスは小さく呟いた。

「人の業とは……果てがないものだな」

春の風が吹き抜けた。
肌を撫でた冷たさは――ただの気温だけではなかった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

『急所』を突いてドロップ率100%。魔物から奪ったSSRスキルと最強装備で、俺だけが規格外の冒険者になる

仙道
ファンタジー
 気がつくと、俺は森の中に立っていた。目の前には実体化した女神がいて、ここがステータスやスキルの存在する異世界だと告げてくる。女神は俺に特典として【鑑定】と、魔物の『ドロップ急所』が見える眼を与えて消えた。  この世界では、魔物は倒した際に稀にアイテムやスキルを落とす。俺の眼には、魔物の体に赤い光の点が見えた。そこを攻撃して倒せば、【鑑定】で表示されたレアアイテムが確実に手に入るのだ。  俺は実験のために、森でオークに襲われているエルフの少女を見つける。オークのドロップリストには『剛力の腕輪(攻撃力+500)』があった。俺はエルフを助けるというよりも、その腕輪が欲しくてオークの急所を剣で貫く。  オークは光となって消え、俺の手には強力な腕輪が残った。  腰を抜かしていたエルフの少女、リーナは俺の圧倒的な一撃と、伝説級の装備を平然と手に入れる姿を見て、俺に同行を申し出る。  俺は効率よく強くなるために、彼女を前衛の盾役として採用した。  こうして、欲しいドロップ品を狙って魔物を狩り続ける、俺の異世界冒険が始まる。 12/23 HOT男性向け1位

悪徳貴族の、イメージ改善、慈善事業

ウィリアム・ブロック
ファンタジー
現代日本から死亡したラスティは貴族に転生する。しかしその世界では貴族はあんまり良く思われていなかった。なのでノブリス・オブリージュを徹底させて、貴族のイメージ改善を目指すのだった。

社畜の異世界再出発

U65
ファンタジー
社畜、気づけば異世界の赤ちゃんでした――!? ブラック企業に心身を削られ、人生リタイアした社畜が目覚めたのは、剣と魔法のファンタジー世界。 前世では死ぬほど働いた。今度は、笑って生きたい。 けれどこの世界、穏やかに生きるには……ちょっと強くなる必要があるらしい。

ホームレスは転生したら7歳児!?気弱でコミュ障だった僕が、気づいたら異種族の王になっていました

たぬきち
ファンタジー
1部が12/6に完結して、2部に入ります。 「俺だけ不幸なこんな世界…認めない…認めないぞ!!」 どこにでもいる、さえないおじさん。特技なし。彼女いない。仕事ない。お金ない。外見も悪い。頭もよくない。とにかくなんにもない。そんな主人公、アレン・ロザークが死の間際に涙ながらに訴えたのが人生のやりなおしー。 彼は30年という短い生涯を閉じると、記憶を引き継いだままその意識は幼少期へ飛ばされた。 幼少期に戻ったアレンは前世の記憶と、飼い猫と喋れるオリジナルスキルを頼りに、不都合な未来、出来事を改変していく。 記憶にない事象、改変後に新たに発生したトラブルと戦いながら、2度目の人生での仲間らとアレンは新たな人生を歩んでいく。 新しい世界では『魔宝殿』と呼ばれるダンジョンがあり、前世の世界ではいなかった魔獣、魔族、亜人などが存在し、ただの日雇い店員だった前世とは違い、ダンジョンへ仲間たちと挑んでいきます。 この物語は、記憶を引き継ぎ幼少期にタイムリープした主人公アレンが、自分の人生を都合のいい方へ改変しながら、最低最悪な未来を避け、全く新しい人生を手に入れていきます。 主人公最強系の魔法やスキルはありません。あくまでも前世の記憶と経験を頼りにアレンにとって都合のいい人生を手に入れる物語です。 ※ ネタバレのため、2部が完結したらまた少し書きます。タイトルも2部の始まりに合わせて変えました。

スキル『倍加』でイージーモードな異世界生活

怠惰怠man
ファンタジー
異世界転移した花田梅。 スキル「倍加」により自分のステータスを倍にしていき、超スピードで最強に成り上がる。 何者にも縛られず、自由気ままに好きなことをして生きていくイージーモードな異世界生活。

魔力0の貴族次男に転生しましたが、気功スキルで補った魔力で強い魔法を使い無双します

burazu
ファンタジー
事故で命を落とした青年はジュン・ラオールという貴族の次男として生まれ変わるが魔力0という鑑定を受け次男であるにもかかわらず継承権最下位へと降格してしまう。事実上継承権を失ったジュンは騎士団長メイルより剣の指導を受け、剣に気を込める気功スキルを学ぶ。 その気功スキルの才能が開花し、自然界より魔力を吸収し強力な魔法のような力を次から次へと使用し父達を驚愕させる。

転生先の説明書を見るとどうやら俺はモブキャラらしい

夢見望
ファンタジー
 レインは、前世で子供を助けるために車の前に飛び出し、そのまま死んでしまう。神様に転生しなくてはならないことを言われ、せめて転生先の世界の事を教えて欲しいと願うが何も説明を受けずに転生されてしまう。転生してから数年後に、神様から手紙が届いておりその中身には1冊の説明書が入っていた。

ブラック企業で心身ボロボロの社畜だった俺が少年の姿で異世界に転生!? ~鑑定スキルと無限収納を駆使して錬金術師として第二の人生を謳歌します~

楠富 つかさ
ファンタジー
 ブラック企業で働いていた小坂直人は、ある日、仕事中の過労で意識を失い、気がつくと異世界の森の中で少年の姿になっていた。しかも、【錬金術】という強力なスキルを持っており、物質を分解・合成・強化できる能力を手にしていた。  そんなナオが出会ったのは、森で冒険者として活動する巨乳の美少女・エルフィーナ(エル)。彼女は魔物討伐の依頼をこなしていたが、強敵との戦闘で深手を負ってしまう。 「やばい……これ、動けない……」  怪我人のエルを目の当たりにしたナオは、錬金術で作成していたポーションを与え彼女を助ける。 「す、すごい……ナオのおかげで助かった……!」  異世界で自由気ままに錬金術を駆使するナオと、彼に惚れた美少女冒険者エルとのスローライフ&冒険ファンタジーが今、始まる!

処理中です...